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42話:『フェニックスの羽根』見つかる

(あーあ…いかにも”荒くれ者”を体現したようなオッサンだなあ…。何日風呂に入ってないんだよ)


 クラークの外見をザっと見て、フィンリーは内心ゲッソリあきれ返る。鼻をつまみたくなるほどの体臭が、風に乗って漂ってくるのだ。


「良家のぼんがこのようなむさっ苦しい処へ、どのようなご用がおありなんですか?」


 嘲笑を含んだ表情かおで、クラークは斧を軽く振る。


「ちょっと『フェニックスの羽根』を持ってないか調べに」

「『フェニックスの羽根』?」

「そう。奇麗な羽根、持ってるでしょ?」


 クラークは何度か目を瞬かせ、そして目線を天井に向ける。


「……ああ、アレのことか」

「そう、アレ」


 フィンリーは親指で後方をさした。


「アレアレ。――って!なんだあのヒヨコは!?」


 急に顔を引きつらせて、クラークは大声で叫んだ。


「ぴよ」


 自分に向けて叫んできたことに気付いて、メイブは手にした『フェニックスの羽根』を見せつけるように掲げて見せた。


「それに触るんじゃねえ!俺様が殺されちまう!!」

「メイブたんに近寄るなゲス!」


 すかさずフィンリーが立ちはだかって、剣を振り下ろす。

 クラークは咄嗟に足を止めて、斧で頭上を庇うようにして剣を受けた。

 押し合う刃の擦れる音がギギギッと響いて、それを聴いたメイブは思わずキュッと目を瞑る。


「それは大事な預かりモンだ!箱に戻せすぐに!」

「申し訳ないけど、アレはいただいていくよ」

「どけ、このガキがっ」

「どくわけないだろう、オッサン!」


 クラークに比べフィンリーは痩身だ。腕の太さも倍違う。当然力比べでフィンリーは負けるだろうとクラークは思っていた。しかし予想外の力を受けて、押し負けて後ろに飛ばされてしまった。


風の上級精霊ホリー・シルヴェストルが助けてくれるんで、体格差は問題ナイよ。俺ってあんまり小さいプライドは持ってないから、エンリョなく風の上級精霊ホリー・シルヴェストルの力は使わせてもらう」


 命のやり取りに、正攻法だの誇りある戦いだのと、夢見がちな感性の持ち合わせはフィンリーには一切なかった。

 手合わせや試合ではなく、実戦でそんな甘っちょろい騎士道精神など貫いても死ぬだけだ。

 使えるものは使う。そして勝つ。それがフィンリーの戦い方だ。


「くっ、一体何なんだ…」


 床に背中を叩きつけられて、クラークは痛みで顔を顰める。そしてのっそりと立ち上がった。

 クラークは斧を握り直すと、奇声をあげながらフィンリーに襲い掛かった。


「よっと」


 振り下ろされた斧を余裕で避ける。

 勢いと重さはあるが、素早さに欠けるから攻撃を避けやすい。冷静に観察していれば、クラークの動きは素人並みだ。訓練と実戦を積んできたフィンリーの相手ではない。

 フィンリーはチラリとメイブの方を見る。


(メイブたんちょっと怖がってる…。こんな野蛮な戦闘なんて見たくないだろうな。さっさとケリつけちゃおう)


 下から振り上げてきた斧を避けた後、素早くクラークの背後に移動して背中を斬りつけた。


「ぐあっ」


 焼けるような痛みにクラークは呻き、その場に片膝をついた。

 剣の切っ先をクラークの後頭部に突き付ける。


「おとなしくしていろ、命までは取らない。俺たちはどうしても『フェニックスの羽根』が要るんだ。譲ってくれる?」

「譲れねえよ……あの箱の中身は全部預かりものなんだ…」


 俯いたクラークは、怯えの色を深めて歯を食いしばる。


「盗賊が物を預かるなんてねえ…。ンで、持ち主は誰なの?」

「……”不平等を愛する魔女”リリー・キャボットだ…」

「ぴよ!」


 クラークの言った名前にメイブが激しく反応した。


「メイブたん知ってるの?」

「ぴよぴよぴよぴよ!」

訳:[当然なのです当然なのです!]


 『フェニックスの羽根』をぎゅっと抱きしめ、メイブは動揺したように後退る。


(まさかあの悪魔のごとき魔女の持ち物だったなんて…!これはちょっと大変なことになりました)


 小さな身体を戦慄かせ、メイブは困ったように俯いた。


「メイブたん」


 フィンリーの呼びかけにも顔を上げず、メイブはじっと床を見つめた。


(ご主人様に相談しなくてはいけません。あの悪魔の持ち物というのが本当なら、コレを持ち去ったらクラーク・ペッパーは間違いなく殺されてしまいます…)


「ぴよ」

訳:[フィンリーしゃん]

「うん?」

「ぴよぴよぴよ、ぴよぴよぴよぴよぴよぴよ」

訳:[今すぐ風の上級精霊ホリー・シルヴェストルをご主人様の元へ飛ばして、ご主人様とレオンしゃんをここへ連れてくるように、お願いしてほしいのです]


 怯えと困惑な表情を同居させた顔を向けられて、フィンリーは頓着なく頷いた。


風の上級精霊ホリー・シルヴェストル


 フィンリーの呼びかけに、風の上級精霊ホリー・シルヴェストルが身体からスウッと抜け出してきた。


「大至急、ここへロッティちゃんと団長を連れてきてくれる?」


 風の上級精霊ホリー・シルヴェストルは小さく頷いて、窓から出て行った。

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