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第37話 レオンside 恋人へのプレゼント

僕は隊長さんに連れられて、この街唯一のアクセサリーショップにやって来た。

二人で店内に入ると、若い女性店員さんが出迎えてくれた。


「それじゃあ金を渡しておくから、好きなもの買うといい。

俺は向かいのカフェでお茶でも飲んで、ゆっくり待ってるから」


「え、行っちゃうの?」

「じっくり選びたいだろ?」

「わかった。ありがとう、お父さん!」

「気が済むまで吟味するといいぞ。じゃあな」


そう言って、隊長さんは店を出ていった。


隊長さんが用心深いのは、一旦店に入って様子を確認してから、今度は店の正面にあるカフェのテラス席で監視を続けようって思ってることだ。


こんな意図をすぐに感付いてしまうのは、おそらく遥香さんの影響だな。僕の恋人はとても頭のいい探偵だからね。

あ~、今ごろ何してんだろうなあ……。早く会いたいよう……。


「さてと。なにをプレゼントしようかな……」


店内には、所せましと様々なアクセサリーが陳列してあって、それはお店なんだから当たり前なんだけど、でもどこから手をつけたらいいか、僕には正直わからない。


「あうう……」


入店一分で僕はギブアップしてしまった。


「お客様、贈り物をお探しですか?」


挙動不審な僕に、店員の女の子が声を掛けてきた。

ムダにキラキラした目で僕を見てる。

お金持ってそうに見えるのかな。普通の服着て来たんだけど……。


「あ……はい。そうなんですが……どれにすればいいか分からなくて……」

「そうですよね。殿方の多くは、女性向けの装飾品なんて、買い慣れていないのが普通ですよ!」

「そうですか……」

「はい!」


ものっそ力強く『普通ですよ』って肯定されちゃうのもどーなんだろ、って思うけど、そういう人が多いんだろうなあ……。


「あの……最近付き合い始めた彼女にプレゼントをしたいのだけど、何をあげればいいか分からなくて……」


「私でよければお手伝いいたしましょうか?」

手伝わせろって顔に書いてある。それはそれは力強く。

売りたいというよりも、わたしが見立ててあげたい! って方かなあ。


「ほんとに? た、助かります。

じゃあ、お願いしちゃおうかなあ……」


「おまかせください!」

売り子の女の子は、胸をドンと叩いて、全身で『マカセロ』と表現していた。


「それで、お見立てするにあたりまして、お客様のお相手の方の特徴を教えていただけますか?」


「なるほど。やみくもに選ぶよりいいもんね。えっとね……かくかくしかじか」

「ほほー。お相手の方は、まるでヴィクトリア様のようですね!」

「えッ!!」


なんで分かったの⁉ エスパーなのか⁉


「あ、このあたりの領主様のご令嬢なんですけどね」

「へ、へえ、そうなんだ。首都から来たばかりだからよく知らないけど……」


「ほら、あれ。ヴィクトリア様の似姿絵ですよ」

と言って、女の子が壁の絵を指差す。


「あッ」

僕は慌てて自分の口をふさいだ。

うっかり『遥香さんだ!』って叫びそうになったから。


にしても……マジだ……。

遥香さんだ……。

それも、油絵でリアルなタッチの。


僕が遥香さんの肖像画に見とれていると女の子が、


「ヴィクトリア様、先日落馬なさったんですが、奇跡的に回復なされて今は首都の学園に通っておられるそうですよ」


あの事故のことは街の人も知ってるのか。

おまけに首都の学園に通っていることまで。

彼女は街のアイドルなんだな。じゃあ、僕のこともきっと……。


「それはよかった。やっぱり地元のお姫様のことは心配してしまうよね」

「そうなんです! 街のみんなで心配していたんですよ。本当に良かったです!」

「愛されているんだね……そのご令嬢」

「ええ! もちろんです! ヴィクトリア様は街の女の子の憧れなんです!」

「そっか~。こんな綺麗な人だもんね……」


彼女は目をキラキラさせながらヴィクトリアのことを語る。

――おかしいな。

ゲームでヴィクトリアの立ち位置は悪役令嬢。

なのにこんなバックストーリーがあるなんて……。

あとで遥香さんに訊いてみよう。


「僕もどこかで会ってるかもしれないな。お姫様に」

「お客さん、首都の方?」

「うん。お父さんの仕事でここに来たんだ」

「へ~。行ってみたいな~」

「いつか行けるといいね」


首都へのあこがれ。

きっとこの街の人たちにインプットされてる気持ちなのだろう。

そして、実際に首都に行くこともない。

馬車にちょっと乗れば行ける場所にも関わらず……ね。

貴族と平民以上に、転生者とNPCという存在をいやというほど意識させられてしまう。こんなことなら買い物になんて来なければ――。


「そうそう、私の姉がメイドをやってるんですが、最近お仕えするお屋敷が変わってお給料が上がったんです」


「転職して給料が上がったのか。よかったね」


「ええ! だから私もお客さんみたく、転職祝いにアクセサリーをプレゼントしたいんです」


「お姉さん、きっと喜ぶよ」


「ですよね! じつは最近、姉がちょっと暗くって。新しいお屋敷に馴染めないのかなって……。だからプレゼントで元気付けてあげられればって」


「そっか……。お姉さん、何か悩みがあるのかもしれないね。プレゼントもいいけど、相談に乗ってあげたらどうかな。……今の僕のように」


「そうですね! こんど聞いてみます! あ、私の話ばかり済みません! プレゼントのお品お見立てしますね!」


「お願いします!」

とは言ったものの、どれもピンと来なくて……。



約三十分後――。


「お役に立てなくてごめんなさい、お客さん」

「いや……こっちこそ、一生懸命探してくれたのに我がまま言ってごめんね」


「そうだ、明日は首都から商品が入荷するので、まだ街におられるのでしたら、また見に来て頂けますか? きっとお気に召すものが見つかりますよ!」


「ほんとに! わかった。また来るね!」

「お待ちしています!」


僕は彼女に手を振って店を後にした。

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