「ぃよーし! 遠慮はいらん! やっちゃっていいぞオマエ等っ!」
「カカも戦うゴロ…!」
「隠れてないで一緒に戦うゴロ…!」
服を引っ張ってアクアスの陰から出そうとしてくる最年少2人…。人の気も知らないで…こっちは本当に虫嫌いなのに…。
“──キーン…!!”
「…っ! くるぞアクアス…!」
牙を伸ばして様子を見ていた1匹が、ググッと身を屈めてこっちに向かって跳んできた。大きく開いた牙が、明らかな殺意を物語っている。
邪魔にならないように、私はゴロ’sの手を引いて後ろに下がった。そしていつでも
今にも噛みつきそうな
直後勢いよく閉じられた牙。あんなのに挟まれたら胴体すら真っ二つにされちゃうかも…、飛び散った火花がそう強くイメージさせる…。
間一髪攻撃を避けれたアクアスは、間髪入れずに下顎へ銃弾を打ち込んだ。牙と違って肉質は柔らかいようで、青紫の血が飛び散った。
「うわぁ…?! 気持ち悪いぃ…ピクピク動いてるぅ…」
こんな気持ち悪くて危ないのが…まだあと2匹もいるなんて…、1匹1匹がかなり弱いのが救いか…。
急所さえ突ければ一撃…それが知れただけでも収穫…。これなら私いらないんじゃないか…? アクアス達だけでなんとかなりそう…。
どんどん弱気になっていく私に反し、残された2匹は怒りを露にして、同時に地面を這って接近してきた。
「次はゴロ達の番ゴロー!」
「ああっ…?! 私の盾が…!」
這って近付いてくる1匹に、恐れず向かっていくゴロ’s。やがてさっき同様に大きく広げられた牙が、先行するルークに襲いかかった。
勢いよく閉じる牙だったが…頑丈なルークには文字通り歯が立たず、メラニとルークの槍でぶすぶす刺されまくって死んだ…。
もう1匹は、大きく跳躍したナップが真上から剣で胴体を貫き、動けなくなったところをアクアスが射貫いて片付けた。えっ…強…。
めっちゃお荷物だったな私…、恥っず…どんな顔で皆に声掛けていいか分からん…。穴があったら入りたい…ないなら掘って入りたい…。
「カカー! 俺達どうだった? ちゃんと役に立ったでしょ!」
うわあ眩しいー…なんて無垢な瞳で見つめてくるんだろう…。分かってんのかな今回私何の役にも立ってないこと…。
「おうっ、この調子でこれからも頼むぞ」
「やったー♪ 褒められたゴロッ♪」
「ゴロ達も成長してるゴロッ♪」
うん…まあいいや、あんま気にしないことにしよう…。なんなら師匠面かまして、後ろから見てました風を醸し出そう。
とりあえず3匹全部倒したし、ひとまずは戦闘終了だ。個々の強さがそこまででもないのと、ルーク達ゴロ’sが傷付かないことが知れて良かった。
「んじゃ本題に戻るが、どうするよ
「はいはーい! 水がダメなら〝火〟を試すべきだと思いまーす!」
「火…? 火ねぇ…」
〔ケース4〝火〟〕
「んんんーーーー?! んんーーーー!!」
「落ち着けニキ…! いざって時は火傷する前に全力で消火してやるから…!」
他に案が出なかった為、ナップの火が採用された。とは言え別に燃やしてしまおう!ではない…、熱で溶けないかを試すのだ。
これでもダメなら…冗談抜きで置いてく他道がない…。本当にニキを置き土産とするしかない…。
私は両手を握って、どうか解決の糸口が見えますようにと願った。火をつけた松明が今…ゆっくりニキの糸玉に近付けられた。
「──…おっ…? おっおっおっ…おおっ!!」
火を近付けると、糸はドロォ…っと溶けて地面に滴った。引火しちゃわないように気を付けて松明を動かすと、広く糸玉が溶けていく。
取れなくなったナイフとノコギリも地面に落ち、そのまま順調に溶かし続けていくと、やがてニキの左腕が自由になった。
「意外とすんなり溶けたな、これならそんなに時間もかからなそうだ。さっ、どんどん溶かしちまえ、くれぐれも引火させないようにな」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「助かったニ~! 燃えて灰死にするかと思ったニ~!」
「普通に焼死でいいだろ…、なんだ〝
無事解放されたニキの足元には、半液体化した糸の残骸が広がっていた。ねちゃねちゃするが…元の強力な粘着力は失われていた。
糸に火が有効なのを事前に知れて良かった、これで誰かがうっかり触ってしまってもすぐに助けられる。
「助かったら腹が立ってきたニー! コイツ等もニキの商品にしてやるニ!」
「じゃあその間に私達は洞窟の巣の入り口探してくっから、あんま時間かけんなよ…? 呼んだらすぐ来い」
ニキと念の為にメラニを置いて、私達は周辺の偵察を行う。
あの
巣の中にそのまま
「っ…この臭いは…」
「いぎゃーー…! 何この激臭…!?」
「鼻がもぎ取れそうゴロー…!」
私も含めた全員が同時に鼻を押さえ…そのあまりの激臭に3人は顔を背けた。辛うじて私だけが耐えられたのは…この臭いを嗅ぐのが今日
この鼻を刺すような臭いは…確実に〝血〟の臭いだ…。それも物凄い大量…、これが1匹分の血なら…確実に致死量だろう…。
鼻を押さえる3人を引き連れ、私は臭いの元となる場所に向かった。近付くにつれ臭いは強烈になっていき…ようやくその現場が見えた。
血溜まりの上に転がっていたのは…さっきのニキと同様の糸玉。大きさから見て
蜘蛛の捕食方法は流石に知ってるが、それに基づいて考えるなら…出血は妙だ。
私は血濡れた糸玉の周りをぐるりと回って見てみると、頭部の部分…っと言うより頭部が
鋭利な刃物でスパッと切られたかのような断面…死因は間違いなくこれだ…。身動きを封じられた状態で生きたまま輪切りとは…考えただけで恐ろしいな…。
だが地面には血の痕がくっきり残されており、痕は先の方に続いている。これを辿れば巣まで行けそうだ。
「よし、ニキ達を呼びに一旦戻るぞ。…オイ、大丈夫か…?」
「大丈夫じゃないゴロ…きっついゴロ…」
アクアスはもう慣れたみたいだが、ナップとルークは鼻を押さえて小さな涙を浮かべている。メラニもこうなるなきっと…。
ひとまずニキ達のもとに引き返して、全員で巣に乗り込むとしよう。後ろに隠れられる
「お~い! 巣への手掛かり見つけたからこっちに…──って何この状況…? オマエ等この短時間で何したの…?」
「見て分かれニ…! 勇敢に戦ってたのニ…!」
「んんーーー!」
そこには糸で片腕と片脚が絡め捕られたニキの姿と、ぐるぐる巻きにされたメラニの姿が…。地面には数匹の
とりあえずニキとメラニを助け、何が起きたかの説明を求めた。
ニキの説明によれば、剝ぎ取り中に新手の
その後ニキにも糸を飛ばして襲撃…。ニキは片腕と片脚を糸に取られてつつも、なんとか倒して危機を退けたらしい。
「そんでこの
「そうですね、牙が無い代わりにお腹が大きいです」
牙を用いていた個体と違い、ニキ達を襲った個体は腹部が異様に大きい。だが全長はさっきの3匹と比べて小ぶりで、他に目立った箇所も確認できない。
「そういや私等ん時の
「確かに…蜘蛛のくせにおかしいゴロ。…もしかしてナップの言ってた〝係〟なんじゃないゴロ? 係ごとに出来る事が違う的な」
ルークに言われ、改めてナップが言っていたことに思考を巡らせる。何がいたか…、確か〝巣作り兵〟に〝採餌兵〟、あと〝育児兵〟に〝戦闘兵〟だったっけ?
そこから考えるんなら…ニキ達を襲ったのは〝巣作り兵〟だろうか…? なら私達を襲ったのは…巨大な牙からして〝戦闘兵〟…なのか…?
だが
んふぅ…、考えれば考えるだけ気持ちが仰け反っていくのを感じる…。もういいや考えない…、何が襲ってこようとも、きっと皆なら倒せるでしょ…。
「まあそんな話は歩きながらでもできるし、ひとまず行くぞ。あっちの方におそらく巣の入り口がある筈だ、さっさと石版盗っちまおう」
ニキ達を連れ、私達はさっきの場所まで戻ってきた。未だ臭いに慣れない2人は鼻をつまみ、メラニは唸ったような声を上げている。
そこからは地面に垂れている血の痕を辿り、先の方へと進んでいった。道中幾度も
そして遂に見えてきた巣の入り口。屈まなきゃ入れないものと思っていたが、平原の峡谷にあった洞窟よりもやや大きく見える。
だが中は真っ暗…、
松明に火をともし、巣の前をウロウロしている
巣の中は先の見えない闇が続くばかり…、いつ闇の中から
先頭にニキ、最後尾にアクアスを敷き、ナップとゴロ’sの間に私という編隊で奥へと進んでいく。
「ひぃ…!? なんだ今の音…!?」
「風の音ですね」
「ひゃあ…!? 今の音は…!?」
「ちょっとニキが躓いただけニ」
「うやァァ…!? また音が…!?」
「カカちょっとうるさいゴロ…」
洞窟内に入ってからずっと…五感が異常なまでに研ぎ澄まされてしまっている…。何が普通の音で…何が危機を知らせる〝音〟か分からん…。
今
だがそんな私の恐怖とは裏腹に…一切
「ぴゃいぃ…!? 音した音…!」
「カカいい加減に…──」
“ドオーーーーーン!!!”
「本当にヤバめな音がしたニー…!?」
「何々…!? 何事…!? 何事ォ…!?」
突如として大きな爆音が轟き、
やがて揺れは治まったが、何が起きたのか分からず…私達はその場に留まった。よく分からんが…明らかに異常が起きたのだけは分かる…。
「皆大丈夫か…? 怪我したりしてないか…?」
「はい…なんとか…」
「大丈夫ニー…」
皆無事そうでひとまず良かったが…今のはなんだ…? 比較的近い場所で爆発でもあったのか…? くそ…訳がわからん…。
“──キーン…!!”
「はっえっ…!? 皆ヤバい…! 〝音〟がする…!」
「またニ…? 今度は何の音が…」
「違うそうじゃない…!
私が皆にそう呼びかけた瞬間、道の先の天井が崩れ…それを発端にドミノ倒しのように崩れてきた。──よし…逃げろォォ!!
私達は後ろを振り返ったりせず、とにかく全力で元来た道を走って戻る。でなきゃ生き埋め…転べば生き埋め…、
「うおおおおお…!!! 外の光が見えてきたぞォ…! 皆頑張れェ…!!」
光が徐々に近付いてきたが…後ろの落石音もどんどん近付いてくる…。ここまで来たらもう根性だ…! 頼むから間に合ってくれェェ…!!
はっきりと出口が見え、私達は外に飛び出した。その直後落石が出口を塞ぎ…、巣への侵入経路が完璧になくなってしまった…。
「ハァ…全員無事に出てこられましたが…、ハァ…困りましたね…」
「ゼェ…ゼェ…、これどうすんの…? ゼェ…詰んだ…?」
詰ん…だかもなこりゃ…、割と本気でどうすりゃいいんだ…? 6人全員で山掘る…? 数年掛けて山削る…?
怪力持ちのニキ居るし、意外と早く掘れちゃったりしてね。ハハハハハッ! ハァ…もう帰ろっかなドーヴァに…。
今私は道を失い…若干ヤケクソ状態。今アクアスに「帰りましょう」っとか言われたら…割とガチで帰っちゃいそう…。
「あっ! 皆ー! あれ見てゴロ!」
メラニがそう言うので、指を差している方を見てみる。何か見つけたかな…? 美味しそうな果物とかあれば私にも…──んっ?
メラニが指し示したのは山の斜面、そこには何匹もの
「カカ! ひょっとしたらニキ達の道はまだ残ってるかもしれないニよ!」
「ああっ、まだ生きてる巣への入り口があるかもしれないな…! よし…! 帰ろ…じゃねえや…、追うぞ…!!」
──第23話 群盗蜘の