「石版があるのは観光名所の〝ガガテガ遺跡〟よ…!」
「観光名所? なんか想像してたのと違うな…、てっきり私はもっとこう…凶暴悪逆な生物の巣の中かと…」
石版がまさか観光名所に飛来するなんて…。しかし観光名所に飛来していたのであれば…もっと目撃情報を得られてもおかしくない筈…。
何人にも聞き込みしたが…落下地点はおろか飛来しているところも見ていないのは少々不自然…。何か理由があるのかを、リーナに尋ねてみた。
「うーんとね、確かに
それでか…未だ砂漠は分からないことだらけだな…。ひとまずのっぴきならない理由じゃなくて良かった…これ以上の足止めは勘弁だからな…。
「ちょっと話が逸れちまったが…、さっき言ってた
「その説明もちゃんとするけど、一旦店出ない? もうそろ別の子達の舞が始まるし、アクちゃんをずっと待たせるのも可哀想でしょ?」
「それもそうニね、場所変えようニ」
リーナの提案を受け入れ、私達はお店を後にすることに。リーナにとっては急な早退になるが、稼ぎ頭なだけあってすんなり許可されていた。優遇スゲー。
リーナは着替えて裏口から外に出るそうなので、一旦別れて店前で合流することになった。次の舞を楽しみに待機している男達の間を抜け、出口へと向かう。
階段を上り終えると、再び民族的な音楽が聞こえてきた、次の舞が始まったのだろう。少しだけ見に行きたいが…踏みとどまって外に出た。
「カカ様、ニキ様、おかえりなさいませ」
「ただいま。ちゃんと涼んでたか?」
「はい、あちらの露店で冷たい飲み物をいただきました」
アクアスはストローのささった大きなイチゴらしきものを持っていた。ひと口貰ったが中々に美味く、私とニキも露店に買いに行った。
私あんまりイチゴって好きじゃないんだけど…この〝チウベリー〟なる果物は何杯でもイケそうだ。そこまで甘過ぎないのが実に良き。
リーナが来るまでの間、3人横並びになって日陰でチューチュー。これ中身を飲み終えたら外側も食べるんだってさ…、結構お腹いっぱいなんだけど…。
「あっ居た居た! ごめーん…着替えと変質者ボコってたら遅くなっちゃったよ…」
チウベリーをひとかじりし…完食を絶望視した辺りで、着替え終わったリーナが駆け寄って来た。
変質者ボコってたらって言ったか…? 私達が店出た後にまた現れたのか変質者が…。大変だな一番人気ってのは…。
「あれ…? 貴方様は確か…」
「キャーーー♡♡ また会えたねーアクちゃん♡ あ~やっぱりメイドさんっていいなぁ♡ 恰好から立ち姿まで全部可愛い~♡」
「おぉ…なんか凄いな…、まるで別人だぜ…」
「カカも子供の前ではあんな感じニよ…?」
リーナは頬に両手を当ててクネクネしている…、子供相手だと私もああなの…? 自覚ないなぁ…実はユク君引いてたのかな…。
アクアスがめっちゃ困惑してるけど…
「あのーリーナさん…? そろそろお話を詳しく聞きたいんですけどもー…?」
「それはもちろんだけど、立ち話もなんだし
その提案に返答する間もなく、リーナはアクアスの手を引いて歩き出した。その様子を後ろで見ながら、私とニキはベリーをかじりながらついて行った。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
-リーナの家-
“コポコポコポコポ…”
「ひゃー♡ メイドさんが淹れたお茶を飲めるなんて夢みたいだよ~♡」
「コイツまさかその為だけに家に招いたのか…?」
「まあいいんじゃないニ…? 情報提供の対価だと思えば…」
アクアスが淹れてくれたカーファをひと口飲み、ホッと一息ついたところで早速本題に切り込んだ。
「それじゃ教えてくれ、何が厄介でヤバいんだ?」
「──ガガテガ遺跡ってね、ただ遺跡だけが目玉なわけじゃなくて、もう一つ観光客の目を引くものがあるんだ。実はそれが大いに関係してて…」
リーナによれば、ガガテガ遺跡の大きな中庭の中央に〝
そして噓か真か…古の時代を生きた者達が、こぞってその穴に生前蓄えた金銀財宝を投げ込んだという噂があるという…。
それをどうにか手に入れようと、毎年何人ものトレジャーハンターが足を運んでは…呑み込まれるかのように命を落としているそうな…。
「ひょっとして…石版が落下したのって…」
「そう…冥府の抜道の中に吸い込まれるように…」
それは確かに厄介だし…なんともヤバいなそれは…。どういう経緯かは知らんが…その穴から地底を目指した奴が全員死んでるのヤバ過ぎんだろ…。
地底に続く別の道がないか聞いてみたが、それは友達に聞かないと分からないそうだ。まあ多分無い…あったらとっくに見つかってる筈だから…。
うーむ…これは一度見に行った方が良さそうだな…。充分対策を練れば…私達ならあるいは突破できるかもしれないし…。
「とりあえずオッケーだ、情報ありがと。そんじゃ用も済んだし、私等はこれでお暇しましょうかね。確かガガテガ遺跡はここから西北西だっけか?」
「えェ…!? ちょちょちょちょっと待ってよ…?! まさかもう行くの…!? ってか今からガガテガ遺跡に向かうつもり…!? せっかちか…!!」
なんかめっちゃ怒られた…別にそこまで怒られる発言はしてない筈だが…。でも反抗しないでおこう…怒ると怖ェからコイツ…。
「ガガテガ遺跡には先にチケット買わないと入れないし…今から行ったってすぐに日が暮れちゃうよ…? 急がば回れって言うでしょ…? しっかりしてー!!」
「怖いってェ…」
でもリーナの言うことも一理あるし、そもそもチケットの存在知らなかったし…今日は準備を整えて、出発は明日になった。
チケットを購入してそのまま飛空艇に戻ろうとしたのだが…、えげつない圧で制止され…リーナの家に泊まる(強制)ことになった…。
そしてリーナから思わぬ提案が…。
「ねェ私も連れてってよ! 腕っぷしなら自信あるし、有名人の私が居れば多少融通が利く場面があるかもしれないよ? ──断るなら角で刺すよ…?」
「結局最後は脅しじゃねーか…。まあ何が起きるか分からんし…手を貸してくれるのならありがたいよ…。お願いできるか…?」
「もちろん! やったー! これでもっとアクちゃんと一緒に居れるー♪ 改めてよろしくね、えっとぉ…」
< 踊り子〝
「カカだ、よろしく頼むぜリーナ」
自己紹介を終えた私達は、重い腰を持ち上げてチケットを買いに再び外へ。ワンチャン立入許可証で無償入場できないかとも考えたが…「それは良くない…」と止められた…。冗談じゃん…。
私だって権利の乱用は好きじゃないし…何よりアイリス女王からの信頼を損ないかねない…。
── 翌日
リーナの家で一夜を明かし、騒がしい朝食を済ませて早々にノッセラームを発った。寄り道を一切せずにガガテガ遺跡を目指し、飛空艇は真っ直ぐ西北西へ。
元々ノッセラームからはガガテガ遺跡着の砂上船が日に数回出ているらしく、飛空艇で向かえばあっという間に着く距離にあるらしい。
その言葉通り、日色鉱石が変色しないうちにガガテガ遺跡が見えてきた。ユク君と行った遺跡よりも大きく壮観で、実に遺跡遺跡らしい見た目だ。
見たところ飛空艇を停められそうな場所が整えられており、私はそこに飛空艇を停めた。恐らく別地方から来た飛空艇なんかを停める場所なのだろう。
しっかり戸締りをして、肌が焼けそうな炎天の外に出た。遺跡から少し離れているせいか、観光客の賑わいの声は聞こえてこない。
「ねェ…行きの時もかなり気になってたんだけど、アレ何なの…?」
「アレか? アレは私の舎弟だよ。クギャー! 留守番は任せたぞー!」
「 “クギャギャー!” 」
恐らく世界中に存在する飛空艇の中でも、今の私の飛空艇が一番防犯性能高いだろう。もし何者かが侵入を試みようとすれば、すぐにクギャがおやつにしてしまう。
連れていけないのはちょっと可哀想だが、そっち系の申請してないから仕方がない。まあそもそも観光名所には入れないとは思うがな…。
「おお~! 素人目でも年代をビンビン感じられるこの見た目! この存在感! 今からこの中に入ると考えただけでテンション上がるニ~♪」
「言っとくが観光しに来たわけじゃねェからな? 目的忘れんなよ?」
遺跡を囲う大きな防壁を眺めながら、私達は正門のある方へ回った。正門はこれまたご立派な造りをなさっていて、先人達の苦労が目に浮かぶようだ。
< 観光名所 ─ガガテガ遺跡─ >
正門をくぐってまず目に飛び込んでくるのは、この観光名所のメインでもあるガガテガ遺跡の大元。
生物の頭部をあしらったと思われる彫像や、松明を置いていたと思しき石造りの篝火台などが意味あり気に等間隔で並ぶ、
正面には階段があり、どうやら入り口が上にあるちょっと変わった構造をしているようだ。出入り面倒くさそう…。
正門から大元までの間に広がる中庭の中央には、
恐らくアレが
しかし…これだけ見応え抜群な場所だと言うのに、周囲の観光客の姿はまばら。もっと賑わっているかと思ったが…。
「じゃあ皆はちょっと待ってて、私友達を呼んでくるから」
そう言うとリーナは、遠くに見える人影の方に小走りで行ってしまった。私達について説明をしてくれているようだ。
やがてこっちの事情を察してくれてか、リーナはその人物と一緒に戻って来た。
「紹介するね、私の友達でここのガイドさんをやってる〝カニア〟ちゃん」
「リーナの友達でガイドスタッフをやってる〝カニア〟と言います、初めまして」
< ガイドスタッフ〝
丸みのある帽子をかぶった
とても嘘をつくような人には見えないし…ってことは石版が穴の中に入ってしまったって話はやはりガチなのか…。
「事情はリーナから聞きました、流れ星の件ですよね?」
「そうです。リーナから聞いた話によれば…何やら流れ星の落ちた場所がとても危険なんだとか…?」
「そうですね…非常に危険です…。詳しく説明しますのでこちらにどうぞ」
カニアさんの後に続いて進むと、やはり行く先は柵で囲われたあの場所。先に見に来ていた数人の観光客に混ざって、例の抜道を覗いた。
柵の向こうには直径約
これが〝冥府の抜道〟…──多くの命を呑み込む死の穴…。
「確かに相当深いニけど…トレジャーハンター達の具体的な死因は何ニ…? この高さだから普通に転落死ニ…?」
「実はそうではなくて…、今実演してみせますね…!」
そう言うとカニアさんは柵の脇に置いてある木箱に手をつけ、中から何やら大きなものを取り出した。アレは…──生肉…?
大きめに切り分けられた何かしらの生肉を抱えている…。もう嫌な予感がする…、ってかなんで生肉が常置されてんの…? 日の実演回数多め…?
「では見ていてくださいね。柵を越えて見てもいいですが、責任は取りませんので自己責任でお願いします」
「柵越えてもいいの…!? 規制緩くない…!?」
「それじゃ柵の意味がないニ…!」
っとは言いつつも立場上詳しく見る必要がある為…私とニキは柵を越えてしっかり見ることに…。互いが互いの体にしがみつきながら恐る恐る穴を覗く…。
間近に見るとその深さがより鮮明に見える…。砂のトンネルがひたすら真下に伸び…底の方はぼんやりとしか見えない…。
よくトレジャーハンター共はこの穴に入ろうと思えるな…、仮に危険が無かったとしても躊躇うぞこれは…。
「では落としますねー、ご覧あれー」
ポイッと放られた生肉は、どんどん穴の底に向けて速度を上げていく。これで一体何が分かると言うのだろうか…?
“ボシュンッ!”
「ニ…?! 生肉が無くなっちゃったニ…!」
突如側面から何かが飛び出し、落下する生肉を咥えて対面の側面に姿を消した…。ほんの一瞬の出来事だったが…背筋凍りそうなほどに怖かった…。
なるほど…あれが無謀なトレジャーハンター達の末路ね…。この穴に入ったが最後…あの生肉みたいに砂の中に引きずり込まれるわけだ…。
「今のは〝マチカマス〟と呼ばれる
過去には全身を重い鎧で武装して挑んだ者もいたそうだが、ソイツも最終的には胃袋の中に収まったらしい…。
どうやら下に行けば行くほど…住み着いている生物がより巨大でより凶暴になっているらしい…。武装した奴は巨大生物に丸吞みにされたそうだ…。
「これは想像以上に難儀ですね…。いかがなさいますか…?」
「流石にゴリ押しは無理過ぎるもんなぁ…、どうしたものか…。──カニアさん、地底に続く他の道とかってあったりします…?」
「それが…未だ見つかってないんですよね…。遺跡の中に隠されていると学者の方々は仰っていますが…本当かどうかは分かりません…」
遺跡の中に隠されている…かぁ…。そんな
「──私等も一縷の望みに賭けて探しに行くかぁ…」
「面倒だけど仕方がないニね…」
──第65話 冥府の抜道〈終〉