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79話:メイブ覚醒

 メイブは暗い闇の中に、ぽつんと立っていた。

 周りを見渡しても、真っ黒で何も見えない。嫌な気配はずっとしていて、心細く不安でいっぱいになった。


「ぴよ、ぴよ、ぴよ…」

訳:[ご主人様、フィンリーしゃん、レオンしゃん…]


 家族を呼んでみるが、返事はナイ。


「ぴよ…」

訳:[ご主人様…]


 涙がいっぱい溢れてきて、柔らかな羽毛の上を滑り落ちていく。寂しくてどんどん涙があふれた。

 リリーの弾指を食らって意識が飛んだ。その後目を覚ますと、こんな暗闇の中に一人ぼっち。

 ここはあまりにも闇が深く、悍ましさと嫌な気配に満ち溢れていた。


「ぴよぴよ…」

訳:[ダーシーしゃんは、こんな闇をずっと心に抱え込んでいたんですね…]


 診ると直に感じるとでは、えらい違いだった。全身を針で刺されるような痛みを伴う寂しさと苦しみが、身体を無遠慮に圧してくる。

 こんなものは並の人間に、到底耐えきれるものじゃない。まして子供なら余計に。

 メイブの心だって、崖っぷちに立たされたように不安定になっていた。


「ぴよぴよ」

訳:[だからダーシーしゃんの感覚が、壊れてしまっている]


 ダーシーは廃人にはなっていないが、心の一部が壊されている。その為感覚が常人とは、違うものになっていた。

 他人を不幸に陥れても、何も感じない。むしろ自分と同じになれば、幸せになれると思い込んでいる。

 リリーはそこに漬け込んで、あっさりと仲間にしてしまった。


「ぴよぴよぴよ」

訳:[わたくしめがいくら唄っても、心には響かないし効果なんてないのです]


 じゃあ、どうすればダーシーは救われるのだろうか?


「ぴよぴよ」

訳:[魔法なんて必要ありません。時間と愛情なのです!]


 なんでも出来て、なんでも叶えてしまうように見える魔法。しかし魔法にだって、限界はあるのだ。

 ダーシーに今一番必要なのは、優しく愛情たっぷりの保護者だ。


「ぴよぴよぴよ」

訳:[甘やかすだけじゃない、叱ることもできる大人の保護者が必要なのですよ]


 叱るうえで、暴力は絶対にダメだ。ダーシーの身になって、向き合って一緒に解決してくれる大人が必要だ。


「ぴよぴよ!」

訳:[それは、わたくしめのご主人様以外アリエナイのです!]


 闇に向かってドドンッと胸を張る。

 その時だった。


 ズゴゴゴゴゴゴッ!


 大きな震動で、メイブは後ろに転んでしまった。


「ぴよ!?」


 コロコロ三回転したあと、メイブは頭を上げる。

 今まで真っ暗だった闇に、小さな白い光が射し始めた。


「ぴよ…」


 震動はどんどん大きくなり、そして闇がパアッと開けた。


「ぴよっ」

訳:[眩しいっ]


「メイブ!」

「ぴよ!」


 真っ白な光と共に、耳に心地よい声がメイブに注がれた。




「メイブ!」


 ハッとしたようにメイブは何度か瞬きした。


「ぴよ…」

「良かった、意識が戻ったのねメイブ」


 ダーシーの掌からメイブを掬うように両手に載せて、ロッティは頬ずりした。


「良かったメイブ、本当に良かった」

「ぴよ…ぴよ」

訳:[ご主人様…ご主人様]

「うん、迎えに来たよ、助けに来たよ」

「ぴよお」

訳:[ごしゅじんさまあ]


 うわあああああん!


 あとはもう、ロッティもメイブも大泣きになった。

 傍で2人を見上げていたダーシーは、呆気に取られてしまっていた。




 2人の爆泣きが止み、ダーシーはどこかホッとしたようにため息をついた。

 さすがにどうしていいか、対応に困り果てていたのだ。


「ごめんねダーシー、感無量で思わず泣いちゃった…」

「ぴよ…」

訳:[わたくしめも…]

「よかった…ね?」

「うん、ありがとう。ダーシーのおかげよ」


 ロッティはダーシーを抱き寄せた。


「…私は、何もしてないよ」


 お礼の言葉に、ダーシーは違和感を感じた。そのせいで、妙に居心地の悪さを感じる。


「『いたずらっ子の脅威トリックスター』を止めてくれたわ!」

「それが、ありがとうなの?」

「滅茶苦茶ありがとうよ!」


 握り拳でロッティは断言する。


「そう…なんだ…」


 ダーシーは胸のところをわし掴む。なんだか胸の奥が、むずむずとくすぐったい。


「さて」


 ロッティは急に真顔になる。


「このまま3人で「さー帰ろう♪」って行きたいところだけど、まだやることが残っているわ」

「ぴよ?」

「人間たちに滲みこんだ、『いたずらっ子の脅威トリックスター』の闇を一斉に祓うっていう大仕事が」


 ロッティは立ち上がると、空を見上げた。


「魔法陣は消えてるか…」


 顎に手を添えて考え込む。


(私の魔法を世界中へ拡散させるためには、メイブの拡散させる魔法陣が必要だわ。でも、今のメイブにもう一度魔法陣を作ってもらうのは、酷じゃないかな…。

 いや、酷でもなんでも時間がないし!

 ううん…でもやっぱ可哀想な…)


「ぴよぴよぴよ」

訳:[ご主人様、わたくしめをお使いください]

「え、でもメイブ」

「ぴよぴよ、ぴよぴよぴよ」

訳:[悔しいですが、リリー・キャボットのせいでわたくしめの小夜啼鳥ピロメラの能力が目覚めたようなのです。だから、拡散させる魔法陣は描けるのですよ]

「メイブ…」


 掌の上でにっこり微笑むメイブに、ロッティは再び涙ぐんだ。

 しかし。


「ん?」


 ロッティは上目遣いになり、そしてメイブを凝視する。


「あ…、あのね、メイブの言ってる意味が判るんだけど?」

「ぴよ?」

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