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第11話 王子と私の調査活動

ユノスくんとの楽しいランチのあと、私たちは午後の授業の合間に調査を続けた。


事故以前の記憶が全く存在しない私たちは、状況を把握するため地道に努力するほかなかった。


こんな無理ゲー……とボヤきたくなるが、その方が面白いから、とでも言うのだろう。あの娯楽神ならば。


私たちは通信機で会話しつつ、お互いの周囲を観察する。

レオン王子は私の、私はレオン王子の周囲を――。




     ◇◇◇




イケメンに女子学生が群がるのは古今東西変わりないのだけど、婚約者がいるレオン王子には、女子学生が群がることはなかった。



「はあ……。ちょっとはモテたかったのに」とボヤくレオン王子。

「なんで」と聞くと、

「MMOの世界でヒーローになって

モテモテになる予定だったから」だと。



ちょびっとだけ呆れた。

でも気持ちは理解する。



「じゃあ私にモテればいいんじゃない?」



イヤでも結婚するんだし。

だったら少しは惚れさせてくれまいか。

ねえ、婚約者さん。



「その発想はなかった! がんばります!」



それでいいのか王子よ。

でもまあ、思考はシンプルな方が、

悩みが少なくていいよね。うん。



というわけで、私たちは二手に分かれて情報収集を開始した。


神からもらったイアリング型通信機には収音マイクがついており、お互い誰かと会話してもリアルタイムで聞くことが出来る。


だから、伝言ゲームのように後で報告する必要はない。


片方をどこかに仕掛けて音声を拾う、なんて使い方も可能だ。


まあ便利。


いかにもスパイグッズってカンジね。



遠巻きに私をチラチラ見ているレオン王子に、男子生徒が声をかけてきた。


モブなのか、顔に覚えはない。音声は明瞭に届いている。さすが神アイテム。



「やはり、婚約者がイジめられてるのが気になるんだな」


モブ男の声に、レオン王子を気遣う色が見える。



「女性同士のことに口出しも出来ぬ故、致し方ありませんね。僕は婚約者として、なにがあっても彼女を支えるのみです」



おお、あのレオン王子が、なんかカッコイイこと言ってる!



「レオン殿下、ちょっと男前になった?

やっぱり彼女が事故で死にかけたのが原因なのかな」


「僕が護って差し上げなければ他に誰がいるのです?」

「おおー」

「そういう気持ちに、改めて思い至った次第です」



<王子かっこいー!>

思わず通信を入れる。


<こんな調子でよろしいでしょうかお嬢様>

<百点満点です!>

<やったー>



なんて、ごにょごにょと通話する私たち。

傍から見たらヘンな人だよね。



「あ、ごめん。殿下と話してるところ見られるとマズいんで……」


あらら。仲良くしてくれる人だと思ったのに、残念。


「お気になさらず。お声掛け頂き感謝です。さあ、行ってください」

「それでは……」



モブ男はそそくさと、廊下へと去って行った。



<よほどヴィクトリアって評判悪いんだな……>

<だれかさんのせいでね>



私はモブ男を廊下で見送りつつ、すこし教室の近くをふらついていた。


どういうわけか、昼休み中も午後の授業でも、クラリッサが見当たらないのだ。


もしかして、今日は休みなのだろうか。少しでも彼女の情報が欲しいのに……。



「落馬したくらいで勉強の遅れを免れるとは思わないことだな」



唐突に、頭の上から大人の男性の小言が降ってきた。

年齢や服装から、学園の教師のようだ。

教師までヴィクトリアをイジメているのか? かなり悪質だな。



「すみません。急いで追いつきます」


「せいぜい退学にならぬようにな。

王子の顔に泥を塗ることになるぞ」


と、吐き捨てるように言う教師。

露骨にもほどがあるわね。


「心得ております」

この教師いつかぶっコロす、と心の中で十回唱えた。



そういうゲームではないものの、

殺戮ショーを展開すれば、

それはそれで視聴者にはウケるのだろうか。

いやいや、ここは合法的に……

って私は何を考えているんだろう。



<教師にまでイジメられてるってどうなんだよ>

心配したレオン王子から通信が入る。


<それだけ彼女らの手が回っているってことでしょう。

とっととシメてやらねばこっちのメンタルが持たないわ>


<確かに。ちょっとフォローに行きますよ>

<いいわよそんな>

と言っている間に、レオン王子が私の傍らに現れた。



「誰の顔に泥を塗るんです?」

やや怒気をはらんだ声で、

睨みながら教師に言い放つ、我らがレオン王子。


「で、殿下。お気になさるようなことではありませんよ」

ヘラヘラと気持ちの悪い笑顔で言い訳をする教師。


「僕の婚約者に落馬したくらい、とおっしゃられたが、

それが生死の境をさ迷った女性に向かって吐くセリフなのですか?

この学園もずいぶんと品がなくなったものだ」

レオン王子は、教師に向かって冷静に反論した。



あんがい王子様のロールプレイが板についてきたみたい。

心なしか威厳すら滲んでいるように見える。



「申し訳ございません」

教師はそれだけ言うと、そそくさと逃げていった。


「レオンくんかっこいー!」

「ふふ。ヴィクトリアさんの人気者になりたいんでがんばりました」

「よしよし」王子をナデナデしてやる。

「むふん~」レオンくんはまんざらでもなかった。



イヤな教師をやり込めて、いい気分になっていると、後ろから誰かに声を掛けられた。



「レオン。お前、ずいぶん調子に乗ってるようだな」

若い男の声だ。



ぎょっとして、私とレオン王子は振り向いた。

「な、何のことですか」



<誰?>

<第二王子のカルロ、お兄さんよ!

向こうからくるなんて……油断してたわ>

<マジで! やばくね!>



腕組みをして、絡む気マンマンの男が、取り巻きと一緒に立っていた。



「そこの死にぞこないを庇って教師に盾突いて、

ヒーローにでもなったつもりか」



レオンのお兄さん、

顔はまあまあ良いはずなのに、

粗野なのと頭の悪さがにじみ出て、ひどく残念。

取り巻き連中も、やっぱり頭悪そう。



「僕は間違ったことをした覚えはありませんが。

むしろ兄上こそ、理不尽な人間を庇うのは、

道理に反してはおりますまいか」



<いいぞー! レオン王子!>



「生意気な! おう、身の程を分からせてやれ」


カルロ王子があごをしゃくると、脇から取り巻き連中が前に出て、レオン王子に乱暴しはじめた。



「いた! やめ、やめろ! こら! うわっ」

「やめてえぇッ」



やめろと言ってやめる奴などいない。

私が弱弱しく悲鳴を上げてみせるのは、あくまでも演技。

それに、レオン王子はこの程度で死ぬような男でもない。



音がするほど強く、レオン王子を蹴り回す、取り巻き連中。

躊躇なく暴力を振るうのは、普段からこんなことをしている証拠だ。



見ているだけでも痛くなってくる。

可哀想だけど、私に出来ることは何もない。

彼らが満足して去っていくのを待つこと以外には――。



ひとしきりレオン王子を痛めつけて満足したのか、

「目ざわりだ。城で引きこもってろ」

と捨て台詞を吐いて、カルロ王子一行は去って行った。



私は廊下に転がるレオン王子を抱き起こした。


「大丈夫?」

「ええ。ぜんぜん効いてないですね。丈夫な体でよかった~」


確かに顔も殴られたはずなのに、アザも出血もない。


「心配させないでよ。も~」

「いやあ、すごいですね。勇者の肉体ヤバイ」

「確かにヤバイわね……」

「あはは」

「というか、カルロ王子、あれじゃただのチンピラだわ。

あんなの落とす人いるのかしら」

「僕が女性だったら絶対お断りですねえ……」



それにしても、クラリッサのターゲットって誰なんだろう……

今日は彼女のこと、見つけられなかったし。



「ヴィクトリアさん、もう引き揚げましょうか」

「そうね、もう放課後ですものね」

「ところで寮ってどこでしょう?」

「あ。移動は選択式だったから私もわからないわ……」



途方に暮れる私たち。

だけど、少し間を置いてレオン王子が口を開いた。



「そうだ、ユノスくんに聞こう!」

「あ! ナイスアイデアよ! 殿下!」

「やったあ!」

「よしよし」ナデナデしてあげる私。

「むふん~」

「放課後……ってマズい! 彼、帰っちゃう!」

「ヤバ!」



私たちは、急いで教室に向かった。

「「ユノスくーん!」」

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