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第63話 その商人、凄腕につき

── 昼前ひるまえ -サザメーラ大砂漠 西側-

<〔Perspective:‐カカ視点‐Kaqua〕>


アクアス達と無事再会でき、残す飛空艇を見つける為に南側から西側へ移動している私達。ポチが本当に速くて速くて…もう西側に到達しているとのこと。


「グスッ…ヒック…、うぅぅ…」


「中々泣き止まんなー…気持ちは分かるけどよ…」


この様子だと…私が居なくなってからさぞ精神を弱らせたことだろう…。ニキが一緒で本当に良かった…、もし1人だったらと思うと恐ろしや恐ろしや…。


まったく世話が焼けますな…、こんなにメンタル弱かったっけかコイツ…。もっと自立してくれれば嬉しいけど…この様子じゃまだ先だな…。


ちなみにここまでの道中で、私とはぐれた後のアクアス達の話は粗方聞いた。ノッセラームへ行き、そこで出会ったベジルと共に南側へ来たこと。


その途中でアクアスが炎帯症えんたいしょうで倒れたり…砂上船が転覆したり…、獣賊団クズ共と戦ったり…まさかの魔物と遭遇したり…。


更には魔獣に積荷の一部を盗まれたり…ニキが砂上船から落下したり…また獣賊団クズ共と戦ったり…、私よりも遥かに壮絶な日々だな…。


「しかし〝ワニの魔物〟かぁ…、今回も一筋縄じゃいかなそうだな…」


「そうニね…──それよりは何なのニ…?」


「 “クギャ?” 」


デゼト村を出る時にバイバイした筈なのだが…いつの間にかポチのたてがみに隠れ潜んでいた…。余程懐かれたみたいだ…全然離れねェ…。


「〝砂帯偽竜オルレクス〟か、本来人懐っこい生物じゃねェ筈だが…まあ責任持って面倒見るこったな」


「どういう関係ニ? カカがしてくれた説明には含まれてなかったよニ?」


「どういうったって…んー…──舎弟…?」

「舎弟…!?」


だってペットって感じしないんだもん…! 元が敵の使い魔的な立ち位置だったから最初強く当たっちゃってたし…結構こき使ってたし…。


私とユク君をデゼト村に運び終えたら一目散にどっか飛び去ると思ってたからなー…弁当やらなきゃ良かったな…。


「お姉さん、名前つけてあげよ? きっとよろこぶよ?」


「えー…、うーん…名前かぁ…──じゃあ…〝クギャ〟で…」


「安直…! 安直過ぎるニ…!」


急に名前求められてもなぁ…こんな案しか出てきませんよなそりゃ…。まあペットじゃなくて舎弟だし、名前を貰えるだけありがたいと思えだな…。


「ついて来るのは構わんが…私が砂漠に居る間だけだからな…! それでも良いなら舎弟として置いてやる…分かったな?」


「 “クギャギャッ♪” 」

< カカの舎弟〝砂帯偽竜オルレクスCugyaクギャ


よもや私に舎弟ができる日が来ようとは…。でも空飛べるし人も背れるし…案外役立つ場面が来るかもな。


あーあ…私はなんだってこう変なのに好かれちゃうのかね…。好かれるのは子供だけで充分だぜ…まったく…。


「── “ジャラ? ジャララ~!” 」


「うっ? お姉さーん! ポチが何か見つけたってー!」


「そうみたいだね~、どれどれ~?」


──フフッ…あのフォルムにあの色、使い込まれた空気袋に竜翼りゅうよく副翼ふくよく…この距離からでも分かるぜ…!


アレは間違いなく私の飛空艇…! 私にとっては家も同然、クソ親の顔より遥かに見ているぜ…! 確実にな…!!


これで正真正銘、散り散りになったメンバーが全員集結したわけだ。目立った損傷も無さそうだし、整備の必要はなさそうかな?


「わああっ! すごいすごーい! カッコいいー!」


「中も見てきていいよー? 私は一応点検してくるから、案内してやってくれアクアス」


「かしこまりました。ユク様、こちらに」


ユク君のことはアクアスに任せちゃって、私はパパッと点検を済ませちゃいますかね。見る箇所はまあまああるし、手際よく作業していく。


全部を見て回った結果、異常は無くすぐにでも飛び立てる状態だ。ついでにベジルの砂上船を飛空艇と繋ぎ合わせた。帰りは私が街まで送り届ける。


つまりユク君とポチとはここでバイバイになる、すっっっごく寂しい…ユク君とバイバイするの嫌だよー…。


「ユクくーん…寂しいだろうけど元気でね…、ポチと仲良くするんだよォ…?」


「うんっ! お姉さんバイバ~イ!」


若干の温度差を感じるが…バイバイする他選択肢はない…。危険を伴う石版探しにユク君を巻き込みたくはない…。


ポチが居れば楽にはなるだろうが、ポチにはデゼト村を護る使命がある…。石版探しに付き合わせるわけにはいかない…。


ここは大人として…立派な大人としてちゃんとバイバイしなければ…! 悲しいけど…そんな時こそしっかりお別れをしなくては…!


涙が零れそうなところを必死に堪え…気丈な振る舞いでお別れをする…。そのつもりでいた私の脚に、ユク君が不意に抱きついてきた。


「お姉さんっ! おん返してくれてありがとっ! バイバイ!」


「あああああん…!! ユクぐんもありがどねェ…!! 元気でねェェ…!!」


「先程のわたくし並みに泣かれていますね…」

「今生の別れみたいな号泣ニ…」


その後涙を拭いながら…少しずつ遠ざかっていくユク君とポチを見送った…。独り立ちする子供を見送る親って…こんな気分なのかな…。


あんな純真で純粋で無垢な子供の平穏を守る為にも…それを脅かす魔物をのさばらせてはおけない…! お姉さん頑張るからね…応援しててねユク君…。


「さてさて、それじゃボチボチ私達も出発といきましょうかね。久々にカーファが飲みたいぜ~、アクアスお願ーい!」


「ニキも飲むニ~♪」


「かしこまりました、お茶菓子と一緒にお出ししますね」







── 明昼あかひる -ノッセラーム周辺-


[カカ様、砂上船の船底が砂に接しました!]


「オッケー、そしたら慎重に鎖を外してくれ」


西側から真っ直ぐ飛行し、明昼頃にはアクアス達の訪れたノッセラームに到着した。巨大流砂のど真ん中に街がある…スゲー…。


流砂に吞まれないよう少し離れた位置にベジルの砂上船を下ろし、飛空艇も適当な場所に停めた。


「送ってくれてありがとうな、この礼はいつかさせてもらう」


「別にいいよ、助けられたのはこっちも同じだ。ただもし力が必要になった時は、また力を貸してくれよな?」


「ああ、そんときゃ気軽に俺の店を訪ねてくれ、そんじゃ」


砂上船を指定の置き場に戻す為、ベジルは砂上船に乗って行ってしまった。砂上船か──私も一回乗ってみたかったな…なんて。


「んじゃ私等も私等のすべきことをしましょうかね。この吊橋を渡っていけばいいんだよな? ──大丈夫だよな…?」


「ラクダに乗って渡っても大丈夫でしたので…壊れはしないかと…」


「これだけは何度渡っても慣れないニ…」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




<砂と舞の街 ─ノッセラーム─ >


終始ビクつきながら吊橋を渡りきり…ノッセラームの南門をくぐった。家も人々の衣服も、目に映る全てが民族的で新鮮に感じる。


ゆっくりバザールとか見て回りたいが、足踏みをしていた分を取り戻さなくちゃならない…。バザール散策はおあずけだ…。


ひとまず腹ごしらえを済ませる為に、目に付いた適当なお店に入店。内装もエスニックで思わずワクワクしてしまう。


メニューを見るも、どれ一つ知っている料理名がない…。各々直感で注文することになったが…ニキが注文した時に店員が妙な顔をしたのが気になる…。


ゲテモノがテーブルに並ばないことを願うぜ…、虫は本当に勘弁…。


「ちょっと不安ニけど…この3人での食事は久々に感じるニ♪」


「そうだな、またこうして卓を囲めて良かったよ。ただあんま気を抜き過ぎるなよ? 私等の当初の目的は何一つ進行してないんだからな」


「まずは聞き込みから始めないとですね…。っとは言えかなり大きな街ですから、飛来物を目撃した人は案外すぐに見つかるかもですね」


それは私も同意見。こんだけ栄えてて人も多いなら、目撃情報は大いに期待できる。今日中に目撃者から話を聞けるかもしれない。


ただ私が心配なのはもっと別の事…、石版のだ…。どこに落下したかで…捜索難度が大きく変化する…。


もし何もない砂の上に落下したのなら…、石版は数日で砂に埋もれてしまうだろう…。そうなれば捜索範囲は無限大…、発見は無理に等しい…。


「もし砂に埋もれてたらどうするニ…? 帰るニ?」


「そうだな…お土産買ってドーヴァに帰還しようか。リーデリアとベンゼルデの特産品ってなんだろうな?」


「えっ…冗談ですよね…? えっ…カカ様…? ニキ様…? 本気ですか…?」


そりゃ流石に冗談ですけど…実際問題どうすればいいのかサッパリだ…。占い師にでも頼んでみる…? 微塵も信じてねェけどな占い。


「なあニキ…確かオマエの能力を誤魔化す為に、アイリス女王には占い師だと説明したよな…? ──じゃあ…」


「無理ニよ? 「じゃあ」じゃねェニ」

「流石に無理がありますカカ様…」


「知っとるわそんなこと…!ちょっと大人気なくヤケクソ起こしただけだわ…!」


砂に埋もれてた場合のことはもう考えないようにしようか…。そん時はそん時の自分に任せよう…、まだ埋もれてると決まったわけじゃないし…。


まずは目撃者を見つけることからだ…、すんなり見つかればいいけど…。できればまともな奴…私やアクアスみたいな…。




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「少々独特な味付けでしたが美味しかったですね、わたくし気に入りました」


「インパクトも凄かったよな…、特にニキの…あのヘビ料理?みたいな料理やつ…」


「魚の目玉がヘビの頭を囲んでた料理やつニね…美味しかったけど怖かったニ…」


精神こころを削って腹を満たした私達は、いよいよ聞き込みを始めることに。すぐに見つかればいいけど…。


まずは人の行き来が激しい広場へと移動。日が高いだけあってか、馬車や商人達がたくさん見られる。これなら有力情報も期待できそうだ。


効率的にいきたいので、手分けして聞き込みを行っていく。石版が落下した方角…欲を言えば正確な落下地点の情報が得たい。


その一心で誰彼構わず聞き込みをしたが…予想に反して手掛かりがまるで手に入らない…。不安が冷や汗となって首筋を伝う…。


石版が飛来したのは強雨の多い驟雨月しうきだが…砂漠地帯には関係ない筈…。であれば雨で外出率が下がることもない…、何故こうも目撃情報がないんだ…。


高い建物もそんなに無いし、この広場からは空が広く見える。飛来物があれば気付きそうなものだが…、砂漠地帯に住む人ってあんま空見ないのか…?


その後も色々な人に聞き込みをしたが…石版に関する手掛かりはガチで何にも得られなかった…。シヌイ山の時より難儀している…。


だが一つ…直接的に石版とは関係ないが、気になる情報を耳にした。それはがむしゃらに聞き込みをしていた時…とある女性がこう言った──。


“「〝黒い生物〟を探しているのですね」”


〝貴方も〟…──何やら嫌な予感がしてならない…。私達以外にも…この街で聞き込みをしている何者かが居る…?


しかもお目当ては〝黒い生物〟…、魔物以外に浮かばないが間違いではない筈だ…。知らないソイツは…何かしらの目的で魔物を探している…。


十中八九…魔物を手懐けるっつう戯言をほざく獣賊団クズ共の一派だろうな…。手懐けられる筈がないが…先を譲る道理もない…。


このまま方法を変えずに聞き込みしてても埒が明かないと判断し…私は一度2人と合流することにした。もしかしたら情報を得ているかもしれないしな。


まずはアクアスと合流し、ニキのもとへと向かった。だが…──


「全部で270Rリートですニ、毎度あニ~♪」


「あんの頭巾商人…商売してやがるよ…」

「大いに繫盛してますね…」


やたら人混みができてるなと気になって来てみれば…楽しそうに本業に勤しむニキの姿が…。人が必死に聞き込みをしてたってのに…勝手な奴だ…。


人が多くて商人の血が騒いじゃうのかもしれないが…目的を忘れないでほしいものだ…。後でしっかり言っとかないとな…。


人混みをかき分け、商売中のニキに集合の意をアイコンタクトで伝えた。ちゃんと伝わったかは分からん…目ェ見えないから…。


「皆ごめんニ~! この後予定があるからここで幕引きニ~!」


「ありゃ残念だ…また面白い物買いたかったのになー…」


「次回をお楽しみニ~、また御贔屓ニ~」


なんかめっちゃ馴染んでるなアイツ…知り合いみたいな距離感じゃねェか…。前来た時に何をしたんだアイツは…。


広場の中心にある巨大井戸に腰掛けながらニキの片付けを待ち、ニキが戻って来てから聞き込みの収穫を話し合った。


っと言っても私はまるで収穫ナシ…、アクアスもそれらしい手掛かりは得られなかったようだ…。やはり適当に聞き込みをしてもダメなのだろうか…。


「うんとニ、〝リーナ〟って人が流れ星を見たって言ってたそうニよ」


「オマエが手掛かり得てたんかい…?!」

「ニキ様優秀ですゥ…!」


珍しい商品で人の目を奪い…寄った人に聞き込みをしていたらしい…。有力情報を得て…更にはお金まで稼ぐとは…、これは紛うことなき凄腕の手腕…。


加えてそのリーナという人物がこの街で〝踊り子〟をやっていることと、男達の中ではかなりの有名人であることも聞き出していた。


勝手な奴とか思ってすまん…、オマエはいつも頼りになるぜ…。お返しと言ってはなんだが…さっき得た気になる話をした。


「絶対に獣賊団奴等ですね…」


「絶対に獣賊団アイツ等ニね…」


満場一致で獣賊団クズ共であると結論付けた、きっと間違いじゃないしな。もし見つけたらその場で押さえ込んで憲兵に引き渡そう。


そもそも石版じゃなく魔物の方を見つけたところで…私が持ってる短剣がなければどうにもできないしな。完全スルーでも問題なしだ。


「そうと決まれば、その〝リーナ〟って奴に会いに行きますかっ。どこに居るかも聞いたんだろ? 案内頼むぜ凄腕旅商人」


「頼まれたニ! ではでは出発、ニキの後に続くニ~!」



──第63話 その商人、凄腕につき〈終〉

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