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第22話 悪女のはかりごと

私の部屋でお茶した次の日。

どうもレオン君の様子がおかしい。


朝、私を部屋まで迎えに来たときからヘンなのよね。

なんか今までよりちょっと距離を感じるというか、おなか痛そうな顔してるとことか。軽い病気やケガなんて、すぐ治っちゃうはずなのに。


ペット扱いしてナデナデしすぎたからかしら。

それとも、まだ神様からプレゼントもらえてないからかしら。

若い男の子って難しいわねえ。




     ◇




朝食終、寮から校舎への廊下を歩いていると、レオン君が私に、

「今日は、悪口を言いふらしてる犯人を探そうよ」

と提案した。



相変わらず、どこか具合が悪そうなのを隠すように、気丈に振舞ってるのが透けて見えるから、なんだか痛々しくて……。

彼、本当にどうしちゃったんだろうか。



「そうね。放置するのも危険だしね。じゃあ、あとでミーアの教室に行ってみましょう。もしかしたら黒幕が勢ぞろいしてるかもしれないわよ」


「妹ちゃんの教室だね。そのとおりに勢ぞろいしてるといいんだけど。一網打尽にしてやらなくちゃ」


「頼もしいわ、レオン君」

「任してよ、はる……ヴィクトリアさん」

「ええ!」



レオン君の爽やかな笑顔に、何かしらの苦味が混じっている。

どうすればいいのかな……。




     ◇




放課後、私とレオン君は、ダッシュで妹の教室に向かった。



廊下を走っていたため、途中数人の先生に注意されたけど、

連れが第三王子のレオン君だったので、

それ以上の注意もなく、立ち止まらずに通過することが出来た。

さすがは国家権力。



妹の教室に到着。

廊下から中を覗くと、何故かクラリッサと令嬢フローラがいる。

何故か、でもないか。ある程度の予想はしていたし。



あの腹黒は、妹を使って私を失脚させようとしているのね。

ならば、クラリッサのターゲットはやはり第三王子なのか?

無駄なことを。いや、第二王子の線は消えてないけど……。


しかし、たとえ第三王子が私との結婚を望んでも、

国王に婚約破棄を命じられたら終わりだわ。

やはり、あの女をどうにかしなければ。

だけどフローラの盾は厚い。難しいわね……。




レオン君をエサに、ちょっと妹の同級生を数人、釣ってみることにした。

丁度廊下で数人たむろしているし。

段取りを指示した私は、レオン君を女子中学生の輪に突入させた。



「やあ、初めましてお嬢さんたち」

「「「ごきげんよう、レオン殿下」」」



突然現れた王族に中坊どもがビビり散らかしている。

<いいわよ! その調子よ! キラッキラにキメてね!>



「ここは、ミーア・デ・ベルフォート嬢の教室で合ってるかな?」

「「「はい! 殿下!」」」

「ありがとう、レディたち。それで……ちょっと僕の話を聞いてくれる?」

「「「はい! 殿下!」」」



サー! イエッサー! てなノリになってきてるわね。

いい調子よ! レオン君!



「僕の婚約者、ヴィクトリア嬢は、じつは君たちの同級生である、ミーアちゃんのお姉さんなんだ」


「存じ上げております、殿下」リーダー格の子が代表で答えた。



レオン君はそれに小さく頷いて、話を続けた。



「姉のヴィクトリアさんも、妹のミーアちゃんも、僕の大事な家族になる人だから、悪い噂があったらどうにかしてあげたいんだ。

ねえ、君たち、僕に協力してくれる?」


「「「はい! 殿下!」」」

「ありがとう、お嬢さんたち。とても助かるよ。それでね――」



レオン君が聞き込みをすると、主にフローラが言いふらしているのだとか。


なんでも妹のミーアに同情してのことらしい。

権力持ってて頭の悪い子が正義感を振り回すとロクなことがないわね。


いじめの件を真に受けてるのだろうけど、捏造してるのは、あんたの相棒のクラリッサだというのにね。呆れて物も言えないわ。


……って、プレイ中、そのフローラをいいように利用してきた私が言うのもなんだけど。



ひとしきり、彼女たちの報告を聞いたレオン君が話し始めた。

ここからは彼のターンね。



「僕はしょっちゅう彼女たちの家に遊びに行ってるんだけど、僕の婚約者が妹をいじめている様子はない。

むしろ、お姉さんを取られるのが寂しいのか、わがままを言ってるのは妹のミーアちゃんの方なんだよ」



当事者からの言葉に驚いている妹の同級生たち。

レオン君の演技が光るのはここからよ。



「僕は、大好きなお姉ちゃんを取り上げるなんて、

そんなつもりは一切ないんだ。

彼女が輿入れをするまでは、

なるべく王宮でお姉さんに会わせてあげられるよう、

取り計らうつもりだし、

ヴィクトリアを実家に行かせてあげるつもりだよ。

だから、赤の他人の口から出た不確かなことを言いふらすのは、

どうかやめてはもらえないだろうか。

これは僕たち家族の、王家の問題だから」



彼女たちはレオンの言葉に納得し、これ以上は言いふらさないと約束してくれた。

そのかわり、こんどお茶をご一緒することに。

まあこの程度なら仕方ないわね。



「さて、仕込みは終わったわ」

「うん」

「次はいよいよ本丸ね。気を引き締めていきましょう」

「了解!」



エンジンのかかったレオン君は、キメ顔を崩すことなく、教室に入っていった。

突然の王子様の登場で色めき立つ女子生徒たち。



教室の中では妹のミーア、クラリッサ、そしてフローラがおしゃべりしている。

廊下の騒ぎが耳に入っていないわけないんだけど、いい度胸してるわね。

私たちのカチコミに、逃げる気はないみたい。



いよいよ、妹、クラリッサ、フローラを前にするレオン君。

堂々としていて、本物の王族みたいだわ。



「やあ、ミーアちゃん、ごきげんよう。

お友達とご歓談中失礼するよ」


「ご、ごきげんよう、お兄さま」



レオン君が来ていることに気づいていなかったのか、妹はいきなり沸いた彼に驚いている。



そして、他の二名に向き直ったレオン君は、

「お初にお目にかかる。フローラ嬢と……そちらは」



身分の高いフローラを先に名指しする彼。

なかなか上手い運びね。



やや硬い表情でお辞儀をするクラリッサ。

「フローラさんの親戚でクラリッサと申します、殿下。以後お見知りおきを」


「僕の未来の妹と仲良くしてくれてありがとう。今日はどんな話をしていたのかな? よかったら僕も混ぜてはくれまいか?」



キラっと輝く王子スマイル。一万点!

そして、困惑する三人。


とてもじゃないけど、王子様に聞かせられるような話なんてしていないでしょうに。


身に覚えのある妹は、レオン王子に責められるのかと怯え、何も知らないフローラは嬉しいけど困った顔。そして主犯・クラリッサはバツの悪そうな顔になった。



<あーん……。これではクラリッサがレオン王子をターゲットにしているのか、表情からは読み取れないわね……>

<むう……>



これ以上いても二人のどちらかからボロが出ると判断したクラリッサは、早速逃げる作戦に出た。



「申し訳ございません、殿下。わたくしたちそろそろおいとましようと思っておりましたの。残念ですが、またの機会にでもぜひ」


「それは残念だ。じゃあまたね、ミーアちゃん。そしてお二人さん」

「ごきげんよう、レオン殿下」

「ごきげんよう、お兄さま」



この厳しい状況から離脱できる喜びがダダ漏れていますよ、ミーア、クラリッサ。

ちょっぴり残念そうなのが、フローラ嬢。



「あ……そうそう。僕、言い忘れていたことが」

「な、なんでございましょう」ビクつくクラリッサ。


「僕はヴィクトリア嬢を、政略結婚の相手だなんて思ってはいない。

心から愛し、僕の妻に迎えたいと願っている。

この気持ちは揺るがない。

ゆめゆめ忘れることのないよう、お願いするよ」



真剣な表情でキメ台詞を言い切ったレオン君。

ヤバい! かっこいい!

こんなの本当に言われたらコロっといってしまいそう……。



「そ、そうでございますか。ヴィクトリアさんも幸せものでございますわね。では」



クラリッサは、二人を連れて、そそくさと教室を出ていった。

その時、ミーアはドアの近くにいた私に気づいたけど、ものすごい憎たらしい顔で睨んでいったわ。

分かりやすい子ねえ。




仕事が終わったレオン君から通信が。



<僕を断念させるとこまで追い込んじゃったけど……まずかったかな>

<大丈夫よ。連中が本気なら諦めないだろうから>

<えええ……実力行使に出るってこと?>

<警戒するに越したことはないわね>

<しんどいな……>



レオン君の声音に疲れが滲み出る。

もともとコンディションの良くない中、君は十分がんばったと思うわ。



<戻ってらっしゃい。お茶にしましょ>

<はあい……>



あとは私が彼を労ってあげる番ね。

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