メイブは暗い闇の中に、ぽつんと立っていた。
周りを見渡しても、真っ黒で何も見えない。嫌な気配はずっとしていて、心細く不安でいっぱいになった。
「ぴよ、ぴよ、ぴよ…」
訳:[ご主人様、フィンリーしゃん、レオンしゃん…]
家族を呼んでみるが、返事はナイ。
「ぴよ…」
訳:[ご主人様…]
涙がいっぱい溢れてきて、柔らかな羽毛の上を滑り落ちていく。寂しくてどんどん涙があふれた。
リリーの弾指を食らって意識が飛んだ。その後目を覚ますと、こんな暗闇の中に一人ぼっち。
ここはあまりにも闇が深く、悍ましさと嫌な気配に満ち溢れていた。
「ぴよぴよ…」
訳:[ダーシーしゃんは、こんな闇をずっと心に抱え込んでいたんですね…]
診ると直に感じるとでは、えらい違いだった。全身を針で刺されるような痛みを伴う寂しさと苦しみが、身体を無遠慮に圧してくる。
こんなものは並の人間に、到底耐えきれるものじゃない。まして子供なら余計に。
メイブの心だって、崖っぷちに立たされたように不安定になっていた。
「ぴよぴよ」
訳:[だからダーシーしゃんの感覚が、壊れてしまっている]
ダーシーは廃人にはなっていないが、心の一部が壊されている。その為感覚が常人とは、違うものになっていた。
他人を不幸に陥れても、何も感じない。むしろ自分と同じになれば、幸せになれると思い込んでいる。
リリーはそこに漬け込んで、あっさりと仲間にしてしまった。
「ぴよぴよぴよ」
訳:[わたくしめがいくら唄っても、心には響かないし効果なんてないのです]
じゃあ、どうすればダーシーは救われるのだろうか?
「ぴよぴよ」
訳:[魔法なんて必要ありません。時間と愛情なのです!]
なんでも出来て、なんでも叶えてしまうように見える魔法。しかし魔法にだって、限界はあるのだ。
ダーシーに今一番必要なのは、優しく愛情たっぷりの保護者だ。
「ぴよぴよぴよ」
訳:[甘やかすだけじゃない、叱ることもできる大人の保護者が必要なのですよ]
叱るうえで、暴力は絶対にダメだ。ダーシーの身になって、向き合って一緒に解決してくれる大人が必要だ。
「ぴよぴよ!」
訳:[それは、わたくしめのご主人様以外アリエナイのです!]
闇に向かってドドンッと胸を張る。
その時だった。
ズゴゴゴゴゴゴッ!
大きな震動で、メイブは後ろに転んでしまった。
「ぴよ!?」
コロコロ三回転したあと、メイブは頭を上げる。
今まで真っ暗だった闇に、小さな白い光が射し始めた。
「ぴよ…」
震動はどんどん大きくなり、そして闇がパアッと開けた。
「ぴよっ」
訳:[眩しいっ]
「メイブ!」
「ぴよ!」
真っ白な光と共に、耳に心地よい声がメイブに注がれた。
「メイブ!」
ハッとしたようにメイブは何度か瞬きした。
「ぴよ…」
「良かった、意識が戻ったのねメイブ」
ダーシーの掌からメイブを掬うように両手に載せて、ロッティは頬ずりした。
「良かったメイブ、本当に良かった」
「ぴよ…ぴよ」
訳:[ご主人様…ご主人様]
「うん、迎えに来たよ、助けに来たよ」
「ぴよお」
訳:[ごしゅじんさまあ]
うわあああああん!
あとはもう、ロッティもメイブも大泣きになった。
傍で2人を見上げていたダーシーは、呆気に取られてしまっていた。
2人の爆泣きが止み、ダーシーはどこかホッとしたようにため息をついた。
さすがにどうしていいか、対応に困り果てていたのだ。
「ごめんねダーシー、感無量で思わず泣いちゃった…」
「ぴよ…」
訳:[わたくしめも…]
「よかった…ね?」
「うん、ありがとう。ダーシーのおかげよ」
ロッティはダーシーを抱き寄せた。
「…私は、何もしてないよ」
お礼の言葉に、ダーシーは違和感を感じた。そのせいで、妙に居心地の悪さを感じる。
「『
「それが、ありがとうなの?」
「滅茶苦茶ありがとうよ!」
握り拳でロッティは断言する。
「そう…なんだ…」
ダーシーは胸のところをわし掴む。なんだか胸の奥が、むずむずとくすぐったい。
「さて」
ロッティは急に真顔になる。
「このまま3人で「さー帰ろう♪」って行きたいところだけど、まだやることが残っているわ」
「ぴよ?」
「人間たちに滲みこんだ、『
ロッティは立ち上がると、空を見上げた。
「魔法陣は消えてるか…」
顎に手を添えて考え込む。
(私の魔法を世界中へ拡散させるためには、メイブの拡散させる魔法陣が必要だわ。でも、今のメイブにもう一度魔法陣を作ってもらうのは、酷じゃないかな…。
いや、酷でもなんでも時間がないし!
ううん…でもやっぱ可哀想な…)
「ぴよぴよぴよ」
訳:[ご主人様、わたくしめをお使いください]
「え、でもメイブ」
「ぴよぴよ、ぴよぴよぴよ」
訳:[悔しいですが、リリー・キャボットのせいでわたくしめの
「メイブ…」
掌の上でにっこり微笑むメイブに、ロッティは再び涙ぐんだ。
しかし。
「ん?」
ロッティは上目遣いになり、そしてメイブを凝視する。
「あ…、あのね、メイブの言ってる意味が判るんだけど?」
「ぴよ?」