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第26話 令嬢暗殺

「レ、レオン君!!」


後ろを振り返った私の目の前で、頭から血を流したレオン君が倒れていた。

慌てて駆け寄ると、血染めのイケメンが痛みで呻いている。


「大丈夫……なの?」

「痛いけど、大丈夫だ」

「良かった」

「君は無事か? どこもケガをしてないか?」

「ええ、貴方のおかげで」


致命傷でもなく、意識もある。

大丈夫。

レオン君は回復できるわ。


「うう~ん……痛い。うわ、血、やば」


早速キャラが崩れてるわよ、レオン君。

あ、まずい。

衆目の前で、ついうっかりレオン君なんて言ってしまったわ。

それに騒ぎを聞きつけて他の生徒たちが集まって来た。

現場を荒らされる前に確認しなければ。



彼の周囲には、割れた瀬戸物の破片と土、そして花の苗のようなものが散乱していた。つまりこれは植木鉢で、上の階から落ちて来たと。


上を見上げると、中庭に接した校舎の上層階の窓がひとつ開け放たれている。

急いで校舎から離れて、その窓を見たけど、人影はなかった。

まあ、犯人がいつまでも下を覗いてるわけないか。



私はレオン君の所に戻り、彼の傍に片膝を着くと、ゆっくりと彼の上半身を抱き起こした。彼の制服は、彼自身の血液と、土で汚れていた。


「あいたたた……。ありがとう」

「起きられる?」

「もちろん」


そう言ってレオン君は私の肩に手をかけて立ち上がった。


「よいしょ、んんん~~~?」


レオン君は立ち上がるとすぐ、ふらりと体が揺れて、

バッタリ倒れ、そのまま意識を失ってしまった。


「や、やだ、脳震盪起こしてるじゃない! 医務室に彼を運ぶの、誰か手伝って!」


私がやじうま連中に声をかけると、数人の男子生徒が名乗りを上げてくれた。


「僕でよければ」

「私もお手伝いしよう」

「僕も手伝うよ」


アウェイな私たちに手を貸してくれるなんて、義に篤い子たちね!

顔と名前を覚えておかなくちゃ!


「みんなありがとう。殿下は頭を強く打ってるから気をつけて」


てきぱきとレオン君を起こしたり担いだりするメンズたち。

なんか手馴れてる気もするけど、まあいいわ。


そういえば、さっき危険を知らせてくれた女子、どこいっちゃったのかしら。

まさか、動画職人さんじゃないわよね?

配信を盛り上げるために?

いや、そんなこと。

でも、有り得ない話じゃあ……。


レオン君を介抱している最中、やじうまの中に見知った顔があった。

フローラ、そして宿敵クラリッサ。

こんな時だけ姿を見せるなんて。

何かを確認しに来たのか……。



私は親切な男子生徒の手を借りて、レオン君を医務室に運び込んだ。

これで午後の授業はサボリ決定ね。



     ◇



医務室に運び込まれたレオン君は、一時間ほどすると意識を取り戻した。


さっきは慌てて医務室なんかに担ぎ込んでしまったけど、リセットすれば良かったって、後になって気が付いた。

私もまだまだ冷静さが足りないわね。


頭の治療をしていた養護教諭(?)が傷の治りが異常に早いのに気づきそうになったから、王族はナントカカントカとか言って誤魔化したわ。



「うう……、ここは?」

「学園の医務室よ、殿下」

「僕はいったい……」

「立ち上がろうとした時に脳震盪で倒れて、そのまま意識を失ったのよ」

「そっか。面目ないです。それであの時――」


レオン君が事件について話そうとしたので、慌てて彼の唇を指で押さえた。


「先生、ちょっと外して頂いてもよろしくて?」

「はい。いいですよヴィクトリアさん」


先生が部屋を出ていったのを確認して、レオン君は話の続きをしはじめた。


「遥香さんを突き飛ばして、頭に何かがぶつかって倒れて。

その時、上の階を見たら……」


「何が、見えたの?」

「君の妹に似た子が一瞬見えた」

「ミーアが……」

「ひどく狼狽えていて、何かを叫んで、すぐ引っ込んじゃった」

「そう……」


ターゲットは私で、実行犯はミーア、かもしれないと。

もし本当にミーアが犯人で、誤ってレオン君を傷つけてしまって悲鳴を上げたのなら、それは自然な流れだわ。


「やっぱり妹ちゃんは、君をなんとしてでも退けて、僕を奪いたいんだな」

「それを焚きつけたのは、クラリッサでしょうね」

「いつも僕らが中庭をショートカットすることを、知っててやったんだ。

なんて奴らだ」

「うかつだったわ……。貴方に痛い思いをさせてしまってごめんなさい」

「それは僕の役目だから、気にしないで」


気にするなと言われても……。


「やっぱり落馬の件も、同じだったのかしら」

「信じたくないけど、ここまで悪質なことをやる相手だし、考えられないこともないよね」

「貴方もそう思うのね」


レオン君はうなづいた。


「とにかく、まずはリセットしてミーアを締めあげましょう」

「うん」

「そして、一旦実家に戻って落馬事故のことを調べましょう。きっとどこかに証拠があるはずよ」

「そうだね」


私は胸元から神アイテムのペンダントを取り出した。

じんわりと人肌のぬくもりが伝わる。


「じゃ、戻るわよ」

「うん。一緒に朝に帰ろう、遥香さん」

「ええ、レオン君」


私たちは、二人いっしょにリセットボタンを押した。




     ◇◇◇




そして今日の早朝。


「ただいま、そしておはよう、私」


お昼までは事が起こらないのは分かってるので、普段どおり落ち着いて登校の準備を始める。

きっと彼もそうだろう。

こんな生活、慣れたくはなかったんだけど。



やじうまに紛れて私たちを見てた、フローラ、そしてクラリッサ。

ミーアの犯行の成功を見届けるつもりだったなら、ご愁傷様。


お前たち、まとめて始末してやるんだから。

首洗って待ってることね。

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