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第29話 視聴者様は神様です

放課後、私とレオン君、アルト君、ユノス君はぞろぞろと寮に戻り、食堂でお茶と日替わりスイーツを楽しみながら、今日の出来事をおさらいしていた。


正直、私たちにあまり深く関わると危険なので、ユノス君には聞かせたくなかったけど、お留守番が寂しかったらしく、事情を知りたいとせがまれてしまった。


「立ち入ったこと聞くようで申し訳ないのですが……、一応僕も殿下の友達だし」

「うん……」


伺うように私を見るレオン君。


「まあ、仕方ないわよね。いいわ、教えてあげる」

「ありがとうございます!」

「でも注意してね」

「わかってます」


そして……。


「こ、こわ……。よく平気ですね、お二人とも!」


ユノス君が震えあがっている。


「平気じゃないわよ。特にレオン君は」

「僕いつもビビってるよ! ヴィクトリアさんは強いからいいけど」

「あははは。敵は全て駆逐してやるわ!」

「ね? こんな調子だから彼女は」


ユノス君が、おおー、と感心してる。

アルト君はというと平常運転ね。だいたい分かってるって顔だわ。

ホント、中の人はどういう奴なのかしら。絶対いるわよ、コイツの中。


ま、私だけでも強がってなくちゃ、気力であいつらに負けてしまう。

私は勝利の女神、ヴィクトリアなのよ。

勝負の前から負けてるわけにはいかないわ。

私の双肩には、私自身とレオン君の未来がかかってるんだもの。

ね? 神様。


     ◇


そんなこんなで、ダラダラしゃべりしてたら夕食の時間になったので、そのままみんなでご飯を食べて、食後は大人しく現地解散したわ。


寮の部屋の場所なんだけど、アルト君とユノス君は一般フロアで、私とレオン君は上流階級エリアに部屋があるの。

おそらくセキュリティ上の理由もあるのだろうけど、学生寮とは? って考えたくなっちゃうわ。


そして、上流階級エリアはね、自分のお部屋の隣に使用人室が用意されてるの。私やレオン君が相当するわ。

特に、レオン君は王族なので、上流階級エリアの中でも一番いいお部屋が用意されているわね。私の部屋より広いし調度品も上等よ。


こんなとこでも差別してるって、なんかイヤよね。

アルト君だって、自国に帰れば身の回りの世話をする兵士とかがいるでしょうに。


     ◇


レオン君に自室前まで送ってもらった私は、いつものように『おやすみ』を言おうとして振り返った。

すると、一瞬だけ、彼がすごくさみしそうな顔をしてるのを見てしまったの。

そう、一瞬だけ。

だけど彼はすぐに、いつもの王子スマイルを顔に貼り付けて、私に『おやすみ』を言うの。


「レオン君、何か困ってることとかない?」

「ん? 大丈夫だよ。身の回りのことは全部メイドさんたちがやってくれるから」

「そうじゃなくて」

「ほらほら、早く寝ないとお肌に悪いですよ」


レオン君が私を部屋に、ぐいぐいと押し込んでいく。


「ちょ、まだ眠くないわよ!」

「おやすみ~~」


バタン。


とうとう私は部屋の中に押し込まれ、ドアを閉められちゃった。

レオン君はというと、一目散に走って逃げてった。


ったく……。

よっぽど私に突っ込まれたくないのね。


「はあ……」


まあ、いいわ。明日の朝、捕まえて吐かせてやるんだから。

そうとなったら、お風呂お風呂! 猫足バスタブを満喫するのよ~~!



     ◇



そして翌朝。


気持ちのいい晴れ間が広がってる。

ザ・朝ってカンジの朝が来たわ。

もっとも、この世界に来てからまだ雨に降られたことないんだけど。

きっと背景素材の節約のためかしらね。


『トントン!』部屋のドアをノックする音が。

「おはようございます、レオンです」


メイドさんたちの手によるフルオート身支度が終わるころ、いつものようにレオン君が私を迎えに来た。


ようし、レオン君を捕まえて尋問してやるわ!


私は人払いをしてから、ドアを開けて彼を招き入れた。


「ちょっと入って」

「ん? どうかしましたか?」


いぶかしげな顔をしながら、レオン君が部屋に入って来た。


「あなた、最近おかしいわよ。何かあったの?」

「いや……心配かけてごめん。別に、なにも」


レオン君が秒で挙動不審になった。

絶対に何かアリアリよね!


私はレオン君に壁ドンをかました。

「私の目はごまかせないわよ!」


顔を背けるレオン君。

なんだかイジメてる気になってきて、胸が痛む。

でもここで引いたら意味ないわ!


私はレオン君のあごを掴み、こっちを向かせた。

そして彼の真っ青な瞳をじーっと覗き込んだ。


「しょーおーくん?」


すると、レオン君のビー玉のようなおめめが、あっというまに潤んで、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしはじめた。


「ご、ごめんなさい……遥香さん……」

「何が、ごめんなの?」

「言いたくない……」

「言いなさい」

「でもぉ……」

「でもじゃない。白状するまで続けるわよコレ」


レオン君はぎゅっと唇を噛むと、制服のカフスで涙をぬぐった。


「は、話すよ。だから、壁ドン……やめて」

「わかったわ」


私はレオン君を解放すると、逃げられないようにドアに背を向けながら、腕組みをして仁王立ちした。


「えっと……。こないだ、廊下で動画職人さんが――」


彼の口から出たのは、神関係者による不穏な発言と行動、そしてレオン君の思い込みによる恐怖の結末だった。


「翔君、それ、あくまで断片情報じゃない」

「だけど! だけど……」


短く何度も息を吐きながら、うなだれるレオン君。


「君が描いた未来は、君が恐怖に駆られて穴埋めした、ただの妄想よ」

「ぐ……」


「そこには何ひとつ、君を特定する情報はないの。もしかしたら、それは私かもしれない。でしょ?」


「でも! ぼ、僕の方が、消される可能性高いでしょ!」


私はレオン君の両肩をがっしと掴んで言ってやった。


「そんなこと、私が絶対させないわ」

「でも、どうやって」


レオン君はすがるような目で私を見つめた。


「任せなさい」


私はすぅ、と息を吸い込むと、シャウトした。


「視聴者のみなさ~~~~ん!!!!」

「はあッ!!!!????」


レオン君がびっくりして目がまんまるになった。


「当チャンネルは、私とレオン君の二人の活躍をお送りしております!

万一、レオン君がキャストから外されるようなことになれば、

私の活躍に多大なダメージが発生し、楽しい番組作りに支障が出てしまいます!

レオン君の無期限の続投を希望される視聴者様は、

スターをお送りください!!!!」


こんなメタ展開、神も視聴者も予想しなかっただろう。

だけど、そこにいるのなら利用できるはず。


盛り上がるのなら、どんな手段を取っても構わない。

それが娯楽神の望みなら。


すこし間を置いて、部屋の空気がきしみはじめた。

たとえるなら、冬の凍てついた空気のような。

だけど、冷たさは感じない。


そしてさらに数秒置いて、目の前に魔法のような光景が広がった。

それは、大量の流れ星。

しかもちゃんと、五芒星の形をした、ゲームのエフェクトのような流れ星のシャワーだった。


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「ええええええええええええ……すごい……なにこれ……」

「視聴者、いや視聴神たちが貴方に投げてくれた星よ」

「ぼく……に?」

「そうよ。貴方はここにいていいの」

「ホントに?」


「娯楽神の好きになんてさせない。

だって、視聴者こそ娯楽神にとっての神なのだから!」


「遥香さん!!!!」


レオン君は私にすがりついて号泣した。


正直、博打だったけど、こんなにうまくいくなんてね。

今までしっかり視聴者の心を掴んでこられたって証拠かしら。



私、結構うまくやってるじゃん。

さすがだわ、遥香。

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