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第2話 リーデリアの悲劇

「落ち着いたかね…? そろそろ本題に入りたいんじゃが…」


「申し訳ありません国王陛下…見苦しい場面をお見せしてしまって…」


「ハァ…ハァ…、さっさと話してどうぞ…」


<〔Perspective:‐カカ視点‐Kaqua〕>


アクアスとの取っ組み合いのいがみ合いを終え…、ようやくラドロフの話を聞ける様になった。なりはしたけど…、やっぱアクアス強ェ…勝てねェ…。


涼しい表情で男顔負けの握力発揮するとか…バケモンじゃん…。もう魔獣じゃん魔獣…、アクアスは魔獣とのハーフ説を唱えます。


「ゴホンッ…! それじゃあ早速要件を伝えようか…。時は2日前、フジリア大陸南西部のルネモ海外にが打ち上げられた」


ボトルメール…確か瓶の中に手紙が入ってるやつ…だったっけ…? 潮の流れを考えると…普通に考えれば隣のモイ大陸からか…?


でもわざわざそんな遠回りな方法で手紙出すか…? フジリア大陸とモイ大陸の距離なら、帆船か飛空艇の郵便で事足りるだろうに…。


そうしなかったってことは…、よっぽどの事態でも起きたか…。


「中身を拝見したところ… “リーデリア”と書いておっての…、それが “アツジ大陸” から流れ着いていたことが分かった…」


「アツジ大陸…!? ここから途轍もない距離にある大陸じゃありませんか…?! そこから流れ着くなんて…可能なのですか…?」


不可能ではないだろうが…そこから流れ着くなんて…、かなりの時間がかかる筈だぞ…? いつ流したのか見当もつかんな…。


それにアツジ大陸って言やァ…、私もまだ…っと言うか国の空艇部隊くうていぶたいすら行ったことない場所だ…。ドーヴァ人未踏の地…。


「しかもどうやらこの手紙は…どうやらリーデリアの女王の直筆でのォ…、今国が陥っている危機的状況を訴えておったわ」


「リーデリア女王の直筆ゥ…?! いよいよただ事じゃないな…」


リーデリア国で何があったのかが気になるが…、その一方で私の中には別の感情が膨らんでいた…。いやーな予感がする…。


リーデリアの状況は分かったが…、何故ここに来たんだ国王陛下は…?! こんなただ一般の飛空技師に何を求めてるんだ…!?


今こそドーヴァ軍の兵力をもってして、リーデリアに助けに行くべきだろ…! こんな所に来てる場合じゃないだろ…!! ──まあ…仕方ないのかもだけどさ…。


「それでは今から詳しく手紙の内容を伝えるのでな、よーく聞いておくんじゃぞ? まずは──」


私の思いをよそに、最初に説明されたのはアツジ大陸の歴史だった。


アツジ大陸では数百年前…現世に多く繫殖している魔獣とは異なる “魔物” と呼ばれる…謎に満ちた有機生命体が存在していた。


魔物は魔獣以上に凶暴で巨大…、伝承によれば魔物はたった1体しか存在しなかったものの、多くの先住民はその存在を恐れていたそうだ。


だがそこへ海を渡って来た別大陸の種族が、勇敢にも魔物へと立ち向かい、それに感化された先住民達と力を合わせて封印に成功したそうだ。


「ふぅん…魔物ねェ…。そんな生き物聞いたこともないな…」


「世界は広いですね…、ドーヴァにはそんな後学すら残っていませんのに…」


そして話しは現代に戻り、リーデリアに住まう民達が皆…魔物の恐ろしさを忘れていた頃、ついに事件が起きてしまったそうだ…。


民の魔物への恐怖する心が薄れたことで封印が弱まり、ついに封印が解かれてしまったそうだ…。


封じ込めていた石碑から7体の生命体が出現し…一斉に都市を攻撃し始めた…。街を焼き…城を崩し…民は逃げ惑うことしか出来なかった…。


「ちょっと待て…! 確か封印した魔物って1体だけだったんじゃなかったでしたっけ…? 7に増えてるんすけど…」


「うむ…ワシらも気になったんじゃが…、そこについては書かれておらんくてな…。それが本当に魔物だったのかも分からぬ…」


一番重要そうな部分が抜けていた…、まあ事態が事態だからしょうがないけど…。


暴れ狂う7体を追い払おうとリーデリアの兵士達は立ち向かったが…、結局為す術なくやられてしまったという…。


その後7体は一斉に空に向かって咆哮を上げると、石碑にはまっていた石版が7つ光りだし…凄い速さであちこちに散ってしまったという…。


この危機的状況に…他国からの助けを求めようとしたが、帆船も飛空艇もボロボロにされて使い物にならなかったらしい…。


「それでリーデリア女王は…瓶に手紙を入れて流したのですね…。遠く離れた大陸の誰かに届くことを願って…」


「帆船も飛空艇も…修復には膨大な資金が要るからな…。都市の復興に資金を使っていれば…そりゃすぐには直らんわな…」


これがリーデリアで起きた顛末…、なるほど…遠く離れた土地でそんなことが…。悲惨の一言に尽きるね…。


さて…、それじゃあ今度こそ私の疑問を解消させてもらうか…。


「それで国王陛下…? そんな話をどうして我々に…? 私達は一般的な飛空技師とメイドに過ぎませんけれども…?」


「──あらゆる種族と手を取り合う人族ヒホとしては…、困っている種族がおれば助けたい…。単刀直入に言うと…、この件はお主等に任せたい…!」


「なんでだァ…?!!」

「カカ様…国王陛下に失礼ですよ」


なんとなくそう言われるんじゃないかなって思ってたけどね…! 神妙な面持ちで国王自ら足を運んだ時点でうっすらとね…!


「そんな危険100%な話をしといてハイ行きま~す!ってなる奴いるかい…! 死にに行くようなもんやろがい…! ついにボケたかオジぃ…!」


「カカ様…! 無礼が余裕で極刑に値してます…! わたくし嫌ですからね…! こんな若くして主人失うのはァ…!!」


私の失言にガチ焦りしたアクアスは、私の体を揺すってガチで極刑されてしまうことを直接体に叩き込んでくる…。


力強ェてアクアス…、吐く吐く…! 国王の眼前でゲロるのが一番ヤバいって…! 仮に命助かっても人として死ぬ…!


「お…落ち着きなさいアクアス君…! ワシと君等の仲じゃ…この程度どうとでもないわい…! だから揺するやめなさい…! カカが吐いてしまうわい…!」



     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼



「申し訳ありません…取り乱してしまって…。もう大丈夫ですので…どうぞ続きをお話しください…」


「うぷっ…! 国王どうぞ…、うっ…」


なんとかアクアスを鎮め…私は吐き気をせき止め…、国王の話に再び耳を傾ける。途中で吐かないように頑張ろう…。


「本当は軍を率いて向かいたかったんじゃが…、色々都合が悪くてのォ…どうしてもお主以外に頼める者がおらんのじゃ…。頼む…! 助けに行ってはくれんか…!」


そう言って国王は私に頭を下げた。後ろの兵が焦って止めようとするも、国王は止めずに頭を下げ続けた。


落ち着いたアクアスもまたあわあわし出すし…、なんだこのカオスな空間は…。一体何が起きてるんだ…。


でもここで引き下がるわけにはいかない…! そんな危険な土地に向かっては…私もそうだがアクアスまで危ない…。


私が命令しても絶対アクアスついて来るし…そうなるくらいなら断った方がいい…。助けにはなりたいけど…これはしょうがない…。


「いやー…国王陛下…? 流石にそれは難しい話で──」


「お主金が要るじゃろう…?」


「うぐぅ…?!」


確かにこの家には今あまりお金がない…、実は結構かつかつな生活をしてる…。アクアスの節約術がなかったらとっくに飢え死んでる…。


だが何故それを知っているんだ…!? 教えてないけど教える気ないけど…! 嫌な切り口ぶち込んできたな国王…。


「知っておるぞォ…? お主アクアス君の給料1年近く未払いじゃろ…? 普通に牢屋送られててもおかしくないぞ…?」


説得のジャブが痛い…! 私が密かにめっちゃ気にしてること抉ってくる…! 私だって払えるなら払いたいよ本当…。


「そこでじゃカカよ…、もしお主がこの件を受けてくれるなら、可能な範囲でお主の願いを叶えてやろう…! 大金も望むがままよ…! さあどうする…!!」


くっ…! 難しい選択だ…、大金が手に入るかもしれないが…アクアスにも危険が及ぶかもしれない…。


でもこのままだとズルズル給料未払いが続いてしまう…。どうするか…──


「…よし決めました…、私は…──」








「それでは健闘を祈っておる。くれぐれも気を付けるんじゃぞ…?」


「分かってますよー、国王陛下もお気を付けてー」


国王は兵士を連れて王都へと戻って行った。私とアクアスは後ろ姿が見えなくなるまで見送って、そのまま風に当たっていた。


ちなみに私は国王のお願いを許諾した。全てが終わったら願いを叶えてもらうことと、前金代わりに未払いだったアクアスの給料を頂くことで手を打った。


これで良かったんだ…、どうせ死ぬなら給料貰ってからの方がいいだろうし、これで死んでも悔いは残んないだろう。


「カカ様、これからいかがなさいます? 少し早いですが昼食のご準備を致しましょうか?」


「いやまだいいや、飛空艇の整備するからアクアスも手伝ってー?」


「かしこまりました。工具箱を持って行きますので、少々お待ちください」



     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼



工具を片手に不備がないかを1つずつ確認していく地道な作業。大変だけど…これを怠ると死のリスクが跳ね上がってしまうからね。


ほんと飛空技師で良かったよ私…、これ空艇整備士に頼んだら高くつくんだよね~マジで…。全財産持ってかれちゃうよ…。


「あのカカ様…もうお決まりになった上でこれを聞くのは失礼かもしれませんが…、何故国王軍は動かないのでしょうか…? 私達には荷が重いような…」


「ああそれね、意外と理由は簡単なんだ。国王軍の飛空艇じゃ、安全にアツジ大陸に辿り着ける可能性が低いからだよ」


「えっ…そうなんですか…?」


国王軍所有の飛空艇は兵士や武器、予備燃料などを多く載せられる大型飛空艇が主。私のような小型飛空艇は数が無い。


飛空艇は大きさによって用途が変わってくる。大型は魔獣討伐や戦争など、対して小型は飛行に特化している。


長距離飛行で一番の障害となるのは魔獣だ。魔獣は陸上にも海上にも生息しており、それは空も例外ではない。


大型は襲ってくる魔獣を返り討ちには出来るが、途中で弾が無くなってしまう場合が多く、最悪墜落してしまう。


「雲の上には魔獣が出てこないから、小型のは直ぐに雲の上に出られる。でも大型のは動きが鈍いし、重すぎて雲の上に出るまで時間がかかるから、長距離飛行に向いてないんだ」


魔獣は空気中の魔素を血中に多く取り込まなければ生命活動を維持できない。魔素は酸素よりも重い為か、雲上ではほとんど無いに等しい程薄い。


危険度の高い魔獣は雲上にも姿を現すことがあるが、餌となる他の魔獣が生息していないのでそれは非常に稀な例。


「そうだったんですね、それなら確かに仕方ないかもです」


つっても小型だから安全ってわけじゃないけどね。万が一魔獣に襲われたらマズいし、天候や風の影響も受けやすいし…って──


「そういえばアクアスー、今の “暦付喪月ツカヤ” がなんだか知ってる? っていうか今って1周目? それとも2周目?」


「しっかりしてくださいカカ様…。今は2周目の “静月ジキ” ですよ、今年ももう後半です…」



 ≪ミスレイス ~1年の流れ~ ≫

ミスレイスでは “暦付喪月ツカヤ” と呼ばれる月とは別の、月の近くに浮かぶ小さな惑星が存在する。


暦付喪月ツカヤ” には種類が8つあり、 “吹月フキ” ・ “遠月オキ” ・ “群月ムキ” ・ “静月ジキ” ・ “餓鬼月ガツキ” ・ “驟雨月シウキ” ・ “白月サキ” ・ “幾星霜月ククツキ” の8つ。


流れとしては、遠月オキ驟雨月シウキ静月ジキ餓鬼月ガツキ吹月フキ群月ムキ白月サキ→もう1周→幾星霜月ククツキ→1年終了、最初に戻る。


※現在は2周目の静月なので、年初めから10ヶ月目となります。



「んーもう今年もそこまできたか、しかし今が静月ジキなのは好都合だな。 静月ジキの間は気候がずっと安定してるから飛びやすいんだ」


私が嫌なのは驟雨月シウキ吹月フキ驟雨月シウキは雨が多いし強いし…吹月フキは風が強い…。


逆に飛びやすいのは静月ジキ白月サキ、両方共気候が安定していて事故りにくい。まあ代わりに魔獣も多くなるけどね…。


「…っと、点検終わりー。これで少なくとも飛行中に飛空艇がバラバラになるっつう最悪の事態は避けられるなっ!」


「考えうる最悪が最悪すぎてませんか…?」


だが実際2年前の吹月に、飛空士が操縦していた飛空艇が空中で崩壊する事件が起きた。原因は空艇整備士の怠慢…、乗員全員が死亡する大事件だった。


当時まだ飛空士だった私は、その事件を機に猛勉強して飛空技師になったのだ。信じられなくなったんだよね、整備士さん達のことが。


「それでこれからどうなさいますか? 日の位置的にそろそろ明昼あかひるかと思いますが、昼食はいかがなされますか?」  ※明昼=真昼


「昼食かぁ、そうねぇ…よしっ! どーせ早ければ明日にはここを飛び立つし、ゲン担ぎの意味も込めて外食でもするかっ!」


「良いですね外食…! 工具箱しまったらわたくしもすぐに行きますね…!」



──第2話 リーデリアの悲劇〈終〉

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