ロッティの小屋に移動した一同は、ダイニングテーブルの周りに集った。
「さて、ドコをどう探すの?『フェニックスの羽根』は」
「まずは魔女御用達の情報屋、スピオンに話を聞いてから方針を立てましょう」
「ゲッ、あいつ高くない!?」
スピオンと聴いて、モンクリーフの顔が嫌そうに歪む。しかしロッティは邪悪な笑みを浮かべた。
「ふふり、あいつは私に貸しが5つもあるの。5つ分は無料で情報提供してもらうわ」
「さっすがおねーさま!」
「ぴよぴよ~♪」
訳:[スピオンしゃんと会うのも久しぶりなのです]
ダイニングテーブルの上に座ったメイブがご機嫌に囀った。そんなメイブの態度に、スピオンに嫉妬してフィンリーは不快そうに腕を組む。
「そのスピオンってどんな情報屋なんです?」
「私たち魔女専の情報屋で、『フェニックスの羽根』のような希少価値のある、人間からしたら不思議なものに関する情報を多く扱っているのよ」
「情報は確かなンダケド、料金がバカ高くて有名なんだから、その守銭奴」
「ほうほう…」
魔女が利用する守銭奴の情報屋とは。フィンリーには想像がつかなかった。
「そんな情報屋とは、危険な奴ではないのですか?」
別の不安な感触を得たレオンにロッティは、
「大丈夫よ。魔女を敵に回すほど愚かじゃないしね。取引はしっかりしているから、そこは信用してかまわないわ」
太鼓判を押した。
「そうなんですね」
「それよりも」
ロッティはモンクリーフをジロリと睨みつける。
「モンクリーフ、あんた私に言うことあるんじゃない?」
「え?」
態度が一変したロッティに、モンクリーフはきょとんとした顔を向けた。
「とぼけても無駄よ。私にはまるっとお見通しなんだから」
「え…なんのことかしら…?」
「コンセプシオンのペットに怪我させたの、あんたね!」
束の間の沈黙の後、小屋を揺るがすほどの絶叫がメイブの口から飛び出した。
「ぴよおおおおおおおおおおおお!?」
「え?」
「おいおい」
レオンとフィンリーも、一拍置いて声を絞り出す。
みんなの強い視線を一身に浴び、モンクリーフはたじろいだ。
「この際責任の所在はハッキリさせておきましょうか!」
「うぅ…」
「”霊剣の魔女”殿…?」
「……ンもう!判ったわよ判った!そう、アタシが攻撃したの!でも”曲解の魔女”のペットだってことは知らなかったのよ!」
ヤケクソな態度でモンクリーフはぶちまけた。
「しょうがないでしょ!たまたま外を眺めていたら、コウモリが無警戒に飛んでいたんだもん!悪戯してやろうと思ったわけ。面白そうって思ったし。深い意味なんてないわよ。で、ちょちょいっと短剣を投げつけたら、なんか当たっちゃって…。それがまっさか”曲解の魔女”の大事なペットだったなんて」
「うわー、サイテー」という呆れた空気が室内を席巻する。
「あんた…子供が面白がって生き物に危害を加える行動そのまんまじゃない!なんて子なのよ」
「ぴよぴよぴよ!」
訳:[本当にやることなすこと幼稚な小娘!イメルダしゃんが可哀想です!]
憤然とするロッティとメイブを交互に見て、モンクリーフは肩を萎ませる。
「コウモリが怪我したくらいで”曲解の魔女”が城に乗り込んでくるなんて思わなかったもん。吃驚したなんてものじゃないわ。アタシの魔法じゃあの偏屈ババアに全然敵わないし」
言い訳を並べ立てるモクリーフに、チクチクと痛い視線が刺さった。
「何故”曲解の魔女”が姫様をと思っていましたが…とんでもない濡れ衣と誤解で、姫様はあのような事態に」
「とんだ真犯人っすね…」
この真相をどう噛み砕けばいいのか、レオンとフィンリーは呆れて天を仰ぐしかなかった。
自国に仕える魔女の悪戯が原因で、自国の王女が死にかけているのである。そして王女を助けるために、真犯人の魔女の助力が必要なのは、もう複雑の極みでしかない。
激しい脱力感がレオンの心を吹き抜けていった。
「姫様があんなになっちゃうなんて…思わなかったんだもん…」
モンクリーフはぐすっとベソをかいて俯いた。
(言葉もナイほど呆れるとは、まさにこのことなのです。ご主人様が指摘しなかったら、この小娘は反省もしなかったでしょう。ケシカランのですよ!)
この真相をチェルシー王女が知ったら、きっと激しい虚脱感に包まれるだろうとメイブは思った。
「”曲解の魔女”コンセプシオンは、1000年以上生きてる魔女なんだけど、人間と関わり合いたくない引きこもりなの。だからペットがとっても大事なのね。だけど、さすがに今回はコンセプシオンがやり過ぎたわ。『魔女の呪い』を使っちゃうなんて」
「そーよそーよ!」
「おだまり。あんたは生き物に対して無関心過ぎる。コウモリに悪戯しちゃおうとか、理不尽に翼に穴をあけられたコウモリが可哀想だわ。もっと生き物に優しくなりなさい。反省おし!」
「ふぁい…」
抗議するモンクリーフを叱りつけて、ロッティは大きく息をついた。
「はあ。今回の事件の発端が判ったから、あとは全力で殿下をお助けするだけよ」
「そうですね」
レオンも同意するように頷く。
「じゃあ、『フェニックスの羽根』探しの前に、私ちょっとコンセプシオンのところへ行ってくる」
「えええええっ!?まさかアタシのことチクるんじゃ」
俯いていたモンクリーフは、大焦りでガバッと顔を上げた。
「そんなことしないわよ。色々と説明が面倒だし…。コンセプシオンのペットを治してくるわ」
「なんだってそんなことするの?ほっとけばいいのよ」
(自分のことしか考えていないのか小娘!)
メイブは怒りの蹴りをモンクリーフに見舞う。
「ダメに決まってるでしょ!コウモリに罪はないんだから。ペットを治してあげたら、コンセプシオンの怒りも少しはおさまるでしょうし」
「私も一緒に行きましょう」
前に出たレオンに、ロッティは手で押しとどめて首を横に振った。
「いえ、ここで待っていて。コンセプシオンは人間嫌いなの。すぐ済ませて戻ってくるから」
「そうですか…お気をつけて」
「移動魔法しましょうか?」
「『隣人の扉』使うから大丈夫よ」
『隣人の扉』は交流のある魔女同士の持ち家の扉を繋ぐ生活魔法だ。
「じゃ、ちょっと待っててね。行ってくる」
「ぴよぴよー」
訳:[わたくしめはご一緒します]
メイブはロッティの肩にとまった。