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第23話 レオンside 離れたくない

<戻ってらっしゃい。お茶にしましょ>


任務終了を告げる、遥香さんの声。


僕は余所行きの顔を壊さないよう注意しながら、彼女の元へと歩いていく。



疲れた。

ただただ疲れた。

頭が割れるように痛い。

今すぐベッドにダイブしたい。

眠れば痛みは消えるから。



この頭痛が超回復でも治らないところを見ると、ストレス性のものなのかもしれない。



「大丈夫? レオン君。どこか痛い?」

「あた、ま……」



痛みでひくつく僕の顔を見て、こりゃマズいと呟いた遥香さんは、僕の手を引いて寮まで連れていってくれた。




     ◇




どこをどう歩いたか、記憶にないのだけど、気づいたら遥香さんの部屋の中にいた。



「ごめん、遥香さん……」

「なにが?」

「迷惑かけて」

「なにもかけてないわよ。ほら、座って」



ぎゅむ、とソファに押し込まれる僕。



「少し横になるといいわ」



遥香さんは僕の隣に腰かけると、ひざの上にクッションを置いて、僕をそこに横たわらせた。



「まだ痛む?」

「だいぶ楽になりました」



それはホント。

眼をつむって彼女に寄りかかると、胸のつかえが薄くなって、頭の痛みもなくなっていった。



「このまま寝てもいいのよ」

「でも……それじゃ……」



それじゃ遥香さんが動けないじゃないか、と言いかけて、意識がすうっと飛んでいった。



昨日はあんなショックなことがあったから、一睡も出来なかったし、今日も一日中ムリをしてしまって、正直ボロボロだった。

そのせいか、遥香さんに癒されて、気持ちよく眠ってしまった。



気づいたら日が暮れていて、隣で遥香さんも寝息を立てていた。



「ごめん……遥香さん。寝ちゃった」

「ん、起きた? 具合は?」

「すっかり良くなりました。ありがとう」

「良かった」



僕は体を起こすと、遥香さんの肩を抱き寄せたい気持ちをぐっと押し殺して、少し離れて座りなおした。



「別に気にするような仲でもないでしょ? ……どうかしたの?」

「なんでもないです」



じり、と体を寄せて僕の顔を覗き込む遥香さん。


そんな顔で見つめるのは、やめてください。

キスしたくなるから。



「ほんとにい~~?」

「ホントですってば! 年下をからかうのやめてください……」



彼女の顔を正視できなくて、僕は下を向いた。

これ以上、好きになってしまったら……。

もう、好きになっちゃダメなんだ。



「ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだけど……もしかして、女性、苦手、とか?」


「苦手、というんじゃないんですが……ガリヒョロのゲームオタクですから、女性経験なんて……その……」



ファーストキスだって、貴女だったんだから。



「そっか。ごめんね、配慮が足りなかったわ。人前では結構毅然とした態度を取っているから、人付き合いとか大丈夫な方かと思ってた」


「あれは……お芝居、ですから。そういうの、ちょっと得意ですし……レオン王子という役の。だから大丈夫なわけで……」



そうさ。

僕は、ただのレオン王子というキャラクター。

僕が消えたら、NPCに戻るだけだよね。

それで、いいんだ。



「お芝居得意なの? すごいわ!」

「まあ……」

「どんな?」

「お芝居というか、アテレコ? というか、

僕は、中の人になりたかった」


「な、中の人!! やっぱりイケボでセリフが上手なのは伊達じゃなかったのね!」



遥香さんテンション高いよ……。

そこに食いついちゃうのか……。



「見た目が地味だからダメだって言われちゃった。

だからVtuberになろうと思ってたのに。

何もかもダメになって……」


「そっか……」



死んでも消されて、何もなかったことになるんだ。

だったら生き返らせなければよかったのに。

なんの嫌がらせだよ。



「気分害したら、ごめんなさいレオン君」

「いえ、そんなことないです……」



今の僕は、きっとすんごいやさぐれた顔してるんだろうな。

ごめんなさい、遥香さんが悪いんじゃないんだ。

だから、謝らないで。



「そっか。だから、中と外にこだわっていたのね」

「……まあ」



やっぱり、未だ貴女をヴィクトリアと呼ぶのに抵抗はあるんだ。



「でもこれだけは言わせて。

私だけは、ホントの貴方を見ているわ。中も外も関係ない」



くッ……。

そんなの僕だって。



「こんな借り物のアバターなのに、

中身なんて分かるわけないでしょ」



つい、吐き捨てるように言ってしまった。

ただの八つ当たりなのに。



「だとしても、いつも私を気遣ってくれて、

身を挺して護ってくれているのは、

君自身でしょう? ――多島翔くん」


「うっ…………うう……」



反則だよ、遥香さん。


そんなこと言われたら、もう。


涙で霞んで遥香さんがよく見えないよ……。



「それに、そのアバターだって、

ギフトの一つだと思えばいいじゃない。

イケメンになってラッキーだって。ね? 

私だって元の自分はこんなに美人じゃないもの。

ラッキーだって思ってるわ」


「だけど……ぼく……うっ……ぐす……」



遥香さんは、泣きべそをかいてる僕の頭を、ぎゅっと胸に抱いた。



「つらかったのね……私がいつもそばにいるから」



きっと貴女は勘違いしてる。


だけど、それでも僕は……。


好きになるのをやめるなんて、やっぱり無理だ。



「遥香さん……遥香さんッ……ううう……ぼく……ぼくは」



彼女の腰にぎゅっと手を回して泣いた。

好きだと言えないまま。




離れたくないよ……遥香さん……。


いつまで一緒にいられるんだろう……。




冥府から貴女を想う日が来るまでは、僕は貴女を護ります。


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