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7話:騎士フィンリー

 鞄などにチェルシー王女の衣服を詰めていた侍女が振り向く。

 チェルシー王女を見ていた国王が振り向く。

 声に気づいたロッティとモンクリーフも振り向いた。


「何をしている?フィンリー」


 そして跪いていたレオンが、立ち上がりながら黒髪の青年に問うた。


「部屋の外にいたら、すっごく可愛い女の子の声が聴こえてきたんですよ」


 黒髪の青年――フィンリーは、にこにこと笑いながら部屋の中に入ってきた。


「姫様を励まして、そして可愛い声で歌っていたんです。どの子かなあ?」


 フィンリーは額に手をかざして室内を見回し、そしてチェルシー王女が眠るベッドに顔を向けた。


「キミだね!」


 そう言ってベッドに駆け寄ると、チェルシー王女の胸に座っているメイブを両掌で掬うように拾い上げた。


「初めまして俺の可愛いレディ。キミはなんていう名前なんだい?」

「ぴ…ぴよ?」


 室内が時間を停止したように固まる。

 ドン引きの空気が緩やかに部屋を一周した頃、ロッティが真っ先に立ち直った。


「あ、あの、もしもし?」

「うん?なんだい?」

「この子はメイブっていう、私の使い魔なんだけども…」

「おー、メイブたんって言うんだね!可愛いねえ見た目も名前も」


 マイペースを崩さないフィンリーの掌の上で、メイブはすっかり固まってしまっていた。しかし脳内では忙しく自問自答が渦巻いている。


(な、なんなのでしょうこの人間は?まさかわたくしめの言葉が判ると?いえ、人間などに判る筈もありません。人間にわたくしめの言葉が判るくらいなら…)


 メイブは切なげに肩を落とす。心にずっと溜め込んできた思い。


(ご主人様にも通じるはずですもの…)


 悲しさと困惑で、頭の中がグラグラする。メイブは疑心暗鬼に苛まれつつ、フィンリーが「姫様を励まして」と言っていたことを思い出して首を傾げた。


(ちょっと…試してみましょうか)


 メイブは顔を上げてフィンリーを見る。


「ぴよぴよ…?」

訳:[ホントに判っているんですか…?]


 訝しみながら言うと、


「もっちろん!」


 元気よく返されて、メイブは驚愕のあまり完全に押し黙ってしまった。




「おい…、フィンリー」

「話は聴いてましたよ!団長、俺も旅に同行しまっせ!」

「いや…お前は騎士としての務めがあるだろう?」

「別に俺一人抜けても業務に影響はアリマセンって。俺もレッドディアー近衛騎士の端くれ、姫様をお助けするための旅に協力したいです!それに、俺のレディを守るのに、もう一人騎士がいないとダメでしょう?」


 掌の上のメイブをレオンの眼前に突き付ける。


「…その、守るのは、メイブ殿なのか…?」

「当然です!俺のレディですから」

「……」


 ひたすら満面の笑顔のフィンリーを、レオンは無言で見つめた。メイブは置物のように固まっている。


「ま、まあいいんじゃない?旅は多いほうが楽しいし」


 両腕を広げて、モンクリーフはケラケラと笑った。


「よろしいのですか?”癒しの魔女”殿…?」

「そうね…」


 難しい顔をしていたロッティは、やがて表情を緩めて頷いた。


「楽しいかはともかく、解呪するための魔力を多く確保するために、左目に溜める魔力量を増やしたの。だから安全を確保できるくらいの人員があると助かるのは本当」

「なるほど、そういうことなら…」

「やったね!」

「ただし!」


 ビシッとレオンに指を突き付ける。


「もうこれ以上は増やさないで。多すぎても肝心の旅の目的に影響が出てしまうから。精鋭が少数いればそれでいいわ」

「滅茶苦茶お役に立ちまっせ!」


 ドヤるフィンリーを見上げ、ロッティは目をすがめた。


「あなた名前は?」

「フィンリー・シャフツベリーって言います。よろしくロッティちゃん!」

「なんか軽そうね…」

「堅苦しいのは団長の特権です」


 侍女の一人から声がかかる。


「姫様のお支度が出来ました」

「では行きましょうか。レオンは王女様をお願い」

「はい」


 レオンはチェルシー王女をそっと腕に抱き上げた。フィンリーは侍女から大きなカバンを受け取る。


「モンクリーフ、移動用魔法陣お願い。私は魔力を極力節約するわ」

「おっけぃ、おねーさま」


 モンクリーフは杖を発現させると、魔力でくるくると床に魔法陣を描いた。


「みんな陣の中に入ってね」


 魔法陣がボワッと光出す。


「行くわよ!」


 杖をシュッと振り上げ、モンクリーフは移動用魔法を発動させた。

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