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81話:アデリナとリリーの対決

 厚い雲が垂れ込める空は暗く、勢いある風が容赦なく吹き荒れていた。

 足元は黒い色の海、波も荒れ狂っている。

 リリーは足元に視線を落とし、両手の拳を握り締めた。


「大暴れしてもいいように、陸地からだいぶ離れた海の上に飛ばしてもらったの。さすが親友ロッティね!」


 歯噛みして無言でいるリリーを泰然と見やり、アデリナは口元を笑いに歪める。


「500年前にあんたから受けた、『魔女の呪い』の恨みは大きいわよ。

 『魔女の呪い』は全ての魔女たちが授かった、禁じ手の暗黒魔法。何故こんな危険なものが与えられてるのかは知らないけど、魔女にも人間にも使うべき魔法じゃないことだけは確かね。

 ああ、この500年間、本当に苦しかった。オマケにあんたの固有魔法のせいで、酷い異臭に包まれながらの苦しみだったわ。

 やっと思う存分恨みを晴らせる」


 アデリナは杖を取り出し、切っ先をリリーへ向けた。


「準備はいいかしらぁ?」


 目が据わっているアデリナを、リリーはギリッと奥歯を噛みしながら睨みつける。

 怒りで震える手で、リリーは杖を取り出し構えた。


「フッ」


 小馬鹿にするように笑い、アデリナは杖を動かして宙に魔法陣を描いた。


「実力差を改めて思い知らせてあげるわ!」


 魔法陣から火の攻撃魔法『火炎砲弾エルプティオ・ヘリオス』が、無数に飛び出しリリーに襲い掛かった。


「魔法陣から攻撃魔法!?」


 ギョッとしてリリーは大慌てで光の壁を築いて攻撃を防ぐ。


「杖から飛ばしてたんじゃ数に限りがあるけど、魔法陣経由だと増やせるから。

 この500年、あんたをどう料理しようかずっと考えていたのよ。

 これはまだまだ前菜よ!」


 アデリナはもう一つ頭上に魔法陣を描く。


「これは防げるかしら!」


 新たな魔法陣からは、雷の攻撃魔法『しなる雷の鞭イラアルータ・トニトルス』がリリーに襲い掛かった。


「くうっ」


 リリーは巨大なドーナツを複数出現させて、『しなる雷の鞭イラアルータ・トニトルス』の電撃をかわした。


「はっ、お菓子にそんな使い方があったの」

「おだまりなさい!」


 今度は大木のような太い生クリームが杖から伸びて、アデリナ目掛けて水鉄砲のように突進した。

 アデリナは水の攻撃魔法『水流の柱グラディウス・マイヤ』で生クリームを打ち払う。

 辺りに甘い匂いが垂れ込めた。


「食べ物を粗末に扱うと、罰が当たるわよ」

「さっきから、わたくしに対して無礼極まりない言動と態度。本当に不愉快だわ」

「それはこっちのセリフ。弱いくせに粋がってさ」


 再び『火炎砲弾エルプティオ・ヘリオス』がリリーに襲い掛かる。


(悔しい…!悔しいけど、わたくしではアデリナの攻撃魔法に、同じ攻撃魔法で対抗できない。威力が段違いすぎて。

 わたくしにできるのは、この忌々しい固有魔法で対抗するくらいだわ)


 『火炎砲弾エルプティオ・ヘリオス』に巨大なシュークリームをぶつけて相殺する。


(恥だわ、こんな魔法!でもこれしか手がないなんて…。ダーシーの『いたずらっ子の脅威トリックスター』があれば、こんな、こんな――)


 己の魔法に恥辱を感じているリリーとは違い、攻撃魔法を繰り出しながらアデリナは妙に感心した気分に陥っていた。


「…一見、漫才みたいな展開よね?真面目に攻撃魔法をぶっ放しているのに、相手は巨大な本物のお菓子をぶつけて魔法を相殺してくるなんて。どんな魔女でも、こんな風に戦える奴はきっとリリーだけだわ…」


 食べ物を粗末にすることは許されないが、作っている当人が武器にしているんだからどうしようもなく。

 しかも的確に、攻撃に見合うお菓子を出してくる。


「市松模様のアイスボックスクッキーで作った壁で防ぐとか…、ロッティが見たら逆に感動されそう」


 リリーの固有魔法が『お菓子が作れる』というものであることは、500年の間に知っていた。

 凄く良い魔法だな、とアデリナは思っている。

 食べたいときに、好きなお菓子をいくらでも用意できる。

 お客が来たときに、お茶菓子がすぐに用意できる。

 飢えている子供たちに、大満足してもらえるほどたくさん配れる。

 そして考えもつかなかった、攻撃魔法に対してああして防御に使えるなど。


「攻撃魔法は魔女なら誰でも修得できる。威力に個人差はあるけど、そもそも攻撃魔法なんて滅多に使わないし、使う場所もあんまりない。

 固有魔法は唯一無二、比べたってしょうがないし、優劣をつけるモノじゃないのよ!」


 アデリナは叫ぶと、『火炎砲弾エルプティオ・ヘリオス』、『しなる雷の鞭イラアルータ・トニトルス』、『かっさらう疾風ビュー・レイプト』を同時にリリーへ向けて放った。

 巨大な爆発が起こり、一瞬辺りを光で照らした。


「はは…飴…?」


 透き通ったガラスのような光沢のある飴が、バリアのようにリリーを守って攻撃を全部防いでいた。


「そんなハチャメチャ芸当が出来て、どうして固有魔法に劣等感抱けるのか理解できないんだけど!」


 アデリナはキレて怒鳴った。


「わたくしだってこんな使い方したのは初めてよ!」


 リリーも怒鳴り返す。

 怒りに顔を歪めるリリーを見つめ、アデリナは「ふう…」と息を吐く。


「これじゃ魔力の無駄撃ちにしかならないわね…、くだらない。

 500年前阻止されて出来なかったけど、今回はやり遂げてやるわ。私の固有魔法『負の運命を正の運命に軌道修正出来る』、これでアンタの歪んだ人生、負の運命に軌道修正してあげるわ」

「500年前と同じように、させるものですか!」


 リリーは『魔女の呪い』をアデリナに向けて放った。

 しかし、


「なに!?」


 2人の間に突如『アーティファクト・ディアプルガシオン』が現れ、『魔女の呪い』を吸い込んでしまった。


「『魔女の呪い』は禁じ手の暗黒魔法だと、教えたはずよ?そんな便利にポイポイ使われては困るわね」

「…グリゼルダ」


 冷たい表情を浮かべたグリゼルダが、リリーを見下ろしていた。

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