目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

46話:「レオン卿に思い切って告っちゃえば?」

 『癒しの森』へ戻った一同は、リビングに集まった。


「キレイな羽根だねえ…触っても熱くないけど、見た目は燃えてるみたい」


 羽柄うへいを指先でつまんでくるくるさせる『フェニックスの羽根』は、キラキラと炎のような揺らめきを羽弁うべんに纏わせ輝いている。

 フィンリーは天井に翳してみて、しみじみと見つめていた。


「これを手に入れるために、すったもんだ、あっちこっち飛び回って大変だったね」

「ぴよ」


 フィンリーの肩に座って一緒に『フェニックスの羽根』を眺め、メイブは色々と思い返していた。


(レオンしゃんを森で拾ってから、全てが始まったのです。

 ここひと月あまり程度の出来事でしたが、本当に濃厚でした)


「ロッティの魔力の蓄えは、もう大丈夫なのですか?」


 レオンがふと思いついたように言うと、ロッティは頷いた。


「もう大丈夫。『フェニックスの羽根』と『癒しの森』の力を借りれば十分だわ」

「では、すぐに始めますか?」

「いいえ」


 ロッティはゆるゆると頭を横に振る。


「三日後の満月の晩を待つわ。満月の光は魔力と、『癒しの森』の力も活性化させていつもより効果を高めてくれるから」

「判りました。では、私は姫様を見舞ってきますね」

「うん」


 レオンがリビングを出ていくと、モンクリーフが身を乗り出した。


「おねーさま、時間も出来たことだし、レオン卿に思い切って告っちゃえば?」

「は?」

「いいねえそれ。さんせーさんせー!」

「ぴよぴよ!」


 フィンリーとメイブも賛成する。


「な、な、なんでそんな、告るとかいう話になるのよ!?」

「そのほうが気持ちもすっきりして、治療に集中できるじゃない」

「絶対良い結果が出ると思う」


 畳みかけられて、ロッティは顔を真っ赤にさせて怒鳴る。


「別に気持ちがどうのなんて関係ないわよ!儀式は成功しかしないって決まってるんだから!」


 今にも噛みつきそうな顔をするロッティに、モンクリーフはくすくすと笑う。


「こういうのは早いほうが良いわよ。気持ちは熟成させるものじゃないし、フレッシュなウチに爆砕しちゃいましょうよ」

「いや”霊剣の魔女”殿…爆砕しちゃダメっしょ…」

「だって、レオン卿は断らないもの」

「まあ、団長は”イエス”しか言わないね」


 2人は「うん、うん」と頷き合う。


「もし断られたら、儀式に集中できなくて失敗するわよ!」


 ロッティは叫ぶように言って、リビングを出て行った。

 去り行くロッティの後ろ姿を見送って、メイブはフィンリーの頬をぺちぺち叩いた。


「ぴよぴよ」

訳:[フィンリーしゃん、お願いがあるのです]

「なんだい?」

「ぴよぴよぴよ」

訳:[あのままじゃ、告白するしないで悩みすぎて、実行する前にご主人様がパンクしちゃうのです。ちょっと相談にのってあげてほしいのですよ]

「俺なんかでいいの?」

「ぴよ」


 メイブ自身は人語が喋れないし、モンクリーフは焚き付け専門で相談に不向きだ。


「よし、では行ってくるか」

「ぴよぴよ」

訳:[お願いなのです]



* * *



「レオンは誠実だし優しいし、でも人間だし…。私は今は10歳児だけど、中身はもう900歳。この激しい年の差をレオンはどう思ってるのかな」


 呟いてみて、自分が年の差を実は気にしていることに気付く。


「レオンは25歳で、私は900歳でしょ。その差875歳。…もはや年の差って気にするレベルを、遥かに超えてるわね…。

 ここまでくると、もう気にするのは、見た目の年齢の方でいいのかしら?

 古物商が扱う骨董品も、磨いておけば新品みたいに見えてるんだし…って、私は骨董品じゃないのよ!」


 両手で頭を押さえ、ロッティはセルフツッコミで暴れた。


「うだうだ悩んだところで、年齢のことはどうしようもないんだし、もう勢いで告白して玉砕しちゃえば、頭もすっきりするんじゃないかしら!

 いえ、それはダメダメ、玉砕したら儀式に集中できなくて失敗する!

 ぬうううん!」

「ロッティちゃん悶絶し過ぎ…」

「きゃああ」


 ドアから顔を覗かせるフィンリーに、ロッティは盛大に悲鳴を上げた。


「いやあ、セルフツッコミ見てて楽しいんだけど、考え過ぎだってば」


 部屋に入ってドアを閉めると、その場に立ったままフィンリーは腕を組んで笑った。


「団長もロッティちゃんのことが好きになってるから、大丈夫だってば」

「…それは、友誼とか知人としてとか、そういう”好き”なんじゃないの?」

「ロッティちゃんみたいに、あからさまじゃないから判りづらいかもだけど、団長がロッティちゃんを見ている目には、恋愛感情がしっかり込められてるよ」


 ロッティは顔を赤くしたまま、穏やかに微笑むフィンリーの顔をチラリと見る。


「本当に大丈夫かしら…」

「うん、大丈夫」


 保証するようにフィンリーはサムズアップしてみせた。


「フィンリーはさ、メイブにフラれるって思ったことはないの?」

「全然」

「即答か!」


 あまりにキッパリと言われてしまい、ロッティは怪訝そうに眉を寄せた。


「その自信はどこから来るの?」

「んー」


 頭をカシカシと掻いて、フィンリーはにっこり笑う。


「俺がメイブたんを愛しているから、大好きだから、フラれるとか考えたことはないかな。考えなくてもフラれることは絶対ないし、特に自信なんて必要もない」

「ほう…」


 それが自信なんじゃ…と思いつつ、ロッティはフィンリーの自信が羨ましかった。

 メイブは使い魔でヒヨコだ。レオンは人間でロッティは魔女。

 互いに種族が違う。そして生きてきた年齢もまた大きく違う。

 どんなに好きでも、壁を超える勇気がどうしても出せないでいた。


「ぐるぐる悩んでたってしょうがないし、その時間がもったいないよ?だからもう、思い切っちゃって。そうすれば、その直後にはラブラブの時間が待ってるんだからさ」

「そ、そうかしら…」

「そうそう。――ところでさ、ちょっと相談したいんだけど」

「なにかしら?」


 フィンリーはロッティの傍まできて、いきなり土下座した。


「俺をロッティちゃんの弟子にして!」

「…はい?」


 あまりにもいきなりすぎて、ロッティは思考が停止した。


「魔女の弟子になれば、魔女と魂の契約が出来る。そうすれば、魔女と時間を共有するから、人間だろうと動物だろうと、老いることがない。ただし、使い魔と同じように魔女が”消滅”すれば共倒れするんだってね」

「ちょっと、それ誰に聞いたの!?」

「グリゼルダちゃん」


(――あんの大年増!!)


 ロッティは心の中で拳を握って震わせた。

 魔女との契約内容については、極秘中の極秘で、本当に弟子の契約を結ぶ決意をした相手にしか話してはいけない。そうグリゼルダが定めた魔女の掟だ。

 当然ロッティは決意どころか、フィンリーの申し出は初耳だった。


「メイブたんと同じ時間ときを生きていくなら、弟子の契約を結ぶしかないわ、ってグリゼルダちゃんが教えてくれたんだ」

「マジ…なの?」

「大マジの超本気よ」


 雰囲気はいつもの軽いノリだが、青い瞳は超真剣そのものだった。


「一度契約を結べば、無かったことには出来ないってことも聞いている?」

「うん」

「そう…」


 フィンリーの青い瞳を見つめながら、ロッティはつくづくこの若者の心が羨ましかった。

 魔女と魂の契約をした人間は、もう人間ではなくなる。見た目は変わらないが、魔法生物ゴーレムに近い存在になる。


(大きすぎる変化が、怖くないのかしら…。

 恋は盲目、なんてものじゃないのは見てれば判る。思い切りが良いというか、恐れ知らずというか。

 まあ、儀式の後のことを考えたら、メイブの傍に居てくれる人がいれば私も安心だし…)


 天井に目を向けて、ロッティは小さく吐息を漏らした。


「判ったわ。弟子の件、引き受けましょう」

「おお!やったあ!」

「準備があるから、今すぐじゃないけどね」

「うんうん。準備出来るまで待ってる!」


 フィンリーは輝くような笑顔を貼り付けて、ロッティの両手を握って立ち上がる。


「あとは、ロッティちゃんが団長に告白すれば、俺たち4人家族になるね」

「え、ちょ、え、えええ」

「楽しみ♪」


 フィンリーは鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。


「告白…、だからまだ、勇気が出ないんだってば…」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?