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34話:安全策はドロボウ!

「おっまたせー!羽根の情報に絞れってことだったから、今度は凄い高確率の情報を提供するぜ」


 正午少し前になって、情報屋スピオンから通信が入った。


「あら、今回はやけにサービス精神旺盛じゃない?」


 ダイニングテーブルに両肘をついて、モンクリーフは訝し気な視線をスピオンに注ぐ。


「今朝グリゼルダ姐さんがいきなり顔出してよ…カイザーまで連れてきて。滅茶苦茶あのこぇえ微笑みで「ロッティちゃんたちに協力してあげてね♪」って言われたからな…。命かかってっから手なんか抜けるか」


 がくぶるっとスピオンは震えあがった。


「…そりゃ怖いわ…」

「はは…さすがグリゼルダ様…」


 モンクリーフとロッティは揃って顔を引き攣らせた。


(使い魔のドラゴンを引き連れて脅しに行けば、屈しないほうが無理ってものよ…)


 その時の様子を思い描き、ロッティの顔が更に引き攣った。

 地図の一か所に羽根が突き刺さる。


「場所はデスロック山、この山を根城にしている盗賊団マグナがいる。その盗賊団の頭目クラーク・ペッパーが、かなりの高確率で『フェニックスの羽根』を所持しているって噂だ」

「へえ~。ふふん、盗賊団相手ならアタシの出番じゃない?」


 戦闘の匂いを嗅ぎつけ、モンクリーフはつり目を更につり上げた。


「デスロック山の周辺地域にある村々のくすぶってた連中が仲間になっている。工夫や炭鉱夫あがりの腕っぷしの良い連中が相手だ。血の気も多いし、クラークは酒が入ってるとかなりの凶暴って言われてるな」

「なら、今度は俺たちの出番もありそうですね、団長」

「盗賊団マグナが相手なら、そういう機会も普通にありそうだな」

「あら、アタシが全部倒すわよ!魔力タンクだけじゃ鬱憤溜まっちゃうんだもの!ここまでイイとこなかったから、暴れてやるわ…本領発揮よ!」


 いきり立つモンクリーフの耳をつまみ、ロッティはため息をつく。


「襲い掛かってきたときは、にしておきなさい。加減しなさいよ、相手は一応人間なんだから」

「痛タタ…まかせて、おねーさま!」


 サムズアップして保証してみせる。


「デスロック山の盗賊団マグナは、世界的にも有名な荒くれ者たちです。すんなりとはいかなそうですが、本当に羽根を持っていれば嬉しいですね」

「うん。王女も早く救ってあげられる。期待したいところね」


 目的地の確認が出来たところで、席を外していたメイブが大きなバスケットを足で掴んで部屋に入ってきた。


「ぴよぴよ~」

訳:[ランチのお時間ですよ~]

「ありがとう、メイブたん!」


 気づいてフィンリーがバスケットを受け取る。

 中には色とりどりの具材を挟んだサンドウィッチがたくさん詰まっていた。


「美味しそう。ありがとうメイブ、テーブル片づけるわね」


 広げた地図をたたみ、水晶球を棚にしまう。


「俺、スープの鍋持ってくるよ」

「手伝おう」


 フィンリーとレオンが台所の方へ行き、メイブはサンドウィッチをバスケットから取り出して、テーブルの上に並べていった。

 ランチを整えるみんなの様子を見て、モンクリーフは不思議そうに眼を瞬いた。


「…なんだか、みんなスッキリしたような顔してない?」

「そう?」

「うん。おねーさまもレオン卿も、フィンリー卿もヒヨコも、なんだかこう…晴れた感じ?」


 ロッティは小さく苦笑いすると、ビシッと人差し指を突き付けた。


「働かざる者食うべからず。台所から運ぶの手伝ってきなさい!」



* * *



 ランチを囲みながら作戦会議になった。


「今回は『フェニックスの羽根』の居所が高確率で判ってる分、たくさんの精霊を走らせる必要がなさそうですね」


 レオンはローストビーフを切り分ける。突き出されてきた各自の皿に、ローストビーフを載せていった。


「これまでフワッとした情報だったからねえ。人間の無力さを実感させられたよ…あの大量の精霊の働きを目の当たりにすると」


 思い出しながら、フィンリーは切なくため息をつく。


「魔女だって精霊の力を借りないとだから、人間と大差ないわ」


 紅茶をカップに注ぎながら、ロッティは小さく笑った。


「デスロック山はちょっとメンドクサイ場所よネ、あのツンツン山」

「モンクリーフ行ったことあるの?」

「大地のエレメント操作の練習で何度か行ったことあるわ。160年くらい前かしら」

「そうだったのね。ツンツントゲトゲした岩の集合で構成されてるから、人間の足だと歩き回るのも一苦労する筈。あんなところを根城にするなんて酔狂もいいところだわ」


 ロッティとモンクリーフは顔を見合わせ肩をすくめた。


「ぴよぴよ」

「標高は高くないのと、多分地下が充実してるんじゃないかな、ってメイブたんが」

「地下かあ…」


 紅茶を啜りながら、ロッティは眉間に皺を寄せる。


「メイブの指摘通りかも。地下だわ、アジトを作っているんだったら」

「デスロック山のある一帯ララハ地方は、不毛な地が広く続いているんでしたね」

「土地が痩せてて農作物が育ちにくいのよ。砂漠の国ムーンサンドとも隣接しているし、可哀想な所だわ。炭鉱が少しあるけど、近隣の住民は困窮しているってよく耳にするわね…」

「それで盗賊団が」

「うん」


 思わずみんな黙り込んだ。


「で、どうやって『フェニックスの羽根』を奪取するの!?」


 モンクリーフが声をあげると、


「盗みに入ろう」


 そうフィンリーが明るく提案した。


「私たちまで盗賊と同じ真似をしろというのか!?」

「だって団長、盗賊と買い取り交渉したところで、足元見られるどころか王位を寄越せー!国を差し出せ!とか絶対言いそうじゃん」

「だからといって、盗みに入るなど」

「まあフィンリーの言う通り、買い取り交渉はまず考えないほうが良さそうだし。事を荒立てず、こっそりいただくなら泥棒するしかないわね」

「ぴよ!」

訳:[やっちゃいましょう!]

「ええ…」


 ロッティとメイブまで賛成の意を表明し、レオンはあんぐりと口を開けた。

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