3人はしばし黙り込んだ。
「ぴよおおおおおおおおっ!?」
メイブが真っ先に絶叫する。
「ぴよぴよぴよぴよ!!」
訳:[ほほほほほほんとに判るんですかご主人様!!]
「判る判るメチャ判る!「ほんとに判るんですかご主人様」でしょ!」
「ぴよおお!」
再度、ロッティとメイブは爆泣きした。
「苦節800年、メイブの言葉が理解できる日がとうとう来たのねっ」
握り拳でロッティは噛みしめた。眼尻に涙が滲みだす。
「ぴよおおおお」
訳:[長かったのですよおおお]
メイブは歓喜の舞で、跳び跳ねまくった。
そんな2人を見て、ダーシーは「コホン」と咳払いする。
「たぶんそれ、私のせいかも…」
「えっ」
「ぴよっ」
「前にメイブがご主人様には言葉が通じない、って言ってたから。「通じれば便利だな」って思ったの。だから通じてるんだと思う」
一拍して、
「ダーシー!!!」
ガバッとダーシーを抱きしめ、ロッティは頬ずりまくった。
「天才だわ天才だわなんて好い子なのダーシー!これが『
「ぴよぴよぴよ!」
訳:[ありがとうございますありがとうございますダーシーしゃん!]
2人に大感謝されて、ダーシーはますます困惑度を深めた。
こんな風に、誰かに感謝されたことなんてなかったから。
「感動の嵐に包まれてていたいけど、『ヴォルプリエの夜』が終わる前に闇を祓わなきゃね」
「ぴよ!」
「どうやるの?」
ロッティはメイブをダーシーの掌の上に戻す。
「3人で力を合わせるの。メイブとダーシーが力を貸してくれたら、あっという間に闇を祓えちゃうわ」
「ぴよぴよ!」
訳:[ダーシーしゃんの『
「『
不安そうに
「メイブの言葉が判るようにしてくれたように、ダーシーの力は良いことにも悪いことにも変えちゃえるほど凄いの。
ね、こんな風に思ってみて。「ロッティの魔法で世界中の人の闇が、祓えちゃうように」って」
「うん、判った」
「メイブは私の魔法とダーシーの『
「ぴよ!」
「よし!いくわよ2人とも!」
ロッティはダーシーの後ろに立つと、ダーシーを包み込むように両腕を伸ばす。
「世界を支える龍の点インフィニスの地よ、”癒しの魔女”ロッティ・リントンに力を貸し与えたまえ」
右手に杖が現れ、先端が白く光る。
光は大きく膨らみ、ロッティ、ダーシー、メイブを優しく包み込んだ。
「ぴよぴよぴよ」
訳:[プロパゲート]
メイブが空に向かって呪文を唱えると、光り輝く線が高速で大きな魔法陣を描いた。
「万物を癒す大いなる力を秘める『癒しの森』の申し子、”癒しの魔女”ロッティ・リントンの癒しの力で、世界の人々を苦しめる闇を打ち祓う。
夜は明ける、苦しみは去る、『
ロッティが詠唱しきると、ダーシーの身体に激しい熱が注ぎ込まれてきた。
(あ…あつい)
焦がすほど強い熱。しかしダーシーを苦しめるような熱ではない。
ダーシーは身体中を駆け巡る熱に、かつて亡き母が注いでくれた愛情たっぷりの懐かしい熱を思い出した。
温かくって、優しくて、包み込むような熱。
心配し、気遣い、ダーシーのことが可愛くって仕方がない想い溢れる熱。
ロッティから送られてくる熱は、母の熱と同じだ。いや、それ以上に熱い。
忘れていた明るい想いが、腹の奥底から沸き起こってきた。
心の闇を祓ってしまえるほどの、温かい熱を。
(この想いを、メイブに…)
ダーシーを通したロッティの力と、ダーシーの熱い想いが、メイブに注ぎ込まれた。
「ピロロロロロロロロロ」
鈴を転がすような美しい声が、メイブの嘴から放たれた。同時に光の奔流が魔法陣へと流れ込んでいった。
* * *
「あっ!カイザーしゃん!」
「お、きたきた、ロッティの癒し魔法が」
『ディアプルガシオン』を撒いていたフィンリーとカイザーは、天を光速で走っていく光の尾を見て目を輝かせた。
光の尾は、天を走りながら光の粉を振りまいた。
七色に光る粉は、地上にキラキラと降り落ちていく。そして闇を消滅させながら、人間たちの身体に滲みこんでいった。
闇に飲まれ変異しかかっていた人間たちは、たちまち安定して安らかな
「おしおし、悪夢が消えていったんだね」
街の一つに降りたフィンリーは、家屋の窓を覗き込んだ。
床に倒れ伏していた男の
「相変わらずロッティの癒しの魔法は凄いねえ。拙の心も元気になる」
天を駆け抜けていく光を見て、カイザーは優しく微笑んだ。
「さてフィンリー、拙は行かなきゃいけないところがある」
「どこ?」
「拙のご主人様のもとへ。手伝えってさっきから五月蠅いんだ。手伝いなんて、必要ないくせにさー」
「はは…」
「フィンリーはロッティたちと合流するとイイ。場所は判るな?」
「判る。メイブたんの気配を感じるから!」
「メイブのほうなのか」
あははっと笑うと、カイザーは4枚の翼を大きく羽ばたかせて浮き上がった。
「そんじゃ、また後でね」
「うん。ありがとうカイザーしゃん」
カイザーは更に大きく翼を羽ばたかせ、天を目指して一気に上昇した。そして光の尾の中に溶け込んで飛んで行った。
「よし、俺はメイブたんのところへ!」
フィンリーは懐から杖を取り出し、移動用魔法陣を描いて飛んだ。