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11話:情報屋スピオン

 『癒しの森』に戻ったメイブは、みんなのためにお茶とお茶菓子の準備をしに台所に飛んできた。


(ご主人様は相変わらずお優しいのです。チェルシー王女の濡れ衣を払拭し、小娘が後々謝りやすいようにお膳立てし、イメルダしゃんを治してあげました。そして”曲解の魔女”の誤解を解いて、チェルシー王女に謝るよう促して…)


 浮遊魔法を使って、食器棚からティーカップのセットを出してトレイに並べる。


(これから『フェニックスの羽根』を探し出し、『魔女の呪い』を打ち祓わなくてはならないというのに、ご主人様は多方面に気配りと配慮の出来る、素晴らしいお方なのです)


 メイブにとってロッティは最高のご主人様。自分のことのように誇らしい気持ちになるのだ。

 ティーポットから注がれる紅茶の、小さな雫がぽとりとカップに落ちるさまを見て、メイブは急に表情を曇らせる。


(でも、請われたとはいえ、チェルシー王女のために左目の魔力を使うことになるのは、苦渋の決断を迫られたでしょうね…。お言葉には出しませんが、きっと複雑なお気持ちになって落ち込んでいるハズなのです)


 カップに紅茶を注ぎながら、メイブは辛そうに天井を仰いだ。

 左目についている赤い丸ボタンに何度も触れて、消沈した表情かおをしていたロッティを思い浮かべる。


(『フェニックスの羽根』がいっぱい見つかれば、全てがまるっと解決!とかできればいいのですが。『フェニックスの羽根』自体希少すぎて、果たして見つかるか心配なのですよ)


 ビンに入っているバタークッキーをお皿に並べて、トレイの上に載せた。


「お!メイブたんみーっけ♪」

「ぴよ」


 ひょいっとした仕草で台所に顔を出したフィンリーは、嬉しそうにメイブに駆け寄った。


(そういえば、こやつのことを忘れていたのですっ!)


 メイブは思わずティーポットの陰に隠れた。


「メイブたん、かくれんぼ?」

「ぴ…ぴよ…」

訳:[ち…ちがうのです…]


 フィンリーの顔が間近に迫って、メイブはおっかなびっくりティーポットに張り付いた。


「良い香りの紅茶とクッキーだね。一人で用意しちゃうなんて、メイブたんは有能なんだねえ。これ、あっちに持っていけばいい?」


 そう言ってフィンリーはトレイを持ち上げた。


「ぴよ、ぴよ」

訳:[わたくしめが、自分でやるのですよ]

「いいのいいの。恋人たるもの、愛するレディに重いものは持たせません」


(…こ…恋人…??)


 台所を出ていくフィンリーの背中を見送りながら、メイブの小さな頭の中は大混乱の極みに陥っていた。



* * *



「さて、まずはスピオンにフェニックスの居場所を訊きましょうか。メイブ、世界地図を持ってきて」

「ぴよ」


 ロッティは棚に置いてあったバスケットボールくらいの大きさの水晶を、ダイニングテーブルの上に置く。

 メイブが別室から、折りたたまれた古びた地図を銜えて持ってきた。

 ダイニングテーブルの上に地図が置かれると、地図は自動的にヒラヒラと広がった。


「準備おっけぃね」


 水晶に手をかざし、ロッティは呼びかけた。


「スピオン聴こえる?”癒しの魔女”ロッティ・リントンよ」


 やがて水晶に、止まり木に止まっている小さなコマドリが映し出された。レオンとフィンリーが思わず身を乗り出し水晶を見つめる。


「おや、”癒しの魔女”じゃん!なんかちっこくなったか?」

「今8度目の人生で、10歳児よ。最後に顔を見せたのは30年くらい前だったかしら?」

「んだんだ。時が経つのは早いもんだぜ!で、何が知りたいんだい?」


 広げた翼をパタパタさせて、スピオンは目をぱちくりさせた。


「フェニックスを探しているの。フェニックスが今どこにいるのか、それか、フェニックスが滞在していた場所が知りたいのよ」

「まあたフェニックスかあ…。確か前もそんな依頼を受けた気がするんだぜ?」

「400年くらい前かしらね」


 翼をくちばしの下に器用にあてて、まるで人間のような仕草でスピオンは記憶を辿った。


「そうだそうだ。だが、あんときゃ見つからなかったっけな。まあ、おっけぃ。お代は高いよ?」

「フッ、私に借りが5つもあるわよね。それで清算していただこうかしら」


 スピオンは動きを止めて押し黙る。


「ぴよぴよ!」

訳:[ご主人様からぼったくろうなんて、考えるだけ無駄なのですよスピオンしゃん!]

「ぼったくろうなんて考えてないってメイブちゃん。んー、判った!フェニックスの情報提供で貸しをチャラにしてもらえるんだったら、それで引き受ける!」

「商談成立ね♪」

「ちょっと通信開いたまま待ってろよ」


 そう言って、スピオンは飛び立って水晶から一時消えた。


「あ…あの、”癒しの魔女”殿」

「うん?」

「コマドリが喋っていました…」


 黙っていたレオンが、恐る恐る指摘する。


「ああ…。人間からしたら不思議な光景よね。彼は情報屋のスピオン、今から2000年前に消滅した”盗聴の魔女”エブリン・ユニアックって魔女が居たんだけど、その魔女が飼っていたペットだったの」

「に…」


 2000年、と口パクで言って、レオンは絶句した。


「使い魔じゃないから今も元気に生き残ってるけど、盗聴好きなエブリンの影響で、情報収集が上手くって。エブリンが消滅してからは、ああして情報屋稼業で生計を立ててるコマドリなのよ」

「商魂たくましいっすねえ…」


 絶句したレオンに代わって、フィンリーが真顔でツッコミ混ざる。


「ってことは、2000歳以上のコマドリってこと?」

「いや、3000歳くらいにはなってるんじゃないかな?」

「滅茶苦茶長生きだな」


 さすがのフィンリーも絶句した。


「おっまたー!そこに地図はあるかい?」

「ええ、用意済よ」

「情報を送るぜ!」


 スピオンが翼をバタつかせると、地図の上に小さな羽根が現れ、3か所の地点に突き刺さった。


「今現在確認できたのはその3か所だ。飛んでるところの情報はまだ入ってこないが、滞在していたっていう場所は、西のレッドホット火山、南のブルーリーフ島、南東の砂漠の国ムーンサンドだ」

「レッドホット火山はフェニックスの巣があるって、昔そんな噂があったわよね?」

「ガセネタっぽいけどな。立ち寄った可能性はあるってくらいだ」

「そっか」


 ロッティは神妙な表情かおで地図を見つめた。


「追加情報が入ったら、その都度送るぜ」

「判ったわ、お願いね」

「んじゃなっ!」


 通信が切れた。


(レッドホット火山とは…、活火山だしちょっと危険ですね…)


 地図の上をチョコチョコ歩きながら、メイブは不安そうに頭を振った。


「さて、まずは3か所で一番可能性が高いレッドホット火山からあたりましょうか。出発は明日の朝で」

「はい」

「了解、おねーさま」

「らじゃ!」

「ぴよ!」

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