「今度こそ殺してやるぞ…! ──ふんぬァ…!!」
「オイオイまたかよ…、随分バリエーション乏しいな…」
仲間を1人倒されたことで敵はますます闘志を漲らせているが…やることは結局砂巻き上げての目くらまし…、なんてワンパターンな…。
二度やって二度とも通用しなかったの忘れたのかな…? 頭強く打たれて記憶どっかにぶっ飛んじゃったのかな…?
それならば仕方ない、手痛い代償と引き換えに思い出させてあげよう。今しがた良いアイデアを思い付いたところだ…存分に味わってもらおう…!
私は腰を曲げて、足元に落ちている手のひらサイズの石を拾い上げた。重量はそこそこ、さぞ中もぎっしりなことだろう。
私はそれをポイッと宙に放り、
流石に全員真っ直ぐ攻めくることはないと仮定するなら、この方向から誰かが攻めてくる可能性は高い…! 大いに見切り発車だが構うまい…!
「〝
振りかぶった衝棍の先で思いっきり石を打つと、
砕けた破片は吸い込まれるかの様に砂煙の中へと消え、直後そう遠くない場所から「うああっ…?!」という声が聞こえた。予想通り命中したらしい、ざまァ。
“──キーン…!!”
「おっとっと…! そうはいかねェぜ下っ端…!」
先の見えない砂煙の中から突如出現した片手鎌、だが
“──キーン…!!”
片手鎌を払い、ヒツジ女の手を掴んで攻撃をしようとしたが、左側から文字通り横槍が入った。すぐにその場にしゃがんで槍の突きを躱し、そのままカンガルー女の
立ち上がりざまにヒツジ女の腹部に肘を入れ、左手を後ろに回して毒ナイフを取り出し、カンガルー女の脚に投げつけた。
刺さりはしなかったが、刃が皮膚に傷を付けて血が流れた。無論この程度じゃカンガルー女は気にせず追撃しようとしてくるが…それも叶わない。
「うっ…!? なんだこれ…?!」
今回塗っておいたのは〝
カンガルー女は足元がふらふらと覚束なくなり、左手で頭を押さえている。平衡感覚に異常が出たっぽい、まあまあ当たりだな。
「おいヒツジ女…! 大切な仲間が苦しんでるぜ…?! 大事ならしっかり看病してやれよ、ほら返すぜ…!〝
肘打ちの痛みに腹部を押さえているヒツジ女めがけて、カンガルー女を打ち飛ばした。2人は勢いよく衝突し、仲良く砂煙の中に姿を消した。
これで更に2名が痛手を負い、全員が一度は私の攻撃を受けたことになる。数的不利でありながら…流れはどんどん私の方へ傾いている。
だが念には念を入れて、そろそろ砂煙から離脱したい…っと考えた矢先、また頭の中に〝音〟が鳴り響く。しかも正面と背後から同時だ…。
「トドメだァ…!」
「死ねェェ…!!」
正面から斧を振りかぶるイタチ女が姿を現した。最小限の動きで背後も確認すると…身を屈めた状態で剣を構えるシマウマ女の姿…。
さっきのドタバタに乗じての挟み撃ち…。どっちも得物を横に構えており…確実に胴か脚を輪切りする算段だろが…そうはいかねェ…!
私は体を回転させながら空中で真横になり、同時に振られた斧と剣の隙間に身を隠した。髪の毛が僅かに切られた感覚を覚えたが、それ以外は奇跡的に無事…。
しっかりと着地を成功させた私は、冷や汗を拭う間も捨てて
イタチ女を叩きたいところだが…まずは邪魔な腰巾着共を片付けるのが先。剣を構え直される前に、シマウマ女の顎を全力で蹴り上げた。
ヒツジとカンガルーがどうかは知らんが…とりあえず今は脱出優先…! 目の前で仲間を倒されたとあっては追撃もできまい…!
“──キーン…!!”
「うおおおっあぶねェ…?! あんにゃろ…なんちゅう執念…」
背後からシマウマ女が使っていた剣が飛んできた…。危なかったが…剣を投げてきたってことは、持ち主のシマウマ女はやはり気絶したか…?
最後の抵抗とも言える投擲攻撃を避け、
しかし…フゥ…、かなり適応したとは言え…こんだけ動くと流石に狂いそうな程暑い…。蒸れてしかたねェ…、遺跡の中で涼みたい…。
服をパタパタさせて暑さを凌いでいると、ようやく砂煙が晴れてきた。立っている人影は一つ、イタチ女以外は全員リタイアみたいだ。
ヒツジ女はまだ意識があるみたいだが…倒れ込んでいる様子を見るに戦闘継続はできないだろう。よってここからは私と奴のタイマン──得意分野だ…!
「──セネレダ…ケマノ…クルーシュ…」
「ご傷心かァ…? 随分と仲間想いだなルーガ様。テメェはフロン?とやらが仕切るチームの幹部だろ…?
「いちいちうるさい奴だ…! 我らフロン隊は〝卑怯〟がモットー…! 正面戦闘を得意とするトーキー様の部隊と実力が離れているのは当然だ…!」
なるほどね…確かに戦法は卑怯そのもの。並みの相手なら目くらましからの袋叩きで充分だし…地力が無くとも関係ないわけだ…。
フロン…ねェ…、なんだか私と近しい思考の持ち主らしいな…。自分と似たタイプと戦るのは好かないんだよなぁ…、あーヤダヤダ…。
もし戦う展開になったらニキに丸投げしちゃおうかな…? 前回は私が
「っでテメェはどうすんだ…? 埋まらない実力差に減った頭数、得意の戦法もこうなっちまったら形無しだ、どうする…? 尻尾巻いて逃げでもするのか…?」
「逃げる…? そんな恥ずべき行為をするわけがないだろ…! それにまだ手は残してある…! おやつの時間だぞオマエ等…! “ピィー!!” 」
ポケットから何かを取り出したかと思えば…突如甲高い音を鳴らし始めた…。骨笛…? うるせェけど…こんなもんで私とどう戦うってん…──
「 “クギャギャーー!” 」
ハイハイ…そういうことね…、全部理解しましたよー…。
骨笛の音に反応し…5頭の
「奴を喰い殺せ
「 “クギャーーー!!” 」
イタチ女が指示を出すと、5頭の
だが私だって知っているぞ…?
知能の高い生物は言語や仕草から、話の意図すらも読み取ることができるという。どれどれ…
「 “クギャギャギャギャ…!!” 」
「──ア˝ァ…?」
「 “ギィ…?!” 」
私は
5頭はまだ少し距離がある所でビタッと止まり、ジーッと私の顔を見つめている。睨み付けたまま私の方から近付いていくと、左右の4頭はジリジリと後退し…真ん中にいる奴は完璧に硬直してしまっている。
私は取り残された1頭の前に立ち、そっと左手を伸ばして顔を撫でた。睨みを解除し、圧を放つ笑顔で更に追い詰めていく。
「へぇー中々お利口さんじゃないか~。そうだよなーこんなつまらない死に方はしたくはないよなー…? じゃあこの後もどうすればいいか判るよなー…? ンー…?」
「 “ク…クギィ…” 」
私に顔を撫でられた
「オイッ何をやってる…?!
「おやァ…? まさか私に襲い掛かったりはしないだろうなァ…? オマエは利口だもんなァ…? 今オマエの命を握っているのが誰かぐらい判ってるだろォ…?」
とても可哀想な板挟みに遭う
忠誠か本能か…。私に撫でられてるコイツは既に戦意を失っているが、後ろの4頭はまだ悩んでいるのか…私とイタチ女を交互に見ている。
「従わないならお仕置きだぞ…! さァ
「 “キィ…クィ…──クギャーー!!” 」
忠誠と本能を天秤に掛けた結果、4頭は命を賭して私に襲い掛かることを選んだらしい。私はバックステップをしながら
4頭は私を喰い殺す気満々で猛進を始めた。余程お仕置きが怖いのか、猛進する姿には余裕がなく見える。
隣の奴とぶつかろうとも関係なく無我夢中で突き進み、口を開けて一斉に飛び掛かってきた。
しかし焦らず間合いに入るまで引き付け、一切手加減のない本気の
「──邪魔…!」
「 “グィガァ…?!” 」
本気で
だがその分威力は絶大で、左端に叩き込んだ
右腕がズキンズキンッと痛むが…面倒事を速攻で片付けれたから良しとしよう…。地力不足のイタチ女1人倒すだけならそこまで支障じゃないだろうし…。
ひとまずこれ以上面倒事を増やされない為にも…残った
「結局オマエだけになっちゃったなァ…、でも心配は要らないぞ…? 私は何もしなければ危害を加えない優しい女だからな~。動かず逃げずそこに居ろよ…? オマエにはこの後頼みたいことがあるからな」
「 “ギィ…” 」
ヨシヨシ、これで残すはイタチ女1人のみ。仲間もダウンさせたし、
「ヘイッ…! 頼みの綱も無くなったんだ…! そろそろ覚悟を決めて自分でかかってこいよ…! いい加減疲れてきたぜ…」
指をクイクイ曲げて挑発すると、イタチ女は歯を食いしばりながらも…体は武者震いのように震えている。
私に対する沸々とした怒りと、否定のしようがない実力差による恐れが顕著に出てるな。大人しく逃げ出してくれれば楽なんだけど…、まあ逃がさないけど。
「クソッ…クソクソクソッ…! ウオオオオオッ…!!」
「ヤケクソか…、救えねェ奴…」
砂を巻き上げることもなく…投擲攻撃を仕掛けてくるでもなく…、斧を握りしめて真っ直ぐ向かって来る。
そしてどんな攻撃をしてくるのかと思えば…一心不乱に斧を振るのみ…。ちゃんと力が込められてはいるが…避けるか受け流すかで簡単に対応できる。
所詮は仲間ありきの初見殺ししか能のない素人か…。〝卑怯〟がどうこう言ってたけど…戦法がそうなだけで、能力自体は無いようなもんだったしな…。
コイツ等がそうなだけで他の奴等は別なのかどうなのか…。いずれにせよ面倒な連中が砂漠に来たもんだな…、
「ウオオオオッ…!〝
「しつけェなァ…!〝
振り下ろされた斧と突き出した
力では負けているが…衝撃は斧からイタチ女の腕にも伝播し、本来の腕力を発揮することはできなくなる。よってこの押し合いを制するのは…──
“ガキーンッ…!”
「ウォア…?!」
衝撃で斧は弾かれ、明後日の方向に勢いよくぶっ飛んだ。私の右腕もさっきと今ので限界寸前の痛みだが…もうじきこの戦いも終わる…、奥歯を噛み締めて痛みに堪える…。
腕がもげそうな痛みに負けずに私が
「ちょっ…待て…! 分かった…帰る…! 大人しく帰るから…命だけは…」
「あァそこは安心しろ…私は
丸腰相手に追い打ちするのは気が引けるが…下手な優しさは
砂の上を勢いよく転がり…やがて大の字で動かなくなった。これでようやく面倒事が片付いた…、一件落着…かな…?
痛む腕を持ち上げて
「ヨシヨシ、ちゃーんと言う事聞けて偉いなー。本当ならこのまま解放したいところなんだが…もうちょっとだけ私に付き合ってくれな~? ン~?」
「 “ギャギャ…” 」
私は頭を軽くぽんぽん叩き、
「あっそうだ、なあオマエ…背に人乗せて空飛べるよな…? じゃあ私を乗せて歩くくらいわけないだろ…? 乗せろよ」
「 “ギィ…!? ──クギャァ…” 」
──第60話 罰〈終〉