目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第60話 罰

「今度こそ殺してやるぞ…! ──ふんぬァ…!!」


「オイオイまたかよ…、随分バリエーション乏しいな…」


仲間を1人倒されたことで敵はますます闘志を漲らせているが…やることは結局砂巻き上げての目くらまし…、なんてワンパターンな…。


二度やって二度とも通用しなかったの忘れたのかな…? 頭強く打たれて記憶どっかにぶっ飛んじゃったのかな…?


それならば仕方ない、手痛い代償と引き換えに思い出させてあげよう。今しがた良いアイデアを思い付いたところだ…存分に味わってもらおう…!


私は腰を曲げて、足元に落ちている手のひらサイズの石を拾い上げた。重量はそこそこ、さぞ中もぎっしりなことだろう。


私はそれをポイッと宙に放り、衝棍シンフォンの石突付近を持って大きく振りかぶった。狙いは奴等が立っていた方向から左に45度。


流石に全員真っ直ぐ攻めくることはないと仮定するなら、この方向から誰かが攻めてくる可能性は高い…! 大いに見切り発車だが構うまい…!


「〝揺撃ゆりうちつぶて】〟…!!」


振りかぶった衝棍の先で思いっきり石を打つと、震重石しんじゅうせきから放たれた衝撃で石は細かく砕けた。


砕けた破片は吸い込まれるかの様に砂煙の中へと消え、直後そう遠くない場所から「うああっ…?!」という声が聞こえた。予想通り命中したらしい、ざまァ。


“──キーン…!!”


「おっとっと…! そうはいかねェぜ下っ端…!」


先の見えない砂煙の中から突如出現した片手鎌、だが衝棍シンフォンでしっかりと防御ガードし、反撃カウンターを狙う。


“──キーン…!!”


片手鎌を払い、ヒツジ女の手を掴んで攻撃をしようとしたが、左側から文字通り横槍が入った。すぐにその場にしゃがんで槍の突きを躱し、そのままカンガルー女のすねに蹴りを入れた。


立ち上がりざまにヒツジ女の腹部に肘を入れ、左手を後ろに回して毒ナイフを取り出し、カンガルー女の脚に投げつけた。


刺さりはしなかったが、刃が皮膚に傷を付けて血が流れた。無論この程度じゃカンガルー女は気にせず追撃しようとしてくるが…それも叶わない。


「うっ…!? なんだこれ…?!」


今回塗っておいたのは〝失感毒しっかんどく〟、あらゆる感覚に異常をきたす毒。どこにどんな異常が起きるかはランダムだが…十中八九まともに動けやしない。


カンガルー女は足元がふらふらと覚束なくなり、左手で頭を押さえている。平衡感覚に異常が出たっぽい、まあまあ当たりだな。


「おいヒツジ女…! 大切な仲間が苦しんでるぜ…?! 大事ならしっかり看病してやれよ、ほら返すぜ…!〝震打しんうち〟…!」


肘打ちの痛みに腹部を押さえているヒツジ女めがけて、カンガルー女を打ち飛ばした。2人は勢いよく衝突し、仲良く砂煙の中に姿を消した。


これで更に2名が痛手を負い、全員が一度は私の攻撃を受けたことになる。数的不利でありながら…流れはどんどん私の方へ傾いている。


だが念には念を入れて、そろそろ砂煙から離脱したい…っと考えた矢先、また頭の中に〝音〟が鳴り響く。しかも正面と背後から同時だ…。


「トドメだァ…!」

「死ねェェ…!!」


正面から斧を振りかぶるイタチ女が姿を現した。最小限の動きで背後も確認すると…身を屈めた状態で剣を構えるシマウマ女の姿…。


さっきのドタバタに乗じての挟み撃ち…。どっちも得物を横に構えており…確実に胴か脚を輪切りする算段だろが…そうはいかねェ…!


私は体を回転させながら空中で真横になり、同時に振られた斧と剣の隙間に身を隠した。髪の毛が僅かに切られた感覚を覚えたが、それ以外は奇跡的に無事…。


しっかりと着地を成功させた私は、冷や汗を拭う間も捨てて反撃カウンターを狙う。まさか攻撃を避けられると思っていなかった2人は、啞然としてまだ動けずにいる。


イタチ女を叩きたいところだが…まずは邪魔な腰巾着共を片付けるのが先。剣を構え直される前に、シマウマ女の顎を全力で蹴り上げた。


獣族ビケは揃いも揃ってタフな奴が多いが…コイツはさっきも頭部にダメージを負っているし、流石に脳震盪でノックアウトだろう…。


ヒツジとカンガルーがどうかは知らんが…とりあえず今は脱出優先…! 目の前で仲間を倒されたとあっては追撃もできまい…!


“──キーン…!!”


「うおおおっあぶねェ…?! あんにゃろ…なんちゅう執念…」


背後からシマウマ女が使っていた剣が飛んできた…。危なかったが…剣を投げてきたってことは、持ち主のシマウマ女はやはり気絶したか…?


最後の抵抗とも言える投擲攻撃を避け、三度みたび砂煙からの生還を果たした。砂煙が晴れた時…いったい何人が立っているのやら…。


しかし…フゥ…、かなり適応したとは言え…こんだけ動くと流石に狂いそうな程暑い…。蒸れてしかたねェ…、遺跡の中で涼みたい…。


服をパタパタさせて暑さを凌いでいると、ようやく砂煙が晴れてきた。立っている人影は一つ、イタチ女以外は全員リタイアみたいだ。


ヒツジ女はまだ意識があるみたいだが…倒れ込んでいる様子を見るに戦闘継続はできないだろう。よってここからは私と奴のタイマン──得意分野だ…!


「──セネレダ…ケマノ…クルーシュ…」


「ご傷心かァ…? 随分と仲間想いだなルーガ様。テメェはフロン?とやらが仕切るチームの幹部だろ…? トーキー猫野郎んとこの連中に比べて実力が足りてないんじゃねーかァ…? そんなんだから仲間を守れねェんだよ…!」


「いちいちうるさい奴だ…! 我らフロン隊は〝卑怯〟がモットー…! 正面戦闘を得意とするトーキー様の部隊と実力が離れているのは当然だ…!」


なるほどね…確かに戦法は卑怯そのもの。並みの相手なら目くらましからの袋叩きで充分だし…地力が無くとも関係ないわけだ…。


フロン…ねェ…、なんだか私と近しい思考の持ち主らしいな…。自分と似たタイプと戦るのは好かないんだよなぁ…、あーヤダヤダ…。


もし戦う展開になったらニキに丸投げしちゃおうかな…? 前回は私が七鋭傑しちえいけつ倒したし、今回はちょっと楽しても罰当たらんだろ。


「っでテメェはどうすんだ…? 埋まらない実力差に減った頭数、得意の戦法もこうなっちまったら形無しだ、どうする…? 尻尾巻いて逃げでもするのか…?」


「逃げる…? そんな恥ずべき行為をするわけがないだろ…! それにまだ手は残してある…! おやつの時間だぞオマエ等…! “ピィー!!” 」


ポケットから何かを取り出したかと思えば…突如甲高い音を鳴らし始めた…。骨笛…? うるせェけど…こんなもんで私とどう戦うってん…──


「 “クギャギャーー!” 」


ハイハイ…そういうことね…、全部理解しましたよー…。


骨笛の音に反応し…5頭の偽竜種レックスが騒ぎ始めた…。今度はアレを相手にしにゃいかんのか…、小型とは言え人並みのサイズあるぞ…。


「奴を喰い殺せ偽竜種レックス共…!」


「 “クギャーーー!!” 」


イタチ女が指示を出すと、5頭の偽竜種レックスは一斉に私に向かって前進してきた。よく飼い馴らされている…、敵の中に腕の立つ調教師がいるっぽいな…。


だが私だって知っているぞ…? 偽竜種レックスは元々高い知能を持ち、人の言語を理解できる個体も珍しくないってことを。


知能の高い生物は言語や仕草から、話の意図すらも読み取ることができるという。どれどれ…偽竜種レックスの頭の良さを確かめようじゃないか…。


「 “クギャギャギャギャ…!!” 」


「──ア˝ァ…?」


「 “ギィ…?!” 」


私は衝棍シンフォンを構えたまま堂々と仁王立ちをし、四足歩行で迫ってくる偽竜種レックス共を見下して睨み付けた。


5頭はまだ少し距離がある所でビタッと止まり、ジーッと私の顔を見つめている。睨み付けたまま私の方から近付いていくと、左右の4頭はジリジリと後退し…真ん中にいる奴は完璧に硬直してしまっている。


私は取り残された1頭の前に立ち、そっと左手を伸ばして顔を撫でた。睨みを解除し、圧を放つ笑顔で更に追い詰めていく。


「へぇー中々お利口さんじゃないか~。そうだよなーこんなつまらない死に方はしたくはないよなー…? じゃあこの後もどうすればいいか判るよなー…? ンー…?」


「 “ク…クギィ…” 」


私に顔を撫でられた偽竜種レックスは、まるで降伏と言わんばかりにその場に伏せてみせた。やはり賢い、フロン隊アイツ等よりも利口だな。


「オイッ何をやってる…?! れ…! 喰い殺すんだ…! “ピィー!!” 」


「おやァ…? まさか私に襲い掛かったりはしないだろうなァ…? オマエは利口だもんなァ…? 今オマエの命を握っているのが誰かぐらい判ってるだろォ…?」


とても可哀想な板挟みに遭う偽竜種レックス達…。主の命令に背けばお仕置き…だが私に牙を向ければあの世行き。


忠誠か本能か…。私に撫でられてるコイツは既に戦意を失っているが、後ろの4頭はまだ悩んでいるのか…私とイタチ女を交互に見ている。


「従わないならお仕置きだぞ…! さァれ…!! “ピィー!!!” 」


「 “キィ…クィ…──クギャーー!!” 」


忠誠と本能を天秤に掛けた結果、4頭は命を賭して私に襲い掛かることを選んだらしい。私はバックステップをしながら衝棍シンフォンを回す。


4頭は私を喰い殺す気満々で猛進を始めた。余程お仕置きが怖いのか、猛進する姿には余裕がなく見える。


隣の奴とぶつかろうとも関係なく無我夢中で突き進み、口を開けて一斉に飛び掛かってきた。


しかし焦らず間合いに入るまで引き付け、一切手加減のない本気の震打しんうちを左端の偽竜種レックスに叩き込んだ。


「──邪魔…!」


「 “グィガァ…?!” 」


本気で衝棍シンフォンを振るったことで…握る手にまで衝撃が及び、右腕全体が軋むように痛む…。だからあんまりやりたくないんだ本気打ち…。


だがその分威力は絶大で、左端に叩き込んだ震打しんうちの衝撃は右端にまで届いた。4頭の偽竜種レックスは仲良くぶっ飛んでいき、砂の上で動かなくなった。


右腕がズキンズキンッと痛むが…面倒事を速攻で片付けれたから良しとしよう…。地力不足のイタチ女1人倒すだけならそこまで支障じゃないだろうし…。


ひとまずこれ以上面倒事を増やされない為にも…残った偽竜種レックスに念を押しておこう…。絶対私に牙を向かないように…。


「結局オマエだけになっちゃったなァ…、でも心配は要らないぞ…? 私は何もしなければ危害を加えない優しい女だからな~。動かず逃げずそこに居ろよ…? オマエにはこの後頼みたいことがあるからな」


「 “ギィ…” 」


ヨシヨシ、これで残すはイタチ女1人のみ。仲間もダウンさせたし、偽竜種子分共も倒した…流石にもう奥の手もあるまい…。


「ヘイッ…! 頼みの綱も無くなったんだ…! そろそろ覚悟を決めて自分でかかってこいよ…! いい加減疲れてきたぜ…」


指をクイクイ曲げて挑発すると、イタチ女は歯を食いしばりながらも…体は武者震いのように震えている。


私に対する沸々とした怒りと、否定のしようがない実力差による恐れが顕著に出てるな。大人しく逃げ出してくれれば楽なんだけど…、まあ逃がさないけど。


「クソッ…クソクソクソッ…! ウオオオオオッ…!!」


「ヤケクソか…、救えねェ奴…」


砂を巻き上げることもなく…投擲攻撃を仕掛けてくるでもなく…、斧を握りしめて真っ直ぐ向かって来る。


そしてどんな攻撃をしてくるのかと思えば…一心不乱に斧を振るのみ…。ちゃんと力が込められてはいるが…避けるか受け流すかで簡単に対応できる。


所詮は仲間ありきの初見殺ししか能のない素人か…。〝卑怯〟がどうこう言ってたけど…戦法がそうなだけで、能力自体は無いようなもんだったしな…。


コイツ等がそうなだけで他の奴等は別なのかどうなのか…。いずれにせよ面倒な連中が砂漠に来たもんだな…、トーキー隊猫野郎共のがまだマシだぜ…。


「ウオオオオッ…!〝凶斧の一撃ダイ・オックス〟…!!」


「しつけェなァ…!〝竜撃りゅうげき〟…!!」


振り下ろされた斧と突き出した衝棍シンフォンが激しくぶつかり合い、周囲の砂が風に吹かれた様に流れていく。


力では負けているが…衝撃は斧からイタチ女の腕にも伝播し、本来の腕力を発揮することはできなくなる。よってこの押し合いを制するのは…──


“ガキーンッ…!”


「ウォア…?!」


衝撃で斧は弾かれ、明後日の方向に勢いよくぶっ飛んだ。私の右腕もさっきと今ので限界寸前の痛みだが…もうじきこの戦いも終わる…、奥歯を噛み締めて痛みに堪える…。


腕がもげそうな痛みに負けずに私が衝棍シンフォンを回すと、得物を失ったイタチ女の顔は少しずつ青ざめていった。


「ちょっ…待て…! 分かった…帰る…! 大人しく帰るから…命だけは…」


「あァそこは安心しろ…私は知性生種ちせいせいしゅは殺さない…。だが悪党相手に情けを掛けたりもしない…! 受け入れろ…罰を…!〝竜撃りゅうげき〟…!!」


丸腰相手に追い打ちするのは気が引けるが…下手な優しさは悪党コイツ等に付け入る隙を与えるだけ…。心を鬼にして渾身の一撃をぶつけた。


砂の上を勢いよく転がり…やがて大の字で動かなくなった。これでようやく面倒事が片付いた…、一件落着…かな…?


痛む腕を持ち上げて衝棍シンフォンを背に戻し、大人しく伏せて待機している偽竜種レックスのもとへと向かう。


「ヨシヨシ、ちゃーんと言う事聞けて偉いなー。本当ならこのまま解放したいところなんだが…もうちょっとだけ私に付き合ってくれな~? ン~?」


「 “ギャギャ…” 」


偽竜種レックスは私の目を見て小さく頷いた、中々従順で可愛い奴だ。仕事が終わったらちゃんと解放してやるからな、もうちょっとだけ頑張ってくれ。


私は頭を軽くぽんぽん叩き、偽竜種レックスを連れてユク君達の居る遺跡へと戻る。ヤーナダ文字の解読が終わっていればいいけど…。


「あっそうだ、なあオマエ…背に人乗せて空飛べるよな…? じゃあ私を乗せて歩くくらいわけないだろ…? 乗せろよ」


「 “ギィ…!? ──クギャァ…” 」



──第60話 罰〈終〉

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?