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第14話 レオン王子の朝帰り

早起きをした私は、寮の自室で着替えながら、クラリッサを探す方法を考えていた。


夕食と朝食の際の大食堂を観察した結果、クラリッサやフローラの姿は見つけられなかった。

どこかに引きこもっているのか、あるいはフローラの私邸にでもいるのか。


たった一日分の情報ではあるけれど、クラリッサが寮にはいないのではないかと私は予想した。

それならば登校時を狙って見つけるのが手っ取り早い、そう判断するのに時間はかからなかった。



「「おはようございます、ヴィクトリアさん」」

「お、おはよう。……どうしたの?」


何故か今朝の出待ちは、レオン君とユノス君。

二人揃ってドアの前に立っていた。


「実は、あの後、ユノス君ちにお泊りしちゃったんだよね……」

「べ、べつにヘンなことしたりしてませんからね!」



メチャクチャ照れ臭そうに言ってるんだけど、ホントに何があったのかしら?

まあ深く追求しないでおいてあげましょう。


ウチのレオン君がBLに目覚めてしまったら、それこそ娯楽神の思うつぼだわ。絶対阻止しなければ……。

うう~ん、BLダメ、絶対。だって私が終わってしまう。



「おーい、ヴィクトリアさん、帰ってきて~」レオン君が私の顔の前で手を振る。

「あ、ただいま」



思索に耽っていると、ついついリアルが疎かになってしまう。

この世界がリアルかどうか、という哲学的な話は置いとくとして。

だから時々、こうしてレオン君が私を現実に引き戻してくれるわけ。




     ◇




私たちは学園のエントランスにやってきた。

まだ早めの時間なので登校している生徒はまばらで、そのほとんどは寮からの生徒だろう。自宅登校している生徒たちの馬車は、まだ一台も学園の前を通ってはいない。



「ここでクラリッサを待ち構えるわよ」

「「ラジャー!」」

「……って、ユノス君まで混ざらなくてもいいんだけど」

「ええ~。僕も混ざりたいです~」



一晩のうちに、彼の身にいったい何があったのか。

あのインテリクソメガネのユノス君が、すっかり腑抜けてしまっている。

これではまるで、レオン2号だ。



「なんかすごく失礼なこと考えてなかった?」

レオン君が目敏く私を詰める。


「そんなことないわよ? とにかく、ユノス君は身内感を出し過ぎると狙われるから、先に教室に行って、私たちが来ても素知らぬ振りをしていてちょうだい」


「わ、わかりました。ではお先に」

ユノス君は会釈をすると、そそくさと校舎に入っていった。


「さて、と。どこで待ち伏せしようかしら」

「待ち伏せって。えーっと、歩行者の邪魔にならない場所?」


「アホレオン。そうじゃなくて、

監視はしやすいけど、

遠くからバレバレじゃない場所って意味よ。

私たちがいきなり昇降口で仁王立ちしてたら

逃げられちゃうでしょ」


「確かに。僕でも逃げる」



周囲を見回すと、いい具合に身を隠せる場所を発見した。

私とレオン君は、植え込みで進路上からちょっと死角になっているベンチに腰掛けると、早速学生たちの監視を開始した。



「なんか僕たち、刑事とか探偵みたいですね!」

「まあ、そうかしら」

「ちょっとドキドキしますね!」

「まあ、命かかってるからね」

「そうじゃなくって~~~」


レオン君が不満を漏らす。

君にはかなり危機感が不足しています。





なかなか現れないホシにイラつきながら、私はクラリッサのターゲットについて考えていた。



攻略対象から考えて、第一王子と教官とただの地方貴族の子息はないものとする。

第一王子はほぼ攻略不可能なのでパス。

地方貴族の子息は、成り上がり志向の彼女は眼中なし。

教官に至っては、駆け落ちエンドなので、絶対に有り得ないだろう。



となれば、第二・第三王子、魔導士、留学生の四択。

だが、魔導士と留学生は線が薄い。



成り上がり志向の彼女からすれば、正体不明な魔導士や、汗臭い脳筋留学生をわざわざ落とす理由があまりない。



結果、第二・第三あたりに落ち着くのだが、チャラ男の第二王子とつるんでいる様子は今のところは見られない。



第三王子のレオン君だとしたら、ぼちぼち私に襲い掛かってくるはず……。

果たして、どちらだろうか。





結局、始業ギリギリになってクラリッサが現れたけど、フローラやその取り巻きを連れているだけで、ターゲットに関する情報は何も得られなかった。



何か警戒されているのだろうか。

それとも、これから攻略するつもりなのだろうか。


わからない、わからない、わからない……。


苛立ちだけが募っていく。


あんな女にやられてなるものですか。

レオン君も、私も。


とにかく、とにかくどうにかしなければ。




     ◇




今日はクラリッサと初めて同じ教室で授業を受ける。

午前中、全ての教科で。


そしてお昼はフローラたちと食堂で普通に昼食をとっていた。

ここまで一切、男の影はない。

ちなみに第二王子は遊んでいるのか、授業には出て来なかった。



「ああー、午後は選択授業なのか……クソッ」


荷物をまとめて部屋を出て行くクラリッサを横目に、つい暴言を吐いてしまう。


「口が悪いよ、ヴィクトリアさん」

「いけない、つい」


苛立つ私の肩を、ぽんぽんと叩くレオン君。

「大丈夫?」


「ええ、問題ないわ。次の教室に行きましょう。えーっと……」

相変わらず学園内の地理に疎い私たち。


そこに、ユノス君がやってきて、

「お二人は、植物学の授業ですね。僕も同じなので一緒に行きましょう」

「ありがとう! 助かるわ」

「よかった! ありがとう、ユノス君」

「お安い御用です」



ユノス君は、レオン君の役に立ったのが嬉しいのか、ニッコリ笑って眼鏡のフレームを指先でつい、と持ち上げた。




     ◇




植物学の授業が終わり、自分たちの教室に戻ろうとすると、教師がレオン君を呼び止めた。


その教師は若い男性で、いかにもモブ教師という容姿。

そのモブが、一体王子様に何の用があるというのだろう。



「レオン殿下、ちょっとよろしいでしょうか?」

「はあ、なんでしょう」

「学園の温室に、私が育てた王家由来の特別な花がございます」

「そう……なんですか」



唐突な展開で、不安になるレオン君。

私もこんなシナリオ、見たことがない。

ただ、そういう植物が存在することは、設定資料集に書かれている。


この教師は一体……。まさか、暗殺者?



「ぜひ殿下にお見せしたいのですが、いかがでしょうか?」


「えっと……じゃあ、

せっかくなので彼女もいっしょに。

ヴィクトリアは僕の婚約者です」



一人で行くのが怖いので、私も巻き込もうとしたのは見え見えです。

だけど。これは。



「いいえ、あの花は王家の方以外にはお見せすることが出来ないのです」

「えっ? 彼女もいずれ王家に連なることになるのだが……」


「今でないとダメなのです。

花の開花期間はあまりに短く、

ご婚礼を待つ暇はございませんので。さあ、殿下」



これは確実に罠。

そんなにグイグイ来たらバレちゃうでしょ。

みえみえ過ぎる罠だわ。

きっと脇役用のシナリオだから、こんなに雑なのね。



まあ、釣られてあげましょ。

そして、釣り上げてやりましょ。


ヴィクトリアとレオンのコンビを、舐めないで頂きたいわ。

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