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第43話 逃走 VS 捕獲RTA

翌日の朝。


レオン君に、リセットボタンの操作を指示しつつ、甘々トークにしばらく付き合う。

そういえばこのアイテム、セーブボタンって名前だったかしら?

リセットの方が印象強いからついついリセットボタンって言っちゃうんだけど。


ああ……それにしても。レオン君たら、まるで中学生ね。

今まで浮いた話の一つもなかったのだから溺れてしまうのも仕方ない……か。


この子、結婚したらどうなっちゃうんだろう。今から少し心配。

まあ生き残れたらの話だけども。



     ◇



自室で朝食を取っていると、セバスが私に耳打ちをする。


「メイドに動き有り、でございます。お嬢様」

「ヨハンはいつでも尾行できるように準備をさせておいて。私もあとで行くわ」

「御意」


セバスは礼をすると、部屋から出ていった。


もう一人くらい側近が欲しいなあ……とか思っちゃった。

そういえば私、この大陸の初代統一女帝になるんだったっけ。

先、長ながそうだな~。


私は急いで朝食を掻き込むと、レオン君に連絡をした。


<レオン君、準備はいい?>

<待ってました!>

<ここから先、貴方たちの働きが重要になってくるのよ。がんばってね>

<まかせといて!>


「さてと……。仕込みはよし!」



     ◇



私は裏庭に出て、セバスが見張ってる物陰へとやってきた。


「どうかしら」

「お嬢様、間もなくかと」

「こんな明るくなってからなんて、呑気ね」

「む――、そろそろでございます。お嬢様」


植え込みの隙間から向こうを見ると、馬番とメイドの姿が。

ウチの馬を厩舎から出して、二人で跨ってる。


馬番が周囲を伺ってから、ゆっくり馬を歩かせると、そのまま裏門の方に進んでいった。音を立てたくないのだろう。


「よろしいので?」とセバス。


メイドたちが逃げるに任せていることを私に問うている。

いまこの場で捕えることはもちろん可能だけど。


でもそれじゃあ、盛り上がらないでしょ。――神の配信が。


私たちは、このデスゲームを、ただクリアすることだけを目的としてはいないの。

より高得点を目指しているのよ。


クリティカルを決め、芸術点を求め、テクニカルなハイスコアを積み上げる。

視聴者の評価がすなわち、私たちの新たな武器へと繋がっていくの。

そうしなければ、次のステージをクリアできないかもしれない。


だから、エクセレントな結末を演出しなくちゃならないの。


「問題ないわ。もう手は打ってあるから」

「さすがでございます。お嬢様」

「貴方ほどではないわ、優秀な執事さん」

「恐れ入ります」


私たちが聞き込みを始めたことで、自分が疑われていると思ったメイドは、昨晩の時点で荷物をまとめて逃げようとしていた。

この時点で我々は動きを掴んでいたけど、大人の事情で彼らを泳がすことにしたの。


そして馬番は逃走用の足として利用されたということになるけど、彼自身はそんなこと思ってもみないでしょう。ハニトラに引っかかったバカな男よ。


私はレオン君に現地の様子を訊いてみた。


<こちらヴィクトリア、ターゲットが移動を開始したわ。逃走経路は封鎖済よね?>


<こちらレオン。片方は荷車で封鎖済、もう片方で待機中。あ、偵察の騎士が戻ってきた。まもなくターゲットが到着するみたいだよ>


<ちゃんと王子様の格好してる? 村人Aじゃないわよね?>

<だ、大丈夫。ちゃんと王族の格好してる。騎士さんたちも親衛隊の制服だよ>

<OK。そうこなくちゃ。がんばって配信を盛り上げてね!>

<まかせて!>


どこから撮影してるのか分からないけど、この大捕り物をライブ配信しない配信者はいないのよ。

娯楽神よ、頑張ってトークして、視聴してる神々からスパチャもらうのよ!



     ◇



イヤリングから、現地の声が聞こえてくる。ぼちぼち二人が捕獲ポイントに到着したみたい。騎士さんが二人の乗った馬を停めてるわ。これって検問よね。


『君達には、ベルフォート家ご息女の暗殺容疑がかかっている。

我々と同行してもらおうか』

騎士さんの声。おそらく隊長さんかしらね。


『暗殺……? 何のことかしら』

メイドがすっとぼけてる。


『もう調べはついてるんだ。大人しく投降してくれないかな……』

この声はレオン君。


『なによ貴方。ん? ……どこかで見たことが』


『殿下の御前である、控えよ。こちらにおわすは、ローザリオ王家が第三王子、レオニダス・デ・ローザリオ殿下にあらせられる』


うわ、なんか印籠でも出て来そうな流れね。

生で見てみたかったわ。


『うそ……。妹の店にいた……あれって……王子様……』

『なんてことだ……。ヴィクトリアお嬢様の御婚約者様じゃねえか!』

『そんなの聞いてないわよ!』


なんか痴話げんか始まっちゃったわ。うーん……。


『お前達、控えなさい!』


隊長さんの声、聞こえてないみたい。まだモメてる。

そこにレオン君が、


『妹さんに顔向けできないだろ。大人しく同行してくれないか』

『王子様だかなんだか知らないけど、そこどいてよ!』


うーん。かなり往生際の悪い女みたいね。

がんばれレオン君。


『僕の婚約者の件について、本当のことを話してほしい。悪いようにはしないから』


『そんなの信用出来るわけないでしょ! 貴族に振り回される私たちの気持ちなんて分かるわけないのよ!』


まあ、ごもっともだとは思うんですが。ですが、なのよね。


『僕は君の妹さんにとても世話になった。だから、働きもののあの子を悲しませたくないんだ』


『妹が? 王子様の?』


『彼女が言っていた。お姉さんが転職をして、お給金も上がって喜んでた。転職祝いにプレゼントを買って、お姉さんに贈りたいとも言っていた。だからお願いだ。暗殺の黒幕を捕まえるために協力してくれ。君たちの罪は軽くするから』


いつも以上に演技に熱が入ってるレオン君。

だけど、これは演技じゃないのかもしれない。

実際にそのお店で妹さんと交流があったのなら、恐らくこれは――彼の本心なのね。


『殿下もそう言ってるし、協力しよう。な?』と馬番。多分、根は悪い人じゃないのでしょう。


『私はあんたを利用したんだ……。私を置いて逃げなよ』

『ううん、俺も一緒に捕まる。騙される方が悪いんだ。気にしてないよ』

『でも』


二人がダラダラしゃべってるのに、騎士たちが無理矢理彼らを捕縛しないのは、王子の優しさに配慮しているから、なのでしょうね。


『俺も妹さんを悲しませたくはない。実行犯の俺だけ捕まればいいだろ。なあ、俺だけ捕まえておくれよ、騎士様、殿下』


『この者を庇い立てするのか? 男よ。そなたも騙されたのではなかったのか』


隊長さんが馬番に問いかける。

どのみち二人とも犯人なのだから、片方だけ放免されるなんてことないのに……。


『あんた本当にバカね……』

『そうだな。でも、お前さんが好きだからよ』


『ん、んー。あの、お熱い雰囲気のところ悪いんだけど……。

僕らは、今回の暗殺未遂なんかより、もっと大きな犯罪を追ってるんだ。その手がかりが欲しいだけだから、知ってることを教えて欲しいんだ』


『ホントにそれだけ? あとで牢屋に放り込む気じゃないの?』

『そんなことしない。僕を信じて。あの子のためにも、彼のためにも』


『一緒にお縄になろう。そんで、全部殿下にお話しよう?』

『…………わかった。協力する』



かくして、街道での捕り物は一件落着し、犯人はベルフォート家に連行されたのでありました。ぺんぺん。

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