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33話:『魔女の呪い』の解呪方法

「強力な呪いを打ち払うほどの、強力な命の輝き。魔女の持つ魔力は、生命からこぼれ出る命の輝きよ。それを大量に呪いに注ぎ込むことで打ち払える。でもそれだけじゃなく、私の固有魔法”癒し”の力も同時に注ぎ込まないと、呪いによって痛めつけられた魂と肉体を助けられないの」

「だから、ロッティにしか解呪出来ないんですね」

「うん」


 左目に貼り付けてある赤い丸ボタンにそっと触れる。


「方法は見つけたけど、実行するだけの魔力がなかった。前にも話した様に、他の魔女の魔力は使えない。だから左目に魔力を溜め続けてきたの。フェニックスの羽根があっても、この『癒しの森』の力を総動員しても、私自身に膨大な魔力がない限りは出来ない。

 本当に厄介な呪いよ」


 レオンはロッティに頭を下げた。


「本当にすみません、大切な親友を差し置いてまで…」

「いいのよ。助けるのが遅れるだけで、アデリナは死なないもの、魔女だからね」


 寂しそうに笑むロッティの表情かおを見て、レオンの胸が痛む。


(親友のための力を使わせようとしている。『フェニックスの羽根』も見つけられれば、それはアデリナ殿の為のものなのに。

 私はずっと急かせながら、天秤にかけるような思いをさせていたのだな…。さぞ辛かっただろう)


「言っとくけど」


 顔を上げたレオンをロッティはジッと見つめる。


「モンクリーフとコンセプシオンのせいだから、王女様やレオンは何も悪くないからね!勝手に責任感じて落ち込まないでよ?」

「…お見通しですね」

「レオンは真面目だもの。顔にも出易いし、判るわさすがに」

「未熟です」


 照れ隠しのために頬を指で掻き、苦笑を浮かべた。


「アデリナは人間が大好きなの。だから、王女様を先に治すことを大賛成してくれるわ。自分が差し置かれてもね。逆に見捨てようものなら、絶交されてしまう。そしてこの事態を招いたのは魔女の仕業。だから、何もできていないなんて思わないで」

「…事情も知らず急くあまりに、ロッティを追い詰める態度を取っていました」

「そうね、神経をチクチク煽ってくる勢いだったわよ?」

「本当にすみません!」

「ふふっ。まあ私も色々と態度に出ちゃっていたから、おあいこ、ってところかな」


 大人びた表情で微笑むロッティを、レオンは眩しく見つめた。


(ああ…、愛おしい笑顔だ)


 どこか晴れ晴れとしたロッティの笑みに、レオンは心が締め付けられるような感覚を覚えた。


「色々話して、なんかスッキリしちゃった。伏せていたり秘密にしていることがあると、余計に心が煽られちゃうよね。なんでも共有してればいいってわけじゃないけど、大事なことは早めに打ち明けたほうが、お互いのためよね」


 レオンは深く頷く。


「今回のことでそれを痛感しました。私はロッティの事情を知らないから、自分のことだけで頭を悩ませていました。事情を知ったからには、アデリナ殿を優先してくださいと言うべきだと思います。しかし本心は、チェルシー王女を先に助けてほしい」

「うん。さっきも言ったけど、アデリナは魔女だから死なないわ。助けるのがちょっと先に延びるだけ。でも王女様は人間だから長くは無理。

 大丈夫よ、私は王女様を見捨てたりしないわ。だからね、そこだけは安心して」


 椅子から立ち上がると、ロッティの傍らに膝をつき頭を垂れた。


「ありがとうございます、”癒しの魔女”ロッティ・リントン。メルボーン王国を代表し、改めてお礼申し上げます」



* * *



「あの2人、くっつくといいよねえ」

「ぴよぴよぴよぴよぴよぴよ」

訳:[ご主人様はお気持ちをあからさまに示していますし、レオンしゃんが受け入れたら、丸っと解決なのです]


 小屋の窓からロッティとレオンの様子を眺め、フィンリーとメイブは2人の恋の行方に花を咲かせていた。


「団長は堅物で物凄く真面目だけど、団長のあの表情、ちょっと明るい方向へ転ぶかもしれないと予想する」

「ぴよぴよぴよ、ぴよぴよぴよぴよぴよ」

訳:[ご主人様にとって、親友はアデリナ様だけです。でもレオンしゃんは、パートナーになってくれるかもしれない。そうすれば、ご主人様の大きな支えになります]

「パートナーか…。なるよ、きっとね」


 木々の隙間から一瞬挿し込んだ光を受けて、フィンリーの顔が眩しく輝く。美麗なおもてが一層際立った。


(フィンリーしゃんは、ハンサムですね)


「俺はメイブたんのパートナーだから、4人家族になるわけかあ」

「ぴ…よ…」


(いつの間にわたくしめのパートナー…)


「ところでメイブたん。メイブたんは人語を解せるけど、文字は読めたりする?」

「ぴよ?」

訳:[文字ですか?]

「うん」


 思わぬことを訊かれて、メイブは目をぱちくりさせた。そして気まずそうに視線を泳がせる。


「ぴよぴよ…」

訳:[実は、あんまり…]


 あらゆる知識は口頭で教わってきたので、書物を読む必要もなかった。情報は視覚と音で覚えることが殆どだから、文字に触れる機会はあまりなかった。


「そっかそっか。じゃあさ、簡単な文字を覚えて、それでロッティちゃんをビックリさせちゃおうよ!」

「ぴよ!?」

「コミュニケーション手段を増やして、メイブたんの気持ちや考えをより正確に伝えられるようにするんだ。気持ちは通じても正確に意図が伝わってないと辛いこと、この先もあると思うんだ」

「ぴよ…」

訳:[そうですね…]


 自信がなさそうに俯くメイブに、フィンリーはにっこり微笑んだ。


「最初は少ない言葉でも、それだけでも正確に伝えることが出来たら、お互い凄くハッピーだよ」

「ぴよ」

「ロッティちゃんには秘密で、俺と一緒に練習しよう!ね、メイブたん!」


 心に沸く言葉の片鱗でも伝えられる。少ない言葉でも、正確に伝えられる。


(それは素晴らしいことなのです)


 メイブのつぶらな瞳に光が揺蕩った。


「ぴよぴよ!」

訳:[練習するのです!]

「よっしゃあ!」


 掌に載せたメイブを、フィンリーは高々と上に掲げた。

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