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第30話 ヴィクトリア/レオンside 神からの有難いプレゼント

【ヴィクトリアside】


流れ星の雨のあと、号泣するレオン君をなだめていたら、すっかり時間が経ってしまって、これじゃあ二人揃って遅刻ね。

でもこのまま実家に帰っちゃってもいいのかもしれない。


ソファで彼をなぐさめるのって、何度目かしら。


「翔君、落ち着いた?」


レオン君は、こくりとうなづいた。

涙で顔がぐしゃぐしゃだわ。


「遥香さん……」

「なあに?」

「ぼく……遥香さんが好きです……」


そっか。

まあ、なんとなくそうかな、とは思ってたんだよね。

でも彼から言い出すまで、放っておいた。

今は非常時だから。


レオン君。

泣きながら告白するのってどうかと思う。

けど彼らしい気もする。


「私も好きよ。翔くん」

「遥香さあああんっ」


さらに泣くレオン君。もうどうすれば。ほっとくか。


私の好きは、弟みたいな感情に毛が生えたようなもの。

だけど、何度も体を張っている彼に好意を持つのは、わりと自然な感情ではないかなと思う。


ひとしきり泣いて落ち着いたレオン君が、


「ごめんなさい……制服……汚しちゃって」

「大丈夫よ。替えはあるから」

「はい……すみません」


あらら?

レオン君が急に口を手で押さえて、辛そうな顔をしている。


「どうしたの? 具合でも悪い?」

「いや、その……どさくさ紛れに告ってしまって……恥ずかしいというか」

「大丈夫よ。何も恥ずかしくないから」


レオン君がキョトンとして私を見る。


「そうですか……?」

「ええ! これからもよろしくね!」


レオン君の表情がパっと明るくなった。

やっぱりイケメンは笑顔よ! 笑顔!


「よ、よろしくお願いします!!」


「そして、二人でこのデスゲームを生き残って、

第二の人生を謳歌しましょう! レオン王子!!」


「そうですね! はい! 

生き残りましょう! ヴィクトリアさん!!」


私たちは、ぎゅっと手を握り合った。

そして見つめ合うと、レオン君がそっと顔を近づけてきた。

思わず私は目を閉じた。


――レオン君から、キスなんて。


え? ちがう? 


レオン君は、すっと私の胸元に手をやると、首のチェーンに指をかけ、ペンダントを引きずり出した。


「ごめん」

レオン君がぽつりとつぶやくと、私の意識が飛んだ。


この感覚は…………リセット。



     ◇◇◇



【レオンside】



<なにやってるの!?>


遥香さんから無線が入る。

ぶっちゃけ怒号だ。

あいかわらず気性の激しい人だなあ。


僕がキスするフリしてリセットボタンを押したから、めっちゃ怒ってる。

だってぇ……。

あんな告白、やり直せるならやり直すでしょ、普通。


「ごめん……ちゃんと告白したかったんで」


<……許す>


「ありがと。じゃあ、今から行くね」


<了解。待ってるわ>


僕は急いで支度をすると、遥香さんの部屋に走って戻った。



「僕です、開けて」

遥香さんの部屋のドアをノックしようとした瞬間、もうドアが開いた。

僕が来るのを待ち構えてたみたいだ。


遥香さんは僕の顔を見るなり、はー……っと大きくため息をついて、でも、優しそうな笑顔で、


「おかえり」


とだけ言って、僕の手を引いて部屋に入れた。


カーテンの隙間から朝日が真っ直ぐ差し込んでくる。

ホントに早朝なんだな、と思った。


「ごめん、怒鳴って」と遥香さん。少しバツが悪そうだ。


「僕の方こそ……ごめんなさい」

「いいわよ別に。朝だったし、戻った時間は僅かだわ」

「そう、だね」


遥香さんが何かを待っているような顔をしてるので、僕は慌ててズボンのポケットをまさぐった。

僕は、さっき机の引き出しから持ってきた、例のブツをポケットから取り出して、深呼吸をした。


僕が心を落ち着かせようと努力してるのが伝わったのか、遥香さんはカーテンを開けたり、上着を羽織ったりして時間を作ってくれた。


そろそろいい? って顔で僕を見る遥香さんは、いつものキリっとしたクールビューティじゃなくて、ちょっと乙女な雰囲気に見えた。

僕の願望がそう思わせてただけかもしれないけど、でも、乙女な遥香さんは、僕にはとても可愛く見えた。


僕は彼女の手を引いて、明るくて、綺麗な花が活けてある場所を選んで連れていった。そして、彼女の前で片膝をついた。


「ヴィクトリアさん、好きです。僕とこのデスゲームを生き残って、結婚して、死ぬまで一緒にいてください」


僕は、さっき持ってきたブツ――指輪の入った小箱の蓋を開け、彼女に差し出した。


この指輪は僕が買ったものじゃないんだけど、なぜか机の中に入っていた。

きっと第三王子が前から用意してたものなんだろう。


王子と令嬢の婚約は既に決まっていて、とっくにそういうやり取りは済んでいたはずなのに、こっそり指輪を用意していたなんて、本当に令嬢のことが好きだったんだ。


そう思うと、何度も令嬢と死別した第三王子が不憫でならないし、僕が生き残ってこの指輪を令嬢に渡さなければ、って使命感も自然と生まれた。


でも、僕が彼女に指輪を贈るのは、僕自身が決めたタイミングでなければならない。

それが今なんだ。


遥香さんは、白い頬を赤く染めて、うなづいてくれた。

こんな茶番に本気で向き合ってくれた。

それが本当に、本当に心底うれしい。

死んでよかった。


「はい。よろこんで。

レオン殿下、私もお慕い申し上げております」


僕は下を向いて小さくガッツポーズをしてから、彼女の指に婚約指輪をはめた。


思いのほか緊張しなかったのは、何故だろう。

これが二度目だからなのかな。

それとも、彼女が僕を受け入れてくれた喜びが、緊張に勝ったのか。


僕は今度こそ、彼女に口づけをした。

もうフェイントなんてしないよ、と心の中で謝りながら。



     ◇



しばらく抱き合って、朝日が昇るのを二人で見てたけど、こんな幸せな気分は初めてだ。これ以上幸せになったら、僕の心臓がパンクしてしまうかもしれない。


そんなことを考えていたら、使用人室で物音がした。そろそろメイドさんたちが起きてしまう。

僕は名残惜しいのを我慢して、彼女を腕の中から解放した。


「それじゃあ、部屋に戻るね。また後で迎えに来るから」

「ええ。待ってるわ」


満面の笑みで僕を送り出す遥香さん。マジかわいい。

こんな顔が見られるの、僕だけだよね? 遥香さん。



ふにゃふにゃとニヤけながら自室に戻ると、机の上にプレゼントが置いてあった。

出かける時にはなかったんだけど……。

まさか……。


プレゼントに添えられたメッセージカードを開くと、とんでもないことが書かれていて、僕は目が点になってしまった。



………………


神です。

レオン君だけ見てね。




お待たせしました。

神アイテムのプレゼントです。

有効活用してね!



アイテム名【無限ス〇ン】

備考:普通の避妊具です。使っただけ補充されます。


………………



「くッ……。確かに! 有難いけども! けども! ッく! 神ぃぃぃぃ!!」


まだまだ、僕には使う度胸はなかった。

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