目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報
第38話 レオンside 僕の家族

僕が店を出ると、もう隊長さんは向かいのカフェを出てこちらに向かってた。

さすがは護衛騎士、なんて。


「プレゼントは買えたのか?」と、お父さん(仮)。


「気に入ったのがなくて。でも、明日新しい商品が入荷するっていうから、また来ようかと。……いい?」


僕はおねだりするように、隊長さんの顔色を伺った。

警護対象の自分が好き勝手出来るわけじゃない、って理解はしているから。

彼はすぐ快諾してくれた。


「わかった。他に見たい店はあるか?」


何かないかな、と考えていたら、盛大におなかの虫が鳴いた。

『ぐぐ~~~~っ』


「……おなかすいた」


隊長さんは、僕の頭をぽんぽんとやさしく叩いて、

「よしよし。じゃ、飯屋にでも行くか」


「うん。僕、学園の外でご飯食べるの久しぶりだな~」

「ははは、学園じゃ出ないような旨いもん食わせてやる。父さんに任せろ」

「やった~!」

「はっはっは」


親子の振りしてるだけなのに、隊長さん何だか嬉しそうだな。

僕のこと、本当の息子みたいに思ってるのかな……。

だったら少し嬉しいな。



     ◇



夕食は、待機中の騎士さんたちと合流して、宿の近くの酒場で食べることに。

この世界では、酒場といっても食堂を兼ねているところが多いらしい。

お食事歓迎な居酒屋みたいだね。


僕だけ知らない仲なのに、みんな兄弟みたいに優しくしてくれる。


そうか……。第三王子のホントの家族って、この人たちだったんだな。

じゃあ、僕のせいでこの人たちを犠牲にしちゃいけない。

彼らに何かあったら、第三王子レオンに申し訳が立たない。


レオンのぶんまで、僕が、いや僕らが幸せにならなくちゃ。

だから、ヴィクトリアが全ての敵を屠るまで、僕は何度だって死んでやる。



     ◇



夜も更けて、定時連絡の時間になった。

僕は宿屋のベッドに寝転んで、遥香さんを呼び出した。


<遥香さん、聞こえる? 僕だよ>


イヤリングから衣擦れの音が聞こえる。

着替えてるのか、それとも、ベッドの中……?


<お疲れ様、レオン君。感度良好よ。今日は特に問題はなかったかしら?>

<ああ、騎士さんたちと街を散歩してたんだ。みんなとても良くしてくれる>

<あら良かったわね! こっちは大変よ~荷物が>

<荷物???>

なんのこっちゃ?


<あー……えっと、ミーアの部屋と私の部屋のガサ入れしてたのよ。何か物証が出てくるかもしれないと思ってね>


<なるほど。ガサ入れ……ですか>

遥香さんがガサ入れしてるとこ、なんとなく想像できる。


<うん。でね、とにかくあの子の部屋は物が多くて多くても~~~、ぐっちゃぐちゃなのよ。まあ姉のヴィクトリアも物がとんでもなく多いから、やっぱ姉妹かしらね>


<はあ……。そんなとこまでゲームって作り込むもんなの?>


<どうかしらね>

遥香さんは、よっこらしょと言いながら、多分ベッドにドスンと腰かけたっぽい。


<この調子だと明日も荷物整理で終わっちゃいそうだわ>

<お、お疲れ様です。ところでちょっと質問があるんだけど>

<なにかしら?>


<昼間入ったお店の壁に、君の肖像画が掛けられていたんだ。あちこちに飾ってあるらしくて、街のアイドルみたいで驚いたよ。そんな設定あったの?>


<は? 私がアイドル? 聞いたことないわね……。ふうん>


<ヴィクトリア様はこの領地のお姫様で、街の女の子の憧れで、首都の学園に通ってることも、落馬のことも、街の人はみんな知ってるという>


<ふうん……。追加設定かしら>


<だけど君の役って悪役令嬢だったじゃない? いくらストーリー上とはいえ、みんなのアイドルを陥れるのってマズいんじゃないかな……>


<あはは、まあ、そうね。でもあのメーカーなら何やっても驚かないわ>

<どんだけ信用ないんだメーカー、いやむしろあるのか?>

<私も街でデートしたいわ~。荷物整理で潰れるなんていやよお~>


デ、デート! ああ、二人で散策したらデートだよね!

そうだよ、僕らデートしたことないじゃん! っていうか学園からほとんど外に出てないじゃん! ううう、気づきたくなかった……。


<そもそも、ミーアの部屋ってメイドが片付けてるんじゃないの?>

<他人に触らせたくなかったみたい。……ますます怪しいじゃない?>

<あやしい……>


<というわけで、明日も捜査という名の荷物整理を続行よ。ふ~。じゃあこれからお風呂入るから、何かあったら連絡ちょうだい>


<お、お風呂! ああ……僕も遥香さんと一緒に入りたいなあ。僕一緒にお風呂入ったのってユノスくんだけだよ>


<そういえば……。すっかり忘れてたわね>

<留守番で寂しがってるかな、ユノスくん。あ、ごめん、じゃあ、おやすみなさい>

<おやすみなさい。貴方もゆっくり休んでね>

<ありがと。愛してるよ、遥香さん。おやすみなさい>

<ええ、私もよ、レオン君。じゃ>


おやすみなさい、遥香さん。

貴女はずっと、僕のこと、レオンって呼ぶんですね。

当たり前なんだろうけど……でも……。


僕の中では、レオンというのは僕じゃあない。

あの第三王子のこと。

彼には人格もあれば、仲間の記憶の中でちゃんと生きていた。


その人生を上書きするように僕が生きているのは、なんだか申し訳ないのと同時に、彼の無念を晴らしてあげたい気持ちもある。

きっと彼のままじゃ、ヴィクトリアも、彼自身も護ることは出来なかっただろうから。

だから。




     ◇◇◇




翌朝。

遥香さんのモーニングコールで起きる。

彼女の指示で、セーブポイントを解除、再設定を行う。


この神アイテムの名前、リセットボタンなのかセーブボタンなのか、いまだによくわからない。

なんとなくリセットボタンって呼んでるけど、本当は違うのかもしれない。こんど神か動画職人さんにでも会った時に聞いてみよう。


身支度をしてから、宿屋の一階で騎士さんたちと朝食を取っていると、途中で騎士さんが一人、食卓に加わった。

そういえば、一人欠けてるのに気づかなかった。

まだ寝ぼけてるのかな。いかんいかん。


「おはようございます。どこか行ってたんですか?」


僕の問いに、今しがた戻ってきた騎士さんが、

「坊ちゃんおはよう。さっきヨハンに差し入れ持っていったんすよ。あいつ体に似合わず食いしん坊っすから」


なるほど、連絡係ってことか。差し入れとは上手い表現だな。


「そっかあ。ヨハンも喜んでたろうね。お疲れ様」

「ありがとう、あー俺も腹減った。すいませーん、飯くださーい」


給仕係のおばちゃんに声をかける騎士さん。

なんかこういうのいいな。アットホームな雰囲気っていうか。


普段の僕は、券売機のある外食チェーンや、コンビニ弁当で食事を取ってたから、こういうあったかい雰囲気が、とてもありがたく感じる。

実の家庭ですら、ギスギスした空気の中で食べるか、みんなバラバラで食べるか、ってカンジだったから……。


やっぱり、死んでよかったな。いや、ここに来れてよかった。ずっとそう思えるように、がんばらないとな。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?