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第8話 学園に戻ったら針の筵だった悪役令嬢

『学園』

――とは名ばかりの、王家が諸侯の子女を人質にするための施設。




私とレオン王子の通う中高一貫校。

勉強の内容は正直よくわからない。だってプレイに関係ないから。



なんでファンタジー世界なのに高校が?

何故かって? 恋愛ゲームを作るのに都合がいいからに決まっているでしょう。


そう、全てはご都合。

ゲームは全てが許される。

面白ければ正義。

疑問を抱くことすら忘れきった、私はゲーマー。



さて、この学園、ゲームの設定では現代人に親しみやすくするため、ちょっと昔のギムナジウム調になっていた。

あんまり近代的なのもどうなんだろう。



だけど、イメージ優先でいい加減に作られたはずなのに、さすがは神のなせる技か。

細部にわたり整合性がとれていることに、私は驚いていた。



その学園に戻った私たちを待っていたのは、心配や復帰を喜ぶ声ではなく、冷たい視線や陰口だった。

陰口程度で済めばまだいい方なんだけど……。




     ◇◇◇




「ごきげんよう」

警戒心をレッドゾーンまで上げた私は、それでも涼しい顔で教室に入った。

どこに敵がいるか分からないのだから。



(ああ……)



しかし、これでは分からない。

半数以上の視線が、私に悪意を向けているのだから。

悪意を向けながら、ぼそぼそと私に聞こえないように悪口を言い合っている。



(聞こえてるわよ)



王子をたらしこんで嫌らしいとか、(親の決めた結婚なのに、たらしこむもないもんだ)嫌な女が帰ってきたとか、そのまま意識が戻らなければよかったのに、という声まで聞こえる。どんだけ憎まれてるの私ってば。

分かってはいたがリアルに針の筵はしんどい。



ヴィクトリアが四面楚歌になる状況を想像すると、クラリッサの悪行をすぐに思い浮かべるけど、他にもいくつかケースがある。



たとえば、レオン王子との婚約を破棄したり、レオン王子に負傷させたり死なせてしまった罪の濡れ衣を着せられていたりなど。

妹も姉のヴィクトリアに強い敵愾心を持ってはいるけど、学園で姉の悪評をバラ撒くまでには至らないだろう。

う~ん。情報が足りない。



私の婚約者も周囲の冷たい視線に早くもリタイアしそうになっている。

それにしても、王子まで悪口を言われるなんて、常軌を逸してる。だが、これは大きなヒントになりそう。なりそうなんだけど……やっぱ情報が足りない。

一体この教室で何が起こっているのか……。



「どうなってるんでしょう、ヴィクトリアさん」怯える婚約者。

「恐らくクラリッサ……このゲーム世界の主役の仕業ね」

「そんな……僕耐えられない」

「このままじゃ殺されちゃうのよ! しっかりして」

「はいぃ……」



露骨な悪意にアテられて、ひどく頼りなげな婚約者。

だが私に与えられた唯一の希望。頑張ってもらわなければ全滅だ。



しかしここまで攻撃されるということは……もしかしてヒロインのターゲットってレオン王子? もしくはお家騒動の場外乱闘? 私の悪評と無関係である可能性も捨てきれない……。


うう~~~~ん、情報が欲しい!



「大丈夫、ブラック企業の劣悪環境で鍛えられた私よ、

この程度の逆風なんてイジメのうちにも入らないわ」


「あああ、お姉さまぁぁ……、

なんて強いんだぁぁ、僕もう心折れそう」


「しっかりして、あなた王子様なのよ。

外面だけでもキリっとしていて頂戴」


「わ、わかった」



ちょびっとだけ顔がキリっとした王子だったけど、1分も持たずに不安そうな顔に戻ってしまった。


これでは敵の思うつぼ。罠を仕掛けられたら逃げられない。

私がしっかりしなくっちゃ……。私が……。



コソコソ話をしている同級生をギッと睨んでやると、さっと自分の席に逃げ散っていった。


自我もろくにないくせに、モブのくせに生意気なのよ。

って、この世界では一応ちゃんと生きてる人間、なのよね。

ああ……、まったく面倒な世界に転生させられたものだわ……。


そもそも、ヴィクトリアというキャラが他のモブをイジメているシーンなんて見たこともないし、主人公のクラリッサをイジメることもない。

もともと性格が悪いキャラクターではなかったはずなのだ。

それなのに。


彼女の野望の邪魔者として、悪評を撒かれて陥れられたにすぎない。

――死に至るトラップに。


苛立ちを通り越して、クラリッサへの憎しみが募っていく。



「どこいったのかしら……」



宿敵クラリッサの様子を伺おうと教室内を見回すけど、彼女がいない。

遅刻なのか。それとも、自分の仕込んだトラップが派手に効果を上げているところを、物陰でほくそ笑みながら見物しているのだろうか……。



「だれが?」

「ラスボス」

「ああ、なるほど。……いないの?」

「うん」



こんな風にレオン王子とコソコソ話をしていると、あからさまに舌打ちをしたり、私たちの関係を揶揄する声が聞こえてくる。


だけど、王子を直接イジメる度胸のある生徒はおらず、遠巻きにしたり無視したりしている。



ダサ。子どものイジメなんて、この程度のものか。

このクラスをシメるくらい訳ないけれど、今はそんなことしてる場合じゃない。

私や王子の足元を掬おうとする敵を探さなくては。

とはいえ、手がかりが全然なくって……。



そんな中、周囲の空気を意に介さない人物が二名。

ターゲット候補の魔導師と留学生。

プレイヤーだった時は、二人とも落とした記憶がある。

多少手間ではあったけど、キャラ付けが比較的分かりやすかったので、そこまで難しくはなかった。



「レオンくん、あそことあそこ。

こっち見てない男子生徒がいるの、わかる?」


「んー……、ガリ勉ぽいのと体育会系みたいな奴、かな」

「正解。この二名はヒロインのターゲット候補よ」

「ふむふむ」

「レオン王子、貴方に命じます」

「なんでしょう、ヴィクトリアさん」

「この二人と仲良くなりなさい」


「え」

王子はびっくり顔で私を見た。

「どうして?」


「ターゲット候補ということは、

メインターゲットでなくとも

クラリッサに懐柔される可能性があるからよ」


「なるほど……。敵が増えるのを未然に防ぐんですね。

さすがですヴィクトリアさん」


「私たち二人の命がかかってますからね。私だって必死です」

腕組みをして、気合の入った顔をしてやった。彼にも気合を入れて欲しいから。


「そう、ですね。わかりました。

やってみます。フォローよろしくお願いします」


「ええ! 任せておいて!」



私は力強くうなづいた。

私だってホントは自信なんてないけどね。

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