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26話:ペコソ集落の有様

「フェニックス目撃ポイント3か所目、だけど…」


 目の前の現実に、フィンリーはあんぐりと口を開けて押し黙る。


「この有様は一体…何があったんだ」


 一歩前に踏み出し、レオンは掠れた声をようやく絞り出した。

 黄色がかったベージュ色の砂が一面に敷き詰められ、崩壊した建物の廃墟が陽光の元に照らし出されている。

 砂漠の国ムーンサンド。文字通り国土のほとんどは砂漠に覆われ、オアシスを中心に小さな町や集落が点在する。

 ここは辺境の地にある集落の一つ『ペコソ』。

 住民はわずか100名にも満たない小さな集落だ。

 湧き出た地下水の大きな池の周りには緑が茂り、その周りに日干しレンガ作りの家屋が並ぶ。

 隊商路の経由地でもあるので、小さいながらも賑わっている。

 はずが。


「砂嵐じゃないわ。ここいらで砂嵐が起こる季節じゃないし、明らかに何かが暴れまわった後ね」


 酢を飲んだような表情かおでロッティが言うと、肩に留まっていたメイブが大きく頷いた。


(これは、砂漠に出る怪物砂芋虫サンドワームの暴れた後でしょうか…)


 集落の敷地は砂に飲み込まれてしまっている。池の半分は砂で埋まり、家屋は廃墟のように崩され、緑しげる木々もなぎ倒されていた。


「おねーさま!人が倒れてる」


 モクリーフが指し示すところに、俯せに人が倒れていた。

 ロッティはローブを翻して慌てて駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


 まだ若い青年で、意識はなく呼吸は弱いが生きているようだ。


「一刻も早く治療しなきゃ…!メイブは少しでも心の痛みをやわらげてあげて!」

「ぴよ!」


 周囲を見渡すと、若い青年の近くにも倒れている住民の姿があった。

 メイブは目につく住民から、『心を癒す』固有魔法を使って元気づけていく。


「メイブたん俺も手伝う!」

「待って!」


 駆け出すフィンリーをロッティは止めた。


「レオン、フィンリー、モンクリーフの3人は羽根を探して。私たちはここの人達を治療するから」

「数が多すぎます。我々もお手伝いしたほうが」


 ロッティの傍に片膝をついたレオンに、ロッティは否定するように首を横に振る。


「大丈夫、メイブと2人でやれるから。手分したほうが良いわ。3人は羽根をお願い。『フェニックスの羽根』の確保も大事なことだから」

「ロッティ…」


 頑なともとれるロッティの態度に、レオンは困惑して眉を顰めた。


(もしや、私の逸る気持ちを優先してくれているのか…)


「この国の救援を待ってる時間はナイし、だからといってここの人達を見殺しには出来ない。でも、みんなで救援に手間を割いていたら、羽根探しがずっと遅れてしまうでしょ。だから手分するの」


 青年の手当てをしながら、ロッティは少々声を荒げた。


「ぴよぴよぴよ!」

訳:[フィンリーしゃん、レオンしゃんを連れて早く行くのですよ!]


 メイブに促され、フィンリーは一瞬ためらったが頷いた。


「団長、俺たちは羽根を探しに行きましょう。適材適所、俺たちでやれることをやりましょう」

「…そうだな。フィンリーの言う通りだ」


 レオンはロッティを見つめ、そして立ち上がった。

 結論は出ている。問答する時間が惜しい。


「さあ、2人とも行きましょう」


 モンクリーフに続いて、フィンリーとレオンも従った。



* * *



 見渡す限り砂、砂、砂。

 雲一つない青空の下には、一面砂漠しかない。

 変化のない光景に、フィンリーはゲッソリと項垂れた。


「俺、砂漠って初めて来たけど、うんざりするな…」

「ホントよねえ…。なーんにもなさすぎ!」

「『フェニックスの羽根』も見当たらないな。レッドホット火山のように、砂に埋もれて見えないってことかもしれん」

「あー、団長の言う通りカモ」


 水筒を手にフィンリーは頷く。


「ってことは、またロッティちゃんに精霊を使ってもらわないと、砂の下は無理だね」


 砂は柔らかいといっても膨大な量だし、砂漠の広大さを思えば人の手には余る。


「”霊剣の魔女”殿は精霊召喚魔法を使えないんですか?」


 レオンの顔をチラッと見て、モンクリーフは露骨に舌打ちした。


「ふっ…無理」

「そうですか…」


 ガッカリ感をのせたレオンに、モンクリーフは歯ぎしりしながらギャンギャン噛みついた。


「悪かったわね!私の性に合わないのよあんな召喚魔法は!何度やっても精霊が怖がって近寄ってこないし可愛げのない!」


 あまりの剣幕に、レオンはタジっとさがる。


「攻撃性むき出しの魔力って、前にロッティちゃん言ってたっけ…」

「ふん!」


 盛大にそっぽを向いて、モンクリーフは拗ねた。


「魔法には得手不得手があるの!」

「はい…」


(彼女はまだ若いから――300歳だが)


 とレオンは思うことにした。




 3人はペコソ集落の周辺をくまなく探し歩いた。

 モンクリーフが魔法で風を起こして、砂を巻き上げながら捜索もした。しかし地中深く埋まっている場合は、簡単な風魔法程度じゃ掘り返せない。出来る範囲では『フェニックスの羽根』は見つからなかった。

 すでに陽が落ち始め、気温もだいぶ下がり始めていた。


「一旦集落へ戻りましょう。ロッティの様子も気になります」

「そうだね。集落の片づけとか出来ることは色々ありそうだし。やっぱ精霊召喚に頼るしかなさそうかなあ…これじゃ『フェニックスの羽根』探しは無理だ」


 3人は頷くと、ペコソ集落へ戻った。

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