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わたくしめは人語を解しますが、鳥類で雌のヒヨコ。そして魔女の使い魔なのです。
人間ではありません。
だから人間であるフィンリー・シャフツベリーの思考回路が理解できません。
わたくしめに対する感情は、人間の女性に向ける恋愛感情そのもの!
ド直球で正真正銘の恋愛感情を飛ばしてくるのですよ!
フィンリー・シャフツベリーの性癖が、ヒヨコに恋愛感情を抱くものであったとしても、わたくしめから見れば異常そのものなのです!
こんな奇異な状況ではありますが、わたくしめはちょっと「嬉しい」と思ってしまうことがあります。
そう…、わたくしめの言葉を理解してもらえている、その点だけは嬉しいのです。
これがご主人様とだったら、どんなに喜ばしく幸せなことだったでしょう。
しかし何故フィンリー・シャフツベリーは、わたくしめの言葉を理解することができるのでしょうか?
大いなる謎です。
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「こんな辺鄙な場所の山下りを苦にも感じない程、俺はメイブたんと一緒で幸せなんだよ!」
「ぴ…ぴょ…」
訳:[それは…なによりなのです…]
レッドホット火山は草木一本生えていない禿山で、十数年起きに頻繁に噴火する超活火山である。常に噴火する危険性をはらんでいるため、生命にとっては厳しい処だ。
辺りは煤けたような黒い冷え固まった溶岩で埋め尽くされ、平らなところはなく足場が悪い。
そんな地表をスイスイと軽々飛び跳ねるフィンリーを、メイブは驚きのまなざしで見ていた。
「ぴよぴよぴよ」
訳:[そんなに激しく動いていたら、すぐ疲れちゃうのです]
「ありがとうメイブたん!でも大丈夫、こう見えて体力だけは底なしだから!」
メイブに向かってガッツポーズをとる。
2人は『フェニックスの羽根』が落ちていないかくまなく見て動いていたが、生憎『フェニックスの羽根』は見当たらない。これだけ黒々とした地面なら、あれば光って目立つだろう。
「ぴよぴよぴよよ」
訳:[フィンリーしゃん、突然ですが、レオン・グローヴァーとはどのような人物なのですか?]
「メイブたん!」
急にフィンリーはベソ顔になって、よろめくようにメイブに迫った。
「訊くなら俺のことを訊いてくれないと!俺、泣くよ!!」
「ぴ…ぴよぴよ」
訳:[い…いや、ご主人様のためにです…]
「なんだ、そっかそっか」
ウンウンとフィンリーは納得して大きく頷く。
「ロッティちゃん、団長にちょっとラブが目覚めた感じだったよね。初級編程度だけど。判りやすく態度に出ちゃってて、ナンカ可愛い」
「ぴよぴよぴよよ」
訳:[ご主人様は恋愛未経験、恋愛免疫ゼロなのです]
「そりゃあ、まだ10歳児ならそんなもんじゃない?」
「ぴよぴよ!」
訳:[ご主人様は10歳児じゃありません!」
「え?」
「ぴよぴよぴよぴよぴよ!」
訳:[ああ見えて立派な900歳なんですのよ!」
メイブは声を荒げたが、”ハッ”となって嘴を抑えた。
(思わず本当のことを言ってしまったのです!すみませんご主人様!お口が滑り台しちゃいました!)
「…ははっ、冗談キツイよメイブたん。あんな可愛い900歳なんて、俺、見たことないから」
目にかかる黒髪をかき上げながら、フィンリーは軽く笑い飛ばした。
「ぴよぴよぴよ!」
訳:[冗談なんて言ってません!本当なんです!]
フィンリーの頬っぺたを小さな足で蹴とばしながら、メイブは必死に抗議する。
あまりに怒るメイブを見て、フィンリーは目が点になった。
「マジ?」
「ぴよ」
訳:[マジ]
ガクッとその場にしゃがみこんで、フィンリーは大きく息を吐きだした。
「900歳……想像もつかん」
「ぴよぴよぴよ」
訳:[ご主人様は現在8回目の人生を生きておられます。それで10歳児のお姿なのです」
「あー…、そういえば情報屋スピオンとそんな会話をしていたなあ」
と思い出し、フィンリーはメイブを見上げた。
「それって生まれ変わり系とか?」
「ぴよぴよ」
訳:[そんなのじゃないですよ」
「ほむ…」
「ぴよぴよぴよ!」
訳:[それよりも、レオンのことを教えるのです!]
「おぅ」
ひょいっと立ち上がって、フィンリーは空を仰ぐ。
「そうねえ…真面目で我慢強く、責任感の塊。ちょっと頑固なところもあるけど、優しくて思いやりに溢れてるかな。絵に描いたような好い人」
「ぴよよ」
訳:[ほほう]
「団長はさ、グローヴァー男爵家の養子なんだ。元は平民出身で、引退した
何かを思い出しているのか、フィンリーは複雑な色の苦笑を口元にはく。
「俺は貧乏男爵家の次男で、家督を継ぐ必要もないからさ、家の体裁のためって理由で騎士団へ入れられちゃったのよ。でも名ばかりの貧乏貴族なモンだから、肩身せまくって。ははっ、それでなんかミョーに団長にシンパシー感じちゃってね。だからってわけでもないけど、団長の誠実なところは好きだよ。ロッティちゃんが団長を好きになっても、安心してって保証できる」
「ぴよ…」
どこか自嘲気味に笑うフィンリーの顔を見て、メイブは小さく頷いた。
言葉の中にチラホラ見え隠れするフィンリーの一面に気づいて、メイブは少しだけフィンリーへの猜疑心を緩めた。
(愛してるとか好きだとか言われても、全面的に受け取ることはまだできません。でも、そんなドストレートなフィンリーしゃんにも、悩みとか色々な気持ちがあるのですね)
一見、頭もノリも軽そうに見えるが、それだけじゃないことにメイブは気付いた。
「俺は家を継ぐ必要がないから、いつだってメイブたんに婿入り出来るから安心して!」
シャキーンとキメた白い歯が眩しい。
それをつくづくと眺め、メイブの小さな頭の中には困惑の暗雲が垂れ込めた。
(言葉が判り、会話が成り立つことはあっても、だからといって相手を本当に理解することは難しい。800年生きてきて、こんなことは初めてなのです。相互理解とはハードルが高いものなのですね…)
明後日の方向に顔を向け、メイブは薄く笑った。