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第45話 探偵令嬢の作戦

「それで、これからどうするの、セバス?」


セバスチャンは小さくうなづいた。

「さて、お二人には、これから特別なお仕事をしてもらいましょう」


きょとん、とする二人を前に私とセバスは――


「何か考えがあるのね?」

「それはお嬢様の方では、ございませんでしょうか」

「まあ、セバスったら。うふふ」


主人の考えの先を読んで、彼らにあんなこと言ったのね。

ま、確かに、これから二人を利用するつもりではあったけども。


「二人には、ウワサをバラ撒くお仕事をしてもらうわね」

「「ウワサ?」」

「ええ。ミーアが姉のヴィクトリアを暗殺しようとした、って」

「「「えーッ!」」」


馬番とメイド、だけじゃなくて、何故かレオン君まで一緒に驚いてたわ。

そんなに意外な作戦だったかしら?

私は馬番の後ろに立って警戒しているヨハンに声をかけた。


「ヨハン、お仲間はまだ今晩は宿にいるわよね?」

「はい、お嬢様」

「今晩、彼と一緒に酒場に行ってちょうだい。やることは分かってるわよね?」

「ウワサの流布、でございますね、お嬢様」


「ええ。ミーアが姉を殺そうとしたって噂をバラ撒くのよ。ヨハン、殿下、貴方たちはサクラよ。馬番の彼と気分よくお酒を飲んで話に花を咲かせてちょうだい。経費はこちらで持つから、必要なら店の客に酒をふるまってもいいわ。そこはボスと相談してね」


「了解しました、お嬢様」

「は、はい、ヴィクトリアお嬢様……うまく出来っか、わかんないですけども」

「僕も……か。わかったよヴィクトリア」


「それじゃあヨハン、あなたは日暮れ前に、馬番の彼と殿下を街に連れて行ってくれる?」

「了解しました、お嬢様」


ヨハンは馬番に立つよう促すと、二人で部屋を出ていった。おそらく元いた別室に連れていくのでしょう。

部屋を出るとき、馬番は名残惜しそうにメイドと見つめ合ってたけど、ヨハンに肩を叩かれて、渋々出ていった。

一人残されたメイドは、不安そうにしている。


「さて、お嬢さん。次は貴女ね」

「何をすれば……よいのでしょうか?」

「そうね。まずはお昼ご飯の準備かしら。私と殿下の、ね」

「かしこまりました」

「それから――」

「な、何でございましょう」


私はメイドにビシッと一差し指を突き出して、

「今日から貴女は私の侍女よ。あした一緒に学園に来てもらうわね」

「か、かしこまりました」


馬番と会えないのが寂しいのか、少し浮かない顔をしている。


「大丈夫よ。用事が済んだらお屋敷に帰してあげるわ。なんなら彼を学園に呼んでもいいけれど。そういえば殿下の護衛騎士様たちの詰所があるから、馬の様子でも見てもらえばいいんじゃない?」


私はセバスに視線を投げた。


「左様でございますね。騎士様がご自分で馬の世話をなさるのは大変でしょうし、定期的に出張させるよう手配致します。もちろん、お手当もつけますよ」


メイドは涙を流して、

「あ、ありがとうございます! 何から何まで……こんな、お慈悲を頂けるなんて……私は……ううう」


とうとう顔を覆って泣き出しちゃったわ。

ハニトラのはずだったのに、彼女は本当に馬番の彼のこと好きになっちゃったみたいね。これはこれで幸いだけど。

馬番を押さえておけば、メイドが我々を裏切りにくくなるから。


そして、何故かレオン君がメイドを介抱し始めたわ。

ハンカチなんか差し出しちゃって、ハンサムねえ。


「ほら、涙ふいて。君はあの子の自慢のお姉さんなんだから、首都でしっかり御奉公すれば、妹さんもきっと喜ぶよ。ね?」


「殿下あ……」


「妹さん、首都に行きたがってたからさ、色々済んだら首都に呼んであげて、一緒に観光とかしたらいいと思うよ。だって馬車で一時間くらいのとこだしさ。そんなに遠くもないでしょ」


「観光……ですか」


「これから経済的にも安定するだろうし、妹さんを呼ぶくらい問題なくなると思うんだ。でしょ? セバスチャン」


「左様でございます、殿下。お嬢様付きの侍女ともなりますれば、お屋敷勤めよりも多少はお給金もようございますし」


メイドは顔を覆いながら、うんうん、と頭を下げている。

金銭的にも旨い汁を吸わせておけば、裏切る確率も下がるわね。いい手駒に育ってくれればいいのだけど。


えーっと、ところで、私のお昼ご飯の準備、大丈夫かしら……。



     ◇



お昼ご飯を無事食べることが出来た私は、食後のお茶もそこそこに、レオン君に自室に連れて行かれてしまったわ。


部屋に入るとソッコーで鍵を掛けるレオン君。

彼は私の手をぐいぐい引いてベッドの方へ。


この後自分がどうなるか想像できるのがイヤなような嬉しいような……。

というか、おなか一杯でソレはやめて欲しいんだけど……。


「ちょっと、忙しいんだから自重してくれない?」

「ちょっと、ちょっとだけだから!」

「ちょっとって……もう。ホントにちょっとだからね?」

「ちょっとにするから。ちょっとに!」

「ちょっとの意味わかってる?」

「ちょっとだから、うん、わかってる」


押し問答が面倒になったのか、レオン君が私をベッドに押し倒す。

これは全然わかってない……。


「やだ、おなか一杯だからそういうのやめて」

「やだ、やめない」

「吐くわよ!」

「う………………。ごめんなさい」


盛りのついた犬のように……って、そういえば盛ってる最中だったわ、彼。


「遥香さん……ぼくぅ……だって……だって……はる……」


これは、禁断症状だわね。

私はベッドの上に座り込んで、彼の頭を抱えて胸に押し付けた。


「はふ……はひゃん……うふう」


「よしよし。さっきお腹一杯食べたばっかりだから、Hなことしたらホントに吐いちゃうのよ。わかってくれる?」


「うん……」

「いい子ね。かわりにいっぱいナデナデしてあげるから」

「遥香さん……しゅき……」

「私も好きよ」


はあ……。

こういう時、テンションの差がありすぎるのって、どちらにも不幸よね。

状況が状況だから、自分の中の愛しさを育てるヒマもない。


彼を胸に抱きながら、こてん、とベッドに横たわる。

彼の腕が私の腰にまわり、遠慮がちに私を抱き寄せる。

私の名を呟きながら、私の胸に頬ずりをする彼……。


「しあわせ……」レオン君がつぶやく。

「しあわせ?」

「いま、いちばん、しあわせ……」

「よかったわね」

「うん……」


可哀想。

ただ、そう思う。


こんな私のために胸を痛め、体もたくさん傷ついてる。

なのに今が一番幸せだなんて言うの。

そんなのって、ない。


何もかも終わったら、この子にたくさん報いてあげたい。

心から、そう思う。


ごめんね、翔くん。

ちゃんと受け止めてあげられなくて……。

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