白昼堂々の逮捕劇だったため、メイドと馬番は極力目立たないように護送してもらうことになったの。万一敵に気取られても困るし。
レオン君には護送のため、ダッシュで宿屋に戻って正装から平民服に着替えてもらったわ。その後、平民服を着たヨハンと現地で合流。
メイドと馬番の乗った馬を、レオン君とヨハンの馬で前後でサンドイッチにして、屋敷まで護送。まあ、たいした距離じゃないのが救いね。
ヨハン以外の騎士さんたちには、一足先に学園に戻ってもらうことにしたわ。次の大事な仕込みのために、ね。
◇
かくして、私たちはメイドの尋問を始めることにしたわ。
私・レオン君・セバスチャンの三名で、メイドの話を聞くことにしたの。
実施に当たり、セバスの自室を提供してもらったの。他の使用人からも隔離出来て、なおかつ情報漏洩の心配もないわ。――そして、口封じされる恐れも。
万一に備え、退路や進入路となりそうな場所は調度品で塞いだり、セバスチャンを立たせるなりしたわ。
そして扉の外には帯剣したヨハンを配置。用心に越したことはないでしょう。
部屋の中央に椅子を置き、メイドを座らせた。
馬番はしばらく別室で待機してもらうことになったわ。必要があればヨハンが連れて来ることになってる。
これで準備は整った――。
最初にメイドが連れて来られたとき、部屋の中にいた私を見て、ひどく狼狽していたわ。それはそうよね。暗殺のターゲットが目の前にいるんですもの。
こっちは手ぐすね引いて待ってたのよ。まあ怖い顔だったかもしれないわね。
「さて……、いろいろと聞きたいことはあるのだけど、まずは順番に質問するわ」
「お、お嬢様が……ですか」
「殿下が尋問するとでも思ってたのかしら?」
「……」
メイドはひどく落胆して、うつむいてしまった。
「私は彼ほど優しくはないわよ。なにせ、生死の境をさ迷った被害者ですから」
「ヴィクトリア、あんまり怖がらせちゃダメだよ。聞きたいことも聞けなくなっちゃうでしょ?」
「殿下、この世には聞き出せないことなんて何もないのよ?」
って言ったら、レオン君が『ひッ』って怯えて、壁際の方に逃げちゃった。
視線をメイドに投げると、こっちもこっちで、引きつった顔で私を見てた。
「やあねえ、そんなに怖がらなくてもいいわよ。わたし拷問吏じゃないんだから」
今度は、メイドとレオン君が同時に震えあがってしまったわ。
なんなのよ、もう。きっと勘違いされてるわよね!
「はいはい、お昼ご飯が遅くなるから、ちゃっちゃといくわよ!」
まずは、セバスが使用人たちから集めた情報と当人の証言のすり合わせ。
雇い主は誰なのか。何故フローラの家から移動になったのか。
誰からヴィクトリアの暗殺を依頼されたのか。
それは妹も知っての事なのか……。
「前のお屋敷にいた時のことです。執事さんに転職をする気はないかと尋ねられました。破格の一時金と、少し高いお給金を提示されました。どうして私なのかと尋ねると、ウチの使用人の中で一番若くて美しいからだと言われました」
ああ……。ハニトラが任務に含まれてるもんね。
「先方の旦那様の慰み者になるのか、と訝しんだのですが、お世話をするのはお嬢様だと言われて、まあ、それなら、と……」
ミーアに仕えろ、って話……か。
「こちらのお屋敷に移ってから、ミーア様の指示で馬番を手なづけました。それから、休暇で学園から戻られたヴィクトリア様が、乗馬を楽しまれる際に落馬するよう、ミーア様から薬を渡されました。馬番を使ってそれを馬に嗅がせて……」
ああ、まあ、予想はしてたけど、まんますぎて吹くわね。
そしたらレオン君が壁際から、怒りながら戻ってきた。
「あのさ、人が死ぬかもしれないって分かってやってた? 落馬ってそういうことだよね? ヘタしたら馬も死んでたかもしれないんだ。死んでなかったとしても、足が折れたら結局安楽死させられる。それ、分かってやってたんだよね?」
「報酬に目がくらんで……つい……」
私には文句言うくせに、自分だって感情的になって詰めてるじゃない。
まあ、悪いとは言わないけど……。
「殿下、捜査と関係ない質問は控えてください」
「……ごめん」
NPCが善悪考えてやるわけないじゃない。
そうするように作られたんだから。
レオン君、やっぱりモブに感情移入しすぎだわ。
「事故に見せかけて、その……」
「暗殺、ね」
「結局失敗に終わって……。それで……報酬がもらえなくて」
なんと、成功報酬だったなんて。ケチくさいわねえ。
「そういえば、妹さんが店でこんなこと言ってた」
「なんでしょう、殿下……」
「最近お姉ちゃんが暗いって。何か心配事があるのかもって。だから僕、元気づけてやりなって話してたんだけど」
メイドは『ああ……』と小声でつぶやくと、大きなため息をついた。
「それもあるんですが、ヴィクトリア様が次の休暇でお戻りになった際、確実に殺せと、ミーア様から言われていて……」
「殺しの片棒を担ぐのに嫌気が差してたんだね。――彼を利用することにも」
「あんな男、べ、別に……なんとも……面倒になってきたから困ってたくらいで」
「心にもないこと言って。さっきだって彼を逃がそうとしたじゃない」
「それは……」
「お店で見た君達、とてもお似合いだった。あれがウソだとは僕には……」
「殿下……」
メイドがぽろぽろと涙をこぼしはじめたわ。
今回はレオン君がMVPかしら。
それにしても、レオン君、街でいったい何をしてたのかしら……。
なんだか随分と大人になった気がするわ。
「セバス、彼をここへ」
「かしこまりました、お嬢様」
セバスチャンは部屋のドアを少し開けると、外にいるヨハンに馬番を連れて来るように伝えてた。それから数分後、ヨハンが馬番と一緒に戻ってきたわ。
「もうお取り調べは終わったのかい?」
「ええ……。済まなかったね、巻き込んで」
「いや、いいんだ。もしお前がよければ、やり直したい。そして、一緒に罪を償いたい。――そういうの、ダメですかい? 殿下」
「えっと……」
レオン君が私の方を見るので、私はセバスを見たの。
もう答えは決まっている。
「お二人とも、当家の使用人を辞めるのは許しませんよ。罪を償いたいのであれば、このお屋敷で精いっぱい勤めなさい。それでよいですな? 殿下」
「もちろんですよ、セバスチャン!」
「「ありがとうございます!」」
二人は、レオン君とセバスに深々と頭を下げた。
えーっと私は……シカト? まあ、いいや。
「いかがでございましょう、お嬢様」
「セバス、まるで大岡裁きね! 見事よ!」
「オオーカ……サバッキ? よく存じ上げませんが、ご満足いただけたようで何よりでございます、お嬢様」
「それで、これからどうするの、セバス?」
セバスチャンは小さくうなづいた。
「さて、お二人には、これから特別なお仕事をしてもらいましょう」