「「 せいせいせいせいっ!
せやせやせやせやっ! 」」
「ルーク様とメラニ様、張り切ってますね」
「張り切ってると言うより…憂さ晴らしに見えるニ…」
紆余曲折ありながらも、
しかし襲われずに戻れる筈もなく…道中何度も
自分達を攫った事への怒りか、それとも己の不甲斐なさか、ゴロ’sは積極的に前線へ出て
つい今し方も、襲ってきた
最初はいまいち頼りない感じだったのに…たくましくなっちゃってまあ。盾役が居なくなったのは良くないが…若者の成長は嬉しいものだ。
「カカー! カカも戦うゴロー!」
「ゴロ達と一緒に戦ってほしいゴロー!」
「だから嫌なんだってばぁ…! 私本当に虫嫌いなのー…!」
だがこの2人の無邪気さに嫌気が差すこともある…、なんだってこう私と一緒に戦いたがるんだか…勘弁してくれ…。
必死に訴えかける2人をなだめて、地面に横たわる
そう思いながら歩いて行くと、案の定例の場所まで戻って来れた。先の方に外の光が見えるので、きっと間違いないだろう。
「なんとか戻ってきたけど…結局どうするニ…? 石版がどこに運ばれたのかは未だに分からないニよ…?」
「それはオマエ、流石に女王蜘蛛の寝床とかにあるんじゃねえのか…? ほら、絵物語とか御伽話じゃ定番だろ…?」
「そりゃ御伽話ならそうニよ…? でもこれは本のお話じゃないニ…! 現実は現実的に考えないと痛い目見るニよ…!」
うむぅ…反論の余地が一切ない正論を言われてしまった…。仮に合っていたとしても…今度は女王蜘蛛の寝床はどこにあるのって話になる…。
石版探しはほとんど進行していない…それが現状…。となれば巣の中の部屋を片っ端から調べていく以外に方法がない…、地道な作業だ…。
手分けすべきか…? いや…また何かしらトラブルが起きた時のことを考えると…あまり得策ではないか…。
「結局は地道に探す他ないわけね…、しょうがない…気張ってこう…。せっかく戻ってきたわけだし、行ってないこっちに行くか」
「そうですね、気張っていきましょう」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
なんとなく分かっていたことだが…そこからは同じ作業の繰り返しだった…。
歩く…戦う…部屋見つける…探す…戦う…また歩く…、それが既に5回は繰り返されている…。気が滅入りそうだ…。
だが変化も見て取れた。奥に進むにつれて、現れる
戦闘兵の役割が〝外敵駆除〟だとするのなら、数が増したという現象には大きな意味がある。〝守るべき
それが石版なのか…はたまた女王蜘蛛なのかは分からないが…、間違いなく重要な最奥部へと近付いているのだろう。
頼むから石版だけであってほしい…、間違っても女王蜘蛛だけなんてことは避けたい…。せめてセットであってくれ…。
「おっ…? 皆ー! なんかこの先にめっちゃ広い空間があるー!」
「めっちゃ広い空間…? 私等も行くから先行くなよ…!」
広い空間を見つけたというナップの所へ向かうと、そこには今までとは比べ物にならない広さの空間があった。
大体…直径
空間の真ん中には、錆びた盾や汚れた食器などのガラクタが山のように積まれていた。あと他に目立ったものは、ここへ通じる別の穴が複数ある程度だ。
「天井に穴が開いてるみたいゴロね、これなら松明がなくても見えるゴロ」
と言ってもかなり薄暗い…
外気が入り込んでいるからか、ひんやりとした空気が肌に纏わりつくような感覚を覚える。標高が高いだけあってか…普通に寒い…。
「この広さ…明らかに今までの部屋とは異質ですよね」
「そうニね、ひょっとしたらここが女王蜘蛛の寝床かもニ」
この広い空間で生活してる女王蜘蛛か…、さぞ巨大なんだろうね…。あー鳥肌ヤバい鳥肌ヤバい鳥肌ヤバい鳥肌ヤバい…。
私はもう一度上を見上げると、高い壁の一点に大きな穴が開いているのを見つけた。私達が通って来た穴とは比べ物にならない穴が…。
もし女王蜘蛛があのサイズだったなら…──ヒィィ…鳥肌ヤバい鳥肌ヤバい鳥肌ヤバい鳥肌ヤバい鳥肌ヤバい鳥肌ヤバい…!
「カカ様? どうかなされましたか?」
「あっいや…なんでもないよ…大丈夫だ…」
私は腕をさすりながら、小走りで皆のいるガラクタの山の前まで向かった。ゴロ’sが置かれていた糸山とは比にならない程の高さで積まれている。
割れた石人形…馬車の車輪…半液体状の紫色のなにか…、名に〝
「うわ…こんな物までありやがるぞ…」
「100オルド…! いいな~俺も見つけたい…!」 ※オルド:ミスレイスの硬貨
「目的忘れちゃダメニよ、ニキ達の目的は石版なんだからニ」
このガラクタの山からたった1つの石版をか…、これ一番底とかにあったら絶望するな…。私もガラクタの一部になるかも…。
まあでも…石版が落下した時期を考えれば、そこまで下の方にはないと思うけど。意外と早く見つかるかもしれない。
1つ1つ確認していくより、一回全部崩しちゃった方が探しやすいかな…? 1回ニキに頼んでみ──
「 “ギシャーーーーー!!!” 」
突如部屋全体に響いた咆哮…。それと同時に部屋が真っ暗になり…声は出さずとも全員が小パニックに陥った…。
松明は私達が通って来た穴の入り口に置いてきてしまっている為…暗闇の中で光源を生むのは不可能に近い…。
見えない恐怖に怯えていると…再び部屋全体に仄かな光が注がれた。ひとまず全員の無事を確認し、一斉に視線を上に向けた。
直後全員が息が呑み…背筋に冷たいものが走った…。光に照らされた巨大な影が…壁を這って移動している…。
私は咄嗟にナップとアクアスを、ニキはゴロ’sの手を引いてガラクタ山の陰に隠れた。顔だけを出して様子を窺っていると、巨大な影は壁の大穴に姿を消した。
「間違いなく…アレが女王蜘蛛ニね…」
「ああ…アイツに見つかる前にさっさと探すぞ…」
山を崩すと大きな音がしそうなので…地道に手分けして探す…。男共が下、女組が上の方を担当する。私等の方が軽いだろうしな、まあ女だしな。
なんとか頂点付近まで上り、1つずつ手に取っては脇に置いていく。たまに鋭利なナイフみたいなのも出てきて…注意しないと怪我をしそうだ…。
“ガシャーン!”
「あっごめん…」
「バカタレ…! 静かにって言っただろ…!」
“パリーンッ!”
「オイ…! 怒るぞ…!」
「あわわ…! ごめんゴロ…」
「へ…へっくショイニ…!」
「テメェ面の皮剝すぞ…?」
「ニキにだけ当たりが強いニ…!?」
やたら金属製の物が多いせいか…ちょっとの振動で音が鳴る…。これは急がないとマズいな…、でなきゃ男共とニキが何かしでかしちまう…。
ひとまずパッと見で違う物はどんどん除外していこう…、日が暮れちまったら作業がより大変なものになる…。
「アクアス見てニ見てニ…! ほら、綺麗なネックレス…!」
「わあ…! 本当に綺麗ですね…!」
「探せオマエ等ァ…!!」
「「 すみません…
ごめんニ… 」」
まったく…、旅商人には宝の山にでも見えてんのか…? アクアスも流されやすいし…困った奴等だ…。
私はこんなに頑張って…──んぅ…?
積み重なった物と物の間から、今までとは質感の異なる何かが見えた。積まれた物をかき分けていくと、石製の物が出てきた。
手首から指先位の大きさをした五角形のなにか…。裏返してみると、そこには何やら紋章の様なものが描かれていた。
炎と…三日月…? 何を表してんのか全然分かんねえな…、見たこともねえし…リーデリア領の貴族の家紋とかか…?
「アクアス…! ムネリ女王から頂いたメモ見せてくれ…!」
「はい…! こちらです…!」
それはシヌイ山へ向かう直前に、ムネリ女王から手渡された1枚のメモ。中には石版の絵が描かれているのだが…。
「んぅ…コレ…なのか…?」
「どうでしょう…はっきりとしませんね…」
五角形は一致してるのだが…、その中に描かれた紋章らしき絵が…どのものとも一致しない…。なんなら適当に描いてないか…?って感じすらある…。
正確に覚えてないから…それっぽく描いたのだろうか…? これなら文字で〝紋章〟って書いてあった方が混乱せずに済んだのに…。
「どうしたのー? あったー?」
「んー…あっ…たかな…? コレ…なのかな…?」
どうしよう…このまま捜索を続けた結果…似た様な物が3つ位出てきたら…。実は同じ様な事件が別の場所でも起きてましたみたいな展開だったら…。
もうそれらしき物が見つかっちゃった以上…ここから更に捜索を続ける気力が湧かないし…、きっとコレだろそうだろ。
「よし…帰るぞ、もうここには用がねえ」
「でも本当にそれで合っているのでしょうか…? もうちょっと探してみても…」
「帰るぞ…!」
「はっ…はいぃ…」
圧で強引に切り上げて、私達は慎重にガラクタ山を降りた。やや不安は残るが…ひとまず1つ目の石版を手に入れたと言っていいだろう。
あー…ここまで長かった…、思えば色々あったな…草原行ったり、戦ったり、洞窟入ったり…。だがそれも終わり…! 速く出たいわ
「ニキ…! オマエも速く降りてこい…!」
「そんな急かすなニ…! わっ…!? わわわっ…!?」
“ガッシャーン!!!”
「バカタレー…?!!」
思いっ切り踏み外したニキは…ガラクタと一緒に地面に流れてきた…。それも大きな音を立てながら…。
青ざめた顔で上を見上げるが…幸い女王蜘蛛に動きは感じられない…。結構大きな音だったが…寝ているのか反応がない…。
私はそっと胸を撫で下ろしたが、それも束の間…通路の穴の方から〝音〟が聞こえ、私達はすぐに崩れたガラクタ山の中に身を潜めた。
中からはなにも見えないが…明らかに数体の
目を瞑って必死に見つからないことを願う…。鼓動と〝音〟が頭の中に鳴り響く…。生きた心地のしない時間が…永遠の様に感じられる…。
そんな状態がどれくらい続いたのか…もはやはっきりと分からなくなった頃…、頭に響く〝音〟が止んできた。
「オッケーだ、皆出てきていいぞ」
「うぅ…怖かったゴロ…」
「生きた心地しなかったわぁ…」
皆心なしか顔色が悪くなっている…。ニキは別の意味で顔色が優れない様子だ、存分に反省してもらおうか。
「長居は危険だ…さっさとずらかるぞ…!」
石版をしっかり握りしめ、私達は松明が置かれている穴へと走った。この部屋から出られさえすれば、正直ほとんど危機は残っていない。
道中襲ってくる
だから一刻も早くこの空間から出ること、それが私達の生きる道でもあるのだ。頼むから女王蜘蛛来んなよ…。
“──キーン…!!”
〝音〟にびくっと体が反応したが…何故か聞こえてきたのは上ではなく右の方。そこには壁しか見えないのだが…〝音〟の報せは絶対だ…。
私は
“ドォーーン!!!”
突然壁が勢いよく壊れ、破片が私達に降り注いだ。なんとか
粉塵が徐々に薄くなり、
「──んーー…トンネル! 開っっ通ゥ!!」
「流石ですトーキー様ァ!」
「カッコいいっすトーキー様!」
壁を突き破って出てきたのは、全身を覆う灰色の体毛に、黒い斑点模様が特徴的なズボンを履く二足歩行の生物。…っと言うより知性生種…。
その後ろには同じく二足歩行の白いネズミ…、きっと
≪
人ベースの
突如姿を現したソイツ等は…私達そっちのけでトンネル開通を喜びあっている…。なんなんだ…アイツ等は…?
スルーしちゃってもいいんだろうか…? ここがどれだけ危険な場所か知らずに掘ったのなら…教えてあげた方がいいんだろうか…?
「…んっ? 何ィ…!? 先を越されただとォ…!? 俺達だってかなりハイペースで穴を掘ったってのに…一体どんな手を…!」
「はっえっ…!? どんなって…普通に道通って来ましたけど…」
なんだか話が見えてこないが…、ただの穴掘りマニアってわけじゃなさそうだな…。〝音〟は聞こえてこないが…良い予感もしない…。
〝「先を越された」〟──コイツ等は…私達がここに来たのを
「…っ! オイ…! そこの宍色髪のメス…! テメェが手に持ってるそれ…もしやそれが例の〝石版〟か…?!」
「あっ…? なんで石版の事を…、いや…質問を変える──オマエ等何者だ…!」
私の一言に、一度は武器を下していたアクアス達も一斉に構え直した。それを見たネズミ共も、剣を抜いて臨戦態勢に入る。
「俺達か…? 俺達は…〝サイアック
「──さいあっく…何ィ…?」
──第25話 ガラクタの山〈終〉