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第39話 レオンside プレゼントを買う恋人たち

朝食後の僕は、宿屋の近所をぶらぶら散歩中。時間をつぶして、昨日のアクセサリーショップに新商品が入荷するのを待っているんだ。


荷物が届いたら宿屋に連絡をくれることになってるんだって。あのあと隊長さんが手配してくれてたんだ。仕事の出来る大人ってかっこいいな。


散歩中、僕は道ばたの雑草を見たり、虫や鳥を見たり。現実世界とどう違うのかな、とか思ったから。まあ、なんとなくね。


この木の実食べられるのかな、と思って、路肩の木から実をむしって口に入れようとしたら、


「あー! 食べちゃだめえ!」

って、騎士さんが慌ててすっ飛んできて取り上げられちゃった。


「おいしそうだったのにぃ……」

「ここは首都じゃないんですから、坊っちゃんに何かあったら困ります!」

「ごめんなさい」


たいがいの毒物なら死にはしない僕ですが。なんか過保護な気もするけど、そういえば僕はこの国の王子様だったんだよね。忘れてた。


「ほら、あっちでおいしい果物買ってあげますから、いきましょ」

「はーい……」


というわけで、近くの露店で売ってる見たこともない果物を買うことに。

宿屋に持ち帰り、おかみさんにカットしてもらってみんなで食べた。

味は……まあまあ、かな。

ここじゃあ品種改良の技術も進んでないだろうし、こんなもんだろう。……って転生者目線で思ってしまった。いかんいかん。


はやくお店からの連絡来ないかな……。



     ◇



そんなこんなで時間をつぶしていると、アクセサリーショップの売り子さんが宿にやって来た。電話でもあれば良かったんだけど、なんかすいませんって気分。


それで、僕と彼女とお父さん(仮)の三人で、ぞろぞろとお店に移動した。

お店の中に入ると、品出し中の店主さん、そして男女二人組のお客さんがいた。


「あ、お姉ちゃん。いらっしゃい」

売り子さんが二人組に声をかけた。


そうか、この人が、転職成功した人かあ。そして、彼氏さんね。

お姉さん、普通に綺麗だね。遥香さんほどじゃないけど。


そりゃそうさ。モブとメインキャラでは作り込みが違うっしょ。

僕の遥香さんは街のアイドルやってるくらいの美人だからな。


……って、何をマウンティングしてんだ僕は。アホか。


メイドさんというと現代の日本人は美少女をイメージしてしまうけど、いわゆる家政婦さんだから容姿はいろいろだろう。

でも、主人が美人ばかり雇用するケースも地球では存在したから、この世界でもそういうお屋敷があってもおかしくないな。


なんて考えてたら、お姉さんが売り子さんに話しかけた。


「お帰りなさい。今日は二人ともお休みだから来ちゃったわ」

「やあ、こんにちは」と彼氏さん。


「いいな~。私も彼氏欲しいなあ」と売り子さん。

「僕も、こんな風に彼女とショッピングしたいなあ」

僕と売り子さんは、思わず顔を見合わせ、そして笑った。


「あら、そちらは妹の彼氏さんじゃなかったの?」


「お姉ちゃんたら! ただのお客さんだよ。

商品が入ったって宿に知らせに行って、一緒に戻ってきただけだよ」


「そうなんです。一応、彼女いますので……」

「あら、失礼。やっぱりこんな素敵な方には、決まった方がいらっしゃるのね」

「素敵だなんて……あはは」


「お姉ちゃんはほっといて、新商品見てください!

きっとお客さんが気に入るのありますから!」


「うん。そうさせてもらうね」


と言って、新商品を物色し始めたんだけど……。

やっぱりよくわかんないや。

あとで売り子さんに手伝ってもらおう。


しばらくして、売り子さんの姉たちが出て行ったあと、彼女が僕に話しかけてきた。

「また、お見立ていたしましょうか?」


困り果ててた僕を見かねて声をかけてくれたみたい。

救いの神の降臨に、僕は感謝を捧げた。


「あ、ありがとうございますうう! やっぱり僕には無理! 助けてください!」

「かしこまりました! では、新作から良さそうなのを拾っていきますね!」

「おねがいしますううう!」


もう、拝むしかなかった。


目利きの女神は店内をぐるっと見渡すと、布を張ったトレーの上に、新作アクセサリーをどんどん乗っけていった。


「おおお……。さすがはプロ……」


昨日よりもさらにいいカンジのヤツが、トレーの上に集まっていく。

ちゅごい。目利きちゅごいですう……。

僕じゃ十年かかってもムリゲーだ。


あらかた選び終わった売り子さんが、『好きなだけゆっくり選んでね』って、僕の前にお盆を置いてくれた。

彼女が吟味したアクセサリーをガン見していると、


「お姉ちゃんの彼氏さん、ヴィクトリア様のお屋敷の馬番をしててね、それで知り合ったんだって。やっぱり転勤ってしてみるものね。私も出会いが少なすぎて……」


――え?


お姉さんって、遥香さんちのメイドだったのか!

しかも、馬番と付き合ってるだなんて!


これはもしかして……。

嫌な予感がする。

でもここは平静を装って……だな。


「たしかに、アクセサリーショップに来る男性は、彼女か伴侶、さもなくば意中の人がすでにいるケースがほとんどだもんね。確かに出会いが少なそうだな」


「ですよね~。転職しようかな」


『ガタッ』

後ろで商品の陳列作業中の店主さんが、思わず立ち上がって彼女を見た。


「出会い! 出会いね! おじさんなんとかするから、辞めないで~~!」


店主さん、必死すぎ!

でも彼女がいなくなったら本当に困るんだね。

働き手不足……ってことかあ。

経営者も大変だな。店主さんに同情するよ。


ちょっと助け船出してあげようっと。


「だってさ。ねえ、店長さんにチャンスあげてみたらどう?」

「ん~……。じゃあ、店長おねがいします。かっこいい人見つけてきてね!」

「ふう。おじさんがんばるから!待ってて!」


「いい人が見つかることを祈ってるね!

じゃあ僕もそろそろ決めようかな。これください!」


僕は、候補の中から、アメジストの髪飾りを選んだ。

これならきっと、気に入ってくれるはず。

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