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第35話 血色の絶望

「ンクッ…ンクッ…、ぷはぁ…! ふへェ…生き返った気分だぜ…」


「実際そうだからシャレになってないニね…、塊血かいちもどうぞニ…」


ニキの手によって救い出された私は…治癒促進薬ポーション塊血かいちを取り込み、なんとか命を繋ぎ止めた。


魔物はというと、凍り付いた顔の表面を前脚で擦り続けている。摩擦熱でじわじわ解かしているのか…、全部解けるのも時間の問題だな…。


あれも魔物からすれば大して効いちゃいないんだろうが…顔が気になって仕方ない様子だ。気がそっちに向いてる間に…なんとか水晶体を叩ければいいが…。


「ちょっ…! もう動いても大丈夫なのニ…!? 治癒促進薬ポーション飲んだって言っても…すぐに傷は塞がらないニよ…?! 無理すると本当に命を落としちゃうニ…!」


「大丈夫だよ…、アクアスと違って…臓器にダメージを負ったわけじゃないからな。痛み止めが効きゃあ…問題なく動けるよ」


私は立ち上がり、屈伸して肩を回して準備運動を済ませた。皮が引っ張られると傷が開きそうな不安感こそ覚えるが…、そこは治癒促進薬ポーションの回復力を信じよう。


どっちみち休んでられないんだ…、1人で魔物アイツと戦っても勝機は決して見出せない…。最低2人以上で…お互いサポートし合って…勝率1%以下ってところ…。


数的有利を確保してなお…あの性能盛り盛りオバケに勝てる可能性は極めて低い…。体力と胆力が尽きる前に…なんとしてもあの水晶体を攻撃するしかない…。


「下手すりゃ大怪我…最悪即死だ…、気ィ引き締め直せよニキ…!」


「上等ニ…! あの澄まし顔に…目に物見せてやる…!」


私とニキは同時に魔物へ向かって走り出した。私達が動いたことはきっと魔物も気付いた筈だが、気にせぬ様子で顔を擦っている。


だが油断できない…いつまた不意に攻撃をしてくるか分からない…。まだ見せてない能力があるかもしれないし…、攻めつつも常に受けを想定して近付いていく。


55ヤード(約50メートル)付近まで接近すると、尻尾がうねうねと怪しい動きをし始めた。そして唐突に鞭の様にしなり、ニキを襲う。


「ニー! 〝纏哭てんこく〟!!」


振り下ろされた尻尾に対し、ニキは真っ正面からぶつかり合った。音はしなかったが、ぶつかった瞬間辺りに衝撃が広がり…その凄まじさが嫌でも伝わる…。


だが臆してはいられない。ニキが尻尾を引き付けている間に、私はどんどん魔物に近付く。このまま大人しくしててくれたら嬉しいが…やはりそうはいかないか…。


魔物はまだ完全に解け切っていない顔を私に向けて、鋭い眼差しで睨み付けてくる。そしてあの時と同様の、予備動作のない猫パンチを繰り出してきた。


だがその攻撃は一番に警戒していた、むしろ必ずやってくると予想していた。走る体をググっと止め、素早く横へ回避する。


「二度同じ手は食わねえ…! 人族ヒホ様を舐めるなよ…!」


左脚の攻撃を躱した私は再び走り出して、ひたすら水晶体の真下を目指す。それをなんとなく察知してか、魔物も容赦なくそれを邪魔する。


今度は反対の前脚を伸ばして、更なる追撃を仕掛けてくる。さっきと同じ様に横へ回避…っは動きを読まれそうなのでしない…!


石突で地面を突き、体を持ち上げて猫パンチを躱す。魔物の脚はやや左寄り…やはり私が横へ回避すると予想してたか…、危ない危ない…。


衝棍シンフォンを回し、魔物の右脚に狙いを定めた。魔物アイツの体をナイフで切りつけた時、ダメージこそなかったが…攻撃の影響は受けていた。


アクアスの銃弾を目にくらった時も、わざわざ銃弾を排出してから傷を塞いだ。魔物オマエは…、ダメージは効いてなくとも…は無視できないんだろ…!


目を撃たれれば見えなくなる…、尻尾を斬り落とされればリーチが短くなる…。ごく僅かな間だけだが…それらは他の生物と何も変わらない…!


──脚を…少しは大人しくなるだろ…! なァ猫…!!


「〝竜撃りゅうげき〟…!!」


魔物が脚を引っ込める前に、渾身の一撃を右脚にかました。右脚は木の枝の様にベキッと折れ、魔物は体勢を崩した。


この隙に私は前脚の間から体の下へと駆け込んだ。ようやく水晶体が近付いてきた、あれに強烈な攻撃を与えれば…きっと…。


「ニキ…! 来れるか…?!」


「当ったり前ニー! 尻尾埋めてやったから、もう逃げらんないニよっ!」


ニキの後方に目をやると…本当に尻尾の先が地面に埋められている…。魔物が私に気を向けてた間に埋めたのか…、機転が利く奴…。


だがこの状況は、これ以上ない程の好機…! 片脚は折れて尻尾の先は地中、しかも体勢が崩れてるおかげで水晶体とも距離が近い…!


少し屈んで両手を合わせ、こっちに駆けてくるニキにアイコンタクトを送った。一度やってることだ、きっとニキも理解してくれる。


「 “ガルルルッ…!” 」


「「 …ッ! 」」


背筋が凍りそうな低い唸り声…、凍てついてた顔が解けたのか…?! マズい…、今ここで衝撃波を放たれたら…絶好の好機を逃してしまう…。


魔物コイツだって同じ手が通用する相手じゃない…、もう二度とこんな好機はこないかもしれない…。


だがそんな私の願いを破り捨てるかのように…魔物は息を吸い始めた…。そして十分に呼吸を確保すると、ゆっくりと首を上げた…。


“バァン…!──ボォーンッ!!”


「 “ウナァァ…!?” 」


脳裏に諦めの感情が浮かんだその時、突如魔物の頭部が爆ぜた。その直前に聞こえたのは銃声か…? ってことはアクアスの仕業か…?


まだまともに動けないだろうに…本当頼りになる奴だ。今ので隙が生じた…これならもう一度衝撃波を放とうとしても間に合わない…! イケる…!


「思いっ切りかましてやれニキ…!」


「当然ニ…! カカとアクアスを傷付けた分まで…その水晶体にお見舞いしてやるニ…!! くらえー!!〝纏哭てんこくげき】〟!!」


ニキは渾身の力を込めて、水晶体に蹴りを入れた。鈍い音が響き、魔物の体が少し浮いたようにも見えた。


今まで攻撃されるのを嫌がっていた部分に、ようやく強烈な一撃を入れられた。仕留められなくてもいい…弱ってさえくれれば押し切れる…!


そう心の底から強く願った──…だが一瞬で希望は絶望に変わった…。ニキの蹴りをもろにくらった水晶体は…ひびどころか傷一つ入ってはいなかった…。


「 “ウァアアアアアアアアアッ!!!” 」


「うわァ…?!」

「ニ…?!」


顔面が爆ぜたというのに…魔物は何もなかったかのように衝撃波を放った…。水晶体を攻撃されて怒ったのか…今までよりも威力が上がっている気がした…。


体のあちこちを地面に打ちながら…私とニキは魔物から遠ざけられた…。これ以上ない程の好機は…あまりに残酷かつ無情な結果で終わった…。


“ドォーーーンッ!! ドォーーンッ! ドォーーンッ!”


「…ッ!? ニキ…?!!」


突如地響きが立ち、うつ伏せのまま上半身を起こすと…私とは別方向に遠ざけられたニキが魔物に攻撃されていた…。


仰向けのニキを…魔物は容赦なく前脚で踏み潰している…。左右の脚を交互に振り下ろして何度も何度も…、その衝撃で地面がどんどん割れていく…。


「やめろテメェ…!! ニキから離れろっ…!!」


痛む全身に鞭を打ち…ニキを助ける為に無理やり体を動かす。いくら頑丈なニキでも…あのまま無慈悲に攻撃され続けたら死んじまう…。


立ち上がると同時にアクアスの銃声が聞こえ、再び魔物の頭部が爆ぜる。だが今度は一切怯まず…お構いなしにニキを叩き続ける…。


少しでも気を引く為に声を上げながら接近すると…ニキへの攻撃を止めて私の方へ体を向ける。右脚を上げた…、かまいたちを放つつもりだ…。


だがあれなら避けられる…! 避けて…どうにかしてニキの安否を確かめなくては…。自力で動けるかどうか…、そもそもまだ息があるかどうかを…。


魔物の右脚が静かに揺れだした…機を窺っているな…、いつでもこい…! 威力は脅威だが…十分見てから反応できる…! こい…!!


“──キーン…!!”


「…ッ!? がはっ…?!」


〝音〟が聞こえ、私は全ての注意を前脚に向けた。どの角度でかまいたちを放たれようと…しっかり見極めて躱す準備はできていた。──それが間違いだった…。


突然頭に強烈な衝撃が走り…体がガクンと大きく揺れた…。それは…まったく警戒していなかった魔物の〝舌〟…。魔物の舌が…まるで鞭のように私の頭を打った…。


“──キーン…!!”


また〝音〟が頭に響いた…こっちが本命のかまいたちだろう…。だが分かっていても…頭を強打したことで私の体は言うことを聞かない…。


せめてもの抵抗に衝棍シンフォンを体の前に構え…少しでも威力を落とそうと試みたが…、視界には残酷な結果だけが映った…。


衝棍シンフォンの柄がスパッと切れ…私は腹部を深く切り裂かれた…。崩れるように仰向けに倒れた私の体…、もしうつ伏せになってたら…内蔵が飛び出してただろう…。


呼吸ができない…声が出ない…、心臓の音が耳に響いて周りの音をかき消す…。冷水に晒されているかのような寒気に全身が包み込まれていく…。


瀕死な私を見下ろす魔物は…私を睨みつけたまま尻尾を揺らし始めた…。ゆらゆらと徐々に大きく揺れる尻尾を見ても…もはや何も思わなくなっていた…。


“バァン!”


「 “…ッ?!” 」


自分の死を悟ったその瞬間とき…アクアスが水晶体に銃弾を撃ち込んだことで、魔物は大きく後ろに跳んだ。


大して効いてないくせに…何故あんなに水晶体に触れられるのを嫌うのか…。だがそのおかげで一時の猶予を得た…。


「─カ─…?! ──様…! カカ様…! 口を開けてくださいカカ様…!」


遠くから微かにアクアスの声が近付いてきて…優しく抱きかかえられた…。そのまま治癒促進薬ポーションを静かに口に注がれ…ゆっくりと飲み込んだ。


やんわりと体が暖かくなっていく感覚を覚え…呼吸が少し安定してきた…。でも…ダメだ…、どんどん死に近付いているのが分かる…。


「アク…アス…、も…1本…くれ…」


「えっ…!? ですがカカ様…それはあまりに…」


「頼む…このまま…じゃ…、どうせ…死ぬ…。それしか…ないんだ…アクアス…」


治癒促進薬ポーション1本だけじゃどうにもならない程に…傷が大きい…。私は力の入らない手でアクアスの袖を掴み…必死に訴えかけた。


アクアスは躊躇っていたが…やがてポーチから治癒促進薬ポーションを取り出して、私に飲ませてくれた。


アクアスは決断してくれた…、あとは私が〝耐えるだけ〟だ…。


「ぐっ…?! うああああああっ…?!!」


「カカ様…! 気をしっかり持ってください…!」


2本目の治癒促進薬ポーションを飲み干した瞬間…、気が狂いそうな痛みが襲ってきた…。アクアスの腕から零れ落ち…地面の上でもがき苦しんだ…。


傷口の超再生に生じる痛み…、切り裂かれた腹部の傷口に手を突っ込まれ…肉と皮を無理やり引っ張られているような味わったことのない痛み…。


しかもその痛みに加え…全身に〝過回復かかいふく〟の症状が現れている…。もはや痛くない箇所は存在しない…。



 ≪過回復状態かかいふくじょうたい

間を置かず2本以上飲んだ際に体に生じる状態異常。傷は超再生するものの、負傷していない箇所の細胞が壊死し、様々な悪影響を引き起こす。また、過回復かかいふくによって負ったダメージは通常よりも治るのが遅くなる。



頭部や背中…指先に至るまで等しく激痛…、悲痛な叫びと涙が抑えられない…。そんな状態の私に追い打ちをかけるように…右腕と右目に色濃く症状が出ている…。


ハンマーで殴りつけられているかの様な痛みが右腕に広がり…、釘で何度も刺されているかの様な痛みが右目を襲う…。


永遠にも感じる苦痛…どれだけの時間が過ぎたのかも分からない…。ただひたすらき続けることしかできなかったが…徐々に痛みが引いていくのを感じた…。


心臓は破裂しそうな程に動悸を起こしており…全身が痺れている…。自由が利かない体をなんとか起こし…左腕で涙を拭った。


目を開けると…左腕には血がベッタリ付いていた…。恐らく右目だろう…、実際右側の視界は赤黒く…とても見えたもんじゃない…。


後遺症…に似た症状だろうか…? 同様に色濃く過回復症状が出ていた右腕も…吊った様な痛みが残り続けてる…。


だが腹部の大きな傷は綺麗さっぱり塞がっており、なんとか命は繋ぎ止めれたようだ…。まあ…魔物相手に意味があるかは分からんが…。


「おっ、やっと復活したニね…! 待ちくたびれたニ…!」


「悪い…助かった、ありがとな2人共…」


いつの間にかニキもアクアスの隣に立っていた。アクアスと一緒に私を守ってくれてたのかな…? 自分も負傷してるってのに…お人好しだなコイツも…。


衝棍シンフォンをついて立ち上がり、2人が見ている方向に視線を向けた。魔物は余裕な足取りで、こっちに近付いてきている。


「元気いっぱいって感じだな…、ニキ…怪我の程度は…?」


「左腕と肋骨数本が折れてるニね…、空元気も続かないニ…」


ニキも大怪我か…、いよいよ絶望的だな…。アクアスもまだ内臓のダメージが残ってるだろうし…ほんとフェアじゃねえなこの戦い…。


こっちは大抵の攻撃が致命傷になりうるってのに…魔物アイツ水晶玉弱点は何しても傷付かない…。もう打つ手も気力も尽きてきた…。


「 “ウァアアアアアアアアアッ!!!” 」


「うっ…わあああああ…?!!」


動かず立ち尽くしていたのに…魔物はわざわざ衝撃波で私達を蹴散らした…。いたぶって遊んでやがる…。


地面を転がった私達は…すぐに立ち上がることもできなかった…。多分他の2人も…心の中では諦めているのかもしれない…。


「ニー…衝撃が折れた骨に響くニー…。ああっ…! リュックの中身がァ…!?」


ぶっ飛ばされた勢いで…リュックの中身が外に流れ出た。謎の小瓶やらよく分からん植物やら…、なんだあれ…頭蓋骨…? 何の…?


よくもまあ…あんだけの物を──んっ…? は…──


散乱した物の中…目に留まったのは〝黒ずんだ短剣〟。それは…で見つけたやつだ。


リュックに適当に突っ込んでた筈だが…まあアイツ結構リュック雑に扱ってるし…、何かの拍子にあのミニリュックの中に紛れ込んだのか…。


普通なら特に気にしたりしないのだが…何故か不思議と目に留まる…。ただの黒ずんだ汚い短剣だというのに…。


「ニキ様…! 気を付けてください…!」


「ニ…!?」


落とした物を拾っていたニキに…再び魔物が魔の手を伸ばす。上半身を上げて、前脚で一思いに踏み潰そうとしている。


私は短剣を手に取ってからニキに急接近し、思いっ切りニキを引っ張った。踏み潰されるギリギリでなんとかニキを逃した後、私はダメもとで短剣を振るった。


ナイフの時同様…魔物が短剣はスパッと魔物の脚を切ったが、あの時と異なり…魔物は大きく後ろに跳んだ。


まるで水晶体を攻撃された時と同じ…なんの違いがあったと言うんだ…。短剣これがなんの素材で作られてるのか知らんが…何か関係あるのか…?


短剣をコンコンッ叩いてみても答えは出ず…退いた魔物に顔を向ける。魔物は脚をペロペロ舐めて毛繕い…、結局効いては…──…ッ?


脚を舐める魔物の仕草が…これまでとは異なって見てた。毛を整えていると言うより…一ヶ所を舐め続けている…。あの仕草はまるで…──


「カカ様…? どうされました…?」


「分かんない…だから確かめに行ってくる…!」


「確かめるって…ちょっカカ…!?」


私は短剣片手に1人で魔物に突っ込んだ。警戒する魔物は低い声で唸り、自ら近付こうとはせず…鞭の様にしなる尻尾で攻撃してくる。


だが尻尾は〝音〟のおかげで怖くない、冷静に避けて…今度は尻尾を切りつけた。さて…反応はどうかな…?


尻尾を切られた魔物は、更に後ろへ跳んで距離を取った。そして今度は尻尾を…さっきを舐めだした。これは確定だな…。


私は一度皆の所へ戻り、知り得た情報を共有する。魔物ヤツを討ち取れるかもしれない有力な情報を。


「2人共、落ち着いて聞いてくれ。私も原理とかは全然分からないけど…どういうわけかこの〝短剣〟なら魔物アイツに傷を残せるらしい。どういう意味か分かるな…?」


「その短剣があれば…魔物を討てる…っと言うことですか…?」


「ああ…、かなり警戒されるだろうが…水晶体に短剣を突き刺せればきっと…」


攻撃が通る条件みたいなのがあるのかもしれないが…流石に解明にまわすだけの体力は残っていない…。この短剣を信じる他ない…。


だがそれでもまだ私達が圧倒的に不利だ…、所詮武器を得たに過ぎない…。どうにか少しでもこの差を埋めないことには…。


“ーーーー…!!”


「んっ…? なんだ…?」


何か…遠くの方から音が聞こえる。魔物も私達から目を逸らして…どこか明後日の方向に唸り声を上げている。


魔物が見ている方に私達も視線を向けると、土煙のようなものが見えた。どうやら何か大きな生物が土煙を巻き上げているようだが…こっちに来てないか…?


しかも…よく見ると誰か追われてないか…? 巨大生物に追われてる何者かが…こっちに向かって来てるのか…? えっ…困る…。


「ーーーッ…! ーーーーッ…!!」


「ニ…? 何か必死に喋ってないニ…?」


「そうですね…こちらに助けにを求めてるんでしょうか…?」


ただでさえ危機的状況だってのに…更に面倒ごとを増やすなよー…! あっち行け…! あっち行って自分でなんとかしろー!


そう願うも…土煙はどんどんこっちに近付いてくる…。それにつれて徐々に巨大生物の姿と、追われている人物が見えてきた。


追われている人物の横に…丸い何かが転がってるのも視認した。──おや…? なんか見覚えあるぞ…両方…。


「 “ブオオオオオオオオオオオオオッ!!!” 」


「カカーー!! 助けてーーー!!!」


「何やってんだオマエ…?!!」


追うは〝三起三晩さんきさんばん巨獣きょじゅう大角鹿ブオジカ…、そして逃げるは我らがシヌイ組の…ナップ・ルーク・メラニの3人…。


こうなると助けないわけにはいかない…! ほんとアイツ等…いつもいつも予想だにしない展開を巻き起こしやがって…!


「 “ウァアアアアアアアアアッ!!!” 」


「 “ブオオオオオオオオオオッ!!!” 」


魔物は大きく咆哮を上げると、大角鹿ブオジカに向かって跳びかかった。巨大生物同士の喧嘩には手を出せない…、今のうちにアイツ等を呼び寄せる。


「ハァ…ハァ…、皆…助けに来たよ…!」


「どの口が言ってんだバカタレ共」

「混乱してらっしゃるんですか?」


来るなと言ったのに来てるし…助けてって言ってたのに助けに来たとか言ってるし…、全然要領を得ないな…。一回小突くか。


3人の頭を優しく小突き、呼吸を整えさせてから今に至る経緯を聞くことにした。


「それで…? なんでここに来た…? 私残れって言ったし…オマエ等も渋々頷いてたよな…? どういうことだ…?」


「それは…! カカ達の飛空艇が飛んでった後…あそこの怪物がカカ達を追って山を下ってたのを見たんだよ…!」


「それで気になって望遠鏡で見てたら…カカ達の飛空艇が草原に降りてくのが見えて…、胸騒ぎがしたゴロ…!」


「それを酋長に伝えたら…「ここはゴア達だけで問題ないから…オマエ達は恩人達を助けるゴア」って言ってくれて…、だから助けに来たゴロ…!」


なるほど…それで助けにって草原に足を踏み入れた結果、大角鹿ブオジカに見つかって追われるに至ったってわけか。


で…危険生物だらけの草原に…、に…か…。私はさっきよりやや強めに3人を小突いた。


「痛いっ…! なんで小突くの…?! せっかく勇気出して助けに来たのに…!」


「いや…ちょっと生意気だなと…。まあ私の言いつけを破った件は、酋長の顔に免じて許してやる…! その代わり…オマエ等にはしっかり役立ってもらうぞ…!」


「ゴロッ…?」








「…っつーわけだ、たいして難しかないだろ…?」


「うんまあ…、簡単だけど…それ故に簡単に命落とすかもだよね…?」

「怖いゴロ…」

「恐ろしいゴロ…」


怖気づいちゃったよ助けに来たシヌイ組が…。まあ来ちゃった以上私の命令は絶対だから、何が何でもやらせるけど。


ただ正直言えば…3人が来てくれて本当に心強い。ほんの僅かな光しか見えなかった私達に、大きな可能性を宿してくれた。


この6人なら…きっと魔物を討てる…! 厄災を払える…!


「あれこれ言っても仕方ねえ…! オマエ等…! やるぞ…!!」


「「「「「 オーーッ!! 」」」」」



──第35話 血色の絶望〈終〉

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