夕食後。
食堂を出て、レオン君と二人で自室に向かって歩いていると、彼の歩くスピードが遅くなったり戻ったり、と様子がおかしい。
横顔を観察してみると、彼が何かを言いたそうにしているのに気が付いた。
「どうしたの、そんなにモジモジして」
「え! あ、いや、べつに……」
「言いたいことがあるんでしょ?」
「……こ、こ、このあと、僕の部屋に来ない?」
「朝まで?」
「……………………」
「なの?」
「なんでそう、先回りするの!」
少しキレ気味でレオン君が言うので、ちょっとかわいそうになってきた。
「あ、……ごめん。答え、待てなくて」
「君が頭の回転早い人だって分かってるけどさ……
でも、もうちょっと待ってくれてもよくない?」
「ごめん……」
「じゃないと……もう、何も、言えなくなっちゃうじゃんか!」
レオン君が、ぐっとこぶしを握って、涙をこらえてる。
これは私が全面的に悪い。
「ほんとにごめんなさい。私が悪かったわ」
「……反省してる?」
「してる」
「………………じゃ、ゆるす」
「ありがと、レオン君」
「……」
レオン君はむすっとしたまま私の部屋へと歩いていった。
私もその後ろをついて歩いていく。
そして私の部屋の前に到着すると、まだむすっとしたままのレオン君が、
「……明日っから捜査だから、今晩くらいは二人でゆっくり過ごしたい、って言いたかったのに。遥香さんのバカ」
「ごめんね。ほんとにごめん」
「むう……じゃ、待ってるから」
「ええ。ちょっと支度に時間かかるかもしれないから、くつろいでてね」
「わかった。まってる。じゃ、あとで」
まだ微妙にむくれながら、レオン君は踵を返して自分の部屋へと去っていった。
◇
お泊り確定なお誘いなので、支度に少々お時間を頂くことになりました。
そして二時間ほど経って――
「殿下、ヴィクトリアが参りました」
間髪入れずに、レオン君の部屋のドアが開いたの。
「うぐ……」
「うぐ?」
レオン君が急に手で鼻と口を塞いで、
「は、入られよ。ヴィクトリア」
「では……失礼します」
私が部屋に入ると、これまた間髪入れずに施錠されたの。
なんかムっとしてるなあ。
待たせ過ぎちゃったかしら……。
「お待たせ。大丈夫?」
って聞いたとたん、レオン君が私を抱きしめた。
「大丈夫、じゃない……」
レオン君が、すうぅ~……っ、と私の髪の匂いを吸い込んでる。
まるで猫吸いだわ。
「私、猫じゃないのだけど」
「そんな石鹸のいい匂いさせて来る方が悪い」
あ、なるほど。
さっきのは、私のお風呂上りの香りに当てられたのね。
「じゃあ、にゃんこでいいわよ」
「僕の方が困る」
レオン君が髪を吸うのをやめて私の腰に手を回した。
そして私の顔を見つめながら、
「ねえ、今晩くらい、ふざけるのやめない?」
「そんなつもりじゃ……」ただの大人のジョークなんだけど。
「やめない?」
「……わかったわ」
切羽詰まったような顔……。
余裕ないのかな。
そりゃそうよね。
「あっち座ろ。使用人たちには別室に下がってもらってるから」
「ええ。それなら気兼ねなくゆっくり出来そうね」
「うん」
レオン君が私を解放すると、私の手を取ってソファへといざなった。
その時ふと、机の上の物が目に入った。
箱のようなもの。プレゼント?
包装紙が剥かれてる。
どこかで見たような包み紙……。
気になって近寄ると、レオン君が必死に背中で隠しながら、
「あ、あ、あっちいこ! ね? ね?」
「気になるなあ……」
「気にならないでっ。ね? ね?」
私はどうしても気になって、彼を押しのけて机に近づいた。
「見覚えのある包装紙なのよねえ……」
「あ、やめ、やめてえぇ」
私はレオン君の静止も聞かず、箱に添えられたメッセージカードを、手に取って広げたの。だって好奇心には勝てないもの。
「これは……?」
「ああああ……」
そしたら、レオン君は両手で顔を覆ってのけぞっちゃった。
箱の中身は、神から送られた『ゴム製の避妊具』だったのよ。
しかも使用回数は無制限! 容器の見た目は、革製のタバコ入れね。
使っただけ補充されるシステムのようだわ。
辺境に引っ越したら小分けにして販売しようかしら。
「おめでとう。神アイテムもらえたのね」
「まったく……。貴女という人は」
「ごめんね。我慢できなくて」
レオン君は渋い顔で、
「はっ、笑っちゃうでしょ。……使ったこともないのに」
あー……。またやっちゃった。
レオン君がやさぐれてる。
「ね、使ってみたい?」
「そ、そんなつもりで誘ったんじゃないよ!
ただ、向こうに行く前に二人きりで過ごしたかっただけ!」
「別にそこまで強く否定しなくってもいいのに……」
「ホントだってば!」
「信じてあげる。
……でも、使ってみたいとは思ってるでしょ?」
「遥香さん!」
レオン君の声が裏返ってる。
「なに?」
レオン君が恨めしそうな顔で、
「…………ひどいよ。年下いじめて楽しいの?」
「ああ……、ごめんレオン君。
でも、別にいじめて楽しんでるわけじゃないわよ」
「じゃなに」
「許可してるだけ」
「うっ………………。遥香さん」
「ん?」
「言い方っ」
「あ」
「やだもう……。やっぱり弄ばれてる」
「ごめん。ふざけすぎたわね」
「さっきもふざけないでって言ったのに。
いいもん遥香さんなんか。ふん」
レオン君がいじけて、一人でソファに座りにいっちゃった。
ああ……。
膝かかえてる……。
「ごめん~~。いじけないで~」
急いで彼の隣に座って、ぴとっとくっついた。
そして、彼の腕にそっと掴まった。
膝に半ば顔を埋めていたレオン君が、ちょこっと目だけ出して、
「あの……」
「うん。なあに?」
「遥香さんが……その………………」
レオン君が膝を降ろし、真っ赤な顔で私を見たの。
「教えてよ、使い方」
「いいわよ」
私が即答したせいか、レオン君がオロオロしはじめちゃった。
もう少し間を空けた方が良かったかしら。
タイミングって難しいわね……。
◇
レオン君はプレゼントの箱の中から、神アイテム『無限ス●ン』を取り出すと、私を寝室に連れていったの。
でも繋いだ彼の手が震えていて、だんだん気の毒になってきちゃった。
ベッドのへりに並んで座ると、レオン君は緊張でガチガチに……。
ここは責任をもって、しっかりリードしてあげなければ。
「レオン君」
「は、はい」
「大丈夫よ。怖くないから」
レオン君は、こくりとうなづいた。
私は彼に寄り添って、手を握ってあげた。
「遥香さん……や、やさしくして……ください」
「ええ。安心して」
「ぼ、僕……なにもわからないので……その……」
彼の唇が震えてる。
こんなにドキドキしてくれてるなんて。
キュンとしてしまうわ。
「おしゃべりなお口はこうしてやるんだから」
「ん~、ん~~……ん……んうう……」
私は強引に、初心な彼氏の唇を塞いでやったわ。
そして、優しく彼の髪を指で梳くの。
ちゃんと学習して、今度は彼にやってもらわないと。
それにしても……
はじめは抵抗してたのに、舌を入れたらすぐ彼も舌を絡めてきたわ。
まだぎこちないけど、決して乱暴じゃない。
遠慮がちな柔らかい感触が、私の舌の上を這い回るの。
それが不思議と気持ちよくて……。
さて――。
夢中で私の舌を味わっている彼に悪いのだけど、そろそろ服を脱がせてあげないと。
ほっといたら朝までやってそうだから……。