朝食後の僕は、宿屋の近所をぶらぶら散歩中。時間をつぶして、昨日のアクセサリーショップに新商品が入荷するのを待っているんだ。
荷物が届いたら宿屋に連絡をくれることになってるんだって。あのあと隊長さんが手配してくれてたんだ。仕事の出来る大人ってかっこいいな。
散歩中、僕は道ばたの雑草を見たり、虫や鳥を見たり。現実世界とどう違うのかな、とか思ったから。まあ、なんとなくね。
この木の実食べられるのかな、と思って、路肩の木から実をむしって口に入れようとしたら、
「あー! 食べちゃだめえ!」
って、騎士さんが慌ててすっ飛んできて取り上げられちゃった。
「おいしそうだったのにぃ……」
「ここは首都じゃないんですから、坊っちゃんに何かあったら困ります!」
「ごめんなさい」
たいがいの毒物なら死にはしない僕ですが。なんか過保護な気もするけど、そういえば僕はこの国の王子様だったんだよね。忘れてた。
「ほら、あっちでおいしい果物買ってあげますから、いきましょ」
「はーい……」
というわけで、近くの露店で売ってる見たこともない果物を買うことに。
宿屋に持ち帰り、おかみさんにカットしてもらってみんなで食べた。
味は……まあまあ、かな。
ここじゃあ品種改良の技術も進んでないだろうし、こんなもんだろう。……って転生者目線で思ってしまった。いかんいかん。
はやくお店からの連絡来ないかな……。
◇
そんなこんなで時間をつぶしていると、アクセサリーショップの売り子さんが宿にやって来た。電話でもあれば良かったんだけど、なんかすいませんって気分。
それで、僕と彼女とお父さん(仮)の三人で、ぞろぞろとお店に移動した。
お店の中に入ると、品出し中の店主さん、そして男女二人組のお客さんがいた。
「あ、お姉ちゃん。いらっしゃい」
売り子さんが二人組に声をかけた。
そうか、この人が、転職成功した人かあ。そして、彼氏さんね。
お姉さん、普通に綺麗だね。遥香さんほどじゃないけど。
そりゃそうさ。モブとメインキャラでは作り込みが違うっしょ。
僕の遥香さんは街のアイドルやってるくらいの美人だからな。
……って、何をマウンティングしてんだ僕は。アホか。
メイドさんというと現代の日本人は美少女をイメージしてしまうけど、いわゆる家政婦さんだから容姿はいろいろだろう。
でも、主人が美人ばかり雇用するケースも地球では存在したから、この世界でもそういうお屋敷があってもおかしくないな。
なんて考えてたら、お姉さんが売り子さんに話しかけた。
「お帰りなさい。今日は二人ともお休みだから来ちゃったわ」
「やあ、こんにちは」と彼氏さん。
「いいな~。私も彼氏欲しいなあ」と売り子さん。
「僕も、こんな風に彼女とショッピングしたいなあ」
僕と売り子さんは、思わず顔を見合わせ、そして笑った。
「あら、そちらは妹の彼氏さんじゃなかったの?」
「お姉ちゃんたら! ただのお客さんだよ。
商品が入ったって宿に知らせに行って、一緒に戻ってきただけだよ」
「そうなんです。一応、彼女いますので……」
「あら、失礼。やっぱりこんな素敵な方には、決まった方がいらっしゃるのね」
「素敵だなんて……あはは」
「お姉ちゃんはほっといて、新商品見てください!
きっとお客さんが気に入るのありますから!」
「うん。そうさせてもらうね」
と言って、新商品を物色し始めたんだけど……。
やっぱりよくわかんないや。
あとで売り子さんに手伝ってもらおう。
しばらくして、売り子さんの姉たちが出て行ったあと、彼女が僕に話しかけてきた。
「また、お見立ていたしましょうか?」
困り果ててた僕を見かねて声をかけてくれたみたい。
救いの神の降臨に、僕は感謝を捧げた。
「あ、ありがとうございますうう! やっぱり僕には無理! 助けてください!」
「かしこまりました! では、新作から良さそうなのを拾っていきますね!」
「おねがいしますううう!」
もう、拝むしかなかった。
目利きの女神は店内をぐるっと見渡すと、布を張ったトレーの上に、新作アクセサリーをどんどん乗っけていった。
「おおお……。さすがはプロ……」
昨日よりもさらにいいカンジのヤツが、トレーの上に集まっていく。
ちゅごい。目利きちゅごいですう……。
僕じゃ十年かかってもムリゲーだ。
あらかた選び終わった売り子さんが、『好きなだけゆっくり選んでね』って、僕の前にお盆を置いてくれた。
彼女が吟味したアクセサリーをガン見していると、
「お姉ちゃんの彼氏さん、ヴィクトリア様のお屋敷の馬番をしててね、それで知り合ったんだって。やっぱり転勤ってしてみるものね。私も出会いが少なすぎて……」
――え?
お姉さんって、遥香さんちのメイドだったのか!
しかも、馬番と付き合ってるだなんて!
これはもしかして……。
嫌な予感がする。
でもここは平静を装って……だな。
「たしかに、アクセサリーショップに来る男性は、彼女か伴侶、さもなくば意中の人がすでにいるケースがほとんどだもんね。確かに出会いが少なそうだな」
「ですよね~。転職しようかな」
『ガタッ』
後ろで商品の陳列作業中の店主さんが、思わず立ち上がって彼女を見た。
「出会い! 出会いね! おじさんなんとかするから、辞めないで~~!」
店主さん、必死すぎ!
でも彼女がいなくなったら本当に困るんだね。
働き手不足……ってことかあ。
経営者も大変だな。店主さんに同情するよ。
ちょっと助け船出してあげようっと。
「だってさ。ねえ、店長さんにチャンスあげてみたらどう?」
「ん~……。じゃあ、店長おねがいします。かっこいい人見つけてきてね!」
「ふう。おじさんがんばるから!待ってて!」
「いい人が見つかることを祈ってるね!
じゃあ僕もそろそろ決めようかな。これください!」
僕は、候補の中から、アメジストの髪飾りを選んだ。
これならきっと、気に入ってくれるはず。