「──おっ! あっちでドンパチやってるニね…! ニキも参加するニよ…!」
お邪魔虫2人と2匹を倒したニキは、ベジルの手助けをする為にオアシスの外へと出た。皮膚が乾きそうな暑さを堪えて…ベジルのもとへと向かう。
まだ距離があるけど、ここからでも分かる程…戦いは激化しているみたいニ…。あの
あっ、良いこと思いついたニ…! このまま普通に合流して戦いに参加せず、まだ気付かれてないのを利用して奇襲を仕掛けた方が絶対良いニ…!
そうと決まれば、身を低くしてじりじりと距離を詰めていく…。焦らず急ぎ目に…慎重かつスピーディーに前へ前へと進む。
奇襲を仕掛けるタイミングは…
いい感じのポイントまで近付けたので一時待機し、
ニー…しっかしあの巨体で随分素早く動くニね…。巨大ザメが蛇の柔軟さを手に入れるとああも恐ろしくなるとはニ…、砂漠恐るべしニ…。
なんて考えていると、遂にその時がきた…!
間違いなく攻撃を仕掛けるつもりニ…! きっとこれが初めてじゃないし、ベジルは上手く砂中からの攻撃を躱す筈。
重要なのはその後…! 攻撃を躱された
ベジルは大剣を背に戻して、動きを読まれないよう無作為に砂の上を駆け出した。随分対応が
やがて
でもそれでは終わらず、今度は上からベジルを呑み込もうと狙いを定めている──そう今がチャンス…! 勢いよく走り出し、助走をつけて大ジャンプ…!
「〝
「 “グルラァ…?!!” 」
吞み込もうと頭部を下げたタイミングにドンピシャで攻撃を合わせ、
どれだけ効いたのかは判らないニけど…奇襲を受けた
「おうっオマエも来たのか、悪いな手こずっちまってて…。メイドもあっちで俺のサポートをしてくれてるが…いまいち戦況が傾かなくてな…」
ベジルが指差した方を見ると、遠くにある大きな岩の上にアクアスの姿があった。豆粒ぐらいにしか見えないけど、とりあえず手を振っておくニ。
あれだけ離れていれば、
「っでどうだ…? 実際に殴ってみた感想は…?」
「鮫肌が硬くてジョリジョリで痛かったニ…」
「ああっ…あの硬ェ鮫肌が本当に厄介でよ…、何回も斬りつけてはいるが…どれも軽傷の域を出ないんだ…」
確かによく見てみると、
倒すにはあと数百回は斬り付ける必要がありそうニ…。ニキの打撃もあんまり効いてる様子はないし…これは長い戦いになりそうニね…。
「 “グルルラァシァァァァ!!!” 」
「また仕掛けてくるぞ…! ひとまず倒れるまで攻撃し続けるでいいな…?!」
「異論なし…! 攻撃あるのみニ…!」
咆哮を上げた
いずれにせよニキが狙われているのなら…ベジルが攻撃できるように可能な限り引き付ける…! 攻撃は任せちゃって…最大限回避の方に力を割くニ…!
バックステップを刻みながら様子を見ているけど…相当動き速いニね…。どんどん距離が近付いてくる様は恐怖以外の何ものでもないニ…。
近付くにつれて
ニキは拳を力いっぱい砂に叩きつけ、大きく砂埃を巻き上げた。真っ直ぐ突進してくる相手には、まず視界を奪って狙いを定められなくする。
流石に知能はそこまで高くないだろうし、あとは軌道上から離脱するだけで回避できる筈。ふっふーん…! ニキにかかればこんなこと余裕の余ニ…!
「 “グルルシャアア…!!” 」
「あれェ…!? 完璧に補足されてるニ…!?」
砂埃から出ると…方向を変えて真っ直ぐニキの方に
そういえば…鮫はロレンチーニ器官とか言う感覚器官が備わってるとかなんとか…。まさかそれでニキの正確な動きを…!? やられたニ…。
腕を大きく広げ…両手に力を込める…。
「〝必殺猫だまし〟…!!」
「 “グルラァ…?!!” 」
大体10フィートまで引き付けたところで、ニキの必殺猫だましをかました。ニキの本気の猫だましは小さな衝撃波を生むほど強力…!
ロレンチーニ器官のある繊細で敏感な鼻先に強力な衝撃波をお見舞い…!
巨体なだけあって暴れ方が物凄く激しい…下手すると踏み潰されちゃいそうニ…。でもこの好機は逃せない…! 恐れず追撃を狙うニ…!
「〝
どんなにジョリジョリな鮫肌も…靴越しなら関係ないもんニ…! 一切の手加減を止めたニキの一撃で、
まだまだ仕留められる気はしないニけど…こうやってダメージを蓄積していけば素早い動きにも支障が生じる筈ニ。
「〝
「 “──ボォーンッ!! ボォーンッ!!” 」
ベジルとアクアスも畳み掛けるように集中攻撃を浴びせ、再び起き上がるのを全力で阻止している。2人がその意気ならニキも全力で応えるニ…!
身をよじってどうにか体勢を元に戻そうとしている部分を狙って攻撃し、一切の反撃も自由も許さない状況を維持し続ける。
なんだかちょっと可哀想にも思えてくるニけど…弱肉強食が世の常…、敵意を向けてくるならば容赦はしない。
「 “グルラシャアア…!!” 」
一向に起き上がれないことに腹を立てたか…
流石にこれは阻止できない…ニキとベジルは攻撃を止めて一度退いた。ベジルにしてみせた砂中からの噛み付きをするつもりかニ…?
でもあれは走り続けてれば簡単に避けられるから、特に脅威ではないニ。追撃をしにきたところを逆に
──っと思っていた矢先…
何をしようとしているのか…下手に動かずに観察をしていると…、突然背後から大きな音が聞こえてきた…。
振り向くとそこには巨大な尾っぽが…。
幸い防御は間に合ったものの…脳が揺れる程の衝撃に少し吐き気を覚えた…。気合いで吐き気を吞み込み…なんとか受け身を成功させて砂上に降り立った。
「大丈夫か…? 今のは初めてみた攻撃だ…注意しねェとな…」
「そうニね…思いのほか器用な奴ニ…」
反対方向に居たベジルのもとまで飛ばされた…、偶然なのか狙ってなのか…。それを考える間もなく…再び
ガパッと開くだけ口を開いたかと思えば…口の中をこちらに見せつける様に開けたままにしている。こういう口の中見せてくるキモい奴たまに居るよニ…。
特に嚙み付いてくる様子もなく…
「 “グララァ…グララシャ…!” 」
「…っ?! 何かしてくるぞ…!」
そしてくしゃみをするかの様な動きをみせると、口内にびっしりと生えていた鋭い歯が…無数の矢の様に降りかかってきた…。
思わぬ攻撃方法…めっちゃ速いし範囲も広い…。回避は間に合わず…、鋭い歯がニキの肩やお腹に突き刺さった…。
両腕で頭部だけは防いだので顔は無事ニけど…、両腕に1本ずつ…右肩に1本…お腹に4本…両脚に3本…、痛い痛いニ…。
そこまで深く刺さってないのが幸いニね…、自分の頑丈さがこの上なくありがたいニ…。ひとまず動きにくいから…歯を全て抜き取る…。
手痛い負傷ニけど…これで
「オイ…頭巾…、ちょっと来てくれ…」
「ニ…? わああっ…?!! ベジル大丈夫ニ…!?」
砂に突き刺した大剣にもたれ掛かっているベジルは、ニキ同様に腹部に歯が突き刺さっており…かなり出血しているようだった…。
大半は大剣を盾に凌いだらしいニけど…腹部に刺さった2本の歯がかなり深く刺さってしまっている模様…。
どうしようどうしようニ…?!
「落ち着け…俺は大丈夫だ…、ただ少し…〝血〟を分けてくれねェか…? 気を悪くするかもしれねェが…、事態が事態だ…目をつぶってくれ…」
「えェ…血…?!
訳も分からぬまま…差し出されたベジルの空の手に、ニキの腕から流れる新鮮な血を注ぐ。これなんだか黒魔術みたいな絵面ニね…。
指の隙間から零れる量を注ぐと…ベジルはなんとなく予想してた通り口に運んだ…。ニキの血美味しいニ…? ──美味しくないニ…。
「すまねェな…助かったぜ…」
「いやまあ…別にいいニけど…、そんなんじゃ傷は…──おっ…?」
ゆっくり立ち上がったベジルの体からは…何やら薄っすら蒸気みたいなのが出ている…。手をかざしてみるとほんのり温かい…、なんか怖い…。
しかも頬についていた傷が徐々に塞がっていく…。えっ…? ニキの血で傷癒えたニ…? ニキは生ける
でも実際に血で傷が…傷が癒え…──〝血〟で…? なるほど…そういうことニ。
「ふぅ…、あの量じゃ完璧に腹の傷は塞がらねェが…軽傷レベルには治ったか…」
「──血で様々な効果を得られる種族…、ベジルは〝
≪
異種の血を取り込むことが可能な種族。髪で隠れがちだが、後頭部には下向きに生えた短い角が2本ある。血を飲むことから、他種族に嫌われることが多い。
≪
「ああそうだ…、幻滅したか…?」
「いや全然ニよ、特性は種族それぞれだからニ。ニキはそういう特定の種族嫌悪はしない主義ニ、安心していいニよ」
「おうっ…そうか…、変わってるな…」
別に血の為に好んで他種族を襲ったりしないし、血を飲む以外は他の種族と変わらないのだから嫌う理由はないニ。
むしろ海産物を生で食べれちゃうニキの方が白い目で見られるまであるニ…! 前にもカカに注意されたっけニー…。
「アクアスもきっとその辺の偏見はない筈ニよ。そんなことより今は
「そうだな…気張っていくか…!」
「 “グルルラァシァァァァ!!!” 」
体を張った攻撃でも仕留め切れなかったことに、
問題はあの硬い鮫肌ニよねー…こんな時カカが居れば強引にダメージ与えられるのニ…。カカ本当どこに居るニ…。
ニキ達の攻撃でも充分魔物よりかは効いてる気はするニけど…如何せん巨大過ぎて決定打に繋がらないんニよねー…。どうにか打開策を練らないとニ…。
打開策を考えている間、しばらく
“──ズズズズズッ…!!”
「うおっ…?! なんだ…!?」
「わわわっ…!? なんニなんニ…!?」
出来悪めの頭を必死に働かせていると…突然の砂揺れがニキ達を襲う…。なんかこの砂漠こういうの多くない…?! 嫌い…! まことに嫌いですニこの砂漠…!
南側だから横流砂じゃない…ってことはまたアレ…?! ヒット・モンテ…?! この戦場に死骸の雨が降っちゃうニ…?!
死骸が全部
“ズズズッ…──ズドーーンッ!!!”
「 “グララァ…?!!” 」
「なんだありゃ…!? 見たことねェぞ…!?」
「あれはっ…──〝魔物〟…?!」
砂から勢いよく飛び出してきたのは…巨大なワニの様な姿をした生物…。その生物は
黒い体に赤い筋…、全てを呑み込んでしまいそうな黒い虹彩と深紅の瞳…。間違いようのない禍の姿…、コイツが
魔物はまるで干し肉みたいに
「オイ…! ボーっとすんな…! ここは一旦退くぞ…! 根拠はねェが…俺達にどうにかできる相手じゃねェぞ…!」
「同感ニ…! 意識がこっちに向いてない今のうちに逃げるニ…!」
ニキとベジルは背を向けて一目散にオアシスを目指す。途中リュックを回収し、オアシスに停めている砂上船に乗り込んだ。
ベジルは暴れる魔物を中心に迂回するよう砂上船を走らせ、大岩に居るアクアスを乗せてすぐにその場を離れた。
息が詰まりそうな緊張感の中…どうかニキ達に興味を移さないことを祈りながら望遠鏡を覗く…。魔物は姿が見えなくなるまで…
ほんの僅かな間だけで…背筋が凍りそうな程に恐怖を覚えた…。この恐怖を決して忘れないようにしないとニ…、いずれ…戦うことになるから…。
──早くカカを見つけて…できるだけ早く石版を手に入れなきゃニ…。あの怪物が…ノッセラームに襲来してしまう前に…。
──第55話 潜るもの〈終〉