放課後、私とレオン君、アルト君、ユノス君はぞろぞろと寮に戻り、食堂でお茶と日替わりスイーツを楽しみながら、今日の出来事をおさらいしていた。
正直、私たちにあまり深く関わると危険なので、ユノス君には聞かせたくなかったけど、お留守番が寂しかったらしく、事情を知りたいとせがまれてしまった。
「立ち入ったこと聞くようで申し訳ないのですが……、一応僕も殿下の友達だし」
「うん……」
伺うように私を見るレオン君。
「まあ、仕方ないわよね。いいわ、教えてあげる」
「ありがとうございます!」
「でも注意してね」
「わかってます」
そして……。
「こ、こわ……。よく平気ですね、お二人とも!」
ユノス君が震えあがっている。
「平気じゃないわよ。特にレオン君は」
「僕いつもビビってるよ! ヴィクトリアさんは強いからいいけど」
「あははは。敵は全て駆逐してやるわ!」
「ね? こんな調子だから彼女は」
ユノス君が、おおー、と感心してる。
アルト君はというと平常運転ね。だいたい分かってるって顔だわ。
ホント、中の人はどういう奴なのかしら。絶対いるわよ、コイツの中。
ま、私だけでも強がってなくちゃ、気力であいつらに負けてしまう。
私は勝利の女神、ヴィクトリアなのよ。
勝負の前から負けてるわけにはいかないわ。
私の双肩には、私自身とレオン君の未来がかかってるんだもの。
ね? 神様。
◇
そんなこんなで、ダラダラしゃべりしてたら夕食の時間になったので、そのままみんなでご飯を食べて、食後は大人しく現地解散したわ。
寮の部屋の場所なんだけど、アルト君とユノス君は一般フロアで、私とレオン君は上流階級エリアに部屋があるの。
おそらくセキュリティ上の理由もあるのだろうけど、学生寮とは? って考えたくなっちゃうわ。
そして、上流階級エリアはね、自分のお部屋の隣に使用人室が用意されてるの。私やレオン君が相当するわ。
特に、レオン君は王族なので、上流階級エリアの中でも一番いいお部屋が用意されているわね。私の部屋より広いし調度品も上等よ。
こんなとこでも差別してるって、なんかイヤよね。
アルト君だって、自国に帰れば身の回りの世話をする兵士とかがいるでしょうに。
◇
レオン君に自室前まで送ってもらった私は、いつものように『おやすみ』を言おうとして振り返った。
すると、一瞬だけ、彼がすごくさみしそうな顔をしてるのを見てしまったの。
そう、一瞬だけ。
だけど彼はすぐに、いつもの王子スマイルを顔に貼り付けて、私に『おやすみ』を言うの。
「レオン君、何か困ってることとかない?」
「ん? 大丈夫だよ。身の回りのことは全部メイドさんたちがやってくれるから」
「そうじゃなくて」
「ほらほら、早く寝ないとお肌に悪いですよ」
レオン君が私を部屋に、ぐいぐいと押し込んでいく。
「ちょ、まだ眠くないわよ!」
「おやすみ~~」
バタン。
とうとう私は部屋の中に押し込まれ、ドアを閉められちゃった。
レオン君はというと、一目散に走って逃げてった。
ったく……。
よっぽど私に突っ込まれたくないのね。
「はあ……」
まあ、いいわ。明日の朝、捕まえて吐かせてやるんだから。
そうとなったら、お風呂お風呂! 猫足バスタブを満喫するのよ~~!
◇
そして翌朝。
気持ちのいい晴れ間が広がってる。
ザ・朝ってカンジの朝が来たわ。
もっとも、この世界に来てからまだ雨に降られたことないんだけど。
きっと背景素材の節約のためかしらね。
『トントン!』部屋のドアをノックする音が。
「おはようございます、レオンです」
メイドさんたちの手によるフルオート身支度が終わるころ、いつものようにレオン君が私を迎えに来た。
ようし、レオン君を捕まえて尋問してやるわ!
私は人払いをしてから、ドアを開けて彼を招き入れた。
「ちょっと入って」
「ん? どうかしましたか?」
いぶかしげな顔をしながら、レオン君が部屋に入って来た。
「あなた、最近おかしいわよ。何かあったの?」
「いや……心配かけてごめん。別に、なにも」
レオン君が秒で挙動不審になった。
絶対に何かアリアリよね!
私はレオン君に壁ドンをかました。
「私の目はごまかせないわよ!」
顔を背けるレオン君。
なんだかイジメてる気になってきて、胸が痛む。
でもここで引いたら意味ないわ!
私はレオン君のあごを掴み、こっちを向かせた。
そして彼の真っ青な瞳をじーっと覗き込んだ。
「しょーおーくん?」
すると、レオン君のビー玉のようなおめめが、あっというまに潤んで、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしはじめた。
「ご、ごめんなさい……遥香さん……」
「何が、ごめんなの?」
「言いたくない……」
「言いなさい」
「でもぉ……」
「でもじゃない。白状するまで続けるわよコレ」
レオン君はぎゅっと唇を噛むと、制服のカフスで涙をぬぐった。
「は、話すよ。だから、壁ドン……やめて」
「わかったわ」
私はレオン君を解放すると、逃げられないようにドアに背を向けながら、腕組みをして仁王立ちした。
「えっと……。こないだ、廊下で動画職人さんが――」
彼の口から出たのは、神関係者による不穏な発言と行動、そしてレオン君の思い込みによる恐怖の結末だった。
「翔君、それ、あくまで断片情報じゃない」
「だけど! だけど……」
短く何度も息を吐きながら、うなだれるレオン君。
「君が描いた未来は、君が恐怖に駆られて穴埋めした、ただの妄想よ」
「ぐ……」
「そこには何ひとつ、君を特定する情報はないの。もしかしたら、それは私かもしれない。でしょ?」
「でも! ぼ、僕の方が、消される可能性高いでしょ!」
私はレオン君の両肩をがっしと掴んで言ってやった。
「そんなこと、私が絶対させないわ」
「でも、どうやって」
レオン君はすがるような目で私を見つめた。
「任せなさい」
私はすぅ、と息を吸い込むと、シャウトした。
「視聴者のみなさ~~~~ん!!!!」
「はあッ!!!!????」
レオン君がびっくりして目がまんまるになった。
「当チャンネルは、私とレオン君の二人の活躍をお送りしております!
万一、レオン君がキャストから外されるようなことになれば、
私の活躍に多大なダメージが発生し、楽しい番組作りに支障が出てしまいます!
レオン君の無期限の続投を希望される視聴者様は、
スターをお送りください!!!!」
こんなメタ展開、神も視聴者も予想しなかっただろう。
だけど、そこにいるのなら利用できるはず。
盛り上がるのなら、どんな手段を取っても構わない。
それが娯楽神の望みなら。
すこし間を置いて、部屋の空気がきしみはじめた。
たとえるなら、冬の凍てついた空気のような。
だけど、冷たさは感じない。
そしてさらに数秒置いて、目の前に魔法のような光景が広がった。
それは、大量の流れ星。
しかもちゃんと、五芒星の形をした、ゲームのエフェクトのような流れ星のシャワーだった。
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「ええええええええええええ……すごい……なにこれ……」
「視聴者、いや視聴神たちが貴方に投げてくれた星よ」
「ぼく……に?」
「そうよ。貴方はここにいていいの」
「ホントに?」
「娯楽神の好きになんてさせない。
だって、視聴者こそ娯楽神にとっての神なのだから!」
「遥香さん!!!!」
レオン君は私にすがりついて号泣した。
正直、博打だったけど、こんなにうまくいくなんてね。
今までしっかり視聴者の心を掴んでこられたって証拠かしら。
私、結構うまくやってるじゃん。
さすがだわ、遥香。