「ふんぬゥゥゥ…!!」
「ニー!!」
“ドォーーン!! ドォン! ドォン!”
<〔Persp
戦いが始まってからずっと、ニキは〝ゴルット〟とかいう名の巨漢なサイの
ゴルットの戦い方はニキとおんなじな、力任せの
持ち前の怪力と頑丈さがあれば、こんな奴ちょちょいのちょちょニ…! 見た感じゴルットもタフそうだし、遠慮なくぶん殴るニ…!
「えーいっ!〝
「ヌオオオオッ…?!」
何度目かの拳のぶつかり合いだけど、今回はニキの力が上回っていた為、ゴルットの体は後ろに後退った。
普通の奴なら今ので拳砕けててもおかしくないニけど…棚の角に手ぶつけたくらいの反応…、鉱物の塊殴ってる気分ニ…。
「ヌゥゥ…オマエ中々に良いマッスル…! トーキー隊一の力持ちなオイと張り合うとは…、燃えてきた…燃えてきたァァ…!」
<〝
「うわー…暑苦しいニね…、かえって醒めちゃうニ…」
黙々と殴り合いが繰り広げられると思ってたのニ…なんかメラメラ闘志燃やしてくるなんて…、ニキ暑苦しい奴は好きじゃないニ…。
「んヌゥゥ…! くらえ…!〝
血管が浮き出る程に力んだ右拳、コイツの全力を測る意味も込めて一度受けてみる。勿論
「まだまだいく…! 〝
ドスドスと音を立てながら距離を詰め、ゴルットは左腕を繰り出してくる。けど流石に2度は受ける気ないので、こっちも反撃に出るニ。
ニキの頭くらいある握り拳を踏みつけて、ゴルットの頭上に飛び上がった。クルッと体を横回転させて、肩からリュックを外す。そ・し・て…!
「〝リュックハンマー〟!!」
「ーーーっ?!!」
全力で振り下ろした攻撃に、ゴルットの顔は硬い地面に叩き付けられた。これ普通の知性生種にやると余裕で致命傷になっちゃうニけど…果たして…。
なんてちょっと心配したのも束の間、ゴルットは起き上がってぶるぶると顔を振っている。ニー…流石に効いてなさ過ぎニね…。
元々頑丈なサイ類の
どっちにしても、ニキと相性悪い遠距離攻撃が無いのは確定で良さそうニ。なればニキがすべき最善の策は──めげずに攻撃を叩き込み続けるのみニ…!
「〝
余裕そうに立ち上がったゴルットの背中に、ニキ渾身の蹴りをお見舞い。背後からの攻撃には踏ん張れなかったようで、ゴルットは前方にぶっ飛んだ。
追撃チャンス…! 身軽になる為にリュックを下して、仰向けで地に伏しているゴルットに拳を叩き込みにいく。
跳んで体の上まで移動し、右手に力を込めて攻撃準備満タン…! 地面にめり込ませるつもりで思いっ切りやっちゃうニ…!
「〝纏…─」
「ヌゥウウン…! させない…!!」
「ニ…?!」
右拳を振り下ろす直前、突然起き上がったゴルットに左腕を掴まれ…そのまま弧を描く様に地面に背中を叩き付けられた…。
受け身に失敗して…もろに背中を打ってしまった…。そんなにダメージはないけど…仰向けのニキに追撃が迫る…。
「〝
いつまで続くか分からないけど…終わるのを黙って待つ程優しくない…! ニキは叩き込まれる拳をよく見て、ゴルットの両の腕を掴んだ。
そのまま体を丸め、ゴルットの顔面に両足の蹴りをくらわせた。衝撃で顔がグンッと上を向いた隙に立ち上がって、右手に力を込める。
今のでも全然ダメージは無いだろうニけど、
「〝
「ンヌゥアア…?!!」
お腹のど真ん中にぶち当てたニキの拳に、ゴルットは初めて痛みを面に出した。腹部の硬い皮膚にひびが入ったのを見るに…コイツは
あとは積極的にあのひび割れた部分を攻撃していけば倒せそうだから、普段通りの〝力〟でも大丈夫そうニね。
「んヌゥゥ…、オイの鎧の皮膚が…ひび割れするなんて…──ヌゥオオオオ…!! 絶っっ対に許さない…!!」
えェ…なんかすっごいキレ出したニ…。ひび割れたって言っても…ほんのちょこっとなのニ…? よく分かんねえニ…
「ヌゥゥん…! 後悔させでやる…!!〝
謎にブチ切れたゴルットは、パンチを連発させながらズカズカとこっちに近付いてくる。怒ってるせいかパンチ速度はさっきよりも速い、けど見切れなくはない。
さっき同様に両手を掴んで、がら空きのお腹にもう一発攻撃を見舞ってやれば、今度は必ずダメージを与えられる筈ニ…!
意識を研ぎ澄ませて、接近してくる乱打の動きに集中する。そしてタイミングを見計らってニキも両手を伸ばした。
“ガシッ!”
「ニ…?!」
「ヌハハハッ…! 同じ手は食わない…!」
ニキが掴んで反撃するつもりだったのに…逆にニキが掴まれちゃった…。ニー…思ってるより冷静だったニ…。
振り解こうと両手に力を込めるも、少し動かせはする程度で…振り解くには至らない…。そうこうしていると…ニキの体は斜め後ろに放り投げられた。
何をする気なのかと身構えていると、ゴルットは体を屈めて前搔きをし始め、そして勢いよく地面を蹴って突進してきた。
「〝
「ニギッ…?!!」
大きく咳き込むと…手のひらに血がべったりと付着…。出血は何度も経験あるけど…吐血したのは久し振り…。
チカチカする目を擦って…お腹をさすりながら立ち上がった…。ニキがまだ生きているのを確認したゴルットは…ニキに向かって猛進してくる…。
「まだ生きてる…しぶとい…! さっさと死ね…!!〝
容赦なく振るわれた拳…──ニキはそれをぴょんっと飛び越え、頭を踏んずけて反対方向へと跳んだ。
そのまま振り返らずにせっせと走って、地面に置かれたリュックの中に上半身を突っ込んだ。別にそういう気分だったわけじゃないニよ?
確かこの辺のここ辺りに…あれっ…? こっちじゃなくてこっちだっけニ…? コレをどかしてコレもどかして…コレの下辺りに…──あったニ!
「よいしょニ!!」
「ヌゥ…? なんだそれ…、リュックイン…〝リュック〟…?」
ニキが取り出したのは、ノーマルサイズのもう1つのリュック。便利な
肩に背負って準備完了! さっきまではゴリゴリに脳筋戦法だったニけど、今度は〝旅商人〟の戦いを見せてやるニ!
「そんなもの背負っても無駄…! オイの攻撃は防げない…!」
「さぁてどうかニ…! ここから目に物見せてやるニ…!」
変わらず猛進してくるゴルットに、ニキも合わせて距離を詰める。右手をリュックの中に突っ込んで、まずは小さな包み紙を取り出した。
紐をほどくとはらりと包み紙が開いて、群青色の粉が露わになった。接近してくるゴルットに狙いを定め、その粉を勢いよく吹きかけた。
ゴルットは一瞬戸惑った様子を見せたものの、構わず宙を漂う粉を突っ切り、血管の浮き出た右拳を振るう。
「〝
「〝
再び拳と拳が交わり、小さな衝撃波が辺りに広がった。だが今回は今までと異なり、宙に血が飛び散った。
ニキの拳とぶつかり合った瞬間、ゴルットの拳にひびが入り…その隙間から流血が起きた。初のまともなダメージ。
「ヌゥワァァッ…?!! いでェェェ…!!」
「どうニ…? 〝ベトーラ粉塵〟のお味は…!」
≪ベトーラ粉塵≫
ベトーラ鉱石を細かく砕いたもの。付着した物質や生物の組織を柔らかくする効果がある。鉱員達から人気の商品。
今の小さな衝撃波のせいで粉塵は霧散。ベトーラ粉塵の効果は付着してないと意味がないから、耐久は元に戻っちゃったニね。ならば次の策ニ…!
ゴルットが右手を押さえて怯んでいるうちに、リュックの中から小瓶を取り出した。栓を開けて、中に入っている
そのタイミングで再びゴルットが迫ってくる。瓶を素早くリュックに戻して、代わりに
「また何かする気だな…! 今度は思い通りにはさせない…!」
「阻止できればいいニね…! もう遅いけどニ…!」
左手に握りしめていた豆をポイっと顔の高さまで放り、反対の手で花筒を口に咥えて、豆目掛けて息を吹いた。
息を送られた花は、真ん中の部分から勢いよく水の玉を発射。正直全然自信なかったけど…水の玉は見事に豆に命中した。
“メキッ…! メキメキメキッ…!!”
「ヌゥオオオ…!? なんだこれは…!?」
「ニキキッ…! それは〝
≪
水を得ると急速に太い
≪
花柱に水を溜め込む性質があり、花筒から息を吹きかけることで水の玉を飛ばすことができる。子供達から人気の商品。
ゴルットは急成長した太い
ほとんど
「〝
「ヌゥヴァアア…?!!」
絡みつく
追撃のチャンスではあるけど…地道に攻撃してても埒明かないし、ここは効率的に〝全身〟にダメージを与える手段を取る。
体を起こそうとしているゴルットから少し離れ、今度はリュックの中から
それをまたポイっと上に放り投げ、ニキは全身に力を込めた。やがて胸辺りまで落ちてきた石に、強力な一撃を見舞った。
「〝
「…っ?! オマエ何を──」
“ボカーーーーーン!!!”
「けほっ…けほっ…、ニー…焼死or爆死するところだったニ…」
思った以上の大爆発になっちゃったニね…。粉塵の中で火を点けると何故か爆発するのは知ってるニけど…、粉塵多過ぎたかニ…? それとも〝
≪
内部に火炎が閉じ込められている不思議な石。原理は未だ解明されていないが、サイズに比例して籠っている火炎も大きくなる。鍛冶屋から人気の商品。
まあでも、こんだけやれば流石の
・・・。全身から血の気が去っていくのを感じる…。ガッツリ爆発に巻き込まれたニキの目立った負傷は、殴った左手の薬指と小指がべっきり折れた程度…。
大した怪我ではないけど…ニキの方が絶対頑丈だからゴルットはもしかして…、あっ…やらかしちゃったかもしれないニねニキ…。
「──ヌゥウウん…!! ぷはっ…! 死ぬかと思った…!」
「良かった生きてたニ…! でも思ったより元気で残念ニ…!」
崩れた岩の下から姿を現わせたゴルットは、全身の至る所がひび割れているものの、思いの外まだピンピンしてる印象を受ける。
〝
「ふぅ…ふぅ…、オマエ…オマエも爆発に巻き込まれた…。なのに…何故オマエはそんなに平気でいられる…?」
「平気って言っても、ニキだってちゃんと負傷したニよ? ほらっ、指2本変な方向向いちゃってるニ~」
ひらひらと怪我した左手を見せつけても、ゴルットはいまいち納得していない様子。まあ…全身負傷と指2本じゃ釣り合い合わないもんニ、普通は。
「おかしい…絶対に…。オマエ…
・・・。
「沈黙は雄弁…、まさか…本当に…?!」
・・・。
「はっ…ハハッ…、噓だろ…なんでこんな所に…。や…やってられるか…! ヌゥオオオオオオ…!」
ニキに背を向けて、ゴルットは声を上げながら逃げ出した。ニキは左手でグイッと頭巾を下げ…右拳を握った。
逃げ出した相手に攻撃を仕掛けるのは嫌ニけど…こればっかりは看過できないから…、殺さない程度に…ごめんニ…!
「直近の事…! 全部忘れちゃえ〝
思いっ切り地面を蹴ってゴルットの頭上まで跳び、頭部に渾身の一撃を叩き込んだ。頭が地面に軽くめり込み…うつ伏せのままゴルットは動かなくなった。
呼吸確保の為に丁寧に裏返して…死んでいないことを確認…。力加減は完璧だったようニ…、ふふっ…流石はニキニね…。
後はちゃんと直近の記憶が飛んでればいいけれど…、こればっかりは天に祈るしかないニね…。どうか都合よく記憶飛びますようニ…!
両手を合わせて願うだけ願った後、爆風でどこかにいっていまったリュック探しが始まった。皆のことも気になるけど…カカ達ならきっと大丈夫よニ…!
「ってことでニキのリュック出てきてニ~。君が居ないと商売できないニ~、カカ達の役に立てないニ~」
──第30話 旅商人ニキVS幹部ゴルット〈終〉