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48話:ロッティの告白

 花のベッドのほうへ向かいながら、ロッティはつま先を食い入るように見ていた。しかし頭の中では、レオンにどう告白を切り出すかぐるぐるしていた。

 告白する勇気はメイブがくれた。


(フィンリーとなにかしていたのは、文字の練習だったんだね。魔法を使えば簡単に書けるのに、そうしないで自分の翼で書いてくれた。

 大変だったと思う。身体が小さいから、軽いエンピツでも動かすの難儀しただろうに。

 メイブのおかげで勇気が湧いたわ。

 でもね…)


 その場に立ち止まり、ロッティは「はぁ…」と情けなくため息をつく。


(肝心の告白、なんて言えばいいんだろう…。ダイレクトに「好きです!」と言えばいいのか、雰囲気作りして遠回しに匂わせながら言うとか?ああん、こんなことなら恋愛小説くらい読んでおけばよかった!)


 頭を抱えたところで、


「ロッティ」


 花のベッドのある方からレオンが歩いてきた。


「レオン…」


 どっきん、どっきん、心臓がありえない程鳴りまくる。


「ロッティも姫様のお見舞いですか?」

「えっと…その…」


 まともにレオンの顔を見ることが出来ず、魚のように目が泳ぐ。


(よ…よし、言うぞ、好きだ!って、言うぞ!)


「お…おなかすいてないかしら?」

「そうですね、朝食を食べてから何も食べていませんし」


(ちっがあああう!)


 その場に壁があったら、穴をあけたいほど殴りたい衝動にロッティは襲われる。


「そ、そうじゃなくって…」

「はい?」


 ロッティは俯き、いきなりレオンの胴に両腕を回して背中のあたりの服を掴んだ。そして真っ赤な顔を上に向け、


「わ、私…あなたのことが…す…すき…好きです!」


 怒鳴りつけるような勢いで、ようやく言い放った。


(ああ、ついに言ってしまった…)


 途端全身から力が抜けてしまい、その場にずり落ちそうになった。気付いたレオンが素早く抱き留める。

 ロッティは恐る恐る見上げると、レオンはとても穏やかで嬉しそうな表情かおを浮かべていた。


「ロッティ、私と同じ気持ちで嬉しく思います。そして面目ない…告白を先にされてしまって」

「レオン…?」

「姫様の儀式が終わったら、私から言おうと思っていたんです。だから先に言われてしまって、ちょっと悔しいです」


 にっこり笑うレオンの顔を、ロッティは呆けたように見つめた。


「じゃあ、言うの我慢すればよかったな。もう頭…てんぱって、てんぱって…。でも、メイブがね、背中を押してくれたの、文字を書いて「がんばれ」って応援してくれたの」

「それは強力な応援でしたね。羨ましい程に」

「うん。だから、言うぞ、言わないと!って、1人で盛り上がっちゃって……」


 安堵で完全に立つ力が失せてしまった。

 レオンに支えられながら、ロッティはレオンの腹部に顔を埋めた。


(なんだか表現に困る気持ち…。嬉しいんだけど、あれだけぐるぐる悩んだから、ホッとしたって言うか安心したって言うか)


 告白が成功したら、飛び上がるほどの喜びに包まれるんだと思っていた。実際は、気が抜けまくった感じである。


「まだ大事な儀式が残っているのに、なんか全身から力抜けちゃったわ」

「それだけ緊張していたということですね。私のために、ありがとうございます」


 レオンは力の抜けたロッティを支えながら、ふと困ったような表情かおをした。


「ロッティ、一つ提案というか、その、お願いと言うか…」

「うん?」


 ロッティが顔をあげると、レオンが明後日のほうへ視線をさまよわせながら、妙に照れ始めた。


「ロッティ、あなたの実年齢はこの際置いといて――まだ10歳です。正式なお付き合いは、あなたが16歳になったら、にしませんか?」


 一瞬きょとーんとして、ロッティは目を瞬かせた。


「その、今のままだと普通に親子に見えてしまうというか」

「ああ…そ、そうね、そうかもしれない」


 レオンの言わんとしていることに、ロッティは「あれ?」という気持ちになった。


「もしかして、子供姿の私と一緒だと、恥ずかしいのかしら…?」

「違います!」


 レオンは慌てた様子で声を荒げた。


「言い方が悪くてすみません。恥ずかしいとかそういうことではないんです」

「そう…なの?」

「はい。正式に、というのはその…」

「その?」

「……キスをしたりとか…堂々と出来るかな…と…」


 髪の色と遜色ない程顔を真っ赤にさせて、レオンはもごもごと言った。


「今はロッティが幼い姿なので、は…憚られます」


 そして「ハア…」と息をついた。

 一方ロッティは、暫く呆けたような顔をしていたが、意味が全て繋がって、レオン以上に顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせた。


「キ…キス…そ、そうよね!ウン、そうよウン」


(キスっ!もうだめ、今日は思考が停止する)


 ロッティの頭は完全にショートしてしまった。



* * *



「くん、くん、ねえメイブたん、この匂いってチキンソテー?」

「ぴよ」

訳:[そうですよ]


 オーブンのほうから香ばしい肉の焼ける匂いが台所に満ちている。しかしどう嗅いでもこれは鶏肉の焼ける匂い。


「メ、メイブたんも鳥…だよね?鶏肉料理とか作っちゃうんだ…」


 ドレッシングを作っていたメイブは、フィンリーに「にたぁ…」と恐怖の笑みをを向けた。


「メイブたんその表情かお怖いからヤメテ!」


 フィンリーは両手で目を隠して喚いた。


「ぴよぴよぴよ」

訳:[お肉屋さんで買ってきたものだから、大丈夫なのですよ。どのみちわたくしめは食べませんし、鶏肉といっても別に同情なんてわかないのです」

「え、そうなの?」

「ぴよぴよ」

訳:[いちいち同情していては、何も食べられなくなってしまいます。食物連鎖なのですよ]


 メイブは淡々と言った。


「ぴよぴよ」

訳:[ポトフのお鍋を運んでおいてください]

「らじゃー!」


 鍋の取っ手を鍋つかみで掴んで、フィンリーはリビングへ運んだ。


「お腹空いたわー」

「もうすぐ出来るよ」


 フィンリーは鍋敷きの上に鍋をそっと置く。


「ポトフねその匂いは」

「うん。野菜とソーセージとベーコンがたっぷり入ってるよ」

「あのヒヨコ、料理は上手いから」

「さすが、俺のレディ」


 得意げな表情かおになるフィンリーを見上げ、モクリーフは真顔になる。


「ホントに、おねーさまと弟子契約するんだ?」

「うん!ロッティちゃんから許可ももらったよ」

「マジぃ…」

「マジ」


 モンクリーフはテーブルに片頬をついて「そっか…」と呟いた。


「じゃあ、これから先もずっと、フィンリー卿とは顔なじみになるわけね」

「へへっ」


 同じ時間ときを生きる仲間。


「おねーさまをよろしくね」

「お任せあれ!」


 そこへ、ロッティを腕に抱えたレオンが戻ってきた。


「あれ、ロッティちゃんどうしたの?」

「おねーさま!」

「ええっとその」


 レオンは物凄く言いづらそうに、顔を赤くしながらフィンリーとモンクリーフの顔を交互に見る。


「ロッティに告白されて、それで色々話しているうちに…ダウンしたようだ」


 フィンリーとモンクリーフは顔を見合わせ、


「キスしちゃったとか?」

「まさか、不意打ち!?」

「してないしてない!」


 レオンは慌てて首を横に振った。


「キスの話をしていて、こうなってしまったんだ…」

「ほう…、ロッティちゃん初心だねえ」

「さすが、おねーさま」

「ぴよぴよ~」

訳:[ご飯の用意が出来たのですよ~]


 パンを入れた籠を掴んで運んできたメイブは、レオンに抱えられたロッティに気付いて仰天した。


「ぴよおおおお!」

訳:[ご主人様ああああ!]

「ああ、メイブたん大丈夫だよっ」


 フィンリーが慌てて説明をする。


「ぴよ」


 説明を聞き終わり、メイブは頷いた。


「ぴよ、ぴよぴよ」

訳:[じゃあ、ご飯食べちゃいましょう]

「え、起きるの待たないの?」

「ぴよぴよ」

訳:[こうなったらもう、ご主人様は朝まで起きません]

「お…おう…」

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