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37話:恋するロッティの気持ち

 次なる目的地デスロック山へ向かう前に、モンクリーフの魔力回復を待つためみんなで『癒しの森』で待機中。その時間を使って、各々何かをしていた。

 ロッティは倉庫から薬草類を詰めた木箱を山ほど自室に持ってきて、作業台の上にドサドサッと置いた。

 木箱の中の薬草は、全て乾燥されている。室内に薬草の匂いが混ざり合って満ちた。しかし不思議と不快な匂いではなく、すっきりとした清涼感のある匂いだった。

 薬草は全て『癒しの森』に生えていたものだ。

 『癒しの森』の力を吸っている薬草は、薬草の持つ効能以外にも、『癒しの森』の癒しの力も多少含んでいる。この森の薬草で作った薬は、ロッティの癒しの魔力も加わると、どんな怪我も病も治してしまう。その為薬屋に卸しているロッティの作る薬は、常に売り切れ状態だ。

 ロッティにとって利益はあまり気にしていない。病気や怪我で苦しむ人々が減ればいいと思って、安価でずっと薬屋に卸し続けていた。


「ムーンサンドの集落で沢山薬品を使っちゃったから、デスロック山に備えてもっと薬品を作っておかないと…盗賊たちのために」


 得意げに魔法を奮うモンクリーフに、派手に吹っ飛ばされている盗賊たちの様子を想像して、ロッティは疲れたように薄笑った。憐れなほど展開が読めてしまう。

 『フェニックスの羽根』を求める旅をしている間は魔法を使わないようにしていたから、治療のために持っていた薬品はほぼ使い切っていた。

 ムーンサンドで砂芋虫サンドワームに襲われた集落の人々は、砂芋虫サンドワームから直接攻撃を受けていなくても、倒壊した家屋や砂で怪我を負った人たちが多かった。

 傷口をアルコールで洗って薬を塗る。酷い裂傷などは即縫合。骨折には添え木をする。それらをほとんど一人でこなしていた。

 普段魔法でパパッと治してしまうことに慣れてしまっていて、しかも人数がとにかく多くてパニックになっていた。


「傷薬、湿布、痛み止め、止血剤、鎮痛剤、解熱剤…」


 提げていた巾着から空になった薬瓶を取り出しながら、ベッドの上に空瓶を転がしていく。


「包帯類もなくなってるわ…いっぱい作っておかないと。盗賊たちと戦闘にでもなったら、盗賊たちが100パーセント大怪我をするから。準備期間を設けてよかったかも。準備不足で出かけたら、私のほうがパニックよ」


 メイブがレオンを小屋へ運んできてからずっと、目まぐるしい毎日だった。

 アデリナのことでも沢山悩んだ。しかしレオンに本心を打ち明けて、気分が少し落ち着いた気がしていた。

 焦りや苛立ちが、とても小さくなっている。

 ロッティはベッドに座ると、手にしていたヨモギのドライフラワーを指でくるくる弄った。

 レオンにアデリナと自分の話をして理解を得た。それでなのか、レオンからはもう急かせてくるような感情は感じなかった。むしろ本来の優しさと気遣いを、強く感じられるようになっていた。


「私のこの恋…な気持ちも、だいぶ峠を越えちゃった感じなのかな…。最初の頃のようなドキドキはそんなにしなくなってきたけど、レオンの傍にもっと居たいなって、そう強く思うようになってきた」


 口に出して、頬がぼわんと赤くなる。


「一緒にお茶を飲んだり、他愛ないお喋りをしたり、当たり前のように日常を一緒に過ごしたい。

 でもレオンはメルボーン王国の近衛騎士の騎士団長。王女様が助かったら、国へ戻ってしまうのよね」


 役目を全うすれば『癒しの森』から出て行ってしまう。チェルシー王女が助かれば接点がなくなる。


(寂しい…)


 と思った。


「900年を生きてきて、初めて恋をしちゃった。これまで私の中にはなかった感情が、最近はこれでもかと湧き上がってくるわ。

 あたふたしたり、きゅんきゅんしたり、もっともっとと強く望んだり、恥ずかしかったり、一緒に居るだけで嬉しくなったり。このどうしようもない感情は、全てレオンに向いている」


 顔じゅうがほてって「はぁ」と息を漏らす。


「この想いを伝えたら、レオンはどんな表情かおをするだろう。見た目が子供なのはダメ、とか、中身が900歳の生きた化石はダメダメ、とか…。

 不快に嫌がる、かなあ…。迷惑に感じる?

 人間と魔女の外見はよく似ているけど、似て非なる者。異種族だからやっぱダメ、とかもあるのかなあ…」


 腕を組んで唸る。声に出して言ってると、悪い方向へ考えが突き進んでしまう。


「レオンがフィンリーみたいな思考回路だと、異種族間は気にもしないんだろうけど。そもそもフィンリーが特異なのよね。確かにメイブは優秀で可愛いンダケド、一応ヒヨコだし…」


 見ていて判るが、フィンリーはけっしていい加減な気持ちや、面白がってメイブをかまっているわけじゃない。本当に心の底から、メイブに恋をしているのだ。

 メイブはのらりくらりと気持ちをはぐらかしているが、いずれはフィンリーの気持ちと真剣に向き合うのだろう。


「今の私がせめて16歳くらいだったら大丈夫なのかしら…。レオンは確か25歳だったっけ。……いけるいける」


 尾を引きそうなほど長い溜息を吐きだし、仰向けに寝転がった。両腕を横に伸ばす。


「メイブに話を聞いて欲しいけど、何かしているみたいだから邪魔出来ないし。こんな時、アデリナがいてくれたらなあ…」


 左目に溜め続けている魔力を使ったら、再び最低500年は溜め直さないといけない。アデリナが笑顔で隣に座ってくれるまで、また長い月日を待たねばならず。


 ぶんぶんぶん!


 勢いよく頭を横に振って、眉間に力を込めた。


「また思考が堂々巡り!王女様を助ける、先にね!」


 言い聞かせるように語気を荒くして言い、ガバッと身体を起こした。


「備えるためのお薬作っておかなきゃ。たくさん、たくさん」


 腕を上に伸ばし、のびをして、作業台前に立った。

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