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第67話 守護像

「 “…ッ!!!” 」

< ガガテガ遺跡に座す〝守護像ゴーレム〟>


「石像が動いたァァ…!?」


「今までで一番原理を教えてほしいニ…!」


トラップに殺されかけつつ地下5階層まで到達した私達は、やけに広い部屋で石像が独りでに動くのを目撃した。


噓だと思うじゃん? 私もそうだったらなって思った…。30フィート(約9メートル)ぐらいあるデカい石像が勝手に動き出すなんて…質の悪い悪夢みてェ…。


「 “…ッ!!” 」


「っ…?! 攻撃してくるつもりですよ…!」


石像はいよいよ生きているかのように歩き出すと、大きく右腕を振りかぶり、リーナ目掛けて右腕を振り下ろした。


図体の割に動きはまるで鈍くなく…人並みの速度から放たれるパンチは容易に床にヒビを入れた。石塊いしくれの質量は侮れない…。


「うわァ怖ァ…! 避けられるけど怖いよ…!」


「カカ…! そっちの扉に逃げられないニ…?!」


「やったけどダメだ…! ビクともしねェ…!」


元来た道には戻れるようだが…他に行けそうな場所はなかった…。石像アレを倒せば扉は開くのか…? それとも端から開かない構造なのか…。


無駄な戦いを避けられるなら避けたいが…そんなこと言ってたらやられるかもしれん…。一度試してダメなら、腹括って戦わないとな…。


「ニキ…! オマエの力であの扉壊せないかやってみてくれ…!」


「頼まれたニ…!」


扉の方に向かうニキと入れ替わりで私が前線へ。石像は今も執拗にリーナを追っかけている、いや…ストーキングしてる。


絶えず攻撃をしているが、足の速いリーナははらりと攻撃を避け続けている。意識がそっちに向いているのなら、喜んで不意打ちさせてもらうぞ…!


「〝竜撃りゅうげき〟…!!」


「 “ヴォア…?!!” 」


左脚に渾身の竜撃りゅうげき。全身石塊いしくれで相当な質量を有しているだけあってか…全然ぶっ飛ばない…。


手応えも全然ない…めちゃくそに硬い…。空洞があるような感じもしないし…これを壊すのは容易じゃないぞ…。


「カカ気を付けて…! 狙われてる…!」


攻撃を与えた左脚が床からゆわっと浮き、私の全身が影に呑まれた。直後アクアスが炸裂弾で気を引こうとしてくれたが…構わず石像は私を踏もうと足を下げる…。


「〝纏哭てんこくげき】〟…!!」


足の下から逃げ出そうと脚に力を込めたが…ニキの強烈な蹴りで石像の足がほんの少しずれたおかげで避けずに済んだ…。


流石の怪力だな…あの重てェ脚を少しでも動かすとは…。しかし石像も硬いな…まさかニキのパワーで砕けないとは…。


追撃を避けて一度退いたが、石像は私が潰れたかを確認していて追撃してくる様子はない。ニキが攻撃したことに気付いてないのか…?


「サンキューなニキ…! っで扉の方はどうだったよ…?」


「全っ然ダメだったニ…! うんともニんとも言わなかったニ…!」


ニキでも無理か…やっぱり石像コイツを倒さなきゃダメなのか…? 石像コイツを倒せば扉が開く…? 仕掛けがさっぱり分からんな…。


もう考えるの面倒くせェ…無駄骨だろうと関係なくぶちのめす…! そもそも石像が独りでに動くなんてありえねェ、中に何かが隠れてるんだろ…?!


ならソイツをぶっ倒せば石像も止まる…簡単な話だ…! 縄張りに踏み込んだのはこっちだが事情が事情だ…弱肉強食を行使させてもらうぞ…!


石像は私とニキに体を向け直し、代わり映えしない安直なパンチを仕掛けてくる。範囲は広いが実に直球…あまり知能は高くないようだ。


私は石突で体を上に持ち上げてパンチを躱し、そのまま右腕の上を走って頭部を目指す。どこに本体が隠れているか知らんが…だいたい顔面部だろ…!


「〝震打しんうち〟…!」


がら空きの頭部へ攻撃をぶち込むも、さっき同様手応えなし…。頭部にも隠れられるような空洞はないみたいだ…、っとなれば次は胴体か。


このまま追撃を狙いたかったが、左手で私を掴もうとしてきた為一旦退避。動きは安直だが…やはり人並みの行動速度はちと厄介だな…。


油断してると一撃でやられかない…。どうにかして石像の行動を阻害しつつ…次の機会チャンスを狙いたいが…。


“バァン! ──パキパキパキ…!”


「 “…ッ?!” 」


アクアスの銃声…それと同時にどういうわけか石像の左膝部分が凍てつきだした。なんだか既視感がある…確かあれって…。


「アクアスなんだそれ…?! そんなの持ってたか…?!」


「これはニキ様からいただいた特製の銃弾です」


「ニキの手作りニよ…! 〝凍晶液とうしょうえき〟の凍結効果を活かして作ったニキ自慢の品…その名も〝凍結弾アイスバレット〟ニ…!」


アクアスが炎帯症えんたいしょうに陥った際…効率良く体を冷やす方法をあれこれ考えていた時に偶然思いついたらしい。


何というか…旅商人の想像力は凄いもんだな…。私もニキぐらい広い視野が欲しいもんだよ…、別に狭くねェけど。


何はともあれ動きを阻害できるのはありがたい…! 動きが不自由な巨像なんざただのデカい的と同じ…恐るるに足らない…!


「アクアス…! 腕も固定してくれ…!」


「かしこまりました…!」


アクアスは的確に関節部に弾を撃ち込み、石像の自由を奪っていく。胴体へ攻撃を仕掛けるなら今が絶好の機会チャンス…!


「カカどいて…! 私が一撃ぶちこむから…!」


「分かった…! できるだけ胴体を狙ってくれ…!」


リーナは屈伸を終えると、壁際から全速力で石像に接近していく。石像は未だに凍てついた腕と脚に気を取られており、近付くリーナに気付いていない。


物凄い速さで懐まで入り込んだリーナは加速を活かして大きく跳躍し、胸部目掛けて強烈な一撃を与えた。


「〝一角壊砲いっかくかいほう〟…!!」


額から生えている角による一突き攻撃がもろに炸裂し、直撃した石像の胸部には細かいひびが入った。


相変わらずの強度だが、脚や頭部に比べれば明らかにあそこだけ脆い。すなわち弱点はやはり胸部…あそこに本体がいる…!


それが知れただけでだいぶ有利になった。アクアスに足止めしてもらって、生まれた隙に誰かが攻撃を叩き込むだけでいい。


リーナの攻撃による衝撃で氷は砕けてしまったが…弾があるうちは同じ流れを繰り返すだけで恐らく問題ない。


学習能力があるのかは分からんが…下手に学習される前に押し切ってしまえばいい…! 幸い単発火力は全員高い…もう数回攻撃を加えれば砕ける…!


「アクアスもう一度だ…! 畳み掛けるぞ…!!」


「やったるニー!!」


再びアクアスが石像の関節部を凍てつかせ、私とニキは恐れずがんがん距離を詰める。石像は完全に動きを静止させ、怪しいほどに隙を晒している。


さっきのリーナの一撃が余程効いたのか知らないが、それなら容赦なく追撃させてもらう…! ひび割れた胸部に向かって私とニキは飛び込んだ。


「 “──þý‘ ólauð;; ið óss…!!” 」


「っ…?! 2人共気を付けて…! 様子が変だよ…!」


リーナの呼びかけが耳に届くより早く…私もその異変に気が付いた…。ただ突っ立っていただけの石像の体が…どういうわけか突如赤く色付いのだ。


更には関節に張っていた氷が全て砕け…石像が動き出した…。石像は私とニキを叩き落そうと右腕を構えたが…既に空中へ飛び込んだ私達には避ける術がない…。


「〝竜撃りゅうげき〟…!!」

「〝纏哭てんこく〟…!!」


接近してくる巨大な掌に、避けられない私とニキは攻撃を加えて相殺を狙った。…っがまるで歯が立たず…私とニキは壁までぶっ飛ばされた…。


激しく壁と衝突し…口から血が零れた…。いてェェ…目がチカチカする…、久しく痛い目に遭ったぜ…。


たたニ…、うー…何が起きたニ…? どこからか雑音がしたと思ったら急に石像が紅色べにいろになったニ…」


「どこからか…? 石像アイツじゃねェのか…?」


何て言ってたのかは分からなかったが…確かに 石像アイツから発せられていた。雑音とも捉えられる低い音ではあったが…私には〝言葉〟に聞こえた…。


石像アイツが何か〝唱えて〟…、その直後体が紅色に染まった…。それだけなら大して脅威ではないが…、 恐らくそれだけじゃない…。


さっきぶっ飛ばされた時に一瞬感じた…異様な〝熱さ〟…。張っていた氷を砕けたのはあの熱さのせいだろう…。


どういう原理でほんの一瞬にあんな熱を…? どんどん謎が深まっていく…私達は一体何と戦っているんだ…?


何故か動く石像…突然の発熱…謎の言語…、とてもじゃないがこの世の物とは思えない…。この感覚はそう…魔物と初めて戦った時以来だ…。


まさかコイツが魔物そうなのか…? ──いや…ニキはワニの様な姿をしてたと言ってたし、そもそも生き物じゃないしな石像コイツは…。


色々考え過ぎて頭が破裂しそうだ…もうさっさとこの戦いを終わらせてェ…。幸い知能は低めだし…強引に攻めれば意外とイケたり…──


「 “…ッ!!” 」


「ちょっオイオイオイ…!? コイツマジかァ…?!」


何を思ったか…石像は私とニキ目掛けてダイブしてきた。両手を広げ…両足を完全に地から離した殺戮ダイブ…。


これまでの人生で一番本気のダッシュをし…奇跡的に指と指の間に回避できた…。危な過ぎる…一瞬見えたあの鎌持った骸骨は何だったんだ…。


ニキの奴が心配だが…上手く回避したと信じて私は反撃に出る…! 立ち上がる前に背中に一撃入れてやろう、さっきの仕返しだ…!


腕の上を駆け抜け、リーナがひびを入れた箇所の反対側を狙って攻撃を試みる。


「〝震打しんうち〟…!!」


渾身の一撃だったが…それでも傷一つ付かないムカつく…。だが衝棍シンフォンから感じる衝撃の広がりで、やはり正面に空洞があるのが分かった。


だけど背後からじゃダメだな…、やっぱ正面からでないと効果的な攻撃にはならないか私じゃ…。リスクを負うしかないな…。


「ヒィー! 危うくペッチャンコだったニー!」


「オマエも無事だったか…! そろそろ立ち上がる、一旦離れるぞ…!」


私は背中から飛び降り、一度2人のもとへ向かう。予想通り石像はその後ゆっくりと立ち上がり、私達の方に向き直った。


そして一歩また一歩と…何も警戒していない様子で距離を詰めてくる。そのどこまでも意思を感じられない無機質さには…恐怖すら覚える…。


作戦を立てる暇も熟考に耽る間も与えてはくれない…。各々状況に応じて適切な行動をしていくしかないな…、まったく…骨が折れるぜ…。


「 “──þý‘ ólauð;; eið œýr…!!” 」


「まただ…! また何か唱えたぞ…!」


未だ歩を止めずに向かって来る石像は、そのまま再び謎の言語を唱えた…。一体何が起きるのか見当もつかないが…良い予感はまるでしない…。


武器を構えて様子を窺ってみるが…石像に何か変化が起きたようには見えない…。だが異変はに起きた…。


石像の頭上付近の天井が引き戸のように動き…そこから巨大なが落下してきた…。アレは──〝大斧だいふ〟…?!


余裕で私達よりも大きな斧が突然降ってきて…石像はそれを右手でガッチリ握りしめた。ただでさえ攻撃範囲が広いってのに…リーチまで…。


更に更に…石像の熱によって大斧だいふまでもが紅色に染まっていく…。ガチで何なんだよコイツ…! さっきから何やってんだよコイツ…!


「 “…ッ!!” 」


「くるニよ…! 皆避けるニ…!」


石像は片膝をつき、振りかぶった大斧だいふを真横に傾け、一掃を狙ってきた…。知能低いくせに随分効率的な攻撃しやがる…。


咄嗟に地べたに伏せて攻撃をなんとか回避…。上を通り過ぎた大斧だいふからの熱風でチリチリと肌が痛む…。


「これ皆で居るとかえって危険かも…! 私が石像の気を引くから攻撃お願い…!」


リーナは腰につけた短剣を手に取り、石像の頭部目掛けて投げつけた。コツンッと短剣は弾かれたが、石像は思惑通りリーナに狙いを定めた。


容赦なく大斧だいふを振り回して攻撃を仕掛けているが、身軽な身のこなしと走力で華麗にいなしている。


注意がこっちに向かないのはありがたいが…ああも大斧だいふを振り回されてはこちらも攻撃に転じ辛い…。


ただでさえ攻撃ポイントが高い位置にあんのに…どうやって潜り込めばいいんだ…。しがみつこうにも…あの熱さじゃ先に手がやられちまうし…。


やっぱどうにかして動きを止めねェと…とても反撃なんて──そうだ…!


「ニキ…! 前に一回使ってたアレを使え…! あの…あれだ…、猫魔物ん時に使ってたぶっとい植物みたいなやつ…!」


「ぶっとい植物…? ──なるほど…!〝竜蔓豆ドラゴンビーンズ〟ニね…! それはバトルリュックの方に入ってるからちょっと待つニ…!」


石像の拘束はニキに任せ、それまではリーナのサポートに回る。アイツはこれくらいじゃ疲れないだろうが、負担は少ないに越したことはない。


一心不乱にリーナを狙い続ける石像の背後から接近し、右脚に攻撃を加える。どれだけ効きが悪かろうと…ノーダメージではない筈だ…!


ダメージは少しずつでも確実に蓄積する…塵も積もれば山となる…! いずれは必ず砕ける筈だ…めげずに攻撃し続ける…!


アクアスも私と同様に、石像の右腕に集中して炸裂弾を当てている。どっちかでも砕くことができれば…石像の脅威は大幅に下がる。


その後はニキの拘束を待って急所を攻撃するだけでいい…、それでこの訳分からん石像との戦いを終えられる…。


“──キーン…!!”


「…っ?! リーナ避けろォ…!」


突如聞こえた〝音〟…──石像は未だにリーナの方を向いているのに…背後に居る私にも何か危機が迫っている…。


リーナに注意を呼び掛け、私はすぐに後ろへ跳んだ…。その直後石像は大斧を構えたまま…体を一回転させた…。


さっきと異なり…大斧を縦にした状態での横振り攻撃…。切断はできないが、斧刃が縦になっている分…攻撃範囲が広い…。


私は一足早く回避できたおかげでギリギリ回避することができたが…、至近距離で攻撃を避け続けていたリーナは…──


「…っ! リーナ様…?!」


後方から聞こえたアクアスの声…、私はすぐに周囲を見渡した…。そこでようやく気付いた…──リーナが離れた壁際で血を流して倒れていることに…。



──第67話 守護像〈終〉

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