「レオン王子、貴方に命じます」
「なんでしょう、ヴィクトリアさん」
「この二人と仲良くなりなさい」
唐突な指令に驚いたレオン王子だったけど、我々の生命がかかっていると伝えたら、やる気になってくれた。相棒なんだから、そうこなくっちゃ。
「それぞれの名前と特徴は――」
ガリ弁こと魔導師は、天才少年のユノス・シンクレア。
一般教養を身に付けるため、この学園に通っていて、選択科目は全て魔法で、普通教科のみ同じクラスで授業を受けている。
ずっと家庭教師に魔法を習っていたから、変人らしい。
違う校舎にいなくなっちゃうことが多くて、つかまえるのに苦労したっけ。
体育会系こと留学生は、アルト・カンザキ。
交換留学生として、日本ぽい国から来ていて、腰にサーベルをぶら下げてるので、侍っぽい雰囲気を感じる。
普通の学園モノだったら、剣道部で主将とかやってそうなタイプ。
この学園ではあまり居場所がなかったみたいで、寂しさを埋めるプレイをしたら、すぐに落ちた。そういう意味では手のかからない子だったわね。
「魔導師と……日本人? え、侍なの?」
「よくわかんないけど侍キャラみたい」
レオン王子はしばらく思案すると、
「なるほど。じゃあ魔導師からにしようかな」
「なんで魔導師からなの?」
あんまりにも気楽にチョイスするから、つい訊いてしまった。
「なんかお城にも魔導師っぽい人いたし、
魔導書がいっぱいありそうな図書室もあったから……」
「そうなの? お城ヤバイ」
「やっぱりお城なんて探検しちゃうじゃん」
「気持ちはわかるけど、
誰に狙われてるか分からないのに
ウロついたら危ないわよ」
「あ、忘れてた。まあ死んだらリセットしてもらえるし」
「自分の命が軽すぎるわよ君」
「いやもう死んでるし」
「そういう問題じゃないでしょ」
「じゃあ行ってくるね。ヴィクトリアさん」
「がんばって」
初対面の男子生徒2人と友達になる緊急ミッションが発生したレオン王子は、緊張した面持ちで、1人の生徒=魔導士を観察しはじめた。
美形ではあるが、近寄り難い雰囲気を纏っている。もし私が男性なら自分から近寄ろうとは思わないだろう。
だがウチの王子とて、同じくらいの美形だぞ。同じ絵師が描いてるんだもん。
絵面的にはご褒美シーンかもしれない情景が、今まさに眼前で展開しようとしている。
「やあ、ユノスくん、だっけ。おはよう」
意を決したレオン王子が、読書中の魔導師に声をかけた。
レオン王子、なんかすんごいイケボなんだけど、男子でも惚れてまうわ……。
一体どこから声出してんのか。
そういえば……。ゲームの声優さんってこんな声だったっけ?
ユノスくんは魔導師と言っても、見た目で露骨に分かるような服装ではなく、皆と同じ学園の制服を身にまとっている。
せいぜい魔導師の片りんがあるとすれば、アンティークなデザインの眼鏡に細身のサークレットや凝った装飾のネックレスを身に付けている点くらいだろう。
それとて、人によってはオシャレな少年だと思うだけかもしれない。
「何か御用ですか、殿下」
ユノスくんは気だるそうに顔を上げると、
ギリギリ失礼にならない程度の返答をした。
ツーン、と擬音が文字になりそうなほど、
冷ややかなリアクションの魔導士くん。
そういえばユノスくんは、ゲームと同じ声ね。
「用ってわけじゃないんだけど……
ちょっと魔法に興味があって……」
「はあ、面白半分に魔法に関わるとケガしますよ」
こういう冷血系がタイプの人もいるんだろうけど、私はあんまり好きじゃない。
トロフィー欲しさに仕方なく落としたんだよね~、この子。
と、王子を見ると、冷血くんの塩対応に怯みそうになっている。
<がんばれ王子!いけ!>
私は通信機ごしにレオン王子に激を飛ばした。
彼は私の方を向いて頷くと、
「ほ、ほら、ウチも王宮魔導師とかいるし、
ときどき魔法を目にすることもあってだねえ」
「はあ」
「ま、魔法に興味はあるんだけど、
でもすごい怖い人だから近寄れなくて……」
「それで?」
レオン王子の話が長くなりそうだと思ったのか、
ユノスくんは小さくため息をつくと、
読んでいた本にしおりを挟んで机の中にしまい込んだ。
「そ、それでね、王子が魔法に興味あるなんて言うと怒られちゃうわけで……」
「まあ、そうですね。魔法の行使には危険を伴いますからね」
「でも、知りたいものは知りたいわけでだね……」
ここでユノスくんの視線がぴくりと跳ねた。
何に反応したんだろう?
「そうですね。知識欲というものは誰にも止められるものではありません」
そこかあ!
魔導師といえば、知識欲の権化だもんね!
そこかあ……
がんばれ王子! もう一押しよ!
「というわけで……ユノスくんに弟子入り、
まではいかなくても、
やってるの見学させてもらえたら……と思って……」
「はあ」
気のない返事をしているつもりだろうけど、
私の目は誤魔化されないわよ、
ユノスくん!
魔法友達が出来て、嬉しさを隠しきれてないわよ!
「それでね、ユノスくん。
うちのお城、なんか大きい図書館あるんだよね」
「え!」
きたー!
きたきたきた!
食いついたわよ!
「殿下、それは……古い本などもあったり、しますか」
「よくわかんないけど、
すごい古いのとか、魔導書とかもあるんじゃないかな。
お城の魔導師たちも出入りしてるし……」
「ど、どうすれば図書館に入れますか!」
「そうだなあ……」
ごくり、とここまで音が聞こえそうなくらい、
ユノスくんは、大げさにつばを飲み込んだ。
「僕と友達になってくれれば、
一緒に連れてってあげられるんだけどな~」
にっこり微笑むレオン王子。
これは堕ちたでしょ!
「なります! いえ、ならせてください! 殿下!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
<よっしゃー!! レオンでかした!!>
レオン王子は私に振り替えると、サムズアップしてみせた。