「フィンリー卿、
「特に何も。ていうか、戻ってきてくれないと、連絡手段なんてナイんですが…」
「あっそう…」
座り込んでモンクリーフはため息をついた。
ただ待っているだけの状況に退屈しているのだ。
モンクリーフとフィンリーを少し離れたところから見つめ、メイブは部屋の外を伺った。
(ご主人様が
上級精霊にもなると、色々なことが出来てしまいます。もし『フェニックスの羽根』があったとして、羽根を持ち出して移動するとなると、誰かに見つかる可能性がある。そうなると、当然騒動になりますし、下手をすると
自らの意志で
そうなった時のことを想像し、メイブはダラダラ汗をかいた。
ドロボウしにきただけなのに、デスロック山を崩壊させ、盗賊団アジトを壊滅させ、盗賊たちを道連れに死なせる。
(どっちが極悪人なのか判らないのですよ…恐ろしい…。
さて、見つけてくるだけなら、そろそろ戻ってくるでしょうか)
もう一度部屋の外を覗き込むと、
「おかえり!」
フィンリーが両手を広げて
「どう?」
モンクリーフはフィンリーの顔を覗き込んだ。
「…なんか、すっげー所に隠してあるな」
「ドコドコ?」
人差し指を天井へと向ける。
「山の頂上」
「げえ…」
物凄く嫌そうに、モンクリーフは顔をしかめた。
頂上へ行くために魔法を使えば、盗賊たちに見つかる可能性が高い。
「頂上へ上がる装置があるみたい。そこからいけるっぽいな」
「あら、それなら目立たないわね」
「うーん、まあそこへ行くために目立つと思う」
モンクリーフとフィンリーは立ち上がった。
「メイブたんおいで、装置のところまで行くよ」
「ぴよ」
メイブは素直にフィンリーの肩に乗った。
「ぴよぴよ?」
訳:[ここから遠いのですか?]
「そう遠くはないんだけど、アジトの中央まで行かないとダメみたい。そこに昇降機が設置されてるんだ」
「ぴよ~」
訳:[モロ目立ちますね~]
「うん…」
「まあ、”霊剣の魔女”殿のうっぷん晴らしが出来そう」
「ふふふ…それは愉しみだこと」
「ぴよぴよぴよ!」
訳:[やり過ぎはダメなのですよ小娘!]
* * *
マグナ盗賊団がデスロック山にアジトを築いた当初は、ララハ地方の治安部隊や役人たちがこぞって襲撃してきた。
しかし団が大きくなってくると、次第に襲撃の回数も減ってくる。更に、とある助力を得てからは、襲撃もパタリとなくなった。
それもあって、アジト内に見張りを置いたり、パトロールをする者もいなくなった。特に警戒せずとも問題はなかったからだ。
しかし今日だけは違った。
「あっはははは!おどき!虫けらどもめ!」
ショートボブの派手な格好をした少女が、いきなり襲ってきたのだ。
「ありゃ魔女か!?なんで魔女がくるんだよ!」
「しらねーよ!」
居合わせた盗賊たちは、武器を手に応戦するが、少女の繰り出す魔法攻撃で次々と蹴散らされていく。
どこから湧いてくるのか、何もない宙に突如短剣が現れ、短剣に炎や雷などをまとわせ放ってくる。
木箱や麻袋に引火して、広間のあちこちで火事になった。
「くっそ、火薬使うわけにもいかねーし、なんなんだあの魔女は!」
短剣を投げても矢を放っても、少女には届かず弾かれてしまう。
「もっと仲間を呼べ!数で応戦だ!」
アジト内部に号令の鐘が鳴り響いた。
* * *
「ぴよぴよ…」
訳:[小娘め…やり過ぎなのです…]
「うん、まあ、それで俺たち昇降機に乗れたんだけどね…」
はあ、と2人はため息をつく。
アジトの中央を目指して移動を開始した3人は、当然道中で多くの盗賊たちと鉢合わせた。
「アタシがやるわ!」
鼻息荒くモンクリーフは言い放つ。
メイブとフィンリーが止めるのもスルーして、モンクリーフは暴れた。
ずっとロッティの魔力タンクの役割をしていたから、鬱憤が溜まりまくっていたのだろう。もともと好戦的な性格なのだ。
ロッティ以外、モンクリーフの暴走は止められない。フィンリーは諦めてメイブと共に昇降機の処に急いで、慌てて飛び乗ったのだった。
「ぴよぴよ」
訳:[この昇降機、魔女の作ったものですね]
「ほほう?」
「ぴよぴよぴよ、ぴよぴよぴよ」
訳:[本来昇降機は人力で動かすものです。しかしこれは、魔女が込めた魔力で動かせる仕組みになっています。こういった仕組みのものが、人間の元にあるのはとても珍しいのですよ」
「へえ…」
フィンリーは足元を見て「ああ」と呟いた。
「そういや、飛び乗ったらすぐ登り始めたよね。盗賊たちのお仲間じゃない俺たちのために、盗賊がわざわざ動かしてくれるわけナイもんね」
「ぴよ」
「でもさあ、魔女が作ったものが、どうしてこんなトコにあるんだろう?盗品なのかなこれも?」
「ぴよ…」
メイブは首をかしげて唸る。
たとえ盗品であっても、人間の手で設置することは無理だ。山を登るための手段がないからだ。
「ぴよぴよぴよぴよ」
訳:[”創作する魔女”フィアンメッタ・シパーリという魔女がいますが、フィアンメッタ作ではないですね。彼女が作ったものは見た目ですぐ判りますから」
「どんな見た目をしているの?」
「ぴよぴよぴよ」
訳:[ドン引きレベルで、装飾細工が凄まじく凝りまくりなのです…]
「な…なるほど…」
板で作られている簡素な箱の昇降機。装飾細工などドコにもなかった。
そうこうしているうちに、昇降機は停まった。
「頂上に着いたっぽい」
「ぴよ」
フィンリーは昇降機を降りる。
小さいながらもしっかりとした小屋の中で、足場も安全に作られていた。
下からだと見えなかったが、頂上は尖った先端を削り落とし、丈夫な足場が作られていて、そこに小屋は建っている。城のダンスフロアくらいの広さがあった。
「さて、『フェニックスの羽根』は」
「なんだお前は!」
「うおっ」
いきなり隣から斧が飛んできて、フィンリーは慌てて飛び退った。
「下の騒ぎはテメーの仕業か?」
「まあ、そんなとこ」
フィンリーは腰に佩いている剣を抜いた。
「あんた誰よ?」
「俺様はマグナ盗賊団のお頭、クラーク・ペッパー様よ。そういうテメーは誰なんだ」
「フィンリー・シャフツベリー。とある国の騎士様さ」
クラークもフィンリーも、武器を構えて睨み合う。
メイブはフィンリーの肩から飛び降りると、小屋の奥の隅に置かれている箱に気付いた。
(あれの中でしょうか?)