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35話:モンクリーフの反省

 万全を期すために、モンクリーフの魔力が回復するまで、一週間ほど『癒しの森』で待機することになった。

 時間が出来たことで、レオンとモンクリーフは中間報告のためにメルボーン王国に戻っていた。


「アタシはてっきり、もっと早くデスロック山へ行こうって言いだすんだと思っていたわよ、レオン卿」


 隣を歩くモンクリーフをちらりと見て、レオンは小さく微笑む。


「アデリナ殿のことをロッティが話してくださいました。今はもう、ロッティを信頼して彼女に従うだけです」

「そっかあ…、話したのね、おねーさま」


 国王の私室へ向かいながら、モンクリーフは内心「うんうん」と頷いていた。


(道理でレオン卿もおねーさまも、憑き物が落ちたように晴れ晴れとした顔をしていたのね。お互い包み隠さず本心を話し合ったんだわ。良い傾向ね)


 レオンは早くチェルシー王女を助けたくて焦りに焦っていた。ロッティはアデリナのことを後回しにせざるを得ない状況に苦しんでいた。

 話し合っったところで状況は変わっていないが、2人のわだかまりが解けたことは喜ばしい。


(もっとも、アタシがこの状況を作り出した張本人ってことは、ホント申し訳ないんだけどね…)


 レオンに気付かれないように、小さくため息をついた。

 ロッティが出てくるまで、モンクリーフは「自分が悪い」とは思っていなかった。


「ぜーんぶ”曲解の魔女”が悪いのよ!」


 と思っていたのだ。

 しかし『フェニックスの羽根』探しをする中、自らの悪戯が引き起こした事態の大きさを、ジワジワ痛感するようになっていた。


(コウモリに悪戯しなきゃ、姫様は『魔女の呪い』を受けることはなかったし、おねーさまはアデリナを助けることが出来た…。はぁ、アタシが悪いんだわ。――”曲解の魔女”もだけど!)


 ちゃっかり”曲解の魔女”にも責任を半分押し付け、モンクリーフは顔を上げた。


(もう『フェニックスの羽根』は手に入ったも同然、姫様もすぐに助かるわ!またこの王城フラワータワーで一緒に暮らせるのよ)


 チェルシー王女との楽しい日々を頭に思い浮かべて、モンクリーフの顔が弛緩した。


(姫様は許して下さるわ。お優しいもの)


 楽観的思考で締めくくると、国王の私室に到着した。




 すぐ部屋に通された。

 2人は国王は臥せっているものとばかり思っていた。しかし国王はデスクについて書類の処理にあたっていた。


「おお、レオン卿に”霊剣の魔女”殿、報告を待っておったぞ」


 顔を上げた国王は笑顔だったが、やつれて心労がたたっているのがよく判る顔色をしている。威厳も薄れた痛々しい顔だった。

 レオンが報告する間、モンクリーフはポーカーフェイスを装いながら内心ダラダラと脂汗をかいた。


(へ、陛下の顔色が露骨に悪すぎる……。それに10年分は一気に歳を取ったみたいに老け込んじゃって…。ああ…アタシ本当に悪いことしちゃったんだわあああああ!)


 青空へ向かって大絶叫したい気分に蝕まれ、モンクリーフは心の中で国王と王女に土下座していた。



* * *



 『癒しの森』へ帰ろうとしたが、モンクリーフが妙に凹んでいる。


「どうされましたか、”霊剣の魔女”殿?」

「……」


 庭園にあるガゼボにモンクリーフを連れて行き、ベンチに座らせる。

 モンクリーフは両肩に雨雲を垂れ込め項垂れていた。いつもの勝気な元気さはすっかり鳴りを潜めている。


(急に落ち込んでしまって、一体どうしたんだろう。困ったな…)


 レオンは宮女を捕まえて飲み物を頼もうとしたが、廊下を歩いてくる文官を見つけて咄嗟に声をかけた。


「イザーク!」


 声をかけられた文官――イザーク・フリオは、驚いた様子で小走りに駆け寄ってきた。


「レオン・グローヴァーじゃないか!急に城から居なくなったりして、心配していたんだぞ」

「すまない、話している時間がなかったんだ。許せ」


 2人はガッシリ手を握り合う。


「んで、どうしたんだ?」

「うん。今は姫様をお助けするために、”癒しの魔女”殿と”霊剣の魔女”殿と一緒に『フェニックスの羽根』を探している」


 イザークは髪をかき上げ「あのことか」と呟く。

 レオンの鮮やかな赤毛とは対照的に、イザークはやや白に近い金髪だ。陽の光を弾いて眩しいくらいに輝いていた。


「そういえば市場に『フェニックスの羽根』が出回っていないか、調べるように命令が出ていて、別の部署の文官たちが躍起になって探していたな。陛下からの厳命だとかで」

「見つかったか?」

「いや、闇市なども詳しく調べているらしいが、報告は上がってないようだ」

「そうか…」

「重要なものなのか?」

「ああ、姫様をお救いするためには、欠かせないものなんだ」


 思い詰めた表情かおをするレオンに、イザークは陽気に笑ってみせた。


「なら、早く見つけて来いって、捜索している奴らのケツを蹴って奮起させといてやる!」

「おいおい、相変わらずだな」


 思わずレオンは声を立てて笑った。


「出自が平民いやしいもんで、礼儀なんて知らないんですマス」

「私も平民おなじさ」


 イザークも吹き出し一緒に笑った。

 レオンと同じように、イザークも貴族の家へ養子にもらわれた身だった。

 地位や身分、家柄が重視される城の中で、境遇が似ていることもあり、2人は気が合い親友と呼べる間柄になった。

 こうして笑いあっていると、心に巣食っていた嫌なものが洗われていくようだ。


(ああ…そうか…)


 この時、レオンはようやくロッティの心情を真に理解した。


(私にとってイザークは気の置けない親友であるように、ロッティにとってアデリナ殿は…。姫様を優先して下さったお気持ちに報いるためにも、『フェニックスの羽根』を必ず探し出す。そしてアデリナ殿のために、私に何ができるか考えなければな)


「ご歓談中申し訳ないケド……帰りましょうか、レオン卿…」


 元気のない様子で、モンクリーフがガゼボから出てきた。

 トボトボとした足取りをしていて、凹んでいる原因は解決できていないようだ。


「判りました、”霊剣の魔女”殿」

「身体に気をつけてな。あまり無理はするなよ」

「ありがとうイザーク。陛下をよろしく頼む」

「ああ、任せておけ」


 2人は再度手を握り合った。


「では、いっきまーす」


 モンクリーフの移動魔法が発動して、レオンとモンクリーフはその場から消えた。

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