王宮から学園に戻ったレオン君は、知恵熱を出してそのまま数日寝込んでしまいました。大役だったし、しょうがないわね。
その間、ユノス君がせっせとノートを取って、レオン君の復帰を待っていたの。
お友達想いでほのぼのしちゃうわね。
王宮殴り込みに連れて行ってもらえなかったユノス君は、ちょっとおかんむりだったけど、アルト君から根掘り葉掘り聞きだして留飲を下げたみたい。
正直、今のユノス君には何の権力も実力もないのだから、連れていっても意味なかったってこと、お利口さんのユノス君はちゃんと理解してくれたのよね。
それから、エバンス卿はどうなったかというと――。
奥さんに良いお医者さんをつけて万全の治療をして、回復したら二人でヤシマ国に引っ越すことになった。
短時間に二度の暗殺事件を防ぐことも出来ず、王家の手落ちで一人の功労者を犯罪者にしてしまったことは、国家の失態もいいところ。つまり王様の恥。
そこをガシガシ突っついて、剣豪の命をもぎ取ったというわけ。
奥方の治療や出国猶予に関しては、ヤシマ国側が強く念押ししたのが功を奏して、要求の満額回答を引き出せた。
平和ボケしたこの国から見れば、バリバリの軍事大国であるヤシマ国をあまり怒らせたくなかったんでしょうね。
とりあえず、奥さんが治るまで、エバンス卿はもうしばらく学園の先生を続けることになりましたとさ。
めでたしめでたし。
◇◇◇
ようやくレオン君が学園に復帰したのは、彼が知恵熱で寝込んでから一週間後だった。
そして、復活初日の放課後――。
「ふ~。ひさびさの学校だから、
一日が終わるのが早いよ。ヴィクトリアさん」
「そうですね、殿下。
ユノス君が殿下のお休み中にずっと
ノートを取っていて下さったんですよ。
ちゃんとお礼を言ってくださいね」
「もちろんだとも」
とはいえ、肝心のユノス君は、今日の最後の授業が別の教室だったから、とっくに寮に帰っちゃってると思うんだけど。ま、晩ご飯の時にでも言えばいいわよね。
「ところでレオン殿下がいない間、
貴方の休講理由について、
かなり良からぬことを言ってる連中が後を絶たなかったわ」
「ひどいなあ。どんなこと言ってたの?」
「私が殿下に毒を盛ったからとか、
私が殿下に悪い病気をうつしたとか、
私がどこかに殿下を監禁してるとか、
私が浮気をしたショックで殿下が寝込んでしまったとか、
とにかく言いたい放題……」
「うわあ……」
「悪役令嬢らしいと言えばそうだけど、
これぜーんぶウソだからね!
事実なんて一つもないわよ!」
「わかってるってば」
まったく、誰が言いふらしてんのかしら。
捕まえてシメてやらなきゃ気が済まないわね!!
「ヴィクトリアさん、誰をシメるって?」
放課後の教室内で、ガンを飛ばしまくってる私の肩をガッシと掴んで、レオン君が嗜める。
「あーら、わたくしそんな物騒なこと言いましたかしらあ?」
「心の声がダダ漏れていたような?
僕の聞き違いだったらいいんだけど」
「おほほほほほほ」
それにしても、相変わらず教室にいないことの多いクラリッサ。
レオン君のいない間も、彼女を見たのは二日程度。
授業をまともに受ける気はなさそうね。
……それもそうか。
プレイ中、男を追いかけて、あっちこっち走り回っていたんだし。
ふと、何かに気づいたようにレオン君が立ち上がると、女子の輪に突入していった。
なんかすごい怒ってるみたい。
レオン君は一体なにをする気なのかしら……。
あの子たちはたしか、私の悪口大会で盛り上がってる連中だったわね。
授業が終わっても帰りもしないで人を貶めて、いいご身分ね。
「その話、僕にも聞かせてくれない?」
急に第三王子が首を突っ込んできたので、女子生徒が飛び上がって驚いた。
ガン決まった目つきで彼女たちの肩をガッチリ掴んで逃がさないレオン君。
「いえ……ヴィクトリアさん、
妹さんと仲がよろしいのよねって
お話しをしていただけなんです……」
「レディがウソはダメだよ。
――ヴィクトリアが妹をイジメてるって話してたでしょ。
僕、すぐ後ろで聞いてたんだよ?」
「ひッ……ご、ごめんなさい」
「君たち、それ直接見たの? 妹をイジメてる現場」
女子生徒たちは、首をぶんぶん振って否定した。
「あのね。僕、ヴィクトリアさんの実家で、
妹ちゃんとはよく会ってるんだよね」
レオン君、顔は笑ってるけど目は全く笑っていない。
「けど、妹ちゃんは、いじめられてなんかいない。
むしろお姉さんの方が彼女に嫌がらせされてるんだが?」
「そう、なんですか……」
「見てもいないことを本当の事のように吹聴するのはいかがなものか。
僕のことならともかく、これ以上、僕の婚約者を愚弄するのであれば、
諸君の御父兄にお伺いを立ててもいいのだけど」
「「「ご、ごめんなさい!」」」
陰口を叩いていた連中が、散り散りに逃げていく。
それを見た男子生徒が、女に丸め込まれているぜ、とレオン君の陰口を叩いている。
何をしてもしなくても、言っても言わなくても、悪意なんて消えはしない。
消すなら、徹底的に潰すしかないわ。
私が、陰口を叩いている男子生徒どもをぎっとにらむと、連中もどこかへ消えていった。チキン野郎め。逃げるくらいなら最初から言うな。
私はレオン君に声をかけた。
「ありがとう、レオン殿下」
「わたくしのお部屋でお茶でもいかが?」
「ぜひ!」
レオン君がとっても嬉しそうに、私に手を差し伸べるので、私はその手を取って、寮まで二人で仲良しアピールをしながら歩いて帰りましたわ。
どこかで見ているクラリッサ、レオン王子には、お前の入るスキなどないわ!