「フェニックス目撃ポイント3か所目、だけど…」
目の前の現実に、フィンリーはあんぐりと口を開けて押し黙る。
「この有様は一体…何があったんだ」
一歩前に踏み出し、レオンは掠れた声をようやく絞り出した。
黄色がかったベージュ色の砂が一面に敷き詰められ、崩壊した建物の廃墟が陽光の元に照らし出されている。
砂漠の国ムーンサンド。文字通り国土のほとんどは砂漠に覆われ、オアシスを中心に小さな町や集落が点在する。
ここは辺境の地にある集落の一つ『ペコソ』。
住民はわずか100名にも満たない小さな集落だ。
湧き出た地下水の大きな池の周りには緑が茂り、その周りに日干しレンガ作りの家屋が並ぶ。
隊商路の経由地でもあるので、小さいながらも賑わっている。
はずが。
「砂嵐じゃないわ。ここいらで砂嵐が起こる季節じゃないし、明らかに何かが暴れまわった後ね」
酢を飲んだような
(これは、砂漠に出る怪物
集落の敷地は砂に飲み込まれてしまっている。池の半分は砂で埋まり、家屋は廃墟のように崩され、緑しげる木々もなぎ倒されていた。
「おねーさま!人が倒れてる」
モクリーフが指し示すところに、俯せに人が倒れていた。
ロッティはローブを翻して慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
まだ若い青年で、意識はなく呼吸は弱いが生きているようだ。
「一刻も早く治療しなきゃ…!メイブは少しでも心の痛みをやわらげてあげて!」
「ぴよ!」
周囲を見渡すと、若い青年の近くにも倒れている住民の姿があった。
メイブは目につく住民から、『心を癒す』固有魔法を使って元気づけていく。
「メイブたん俺も手伝う!」
「待って!」
駆け出すフィンリーをロッティは止めた。
「レオン、フィンリー、モンクリーフの3人は羽根を探して。私たちはここの人達を治療するから」
「数が多すぎます。我々もお手伝いしたほうが」
ロッティの傍に片膝をついたレオンに、ロッティは否定するように首を横に振る。
「大丈夫、メイブと2人でやれるから。手分したほうが良いわ。3人は羽根をお願い。『フェニックスの羽根』の確保も大事なことだから」
「ロッティ…」
頑なともとれるロッティの態度に、レオンは困惑して眉を顰めた。
(もしや、私の逸る気持ちを優先してくれているのか…)
「この国の救援を待ってる時間はナイし、だからといってここの人達を見殺しには出来ない。でも、みんなで救援に手間を割いていたら、羽根探しがずっと遅れてしまうでしょ。だから手分するの」
青年の手当てをしながら、ロッティは少々声を荒げた。
「ぴよぴよぴよ!」
訳:[フィンリーしゃん、レオンしゃんを連れて早く行くのですよ!]
メイブに促され、フィンリーは一瞬ためらったが頷いた。
「団長、俺たちは羽根を探しに行きましょう。適材適所、俺たちでやれることをやりましょう」
「…そうだな。フィンリーの言う通りだ」
レオンはロッティを見つめ、そして立ち上がった。
結論は出ている。問答する時間が惜しい。
「さあ、2人とも行きましょう」
モンクリーフに続いて、フィンリーとレオンも従った。
* * *
見渡す限り砂、砂、砂。
雲一つない青空の下には、一面砂漠しかない。
変化のない光景に、フィンリーはゲッソリと項垂れた。
「俺、砂漠って初めて来たけど、うんざりするな…」
「ホントよねえ…。なーんにもなさすぎ!」
「『フェニックスの羽根』も見当たらないな。レッドホット火山のように、砂に埋もれて見えないってことかもしれん」
「あー、団長の言う通りカモ」
水筒を手にフィンリーは頷く。
「ってことは、またロッティちゃんに精霊を使ってもらわないと、砂の下は無理だね」
砂は柔らかいといっても膨大な量だし、砂漠の広大さを思えば人の手には余る。
「”霊剣の魔女”殿は精霊召喚魔法を使えないんですか?」
レオンの顔をチラッと見て、モンクリーフは露骨に舌打ちした。
「ふっ…無理」
「そうですか…」
ガッカリ感をのせたレオンに、モンクリーフは歯ぎしりしながらギャンギャン噛みついた。
「悪かったわね!私の性に合わないのよあんな召喚魔法は!何度やっても精霊が怖がって近寄ってこないし可愛げのない!」
あまりの剣幕に、レオンはタジっとさがる。
「攻撃性むき出しの魔力って、前にロッティちゃん言ってたっけ…」
「ふん!」
盛大にそっぽを向いて、モンクリーフは拗ねた。
「魔法には得手不得手があるの!」
「はい…」
(彼女はまだ若いから――300歳だが)
とレオンは思うことにした。
3人はペコソ集落の周辺をくまなく探し歩いた。
モンクリーフが魔法で風を起こして、砂を巻き上げながら捜索もした。しかし地中深く埋まっている場合は、簡単な風魔法程度じゃ掘り返せない。出来る範囲では『フェニックスの羽根』は見つからなかった。
すでに陽が落ち始め、気温もだいぶ下がり始めていた。
「一旦集落へ戻りましょう。ロッティの様子も気になります」
「そうだね。集落の片づけとか出来ることは色々ありそうだし。やっぱ精霊召喚に頼るしかなさそうかなあ…これじゃ『フェニックスの羽根』探しは無理だ」
3人は頷くと、ペコソ集落へ戻った。