小屋から少し離れたところに、広大な畑が広がっていた。畑の上だけは葉の天井が薄れて、温かな陽光が差し込んでいた。
ありとあらゆる野菜、果物、薬草が植わっている。
現在畑の担当は、農業経験一切ゼロのレオンとフィンリーだ。
「団長、今日の収穫はなんですか?」
「えーっと、茄子、かぼちゃ、トマト、タマネギ。そしてセージとタイムもだな」
「ラジャーっす!」
「それとフィンリー、いい加減”団長”はよせ。もう私は団長じゃないんだから」
「あははっ。口癖なんで、あだ名だと思って堪忍でっす!」
「はあ…」
騎士団の頃から、フィンリーはレオンを”団長”と呼んでいた。
「あっちの果物畑に水をまいときます」
「ああ、頼む」
『癒しの森』の中にある畑は、一年中枯れることなく実らす不思議な畑だ。ただし、一週間に一度の水やりを怠けると、全部枯らしてしまうのだ。
「ぴよぴよ~」
訳:[お弁当を持ってきましたよ~]
「メイブたん!」
嬉しそうに両手を広げて駆けてくるフィンリーに、
「ぴよ!」
訳:[手を洗ってくるのです!]
「ふぁーい…」
ビシっと注意した。
畑の傍に小さな泉がある。フィンリーは慌てて手を洗いに行った。
「ぴよ、ぴよぴよ」
訳:[レオンしゃん、ご主人様がそろそろ行きますよって]
「判りました。ありがとうメイブ」
「ぴよ」
メイブがもってきたお弁当のバスケットから、サンドイッチを一切れ取ると、レオンは小屋の方へ走っていった。
「あれ、団長お出かけ?」
「ぴよぴよ」
訳:[ご主人様と街へお買い物です]
「そいえば、肉類きれてたもんね」
「ぴよ」
休憩場所に座り込み、フィンリーはお弁当を広げた。
「ローストビーフサンドだっ」
少し大きめにカットされたサンドイッチを取り、大きく開けた口でかぶりつく。
「うん、おいひい」
メイブはナッツ入りクッキーを取って、フィンリーの肩の上に座った。
「ぴよ」
訳:[フィンリーしゃん]
「うん?」
「ぴよぴよ」
訳:[わたくしめはヒヨコです]
「うん」
「ぴよぴよぴよ?」
訳:[それでも本気でわたくしめとお付き合いしたいのですか?]
「うん!」
一切の迷いのない返事。
「何度も言ってるでしょ、オレはメイブたんだから惚れたの。姿形じゃない。もしメイブたんが気になるなら、オレもヒヨコになるし」
「ぴよぴよぴよぴよ!」
訳:[ならなくていいですならなくていいです!]
メイブは慌ててクッキーを放り投げた。そのクッキーをフィンリーがキャッチする。
ヒヨコに恋慕する、オカシな人間だと思ったフィンリー。でも、常に自分を心配し、優しくしてくれる。リリー・キャボットに拉致されてからは、必死に捜索してくれた。
そして、捕らわれていた時、何度もフィンリーを思い起こしていた。ロッティ以外に心に思い浮かぶ、最初の人間。
ロッティ同様、恋愛経験は皆無なメイブ。
(わたくしめも、一歩、踏み出してみましょうか)
そう思った。
「ぴよ、ぴよぴよ」
訳:[仕方ありません、清い交際ならオッケーなのです]
「メ、メイブたん…」
フィンリーは目を潤ませ、込み上げてくる涙を堪える。
震える手で肩の上のメイブを掌に載せ、そして小さな頭に優しく頬ずりした。
「うんうん!清く正しく美しく交際しようね!」
「ぴよ」
春はもう、すぐそこまで来ていた。