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第66話 伏在せし剣吞

「ほらほら皆遅いよー! もう私入っちゃうよー?!」


「踊り子の足腰強ェな…。普通に体を動かす分には大して疲れねェけど…私どうにも階段は苦手なんだよなぁ…」


「ニキも階段好きじゃないニ…、坂ならまだ…」


冥府めいふ抜道ぬけみちから地底へは行けないと悟った私達は、一縷の望みに賭けてガガテガ遺跡の中へ向かっていた。


正門から見た時にも思ったが…階段が長ェって…。入り口は大人しく一階に設けてくれよ…、何の意味があんのさ上に入り口設けて…。


絶え絶えになりながらも入り口に到着…。割と疲れたが…この高さから見下ろす景色は中々…──っと思ったが…一面砂が広がってるだけなんだよなぁ…。



─ ガガテガ遺跡 5階 ─


呼吸を整え、先に遺跡に入ったリーナの後を追う。遺跡内はだだっ広く、天井を支える大きな柱には意味あり気な装飾が施されている。


四方の壁には古びた燭台があり、後から設置されたと思われるランタンが仄かに遺跡内を照らしている。南側にあった遺跡と異なり、窓は無いようだ。


「リーナの奴はどこ行った? 薄暗くてあんま分かんねェな…」


「えーっとですね…どうやらこの先に進んだようです」


「こういう時便利よニー、アクアスの能力チカラ


どうやらリーナはこの先で階段を下っていったようだ。何気に私達よりも行動力あるなアイツ…、アクアスに良いとこ見せたいからか…?


どうでもいいが階段上らせといてすぐ下らせるのなんで…? マジで理由くれよ…。そんな疑問を抱きながら…踏み外さないよう慎重に階段を下る。



─ ガガテガ遺跡 4階 ─


上の階とは異なり、この階はいくつかの小部屋で構成されているようで、左右と前部に進めそうな道がある。


アクアスの案内に従ってリーナのもとへと進む。右行って左行って左行って真っ直ぐ行って右行って…──アイツ結構グネグネ進んでんな…! 面倒だわ…!


「こう行ってこっちに進みまして…──いらっしゃいました!」


「ありゃ誰だ…? 誰かと話してやがるな…」


奥の方に進むと、リーナが誰かと話していた。リュックを背負った中年の男、格好からして考古学者だろうか…?


師匠せんせい以外にも考古学者居たのか。でも確かに私等以外の観光客にもそれっぽい人は居たような気がするな…。


とりあえず私達も会話に参加して、何か重要な手掛かりを得よう。考古学者なら何か知っている筈だし、きっと情報もあるだろう。


「…っでそこを右に曲がったところに──んっ? なんだアンタ等? このお嬢さんの知り合いかい?」


「あっ皆、この人有力情報持ってるっぽいよ?」


「っぽいよ?じゃねェよ…1人で勝手に先走んじゃねェ…。んで何…? この人が有力情報も持ってるって…? えっと…貴方は…?」


砥粉色とのこいろの探検帽をかぶる、黄茶きちゃの髪をした一角族ホコスの男性。手には何やら難しい本を持っている、古文書かな…?


「俺は〝イロック〟っつう考古学者だ。アンタ等も地底への道を探してんのか? …その割には考古学者には見えないが…」


「訳アリなもんでね…あんまり深掘りはしないでくれ…。んでアンタは何か手掛かりを掴んでるのか…? 良ければ教えてほしいんだけど」


「そこのお嬢さんにも教えたから別にいいぞ、よく聞きな」


ガガテガ遺跡の4階より下には謎めいた空間が多数あり、そのそれぞれに壁画や怪しげな偶像があるという。


そんな中、〝1階〟に一部屋だけ何もない空間があるらしい。広さも他の部屋に比べると狭く、何の為に造られたのかがまるで解明されていないそう。


それらの事から、その部屋にこそ地底への道が隠されていると考える考古学者は少なくないとのこと。


実に漠然…──要はほとんど何も判っていないってことだ…。大丈夫かこれ…? ここで私達の石版集め終わるんじゃねェの…?


とりあえずその部屋の場所だけ聞いて、イロックさんと別れた。遺跡なだけあって内部はかなり複雑で…めっちゃくちゃ迷った…。


行き止まりにぶつかるし…階段見つからねェし…、リーナは右と左を頻繫に間違えるし…ニキはぐれるし…。


紆余曲折したが…私達は無事に1階の例の部屋に辿り着いた。事前に聞いていた通り、本当に何にもない空間だ。


だがそんな何も無い空間には先客が3人居り、その全員が考古学者の見た目をしている。3人揃って探検帽…、そういうルールでもあんの…?


3人は床や壁を虫眼鏡でくまなく調べている。そんなとこ調べてどうするんだろ…ヒントってそんなとこにあるもんか…?


「おっ? この部屋に来たということは、君達も地底への道を探す同志だね?!」

「えっまあ…目的は一緒ですけど…」


「待っていたぞ! ほれ君達の虫眼鏡じゃ!」

「あっいや…私達は別に…」


「一緒に新たなる発見をしようじゃないかァ!!」

「話聞かねェなこの人達…」


強引に虫眼鏡を渡すと、3人はすぐ調査に戻ってしまった。なんてマイペースな…、もう私達も勝手に調べよう。


っとは言え本当に何も無いし…どこをどう調べるのが正しいのか分からん…。ニキとリーナは学者達のように虫眼鏡で壁を見ているが…真似してるだけだろうな…。


私は入口と対面の壁に近付いて、とりあえず虫眼鏡を覗いて見る。おおー見える見える…主に壁の汚れや年季が…。


断言できる…この方法じゃ絶対に見つからないと…! そもそも無いんじゃないかこの部屋には…? ただの物置説ない…?


だんだん頭が痛くなってきた…地底への道は何処いずこ…? 私は額に手を当てながら…壁に右手をつけた。


“──ゴゴゴゴゴッ!!”


「はっ!? 何だ何だ…!?」


「カカ様…! 壁から離れてください…!」


突然地響きのような音がし始め…小刻みに部屋が揺れ始めた…。私なんかやっちゃいましたかねェ…!? 壁に右手つけただけなんだけど…!?


地響きに似た音と揺れは一向に収まらず、天井でも崩れてくるんじゃないかと身構えたが…変化は私が触れた壁に起こった。


誰も何もしていないのに…少しずつ壁が左右に開き、その先に閉ざされていた道が現れた。一同呆然とし…言葉も出ぬまましばらくその道を見つめた…。


「なっ…何をしたんじゃ…?! 一体何を…?! ──いやそれどころではない…これは世紀の大発見じゃぞ…! ついに地底への道が見つかった…!」


「すぐに管理責任者に伝えてきます…!」


「大手柄じゃないか君ィィ!!」


学者達が騒ぎ始めたおかげで私達もようやく我に返った。だが思考がまるで追いつかない…開いた口が塞がらないまま私達は顔を見合わせた…。


何…今の…? なんか独りでに壁が動いたように見えたけど…見間違いじゃないよな…? どういう仕組み…? どういう原理…?


「──でもまあ…道は開けたわけだし、とりあえず…行くか…」


「そうですね…あれこれ考えていては日が暮れてしまいます…」


「ちょいちょい…! 待つんじゃ君達…!」


今しがた原理不明で開かれた道に進もうとすると、学者のおじさんに引き留められた。開け方を聞くつもりなら生憎だな…私が一番判らないのだから…。


「その先に勝手に進んではならん…!


「えっと…誰かの許可が必要で…?」


「そうだ。これは世紀の大発見、ここを調べるにはまず申請せねばならん。それに伴ってここは立入禁止エリアになるだろう、少なくとも指定一級…指定特級にもなりうるぞ…!」


そこらの遺跡群であればそう面倒な手続きも必要ないそうだが、ここガガテガ遺跡は国指定の遺産である為…調査には国の許可が要るそうだ…。


ただの調査でさえ申請が必須なのに…それが未発見のものとなればもう大事…。国自らが立ち入りを制限し、本格的な調査に乗り出すのだと…。


しかし私達にそんな時間は無い…! いつ下りるとも分からない許可を黙って待つなんてできない…! よって切り札を使用する…!


「これを見てください、アイリス女王直筆の指定特級立入許可証です。私達はこの先へ進む権利を持っています、通してもらいますよ」


「女王陛下直筆の許可証…!? 何故そんなものを君達が──いや…聞くも無礼やもしれんな…。関係者にはこちらから説明しておく、気を付けて行くがよい…」


話の分かる人で助かった。私はペコリと一礼してから、出現した道へと踏み込んだ。光源が無く真っ暗な道…だがその先には何やら光が見える。


手も照らせない小さな光を頼りに、私達は壁伝いに前進を続けた。少しずつ大きくなる光、やがてその光源へと辿り着いた。


今までの古びたブロックで造られた壁や天井とはまるで異なり、白いブロックによって構成された階段がそこにはあった。


暗闇から見えた光は、どうやらこの白いブロックが発しているっぽい。何とも異質…まるで別世界に来たような感覚だ…。


だが階段は下へ伸びているし、間違いなく地底へと繋がっている。意を決して私達は階段を下っていった──。




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「──階段は終わったけど…まだ地底じゃないよね…?」


「そう…だな、中庭の穴から見た感じ…もっと地下したに続いてたと思う…」


階段は下りきったが、まだまだ目指す地点には程遠い気がする。まだ道も続いているし、思ったより先は長そうだ…。


また階段を見つけなくてはならんのか…、しかも今回は誰の案内もない…これは地道な作業になるぞー…。


ひとまず道なりに進んでみるが…結局ここは何なんだ…? 用途はどうでもいいが…それを除いても謎だらけだ…。


道が開けた理由も不明だし…この発光している白いブロックも謎だ…。質感は石に近いが…自然発光する石なんて聞いた事ない…。


「ニキ、このブロックが何なのか知ってるか?」


「ニキもずっと気になってるニけど…こんなの見たことないニ」


世界を渡り歩く旅商人すら知らない代物とは…、学者達なら何か知ってるかな…? 師匠せんせいが一緒だったら良かったのに…。


しっかし長い道だな…もっとグネグネ曲がったり分かれたりするもんかと思ったが、ひょっとしたらこのまま階段に行き着いたりして…?


「いやー見れば見るほど変な壁よねー、さっきのカカみたいに触ったら何か起きないかな?」


「どうなんでしょうか? わたくしも触ってみますね」


“ガコンッ!”


「へ…?」

「え…?」


何かが動いたような音と、アクアスとリーナの気の抜けた声が聞こえた。2人の方に顔を向けると、なんか知らんが凄く青ざめている。


何かやりやがったな…?! 待て待てスゲー嫌な予感するんだが…?!


“──ゴッ!”

「がっ…?!」

「ニギュ…?!」


嫌な予感はズバリ的中し…天井から落下してきたブロックが私とニキの頭に命中…。割れそうな痛みに襲われた…。


原理な不明割に随分古典的な罠だな…、効果はてきめんだが…。どうやら壁の一部に仕掛けが施されているのか…用心しないと…。


「カカ様ニキ様…! 大丈夫で…」


“ガコンッ!”


「はい…!?」


「え…?!」

「は…?!」

「ニ…?」


私とニキの方へ駆け寄ろうとしたアクアスだったが…その途中で足を乗せた床の一部がガコンッと沈んだ…。


床にもあるのねトラップ…! 次は何が起こるんだ…!? さっきは天井うえからだったし…今度はよこからか…!?


“ボコォン!!”


「ニギュィィィ…?!!」


今度は塊で天井が落下し、これまた見事に命中…ニキが下敷きになった…。同じ罠なのに殺傷力の差エグいな…、いずれ天井全部おちるんじゃね…?


なんて考えてる場合じゃない…、瓦礫をどかして急いでニキを引っ張りだす。…っと思ったがリュックが重い…! 瓦礫より重くて動かせない…!


「ぷはぁ! ふぅ、危うく擦り傷を負うところだったニ…」


「クソ余裕じゃねェか」

「なんかニキ硬くない?」


怪我一つしてなかったニキに対し、私とリーナは安堵よりドン引きが勝った…。マジ何なのコイツ…そこは怪我しろよ人族ヒホとして…。


ほんでアクアスはめっちゃ申し訳なさそうに正座してる…。何この状況…ドン引き2人に正座1人と頑丈1人…、キモい空間…。


まあ罠が壁だけじゃなく床にもあると知れたことだし…アクアスのことは不問としよう。その上で下手な事しないように言っとこう…。


この地下が何階層あるのか分からないが…このペースで罠に掛かってちゃ命がいくつあっても足らん…。


悪いことが全部ニキに降りかかるなら別にいいんだが…、私等可憐な (カカ・リー女子ーズナ・アクアス)は余裕で死ねるからな…。


壁に振れず足元にも要注意しながら進んで行こう…石版のもとまで…。







〈ダイジェスト〉


地下2階層

「うおおおおおっ…?! 矢は死ぬ…! 矢は死ぬ…!」


「ニィィィィィ…!! 天井うえから炎が出てきたニ…!!」


地下3階層

「あっぶねェ…?! 足元から剣山出てきた…! ヤバ過ぎるんだが…?!」


「こっちは毒針が出てきたニ…! ジュクジュクしてて見るからにヤバいニ…!」


地下4階層

「岩ー?! 岩ー?! 私達も壁の凹みに隠れるぞ…!!」


「あーダメニ…! もうアクアスとリーナが入ってて定員オーバーニ…!」


〈ダイジェスト終了〉


地下5階層

「なんか私等だけ散々じゃねェかァ…?!」

「2人だけズルいニ…!!」


「そんなこと言ったって仕方ないじゃん…! 2人の運がないだけでしょ…?!」


わたくしは何にも言えないです…」


地下1階層から5階層に到達するまで…あらゆる罠が牙を向いてきた…。侵入者を阻むどころか本気ガチで殺しにきていた…。


まあ罠は本来その為にあるようなものだし、そこに文句は一切ないが…私とニキにしか直接的な被害が出てないのはおかしい…!


遺跡が意思を持っているかのように集中狙いだった…チョー嫌いこの遺跡…。むしろ良かったかもしれんな…被害が私とニキで…。


私は能力チカラで回避できたし…ニキは頑丈だから軽傷で済んだし…、もしこれが他2人だったらどうなっていたか…。


ちなみに様々なトラップを起動させたおバカさんはアクアス。注意は払っていたが、面白いほどに全てが空回りしてた。まあ…ドンマイ…。


「過ぎた事をいつまでもグチグチ言ってないでもう行くよ…! ほらこの先に今までとは違った空間が広がってるんだから、気引き締めて…!」


「なんで怒られた私等…?」

「なんかモヤッとするニね」


若干納得できぬまま、私達はリーナの後を追った。そこは今までの罠だらけの通路とは違い、異様に広い部屋。


天井も高く、部屋の中央には何やら巨大な石像が置かれている。だがそれ以外には特になく、先へと進めそうな扉くらいだ。


ここはこの石像の為だけの部屋なのか…? やたら角張った鎧を身に纏った戦士のような像。かなりの造り込みだが…なんだってこんな場所に…。


「これは何の石像なんだろうニ~」


「この辺りを治めてた初代国王とかじゃない?」


「宗教に出てくる神を模した偶像じゃないですか?」


コイツ等…どんな危険が潜んでるかも分からないってのにずかずか近付きやがって…。特にニキ、オマエまた散々な目に遭うぞ…?


触れたら何か起こるかもしれねェのに…触らぬ神になんとやらだ…、今のうちに私は扉の先を確認しとこう。


白銀色の丈夫な扉の前に立ち、ドアノブに触れた──その時…。


「わわわっ!? 何何ィ…!?」


「これは…何事ですか…?!」


「2人共離れるニ…!!」


背後から聞こえた3人の不穏な声…。振り返ると3人は石像を凝視して武器を構えている…、えっまさか…?


“──ズゴゴゴゴッ!!!”


「ええェ…!? 動いたァァ…!?」


「 “…ッ!!!” 」

< ガガテガ遺跡に座す〝守護像ゴーレム〟>



──第66話 伏在せし剣吞〈終〉

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