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41話:アジトでひと騒動

 風の上級精霊ホリー・シルヴェストルを捜索に放って10分くらいが経った。


「フィンリー卿、風の上級精霊ホリー・シルヴェストルから何か連絡は?」

「特に何も。ていうか、戻ってきてくれないと、連絡手段なんてナイんですが…」

「あっそう…」


 座り込んでモンクリーフはため息をついた。

 ただ待っているだけの状況に退屈しているのだ。

 モンクリーフとフィンリーを少し離れたところから見つめ、メイブは部屋の外を伺った。


(ご主人様が風の上級精霊ホリー・シルヴェストルには、あらかじめ場所を見つけてくるだけに限定してお願いしていました。

 上級精霊にもなると、色々なことが出来てしまいます。もし『フェニックスの羽根』があったとして、羽根を持ち出して移動するとなると、誰かに見つかる可能性がある。そうなると、当然騒動になりますし、下手をすると風の上級精霊ホリー・シルヴェストルが盗賊たちを攻撃してしまうことも。

 自らの意志で風の上級精霊ホリー・シルヴェストルが力を振るえば、山は簡単に吹き飛ばされて、我々も一緒にお陀仏になりかねません…)


 そうなった時のことを想像し、メイブはダラダラ汗をかいた。

 ドロボウしにきただけなのに、デスロック山を崩壊させ、盗賊団アジトを壊滅させ、盗賊たちを道連れに死なせる。


(どっちが極悪人なのか判らないのですよ…恐ろしい…。

 さて、見つけてくるだけなら、そろそろ戻ってくるでしょうか)


 もう一度部屋の外を覗き込むと、風の上級精霊ホリー・シルヴェストルがふわりと戻ってきた。


「おかえり!」


 フィンリーが両手を広げて風の上級精霊ホリー・シルヴェストルを歓迎する。

 風の上級精霊ホリー・シルヴェストルはにっこりとした笑みを形作り、フィンリーの身体の中へ戻った。


「どう?」


 モンクリーフはフィンリーの顔を覗き込んだ。


「…なんか、すっげー所に隠してあるな」

「ドコドコ?」


 人差し指を天井へと向ける。


「山の頂上」

「げえ…」


 物凄く嫌そうに、モンクリーフは顔をしかめた。

 頂上へ行くために魔法を使えば、盗賊たちに見つかる可能性が高い。


「頂上へ上がる装置があるみたい。そこからいけるっぽいな」

「あら、それなら目立たないわね」

「うーん、まあそこへ行くために目立つと思う」


 モンクリーフとフィンリーは立ち上がった。


「メイブたんおいで、装置のところまで行くよ」

「ぴよ」


 メイブは素直にフィンリーの肩に乗った。


「ぴよぴよ?」

訳:[ここから遠いのですか?]

「そう遠くはないんだけど、アジトの中央まで行かないとダメみたい。そこに昇降機が設置されてるんだ」

「ぴよ~」

訳:[モロ目立ちますね~]

「うん…」


 風の上級精霊ホリー・シルヴェストルからもたらされた情報によると、盗賊がたくさんいる部屋を通ることになる。


「まあ、”霊剣の魔女”殿のうっぷん晴らしが出来そう」

「ふふふ…それは愉しみだこと」

「ぴよぴよぴよ!」

訳:[やり過ぎはダメなのですよ小娘!]



* * *



 マグナ盗賊団がデスロック山にアジトを築いた当初は、ララハ地方の治安部隊や役人たちがこぞって襲撃してきた。

 しかし団が大きくなってくると、次第に襲撃の回数も減ってくる。更に、とある助力を得てからは、襲撃もパタリとなくなった。

 それもあって、アジト内に見張りを置いたり、パトロールをする者もいなくなった。特に警戒せずとも問題はなかったからだ。

 しかし今日だけは違った。


「あっはははは!おどき!虫けらどもめ!」


 ショートボブの派手な格好をした少女が、いきなり襲ってきたのだ。


「ありゃ魔女か!?なんで魔女がくるんだよ!」

「しらねーよ!」


 居合わせた盗賊たちは、武器を手に応戦するが、少女の繰り出す魔法攻撃で次々と蹴散らされていく。

 どこから湧いてくるのか、何もない宙に突如短剣が現れ、短剣に炎や雷などをまとわせ放ってくる。

 木箱や麻袋に引火して、広間のあちこちで火事になった。


「くっそ、火薬使うわけにもいかねーし、なんなんだあの魔女は!」


 短剣を投げても矢を放っても、少女には届かず弾かれてしまう。


「もっと仲間を呼べ!数で応戦だ!」


 アジト内部に号令の鐘が鳴り響いた。



* * *



「ぴよぴよ…」

訳:[小娘め…やり過ぎなのです…]

「うん、まあ、それで俺たち昇降機に乗れたんだけどね…」


 はあ、と2人はため息をつく。

 アジトの中央を目指して移動を開始した3人は、当然道中で多くの盗賊たちと鉢合わせた。


「アタシがやるわ!」


 鼻息荒くモンクリーフは言い放つ。

 メイブとフィンリーが止めるのもスルーして、モンクリーフは暴れた。

 ずっとロッティの魔力タンクの役割をしていたから、鬱憤が溜まりまくっていたのだろう。もともと好戦的な性格なのだ。

 ロッティ以外、モンクリーフの暴走は止められない。フィンリーは諦めてメイブと共に昇降機の処に急いで、慌てて飛び乗ったのだった。


「ぴよぴよ」

訳:[この昇降機、魔女の作ったものですね]

「ほほう?」

「ぴよぴよぴよ、ぴよぴよぴよ」

訳:[本来昇降機は人力で動かすものです。しかしこれは、魔女が込めた魔力で動かせる仕組みになっています。こういった仕組みのものが、人間の元にあるのはとても珍しいのですよ」

「へえ…」


 フィンリーは足元を見て「ああ」と呟いた。


「そういや、飛び乗ったらすぐ登り始めたよね。盗賊たちのお仲間じゃない俺たちのために、盗賊がわざわざ動かしてくれるわけナイもんね」

「ぴよ」

「でもさあ、魔女が作ったものが、どうしてこんなトコにあるんだろう?盗品なのかなこれも?」

「ぴよ…」


 メイブは首をかしげて唸る。

 たとえ盗品であっても、人間の手で設置することは無理だ。山を登るための手段がないからだ。


「ぴよぴよぴよぴよ」

訳:[”創作する魔女”フィアンメッタ・シパーリという魔女がいますが、フィアンメッタ作ではないですね。彼女が作ったものは見た目ですぐ判りますから」

「どんな見た目をしているの?」

「ぴよぴよぴよ」

訳:[ドン引きレベルで、装飾細工が凄まじく凝りまくりなのです…]

「な…なるほど…」


 板で作られている簡素な箱の昇降機。装飾細工などドコにもなかった。

 そうこうしているうちに、昇降機は停まった。


「頂上に着いたっぽい」

「ぴよ」


 フィンリーは昇降機を降りる。

 小さいながらもしっかりとした小屋の中で、足場も安全に作られていた。

 下からだと見えなかったが、頂上は尖った先端を削り落とし、丈夫な足場が作られていて、そこに小屋は建っている。城のダンスフロアくらいの広さがあった。


「さて、『フェニックスの羽根』は」

「なんだお前は!」

「うおっ」


 いきなり隣から斧が飛んできて、フィンリーは慌てて飛び退った。


「下の騒ぎはテメーの仕業か?」

「まあ、そんなとこ」


 フィンリーは腰に佩いている剣を抜いた。


「あんた誰よ?」

「俺様はマグナ盗賊団のお頭、クラーク・ペッパー様よ。そういうテメーは誰なんだ」

「フィンリー・シャフツベリー。とある国の騎士様さ」


 クラークもフィンリーも、武器を構えて睨み合う。

 メイブはフィンリーの肩から飛び降りると、小屋の奥の隅に置かれている箱に気付いた。


(あれの中でしょうか?)

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