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53話:まがい物の羽根でした

「まあ派手っちゃあ派手だけど…」

「ぴよぴよ…」

訳:[これは孔雀の羽根ですね…]


 皆の視線の集中する先には、オレンジ色に塗装された孔雀の羽根。ガラスケースの中に収められている。


「あーれー?」


 大きな丸い眼鏡をかけた少女は、明後日の方向へ視線を泳がせて誤魔化す。

 古物商の店の奥に飾ってあるショーケースの前で、3人は揃ってため息をついた。

 ”修学の魔女”トロータ・アストーリは、メイブとフィンリーの冷たい視線を、手にしていた分厚い本で防ぐ。


「トロータさんって、知識の豊富な魔女さんって師匠が言ってましたよ~?」

「いや、ほらだってだって、知識だけで、実物見たことないから!それっぽい羽根だったものでそのお…」


 細い肩を更に狭め、トロータは身を縮こませた。


「ごめんちゃい…」

「まあしょうがないか。こんな簡単にお店に売ってりゃ、俺たちあんだけ苦労しなかったわけだし~?」

「ぴよぴよ」

訳:[全くなのですよ]


 メイブは左右の翼をぱたぱたさせて、当時の思い出を振り返った。

 火山や海、砂漠に盗賊のアジト、あちこち飛び回ってやっと手に入れたのだ。


「ふにゅー、やっぱアレですよ!毎日24時間世界中を隅々まで見張ってないと、見つけるのは容易ではないと言いますかですね、そのおっ」

「スピオンに情報訊きたいけど、バカ高いんだもん、ねー」

「ぴよ!」

訳:[ぼったくりなのです!]

「ああ…あのコマドリかあ。法外な情報料取るもんね~。

 うーん、”精霊使いの魔女”ジェシカ・カーショーが動ける状態なら手伝ってもらえたかもだけど、彼女は今、棺の中なのよねえ…。再生終わるの半年後だけど、そこから10年くらいは役に立たないしぃ」

「ふーん。その魔女さんは、24時間世界中を監視できたりするの?」

「出来ると思うわ。世界中の精霊を思いのまま操れるの。古参の魔女の一人だしね」

「へえ…凄いんだねえ」


 フィンリーは目をぱちくりさせた。


「最古参級から古参級の魔女たちは、色々と凄いわよ。まあそのあと次第にこう…レベルダウンしていくっていうか…」

「トロータちゃんもレベルダウンしていった組?」

「アタシは違いますぅー!まあ、目立った魔法は使えませんがっ」

「ぴよぴよぴよぴよ!」

訳:[トロータさんはご主人様と同期なんですけど、ご主人様を下げるような言い方には納得できないのですよ!]

「ちっ、違うわよメイブちゃん!ロッティちゃんはずば抜けてて凄いって知ってるからね!」

「ぴよ」

訳:[当然なのです]


 眼前に迫るメイブに、トロータはあたふたと言い訳をした。


「あははっ。とりあえず、どっかでお茶していこうよ。せっかくアディンセル王国まできたんだしさ。

 そういえば12月に入ると、冬の祭典『六花の聖夜りっかのせいや』だよね。発祥はアディンセル王国って聞いたことあるけど、もうじきだから、街も『六花の聖夜りっかのせいや』色に染まってて奇麗だね」


 石やレンガ造りの建物には、色とりどりのオーナメントが飾り付けられてる。そしてあちこちに、赤いテントを張った露店が並び、道行く人の目を楽しませていた。


「ええ。王都カーレンは『六花の聖夜りっかのせいや』シーズンになると、こうして街中がお祭り色に染まるわ。観光客もいっぱいくるし、各地の珍しい産物も多く露店に並ぶの」

「なるなる」


 3人は古物商から出て、繁華街のオープンカフェに落ち着いた。

 空は白い雲を浮かべた青空だが、空気は刺すほど冷たい。

 メイブとフィンリーは、北の大国アディンセル王国の王都カーレンを訪れていた。

 繁華街にある古物商に、『フェニックスの羽根』とおぼしき羽根が売っているという情報を手に入れ見に来ていた。しかし生憎まがい物もいいところだった。


* *


 2年前、東の大国メルボーン王国のチェルシー王女が、”曲解の魔女”に『魔女の呪い』をかけられてしまった。この呪いを解くために”癒しの魔女”が駆り出され、魔力を増幅させることができる『フェニックスの羽根』を求め旅をした。

 やっとの思いで手に入れ、儀式で使用した。しかし『フェニックスの羽根』は一回きりで役割を終えてしまった。

 ”癒しの魔女”の親友”覆しの魔女”を助けるために、もう一つ『フェニックスの羽根』が必要だ。その為使い魔メイブと弟子フィンリーは、『癒しの森』を動けない”癒しの魔女”に代わり、『フェニックスの羽根』探しをしていた。


* *


 発見の情報を送った”修学の魔女”トロータ・アストーリは、心疾しさにため息連打だ。


「ロッティちゃんの様子はどう?2年も眠ってたって言うんだもん、相当ギリギリまで魔力を出し尽くしたんでしょう?」

「うん。だから儀式後すぐ眠っちゃって。でも今はだいぶ魔力も戻ってて調子いいよ。『癒しの森』から出るのは、まだ無理だけどね」

「それで2人が代理で『フェニックスの羽根』を探しているんだね」

「そっ」


 温かいココアを一口すすり、フィンリーはにっこり頷いた。


「メイブちゃんまで一緒に来ちゃって大丈夫なの?」

「ぴよぴよ」

訳:[レオンしゃんがいるから、大丈夫なのです]

「ああ、ロッティちゃんのカレシね」

「邪魔しちゃ悪いしね。まあ俺もメイブたんとラブラブ旅が出来て嬉しいけど♪」

「ぴ…ぴよ…」

訳:[ラブラブ…]

「色男のカレシ作るとか、メイブちゃんやるぅ」

「ぴよ!」

訳:[違います!]

「えええ!俺とメイブたんはカレカノでしょ!」

「ぴよ…」

訳:[えっと…]

「あっはははは」


 いつになくしどろもどろするメイブに、フィンリーとトロータは声を立てて笑った。


「ところでトロータちゃん、さっきから凄く不思議なんだけど。メイブたんが何を言ってるか判るの?」

「え、判るよ」

「前から?」

「うん」

「ほほう…。魔女なら大抵判るもん?」


 少し遠慮がちに言うフィンリーに、トロータは「ああ」と気付いて頷く。


「メイブちゃんの言葉が素で判るのは、魔女の中ではグリゼルダ様だけ。私の場合は、鳥や動物の語学を学んでいるから判るのよ」

「えっ、学べば判るものなんだ?」


 尊敬の眼差しをするフィンリーに、トロータは頭を横に振った。


「私の固有魔法『知識を蓄える』を使えば、が前提。

 一見無害そうに聴こえるでしょ?でもその真骨頂は、人間でも動物でも植物でも、生き物から直接知識を吸収できてしまう魔法なの。吸収された生き物は廃人と化しちゃう、かなり凶悪な魔法なのよね」


 うふ、っと笑うトロータに、フィンリーは怖れの眼差しを向けた。


「トロータちゃん怖っ、吸血鬼みたい」

「ぴよぴよ」

訳:[こういうコワイ魔女もいるのです]

「ほんとだねー…」

「ヤメテー!」


 トロータは2人の間に漂っている恐怖の雰囲気を、両手でパタパタ仰いで消した。


「だってそういう魔法なんだもん!でも、無闇矢鱈に使ったりしないから!」

「”修学の魔女”の通り名は伊達じゃない…っと」

「フィンリー君!」

「あらあら、賑やかですね」


 わちゃわちゃと盛り上がる3人のテーブルに、金髪の美しい女性が近寄ってきた。


「ぴよぴよ!」

訳:[あなたは”壮麗の魔女”ブランディーヌ・ケクラン!]

「まあ、ブランディーヌ様じゃない」

「お久しぶりですね、メイブ、トロータ、フィンリー」


 ”壮麗の魔女”ブランディーヌ・ケクランは、ゆったりとした仕草で、美麗に微笑んだ。

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