(あーあ…いかにも”荒くれ者”を体現したようなオッサンだなあ…。何日風呂に入ってないんだよ)
クラークの外見をザっと見て、フィンリーは内心ゲッソリあきれ返る。鼻をつまみたくなるほどの体臭が、風に乗って漂ってくるのだ。
「良家の
嘲笑を含んだ
「ちょっと『フェニックスの羽根』を持ってないか調べに」
「『フェニックスの羽根』?」
「そう。奇麗な羽根、持ってるでしょ?」
クラークは何度か目を瞬かせ、そして目線を天井に向ける。
「……ああ、アレのことか」
「そう、アレ」
フィンリーは親指で後方をさした。
「アレアレ。――って!なんだあのヒヨコは!?」
急に顔を引きつらせて、クラークは大声で叫んだ。
「ぴよ」
自分に向けて叫んできたことに気付いて、メイブは手にした『フェニックスの羽根』を見せつけるように掲げて見せた。
「それに触るんじゃねえ!俺様が殺されちまう!!」
「メイブたんに近寄るなゲス!」
すかさずフィンリーが立ちはだかって、剣を振り下ろす。
クラークは咄嗟に足を止めて、斧で頭上を庇うようにして剣を受けた。
押し合う刃の擦れる音がギギギッと響いて、それを聴いたメイブは思わずキュッと目を瞑る。
「それは大事な預かりモンだ!箱に戻せすぐに!」
「申し訳ないけど、アレはいただいていくよ」
「どけ、このガキがっ」
「どくわけないだろう、オッサン!」
クラークに比べフィンリーは痩身だ。腕の太さも倍違う。当然力比べでフィンリーは負けるだろうとクラークは思っていた。しかし予想外の力を受けて、押し負けて後ろに飛ばされてしまった。
「
命のやり取りに、正攻法だの誇りある戦いだのと、夢見がちな感性の持ち合わせはフィンリーには一切なかった。
手合わせや試合ではなく、実戦でそんな甘っちょろい騎士道精神など貫いても死ぬだけだ。
使えるものは使う。そして勝つ。それがフィンリーの戦い方だ。
「くっ、一体何なんだ…」
床に背中を叩きつけられて、クラークは痛みで顔を顰める。そしてのっそりと立ち上がった。
クラークは斧を握り直すと、奇声をあげながらフィンリーに襲い掛かった。
「よっと」
振り下ろされた斧を余裕で避ける。
勢いと重さはあるが、素早さに欠けるから攻撃を避けやすい。冷静に観察していれば、クラークの動きは素人並みだ。訓練と実戦を積んできたフィンリーの相手ではない。
フィンリーはチラリとメイブの方を見る。
(メイブたんちょっと怖がってる…。こんな野蛮な戦闘なんて見たくないだろうな。さっさとケリつけちゃおう)
下から振り上げてきた斧を避けた後、素早くクラークの背後に移動して背中を斬りつけた。
「ぐあっ」
焼けるような痛みにクラークは呻き、その場に片膝をついた。
剣の切っ先をクラークの後頭部に突き付ける。
「おとなしくしていろ、命までは取らない。俺たちはどうしても『フェニックスの羽根』が要るんだ。譲ってくれる?」
「譲れねえよ……あの箱の中身は全部預かりものなんだ…」
俯いたクラークは、怯えの色を深めて歯を食いしばる。
「盗賊が物を預かるなんてねえ…。ンで、持ち主は誰なの?」
「……”不平等を愛する魔女”リリー・キャボットだ…」
「ぴよ!」
クラークの言った名前にメイブが激しく反応した。
「メイブたん知ってるの?」
「ぴよぴよぴよぴよ!」
訳:[当然なのです当然なのです!]
『フェニックスの羽根』をぎゅっと抱きしめ、メイブは動揺したように後退る。
(まさかあの悪魔のごとき魔女の持ち物だったなんて…!これはちょっと大変なことになりました)
小さな身体を戦慄かせ、メイブは困ったように俯いた。
「メイブたん」
フィンリーの呼びかけにも顔を上げず、メイブはじっと床を見つめた。
(ご主人様に相談しなくてはいけません。あの悪魔の持ち物というのが本当なら、コレを持ち去ったらクラーク・ペッパーは間違いなく殺されてしまいます…)
「ぴよ」
訳:[フィンリーしゃん]
「うん?」
「ぴよぴよぴよ、ぴよぴよぴよぴよぴよぴよ」
訳:[今すぐ
怯えと困惑な表情を同居させた顔を向けられて、フィンリーは頓着なく頷いた。
「
フィンリーの呼びかけに、
「大至急、ここへロッティちゃんと団長を連れてきてくれる?」