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14話:ロッティとレオンサイド

* *


 さっきは本当にドキドキしちゃった…。顔が赤くなったりして、私ヘンだわ。

 あんな風に危険な状況で、お姫様抱っこされたのが初めてだったから?きっとそうね。

 普段の生活に、異性がいることは殆どないもの。接触する機会があるとすれば、せいぜい街や村ですれ違ったり、治療したりする時くらいだし。

 レオンは好みの顔だし、紳士ジェントルだから意識しちゃったのかもしれない…。


* *



「足場に気を付けてください。ここは少し歩きづらいです」

「うん、ありがとう」


 レオンに手を引かれながら歩くロッティの顔は、いまだ茹タコのように真っ赤なままだ。

 足裏が痛くなるほどゴツゴツとした地面を歩きながら『フェニックスの羽根』を探すが、どこを見渡しても黒い煤けた色しか見えない。


「レッドホット火山は頻繁に噴火する活火山、もしフェニックスが羽根を落としていたとしても、溶岩に飲み込まれている可能性がありますね。或いは、風に飛ばされてしまっていることも」


 ロッティの歩幅を意識しながら、レオンはゆっくりと丁寧になだらかな斜面を歩く。

 勾配はそれほど急ではないが、平らではなく足を取られやすいので危ない。冷え固まった溶岩が尖っているところも多く、滑りやすい砂利も多かった。


「そうね。溶岩の中に埋もれていたら、さすがに肉眼で見つけるのは不可能だわ」


 レオンの言葉に、ロッティは少し感情に落ち着きを取り戻す。

 3方向に分かれて頂上から下りながら探しているが、このまま山を下ったところで羽根がある保証はない。風で飛ばされていたら、ドコを探せばいいのか見当もつかない。


「『フェニックスの羽根』がせめて探索魔法に引っかかるものならよかったんだけど。こんな原始的に歩いて探さなくてもいいのに」


 口をへの字に曲げるロッティを見て、レオンは表情かおを曇らせた。


「申し訳ありません。私がもっとお役に立てれば、あなたにこんな苦労をさせなくてすんだのに…」

「え、くっ、苦労なんて思ってないわ!探索魔法にかからない羽根が悪いのよ!そう、羽根のせいなのよ!」


 つい口をついてしまった愚痴が、レオンの落ち度だと受け取られてしまい、ロッティは慌ててまくしたてた。


(いやだわ、言い方が責めているように聞こえてしまったのかしら!?)


 背中でダラダラ冷や汗をかく。

 慌てふためくロッティの様子を見て、レオンは嬉しさを滲ませ微笑んだ。


「”癒しの魔女”殿は、お優しいのですね。気遣って下さり、ありがとうございます」

「そ、そんなことナイわ…」


 再び真っ赤になるのが止められない顔を見られたくなくて、誤魔化すように急いで俯く。毛先が青く染まったアホ毛が、感情を表すように不規則に揺れる。圧迫感を感じる耳の奥が「ドクドクドクドク」と急に喧しく騒いだ。


(集中しなきゃ……集中、集中!)


「時間までは下りながら探し、合流したら対策を考えましょう。この山にあるのなら、本国に依頼して人を送ってもらうか、現地で人を集めるなりして、探す方法はあるでしょう」

「うん。これだけ広い山だから、人海戦術のほうが見つけるの早いのは確かだわ。でも、溶岩に埋もれている場合は、人間の手じゃどうしようもない。時間もかかりすぎるしね。あまり使いたくなかったテだけど、それをやる必要あるかも…」

「”癒しの魔女”殿?」


 言葉尻を濁らせたロッティに、レオンは不思議そうに首をかしげる。陽の光を弾いて赤毛がサラッと流れて煌めいた。それを目の端に捉え、「キレイ…」とロッティは心の中で呟く。


「あ、あと、その…」

「はい?」

「ロ…ロッティ、でいいわ。なんか、他人行儀みたいだし通称呼びって…」


 急にぶっきらぼうな口調で、どこか拗ねたように言う。そんなロッティを見て、名前で呼ぶよう示唆していることにレオンは相好を崩した。


「判りました、ロッティ」


 そして「クスッ」とレオンは笑った。




 3分の2くらいまで山を下ったところで、約束の時間になった。


「ナイですね…」

「本当に…」


 少しも変わり映えしない黒い地面を眺め渡し、レオンとロッティは揃って肩を落とす。

 すぐに見つかるとは思っていなかったが、「見つかればいいのに」という期待はしていた。


「『フェニックスの羽根』がこの山にあるとして、可能性としては、この冷え固まった溶岩の中に埋もれているかもしれない。それか、フィンリーか”霊剣の魔女”殿のほうで見つかる可能性、ですかね」

「モンクリーフかメイブが見つけていたら、2人からすぐ連絡が飛んできていると思う。それがないから、きっと見つけられてないわね」

「そうですか…厳しいですね」


 レオンは軍靴のつま先で地面を軽くつつく。とても硬くてすぐどうこうできるものじゃない。掘り出すなら、多くの人員と頑丈な道具がマストだ。


「それにしても」


 ロッティは憤然と腰に両手を当てて、薄っすら煙が空へ登る頂上を見上げる。


「何故再集合場所が頂上なの!せっかく下ってきたのに、また登らなくちゃいけないじゃない!どう考えてもおかしい!」

「…確かに、言われてみるとそうですね」


 レオンもゲッソリした表情かおで頂上を見上げた。さすがにもう一度登るのは勘弁してほしいのが本音だ。


「上にいたときは、ちょっとボーっとしちゃってたから、うっかり同意してしまったけど。モンクリーフのやつ、自分都合で決めたでしょ絶対!

 ったくもう…。今はあまり余分に魔力使いたくないのよ」


 『魔女の呪い』を解呪するための魔力を、左目に溜め続けている。その為今は魔力消費を極力抑えていた。

 ふと何かに気づいたように、レオンはロッティに顔を向けた。


「メイブ殿は浮遊魔法を使っていましたよね。”霊剣の魔女”殿もきっと出来るはず?なので、3人にこちらに合流してもらうのはどうでしょうか。我々が動くより早く合流できるはずです」

「レオン、それナイスアイデア!」


 ロッティは満面の笑みで、ガッシリ拳を握った。

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