──
<〔Persp
「ここにも居ねェか…、もう俺が知ってるオアシスは全部だぞ…」
「道中それらしき人影も無し…、参ったニね…」
カカ様とはぐれてから今日でもう5日目…。各地のオアシスを巡った
日が暮れる度にどんどん心が追い込まれ…上っ面の元気も限界寸前…。全員の口数が減り…頭の中にどうしようもない焦りが溢れる…。
ずっと頭の片隅で〝カカ様ならきっと大丈夫〟だと…そう信じていた自分がいた…。それが余計に焦りを助長し…、日を追うごとに心が蝕まれた…。
ベジル様が知るオアシスもここで最後…、もちろん隅々まで捜索はしましたが…カカ様の姿はおろか痕跡も〝軌跡〟も見つからない…。
「これからどうする…? 行方不明から既に5日経って…俺達の積荷もいよいよ底が見えてきた…──これ以上の捜索はもう…」
「…!? ダメです…! カカ様を見捨てるような真似…絶対に出来ません…! まだ南側で見てない場所はたくさんありますし…捜せばきっとどこかに…──」
「アクアス…一旦落ち着こうニ…、このままじゃニキ達だって危ないニよ…。気持ちは痛いほど分かるけど…流石にもう…」
ニキ様に優しく抱きしめられ…感情がぐちゃぐちゃになった…。分かっています…このまま積荷が無くなれば…捜索を続けるのも困難になると…。
でもここで街まで引き返せば…数日をロスしてしまう…。もう少し捜索すれば見つかるかもしれないのに…、もしかたらすぐそばに居るかもしれないのに…。
“「全部私に任せろ──新しい生活を与えてやる──」”
嫌だ…嫌だ嫌だ…! 見捨てたくない…裏切りたくない…!
「んっ…? なんだ…ありゃ…!? おいオマエ等構えろ…! 何か来るぞ…!!」
脳裏に浮かんだのはあの日の光景…。スコープ越しに見た…
「まさか魔物ニ…?! なんて間が悪い奴ニ…」
「もう砂上船は間に合わねェ…、腹を括るしかねェぞ…!」
「追い払って差し上げます…! カカ様捜索の邪魔はさせません…!!」
──
<〔Persp
「皆逃げろォ…!! 化けヘビだァァ…!!」
「いやああああ…!! 誰か助けてェ…!!」
「──ほらァ…やっぱりパニックになったァ…。ユク君のせいだよ…?」
「だってだってぇ…!」
デゼト村が何故こんな世界の終わりみたいな状況になっているのか…、それはユク君のとある提案が原因である…。
これでようやくデゼト村に帰れると思ったのも束の間…ユク君が私の袖を引っ張って、こんなことを言ったのだ。
“「ねえねえ、ポチに乗って帰ろうよ~」”
無論私は止めましたよ…? こんな一見世界を滅ぼせそうな神話級巨大ヘビが突然村に現れたら…言わずもがな大混乱になっちゃうよと…。
まあ最終的にはユク君の上目遣いに負けてしまったわけだけども…。結果デゼト村は大混乱…、逃げ出す者もいればその場に崩れ落ちる者もいた…。
「みんなー! えーっと…だいじょうぶだよー!」
「圧倒的言葉足らずだ…」
「 “クギャァ…” 」
ポチの頭の上に立って必死に呼び掛けるユク君に、逃げ惑う村人達は困惑しながら足を止めた。さぞ何が起こっているのか分からないことだろう…。
ひとまず今のうちに全てを説明してしまおう…。ポチの背中から降りると、村長が事情を聞きに近付いて来た。また怒られるかも…、覚悟しよう…。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「いやはや、まさかこの村がずっと護られておったとは…。私も父から昔話として聞いてはいましたが…まさか実話だったとは驚きですな…」
「えぇ…私も未だに全てを吞み込めたわけではないです…」
話のスケールが大き過ぎたせいか…怒られることはなかった、良かった。だが別の混乱を招いてしまった、それは良くなし…。
ちょっとユク君呼び戻そうかな…? 子供と巨大ヘビが楽しそうに遊んでる光景のインパクトが凄過ぎる…、ある意味あれが混乱を生み出しているのよ…。
「まだとても消化し切れない話ではありますが…少しずつ吞み込んでいこうと思います。口の手入れも定期的に村民総出で行うことにします」
「そうですね、そうしてあげてください。そうすればより村の安全に貢献してくれる筈ですよ、なっポチ?」
「 “ジュラ? ジャララ~!” 」
この様子ならすぐに村民達とも打ち解けられるだろう。ユク君の突拍子もないお願いが…まさかこんな事に繋がるとはねェ。
デゼト村も安泰でユク君も嬉しそう、色々あったけど
残るは私の問題だけか…。アクアス達が来てくれると信じてはいるけど…少しだけ不安が積もってきた…。
村の外に目をやるも…砂原が延々と地続きに広がっているのみ…。ただジーッと見つめていると…誰も助けに来ないんじゃないかと思ってしまう…。
「お姉さん…? ──そうだっ! ねえねえポチ、 “ひそひそひそ…!” 」
「 “ジャララ~!” 」
「おわァ…なんじゃァ…?!」
突然ポチは長い舌を伸ばし、体に触れないギリギリの距離で舌をピクピクさせている…。何…怖い…、生きてるみたいな動きが怖い…。
そのまま少しの間ピクピクさせると、ポチは顔を上げて明後日の方向に舌をピクピクさせ始めた。右向いて左向いて…何してますか今…?
「どお? お姉さんのともだちがどこにいるか分かった?」
「 “ジャララララ~!” 」
「えっ…!? 分かんの…?!」
今何をしてたのかまったく分からんが…自信たっぷりなポチの様子を見るに、アクアス達がどこにいるのか分かっているようだ…。
これで全然知らない赤の他人に辿り着いたらどうしよう…
だが本当に分かっているのなら…わざわざアイツ等を待たずして合流が果たせる。それは願ってもないことだ、止まっていた石版探しも再開できる。
──神話級の
「そんじゃポチ、私は今すぐ仲間達のもとへ行きたい、頼まれてくれるか?」
「 “ジャララッ!” 」
ポチは長い舌を私の体に巻き付けると、そのまま軽々と頭の上に乗せてくれた。村民の皆に手を振り別れを告げ、私はデゼト村を後にした──。
──
「はやいはやーい♪ 楽しー♪」
「私はちょっと怖いかな…、たてがみ離せないよ…」
流石は神話級生物…
村を出てから大して経っていないのに…かなりの距離を進んできている。なんかそう思うと余計に怖いな…、ポチ怖いよ…。
「お姉さーん! おあしすが見えるよー! ──あれ? だれかいるよー」
「えっ…本当…? こんな所に人って…まさか…」
ポチが進む先にあるオアシスには、ユク君の言う通り小さな人影らしきものが見える。3人かな…? その後ろには船らしき物も見える…飛空艇じゃないよな…?
徐々に近付いていくにつれて、人影の特徴が見えてきた。それぞれ
やっぱりそうだ…! あの髪色は絶対アクアス…! なんか格好もメイドっぽく見えるし、あれは間違いなくアクアスだ…!
ってことはあの紫髪はニキか…?! あれ髪じゃなくて頭巾か…! ややこしいなアイツ…、でもちゃんと2人揃ってて良かった…。
「ポチ! あそこで止まってくれっ!」
「 “ジャララ~!” 」
砂を巻き上げながら進むポチは、私のお願い通りに3人の前でビタッと止まった。驚くほどビタッと止まり…砂煙が周囲を包んだ…。
慣性でぶっ飛びそうなユク君を片手で掴み…もう片方の手でたてがみを掴む…。腕千切れるかと思った…、止まる時は徐々に減速するように言っとかなきゃな…。
痛む腕をさすりながらポチの頭をペチペチしてると、少しずつ日が差す青空が戻ってきた。そしてついに念願の瞬間を迎えた──。
「アクアス! ニキ! やっぱりオマエ等だったか!」
「カカ様…!?」
「カカがデカいヘビの上に居るニ…?!」
驚愕の表情を浮かべる2人、その隣には遠くから見えた背の高い男が1人。角も翼も尻尾も無いし耳も尖ってない…コイツも
とりあえずポチに頼んで頭の上から降ろしてもらった。マジであっという間に着いたなぁ…なんかここまで頑張ってくれたアクアス達に申し訳ない程に…。
「はぐれて数日しか経ってねェけど、久々に会った感じがするな~。
「カカしゃまァーーーー…!!!」
“ドスッ…!!”
「ゴブゥ…?!!」
アクアスは持っていた
もはや殺人タックル…何かが胃を逆流してしまいそうな威力…。加えて砂から突き出した石が…押し倒された私の後頭部にジャストヒット…。意識飛びそう…。
「うえーーん…! ご無事でなによりでずぅーー…!」
「あぁ…心配かけたな…、オマエも無事そうで良かったよ…。ニキも…──オマエは…大丈夫か…? 」
「お互い様ニね…、今しがた無事じゃなくなったニ…」
ニキもまた…アクアスが放り投げた
でも2人共、それ以外に目立った外傷は見当たらない。それを確認してようやく一息つけた…、アクアスの頭を優しく撫でる。
「えーっと…アンタもありがとな、2人に手を貸してくれてさ」
「俺は依頼に応えただけだ、礼の必要はねェ、無事再会を果たせたんならそれでいい。俺はむしろそっちの説明がほしいな…」
褐色肌の男が視線を向ける先には、ユク君とポチが…。大柄の男も流石に
ポチの話だけをするのもなんだし、私がアクアス達とはぐれてからの出来事を簡単に説明した。ユク君と出会い、
通して全てを話すと、2人はポカーンとしていた。まあ後半現実味薄いからな…
「まさか南側に人の暮らす集落があるとはな…、そんな話一度も聞いたことがねェぜ…。しかもこんな…千年も前から生き続ける生物がいるとは…」
「どこの誰かは知らないニけど…当時
「 “ジャララ?” 」
畏怖の眼差しを向ける2人に、ポチは能天気そうに首を傾げた。私が慣れてきたからか、段々ポチが可愛く思えてきた…慣れって怖いね…。
「オマエ等はこの数日間どうだったんだ? 私よりハードな日々だったろきっと…」
「そうニね…後でちゃんと話すニけど、まずは街まで帰ろうニ。ポッチーが居るとは言え、南側が危険なことに変わりないニ」
「それはそうだが…まだ飛空艇が見つかってないんだ…。ポチが居れば移動には困らないが…今後の為にも飛空艇は必須…! 街に帰るのはその後だ…!」
私の記憶が正しければ、飛空艇は砂漠の西側に流されていた筈…。しかしそれが合っていたとして…また見つけ出すのにどれだけ掛かるものか…。
──またポチを頼るべきか…? アクアス達の居場所を探り当てた時の様に…あの意味深な舌ピクピクで飛空艇の場所も分かるのだろうか…。
「ポチ~、飛空艇の在り処も分からな~い? あのー…船っ! 船っ! あそこにあるやつみたいな! 多分西の方にあると思うんだけど…」
「 “ジュラ~? ──ジャラララッ!” 」
「えっ分かったの…? どういう原理…? 怖っ…」
「聞いといてその反応は酷いニ…」
ポチはまた私の近くで舌をピクピクさせると、「分かった!」っと言わんばかりに西の方角に咆えた。マジで何してるのそれ…?
ってか飛空艇知ってる…? 飛空艇って時代的に割と最近の代物よ…? 千年以上砂漠に暮らしてるポチが知る由もない発明品よ…?
大丈夫…? 今度こそまったく関係ない所に辿り着いたりしない…? 気付いたら砂漠抜けてました~っとか全然あり得ると思うんだけど…。
「みんな乗って~! ポチがまたあんないしてくれるよ~!」
「 “ジャララ~!” 」
「…どうするニ…? 信用して良いんだよニ…?」
「…今はもう委ねるしかねェからな…、神話級生物の超能力に賭けよう…」
私達はポチの頭に乗り、真っ直ぐ西側に進むポチの上で風を浴びた。向かう先に飛空艇があるのか否か…一抹の不安を抱きながら、私達は砂漠を征く──。
──第62話 向かう先〈終〉