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39話:マグナ盗賊団のアジトへ

「お、お、おかしらあああっ」


 まろび、たたらを踏みながら、若い男は何度も「おかしら」を叫びながら広間に飛び込んできた。


「おう!お前らのお頭様はここだぞ!」


 ドスの効いた大声が広間に響き渡る。あまりの大声に、広間に居た男たちは耳を塞いだ。


「大変なんっす!イグナシアが、町が、総攻撃を受けて大爆発してるんっすよ!」


 一瞬広間は静まり返った。


「ぶははははっ」


 お頭を皮切りに、男たちは吹き出し爆笑する。


「笑ってる場合じゃねえっすよ!本当なんっす、凄いんですぁ!」

「アンガス落ち着け、イグナシアを総攻撃する意味が判らん」


 上座で胡坐をかいていたお頭は、のっそり立ち上がって若い男――アンガスの前にしゃがみ込む。


「我がマグナ盗賊団に関わる町を襲うような、気概のある軍隊がドコにいるんだ?ララハ地方の役人ですら、俺たちに貢物を寄越してくるほどだ」

「そ、そうなんっすけど…、とにかくご自分の目で見てください。ホントにヤバイんですって」

「ふむ」


 アンガスのただならぬ様子に、お頭は顎髭をさすりながら天井に目を向けた。


「しゃーねーな、見張り小屋に行ってくるわ」




 マグナ盗賊団のお頭ことクラーク・ペッパーは、汚れで黒ずんだカウボーイハットをかぶり、前ボタンを外した薄汚れたシャツの上に革のベストを着こんでいる。

 何日も風呂に入ってないことが判る外見をしているが、髭だけはショートボックスにしっかりとカットされていた。

 身だしなみの要点は、黒々としたその髭にあるようだ。


「……なんてこった」


 デスロック山の頂上に作った見張り小屋からイグナシアの方角を見て、クラークはぽかんと口を開けた。

 あまりに素っ頓狂なことを言うアンガスを内心嘲笑っていたが、彼の言っていたことは本当だった。

 黒煙をたなびかせ、炎と土砂が噴き上がり、破片が舞い踊る。轟音と破壊音が山まで届いていた。望遠鏡を覗かなくても視認出来るほどの勢い。


「俺の町が」


 黒く煤けた鼻頭を真っ赤に染めあげ、クラークは怒号を上げた。


「救援隊!町へ急げ!!」


 後ろに控えていた部下たちが、その場に飛び上がって急いで駆けて行った。


「俺のモーリーンが町にいるんだ…モーリーンが」


 妻の名を呟き、クラークは大きな手を固く握る。

 あの爆発の様子じゃ、巻き込まれて大怪我をしているかもしれない。そう思うと、悪い方向へ想像が突っ走る。

 しかしクラークはある理由で、山を離れることができない。


「どこのどいつだ…くそがっ容赦しねえぞ!」


 カウボーイハットをひったくると、雑巾のように両手で捻って怒りを顕わにした。



* * *



「50頭ほどはいたかしら?」

「うん、大体そんくらい出てったね」


 岩陰に身を潜めて、砂塵を巻き上げ駆けていく馬に乗る盗賊たちを見送り、モンクリーフ、フィンリー、メイブはホッと一息ついた。


「グリゼルダ様調べだと――ホントはスピオンだけど――山には総勢250名くらいが詰めているそうよ。主力級の実戦部隊が、今仕事で100名くらい出払ってるらしいわ」

「それでさっきの50人が減って……うげえ、まだ100人もいんのかよ…」

「ぴよぴよ」

訳:[頑張るのです]

「おう!」


 メイブに励まされて、フィンリーは目を輝かせた。


「でも、レオン卿一人で50人もの盗賊相手、大丈夫かしら」


 モンクリーフが不安げに言うと、フィンリーはにっこりと笑う。


「人間相手なら、100人でもなんの問題もないです」


 レオンの剣技を知るフィンリーは太鼓判を押した。

 グローヴァー男爵家に代々伝わる大剣セオドアは、鎧も鎖帷子ホーバークも易々粉砕する。

 反射神経も速度も腕力も、レオンは他の追従を許さないのだ。


「そうなのね。なら、こちらも『フェニックスの羽根』探しに全力よ!」

「おっけい!」

「ぴよ!」




 巨木ほどの太さのある長い岩は先端が尖っていて、それがいくつも広大な地に密集している。そしてツリーのように積み重なって、大きな山を形成していた。

 岩の表面はつるりとしていて、人でも動物でも這い上がるのは困難を極める。それに岩自体はとても硬いが、先端部分は脆く、縄をかけてもすぐに折れてしまう。

 草木も生えておらず、むき出しのツンツン岩の山、近寄る者などいない。

 マグナ盗賊団がこの山にアジトを構えてから尚更だ。


「メイブたんの予想通り、アジトは地下に作ってあるね」

「ぴよぴよぴよ」

訳:[岩肌のつるつるは、人間にはどうすることもできないのです。硬いから道具を使っても限界なのですよ]

「確かに、めっちゃつるつるしてるよねえ」


 手近の岩を触り、フィンリーは顔をしかめた。鏡でもコーティングしてあるかのようだ。


「地表や地下の岩は、加工しやすかったのかなあ?」

「山を形成している岩だけが特殊みたいね。地下の洞窟は砂岩みたい」

「ふむふむ」


 デスロック山の地下には天然の洞窟があり、いくつか出入り口がある。3人はそのうちの一つから侵入していた。


「見張りが居なかったけど、警備緩いのかねえ」

「まー、こんな辺鄙な所、わざわざ来る人いないんじゃない?」

「ダヨネー」

「ぴよ」


 洞窟内部は複雑に入り組んでいて、3人は身を潜める場所を探してうろうろ歩き回った。

 途中数名ほど見回りの盗賊と出くわしたが、モンクリーフの魔法の短剣で、彼らは永久に口を閉ざした。


「容赦ナイっすね…」

「これも姫様をお救いする礎になったと思えばイイのよ」

「ぴよ…」


 壁をぶち抜いて作られた小さい部屋を見つけ、3人はそこに入った。


「さーて、ここからは風の上級精霊ホリー・シルヴェストルの出番だ。出ておいで、風の上級精霊ホリー・シルヴェストル


 フィンリーの呼びかけに応じて、胸の辺りからスウッと半透明の煙が沸き上がった。

 煙はやがて小さな少女の形になり、フィンリーの真正面に浮いた。


「『フェニックスの羽根』がないか、探してきてくれるかい?」


 風の上級精霊ホリー・シルヴェストルは小さく頷くと、部屋から飛び出していった。


「ふーん、あれが風の上級精霊ホリー・シルヴェストルなのかあ。ねえ、見た目がなんか、おねーさまに似てなかった?」

「ああ、風の上級精霊ホリー・シルヴェストルがロッティちゃんの姿を真似ているんだよ。もともと形を持たない存在みたいで」

「へえ…上級レベルだと実体を持つんだと思ってたわ」

「風だからかなあ?特定の形ってないみたい。俺たちのためにああして形を作ってくれてるみたいよ」

「ふうん。親切ね」


 妙に感心したようにモンクリーフは頷いた。


「ぴよぴよ」

「ん?」

「ぴよぴよ」

「んん??」

「ぴよ…?」


 メイブとフィンリーは黙る。そしてフィンリーは僅か口を開き、目を大きく見開いた。


「うそおおん!!メイブたんの言葉が判らなーい!」

「え?」


 メイブは小さく首を傾げた。

 フィンリーは頭を抱え、発狂したように大騒ぎしだした。


「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ!盗賊たちに場所がバレちゃうでしょ!――原因は風の上級精霊ホリー・シルヴェストルが体内から抜け出たからよ!」

「え?」

「もお!」


 モンクリーフは腰に両手を当てると、ジロリとフィンリーを見上げた。


風の上級精霊ホリー・シルヴェストルが体内に居たからヒヨコの言葉が判っていたんでしょ。今は抜けてるから判らないだけで、戻れば元通りよ」

「ああ…、そっかあ…」


 ふにゃふにゃあっと、フィンリーはその場にへたりこんだ。女性たちを虜にする貌が、情けなく弛緩した。


「よかった…、俺、てっきり…」


 心配そうに見ているメイブに、フィンリーはうるうるとした目を向ける。


「メイブたんへの愛が冷めたのかと、本気で心臓が凍えたよ!」


 拳を握り締め、振り絞るように叫んだ。


「……そう」

「……ぴよ」


 本気で安堵しているフィンリーに、モンクリーフとメイブは乾いた笑いを口元にたたえた。

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