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第17話 侍の国から来た留学生

今日の救出劇の配信が大いに盛り上がったので、神から報奨が出ました!

これは、かなりヤバイ報奨ですよ! 奥さん!




     ◇




「お食事中、失礼します」



レオン君の王城の自室で、レオン君と一緒にお昼ごはんを食べていると、メイドがやってきた。この物言いは、デザートを持ってきた……というわけでもなさそうね。



「なにかしら」



メイドは、書簡の載ったトレーを私に差し出した。

レオン君にではなく、私に。

ということは。



「ご苦労様です、動画職人さん」

「あら、バレてましたか。顔も違うのに」

「え、職人さん? ね~動画の作り方教えてくださいよ~」



メイド姿の動画職人さんは、ふっと笑うと、小脇にトレーを抱えた。

レオン君は相変わらずバカなことを言ってるわね。

何を作ってどこで配信するつもりなのよ?


私は、ご丁寧に封蝋までしてある書簡を開封した。

中身は何かのチケットのようだ。けっこうな枚数入ってる。



「えーっと、なになに? ……はああああッ!」

「どうしたの遥香さん!」

「こ、こ、ここここれは! やったー!」



メイド姿の動画職人さんは、ニヤリと笑った。



「日本人なら、絶対にお喜び頂けると確信していました。

クライアントさんは『こんな報奨で大丈夫か?』と、

心配してたのですが」



チケットに添えられた手紙には、今回の救出劇の報奨だと書かれている。

かなり盛り上がった様子で、新規チャンネル登録者数も爆増し、同時接続数の記録をも更新したとか。



「レオン君! す、すごいものもらったよ!!!」

「もったいぶらずに教えてくださいよ~」



私はチケットをびらり、とお札のように広げると、レオン君の鼻先に突き付けた。



「寮のカフェテリアに好きなメニューを追加出来る券です! しかも十枚!」

「な、ななな、なんですとおおおおおおおおおお!!!」

「「バンザーイ!! バンザーイ!!」」



久々の日本食にありつけると狂喜乱舞する我々を、冷ややかな目で見ている動画職人さん。

ここはダメ元でもうちょっとおねだりしてみよう。



「それで……出来ましたら、お箸を頂けないでしょうか。

コンビニ弁当についてくるやつでも、

それこそ使用済みでもいいので、どうか……お箸を……」



動画職人さんは、えらく渋い顔をして、



「伯爵令嬢が使用済みの割り箸をねだるなんてセコい話、

聞いたことないですよ。

もー、ちゃんと新品を寮に送っておきますから。

それじゃ、忙しいので私はこれで」



言いたいことだけ言うと、動画職人さんは、その場からすっと消えていった。



「遥香さん! 僕、絶対に追加したいメニューがあるんだ!」

「何かしら?」

「ごはん!!!!!!!」



おお……たしかに。

白メシ。

我らが魂の糧。



「レオン王子! 一億万点!」

「あざーっす!」



パチパチと手を叩くレオン君。



「じゃあ、私は……味噌汁と塩ジャケ」

「生卵と海苔と醤油」

「それ料理じゃなくて食材じゃない。しかも朝食縛り?」

「あ、そうだった」


「とにかく、チケットは十枚しかないから、

よーーーーーく考えて選ぶのよ!」


「了解! ああ~~~~~、楽しみだああ~~~~~」



楽しみすぎて、よだれが滝のように溢れそうです。ハイ。




     ◇◇◇




というわけで、寮に飛んで帰った私たちは、レオン君のゴージャスなお部屋で、新メニュー選考会議を始めた。

絶対欲しいのはご飯と味噌汁。だけど、そこから先が難航してしまった。



「だから、肉系ばっか増やさないで。魚も食べたいのよ」

「肉系ばっかって、唐揚げと生姜焼きと酢豚はぜんぜん違うじゃん」

「貴重なチケットを定食屋メニューで埋め尽くす気なの?」


「遥香さんだって、刺身と焼き魚とたこわさと煮魚って、

居酒屋メニューじゃん!」


「あーあーあー分かりました! 

ちょっと何とかするから待って!」



私はコーヒーをガブ飲みすると、両耳にクッションを当てて音を遮り、名案が降ってくるのを待った。



そして五分後。



「くっくっく。……我ながら己の知性が怖い」

「何かいい案を思いついたの?」

「ええ。すごくいい案よ。これならケンカにならないわ」

「なんだかわかんないけど、グッジョブです! 遥香さん!」



私は、自信たっぷりに、チケットの空欄を次々と埋めていった。




     ◇




私とレオン君が、夕刻の大食堂で久々の日本食に舌鼓を打っていると、一人の生徒が匂いに誘われて近寄って来た。



「くんくん……、ああ、いい匂いだ……」

「君も注文したらどう? って、あ! 留学生の人だ!」



なんと、焼き立てのサンマの匂いに釣られたのは、レオン君のお友達候補の留学生、アルト・カンザキ君だった。

確かに、この寮内で、焼き魚に誘い出されるのなんて日本人くらいのものだわ。



「故郷を出てからこちら、西洋風の料理ばかりで辟易してたんだ! もう夕飯は食ってしまったが、注文してくるよ! 調理場でなんて言えばいい?」


「「日替わり魚定食で!!」」


「サンキュー!」

アルト君はダッシュで配膳カウンターへと走っていった。



そう。

メニュー追加チケットの枚数が限られているなら、提供される料理をランダムにすればいい。そういう方式が、日本の飲食業界にはある。



【日替わり】



この輝かしくも、三方丸く収まる素晴らしい呪文。

これさえメニューに付ければ、食べられる日本食は莫大に増えるのだ。


さて、私がチケットに書き込んだメニューは以下のとおり。



・日替わり寿司(あら汁付)

・日替わり朝定食

・日替わり魚定食

・日替わり肉定食

・日替わりカレー

・日替わり中華定食

・日替わり晩酌セット(ビールorハイボール)

・日替わりラーメンセット

・日替わりプロテイン

・日替わりコンビニスイーツ



チケットを渡した調理係のオバチャンが少々難色を示していたけど、結果、全て受理されてメニューに登録されているのだから、今回は私の勝ちね。


さあ、これでどんだけのバリエーションを展開してくれるのか見ものね。

日替わりなのに一種類しか出てこなかったら、娯楽神に厳重に抗議してやるわ。


なお、最後の二つはレオン君の希望なんだけど、正直あまり期待していない。

私の希望は、寿司と晩酌セット。オヤジ臭い? 余計なお世話よ!




ちなみに、メニュー選びに時間をかけ過ぎたせいか、ユノス君は既に食事を終えていて、私たちと入れ替わりに自室に戻っていった。



焼きサンマ定食を取って戻ってきたアルト君が、

「ここ座ってもいいかい?」


レオン君が空いた椅子を引きながら、アルト君に席を勧めた。


「もちろん。君もサンマ好きなの?」

「ああ。大好物だ。まさかこんな遠国で食べられるとは夢にも思ってなかったぜ」


アルト君は本当に嬉しそう。

彼は両手を合わせて『いただきます』をすると、箸を取り味噌汁をすすった。




アルト君は、ヤシマ国から来た留学生で、特技は武術一般、料理、楽器演奏、とちぐはぐな設定に、開発者の雑さを感じてやまない。


外見は、ラノベ主人公にありがちな甘いマスクと、ざんばら黒髪に強い眼力の瞳の持ち主。


攻略対象の選択肢を豊かにするためだけに加えられた、アジア系かつ体育会系のヒーローという分かりやすいキャラクター造形だけど、その割には強い意志を感じるのは何故かしら。


――まさか、転生者じゃあ、ないわよね?




「今日の食堂はヤシマフェアなのかねえ。

いきなり食堂にヤシマ国のメニューが追加されたようだが、

食べているの君らくらいしかいないな。

お二人さんはヤシマ国に行ったことでもあるのかい?」


「うん。君はヤシマ国の人でしょ?」


「ああ、留学生のアルト・カンザキだ……

って、同じクラスじゃなかったかい?」


「うん。僕はこの国の第三王子、レオン。

こちらは僕の婚約者のヴィクトリアさん。

アルト君とお話しするの、初めてだよね。

どうぞよろしく」



レオン君が己の任務を忘れてなくてよかった。

私はアルト君に軽く会釈をした。


レオン君の正体を聞いて驚いたアルト君は、トレーに箸を置くと立ち上がり、胸に手を当てて一礼をした。



「これは大変ご無礼を致しました、レオン殿下。

私はヤシマ国より武術留学でご当地に参りました、

士官候補生のアルト・カンザキであります。

こちらこそ、王家の方とお近づきになれて光栄です。

今後ともどうぞお見知りおきを」



あちゃー……。

ただの脳筋だと思ってたのに、そんな裏設定があったとは。

おまけにゲーム内では侍みたいだったのに、今は軍人じゃない。

メンドクサイことにならなきゃいいけど。



「アルト君、ここは学園だからそういう堅苦しいのは抜きにしようよ。

僕のことも、レオンって呼んでくれると嬉しいな」


「しかし……」


アルト君はしばし思案すると、レオン君に手を差し出して、


「承知しました。こちらではご学友、

としてお付き合いさせて頂きます。

――よろしくな、レオン」


レオン君はうれしそうに、差し出されたアルト君の手を握って、


「ありがとう、アルト君。

よければ、友達になってね。

ここにいる間だけでもいいから」


「もちろんだとも。

米を一緒に食う仲間が増えて嬉しいよ」


アルト君は着席すると、ふたたび焼きサンマ定食を食べ始めた。



それにしても、久々の焼き魚にお米に味噌汁。

ああもう、おいしすぎて涙が出そう。

生きてるってカンジね。



レオン君も久々の和食を堪能してる。いまは……サンマの骨を取るので忙しそうね。

ちゃんとお箸を使えて、魚も綺麗に食べられる子は、ポイント高いわよ。

アルト君は、お箸は上手だけど……サンマを頭からバリボリ。ワ、ワイルドね。



食事を終えて、緑茶で一息ついていると、そういえば以前は緑茶なんてなかったことを思い出す。いつのまに……。



「あー、おいしかった~。明日の朝定食は何かな~」

「たのしみね~」

「朝はやっぱり海苔と納豆と塩ジャケかな」

「鉄板ね~」

「「「ふ~~……」」」



米で胃の腑が満たされた快感に身をゆだねる私たち。



「あんたら、ホントはヤシマ人なんじゃないのか? 

外国人とは思えないぞ」


「オホホ、そんなことないわよ。

ねえ、レオン殿下?」


「そ、そうだよ~。

外国なんて行ったことないもん」


「ま、そういうことにしといてやるよ。

俺もメシ友欲しかったしな」



レオン君にウインクを投げるアルト君。

なんというかリアクションが昭和かしらね。



「ところでアルト君。きみ剣術得意?」

「まあ、武官候補生だし、それなりには。どうした?」


「僕あまり剣術が得意じゃないから、

教えて欲しいんだ。ヒマな時でいいから」


「わかった。請け合おう」



二つ返事でOKするアルト君。漢らしいわね。



「ところで、剣術を覚えてどうしたいんだい?」

「じつはね。僕、しょっちゅう暗殺されそうになってるんだよね」

「え……。一体誰が。結構平和そうな国に見えるんだが」



この国や周辺諸国の政治については全く情報がないのだけど、一応は平和そうなのよね。お家騒動なんてやってられるんだからヒマなはずよ。



「お家騒動だよ。つまり、身内かな」

「なんてこった。気の毒にな……」



ああ……。アルト君に哀れまれている。

不憫なレオン君。って私も不憫じゃないのよ、もう!



「護りたい人もいるし……。

だから、出来れば自衛したいなって」



それって、私のこと? やだ嬉しい。


でも元々は剣士キャラだった訳だし、レオン君の剣術スキルは一体どこいっちゃったの? UI (ユーザーインターフェース)が完成すれば分かるのでしょうけど……。



「それは大変だな。よし、俺が近くにいる時は護ってやるよ」

「ホントに? 嬉しい! 助かるよ!」

「はは。将来は大使館の駐在武官にでも推薦してくれよ」

「わかった! 任せといて!」



なんだかうまいことボディーガードをゲットしてしまったレオン君でした。

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