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第34話 出陣前夜が初夜で

夕食後。

食堂を出て、レオン君と二人で自室に向かって歩いていると、彼の歩くスピードが遅くなったり戻ったり、と様子がおかしい。

横顔を観察してみると、彼が何かを言いたそうにしているのに気が付いた。


「どうしたの、そんなにモジモジして」

「え! あ、いや、べつに……」

「言いたいことがあるんでしょ?」

「……こ、こ、このあと、僕の部屋に来ない?」

「朝まで?」

「……………………」

「なの?」

「なんでそう、先回りするの!」


少しキレ気味でレオン君が言うので、ちょっとかわいそうになってきた。


「あ、……ごめん。答え、待てなくて」


「君が頭の回転早い人だって分かってるけどさ……

でも、もうちょっと待ってくれてもよくない?」


「ごめん……」

「じゃないと……もう、何も、言えなくなっちゃうじゃんか!」


レオン君が、ぐっとこぶしを握って、涙をこらえてる。

これは私が全面的に悪い。


「ほんとにごめんなさい。私が悪かったわ」

「……反省してる?」

「してる」

「………………じゃ、ゆるす」

「ありがと、レオン君」

「……」


レオン君はむすっとしたまま私の部屋へと歩いていった。

私もその後ろをついて歩いていく。

そして私の部屋の前に到着すると、まだむすっとしたままのレオン君が、


「……明日っから捜査だから、今晩くらいは二人でゆっくり過ごしたい、って言いたかったのに。遥香さんのバカ」


「ごめんね。ほんとにごめん」

「むう……じゃ、待ってるから」

「ええ。ちょっと支度に時間かかるかもしれないから、くつろいでてね」

「わかった。まってる。じゃ、あとで」


まだ微妙にむくれながら、レオン君は踵を返して自分の部屋へと去っていった。



     ◇



お泊り確定なお誘いなので、支度に少々お時間を頂くことになりました。

そして二時間ほど経って――


「殿下、ヴィクトリアが参りました」


間髪入れずに、レオン君の部屋のドアが開いたの。


「うぐ……」

「うぐ?」


レオン君が急に手で鼻と口を塞いで、

「は、入られよ。ヴィクトリア」


「では……失礼します」


私が部屋に入ると、これまた間髪入れずに施錠されたの。

なんかムっとしてるなあ。

待たせ過ぎちゃったかしら……。


「お待たせ。大丈夫?」

って聞いたとたん、レオン君が私を抱きしめた。


「大丈夫、じゃない……」


レオン君が、すうぅ~……っ、と私の髪の匂いを吸い込んでる。

まるで猫吸いだわ。


「私、猫じゃないのだけど」

「そんな石鹸のいい匂いさせて来る方が悪い」


あ、なるほど。

さっきのは、私のお風呂上りの香りに当てられたのね。


「じゃあ、にゃんこでいいわよ」

「僕の方が困る」


レオン君が髪を吸うのをやめて私の腰に手を回した。

そして私の顔を見つめながら、


「ねえ、今晩くらい、ふざけるのやめない?」

「そんなつもりじゃ……」ただの大人のジョークなんだけど。

「やめない?」

「……わかったわ」


切羽詰まったような顔……。

余裕ないのかな。

そりゃそうよね。


「あっち座ろ。使用人たちには別室に下がってもらってるから」

「ええ。それなら気兼ねなくゆっくり出来そうね」

「うん」


レオン君が私を解放すると、私の手を取ってソファへといざなった。

その時ふと、机の上の物が目に入った。


箱のようなもの。プレゼント?

包装紙が剥かれてる。

どこかで見たような包み紙……。


気になって近寄ると、レオン君が必死に背中で隠しながら、


「あ、あ、あっちいこ! ね? ね?」

「気になるなあ……」

「気にならないでっ。ね? ね?」


私はどうしても気になって、彼を押しのけて机に近づいた。


「見覚えのある包装紙なのよねえ……」

「あ、やめ、やめてえぇ」


私はレオン君の静止も聞かず、箱に添えられたメッセージカードを、手に取って広げたの。だって好奇心には勝てないもの。


「これは……?」

「ああああ……」


そしたら、レオン君は両手で顔を覆ってのけぞっちゃった。


箱の中身は、神から送られた『ゴム製の避妊具』だったのよ。

しかも使用回数は無制限! 容器の見た目は、革製のタバコ入れね。


使っただけ補充されるシステムのようだわ。

辺境に引っ越したら小分けにして販売しようかしら。


「おめでとう。神アイテムもらえたのね」

「まったく……。貴女という人は」

「ごめんね。我慢できなくて」


レオン君は渋い顔で、

「はっ、笑っちゃうでしょ。……使ったこともないのに」


あー……。またやっちゃった。

レオン君がやさぐれてる。


「ね、使ってみたい?」


「そ、そんなつもりで誘ったんじゃないよ!

ただ、向こうに行く前に二人きりで過ごしたかっただけ!」


「別にそこまで強く否定しなくってもいいのに……」

「ホントだってば!」


「信じてあげる。

……でも、使ってみたいとは思ってるでしょ?」


「遥香さん!」

レオン君の声が裏返ってる。


「なに?」


レオン君が恨めしそうな顔で、

「…………ひどいよ。年下いじめて楽しいの?」


「ああ……、ごめんレオン君。

でも、別にいじめて楽しんでるわけじゃないわよ」


「じゃなに」

「許可してるだけ」

「うっ………………。遥香さん」

「ん?」

「言い方っ」

「あ」

「やだもう……。やっぱり弄ばれてる」

「ごめん。ふざけすぎたわね」


「さっきもふざけないでって言ったのに。

いいもん遥香さんなんか。ふん」


レオン君がいじけて、一人でソファに座りにいっちゃった。

ああ……。

膝かかえてる……。


「ごめん~~。いじけないで~」


急いで彼の隣に座って、ぴとっとくっついた。

そして、彼の腕にそっと掴まった。


膝に半ば顔を埋めていたレオン君が、ちょこっと目だけ出して、

「あの……」


「うん。なあに?」

「遥香さんが……その………………」


レオン君が膝を降ろし、真っ赤な顔で私を見たの。


「教えてよ、使い方」

「いいわよ」


私が即答したせいか、レオン君がオロオロしはじめちゃった。

もう少し間を空けた方が良かったかしら。

タイミングって難しいわね……。



     ◇



レオン君はプレゼントの箱の中から、神アイテム『無限ス●ン』を取り出すと、私を寝室に連れていったの。

でも繋いだ彼の手が震えていて、だんだん気の毒になってきちゃった。


ベッドのへりに並んで座ると、レオン君は緊張でガチガチに……。

ここは責任をもって、しっかりリードしてあげなければ。


「レオン君」

「は、はい」

「大丈夫よ。怖くないから」


レオン君は、こくりとうなづいた。

私は彼に寄り添って、手を握ってあげた。


「遥香さん……や、やさしくして……ください」

「ええ。安心して」


「ぼ、僕……なにもわからないので……その……」

彼の唇が震えてる。


こんなにドキドキしてくれてるなんて。

キュンとしてしまうわ。


「おしゃべりなお口はこうしてやるんだから」

「ん~、ん~~……ん……んうう……」


私は強引に、初心な彼氏の唇を塞いでやったわ。

そして、優しく彼の髪を指で梳くの。

ちゃんと学習して、今度は彼にやってもらわないと。


それにしても……

はじめは抵抗してたのに、舌を入れたらすぐ彼も舌を絡めてきたわ。

まだぎこちないけど、決して乱暴じゃない。

遠慮がちな柔らかい感触が、私の舌の上を這い回るの。

それが不思議と気持ちよくて……。



さて――。


夢中で私の舌を味わっている彼に悪いのだけど、そろそろ服を脱がせてあげないと。

ほっといたら朝までやってそうだから……。

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